山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼257号 「北ア・笠ヶ岳笠新道の風穴」

【略文】
北アルプスの笠ヶ岳から双六岳、三俣蓮華岳、雲ノ平への縦走。笠
ヶ岳へつづく笠新道は、記録的な猛暑の中でした。急で長い登山道
がつづきます。さすがんににウンザリしたとき風穴をみつけました。
わき出る冷たい風は別世界です。みんなで寄り集まって涼みました。
・岐阜県高山市上宝町。

▼257号 「北ア・笠ヶ岳笠新道の風穴」

【本文】
 全国に「笠」の形をした山は多いですが、北アルプスの笠ヶ岳(2
897m)笠ヶ岳ほどどこから見ても同じ形をした山はないそうです。
江戸時代は人の肩の形に似ているというので「肩ヶ岳」とか「迦多
ヶ岳」といっていたという。「かさがたけ」ではなく「かたがたけ」
だったのですね。


 おなじみの念仏僧播隆(ばんりゅう)上人がここに登り、東の空
に浮かぶ天をつくような槍ヶ岳を見て、初登頂を決意した話は有名
です。笠ヶ岳の登山は遠く鎌倉時代の中期、文永年間(1264〜75)
からはじまっていたというから古い。


 初登頂は、地元の高原郷(いまの高山市上宝村)本覚禅寺の道泉
という和尚さんだとの説もあります。ただ大昔のこととてどうもは
っきりはしませんが……。時は下り、江戸時代の元禄年間(1688
〜1704)、仏像を鉈(なた)一丁で刻むことで有名な円空が登った
ともいわれています。


 ある夏、新穂高のキャンプ場で1泊し、翌日登りはじめた笠ヶ岳
への笠新道。記録的な猛暑で連日うだるよう暑さが続いています。
急で長い登山道にウンザリしたとき、途中で見つけた風穴。冷たい
風が岩穴から噴き出ています。ザックを放り投げて駆けよります。


 吹き出る冷たい風のあたるとまるで別世界に入ったよう。他の登
山者たちも寄り集まってきます。なかには少しでも冷たくしようと
水筒を出して風穴の吹き出し口に置く人もいます。大きな口を開け、
涼しい空気を腹一杯吸い込みます。登山中だということさえ忘れ、
ひとしきり談笑しながら涼んだのでありました。
・岐阜県高山市上宝町


▼【データ】
【所在地】
・岐阜県高山市上宝町(旧岐阜県吉城郡上宝村)。JR高山本線高山駅
からバス新穂高温泉さらに歩いて5時間半で笠新道風穴。
【位置】
・笠新道風穴:北緯36度18分42.36秒,東経137度34分57.91秒
【地図】
・2万5千分の1地形図:「笠ヶ岳(高山)」
【山行】
・某年8月7日(日曜日・快晴)

▼【参考】
・『角川日本地名大辞典21・岐阜県』野村忠夫ほか編(角川書店)1
980年(昭和55)
・『旅と伝説』三元社(昭和17年4月号)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよだ 時】

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