山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅イラスト通信【ひとり画展】とよだ 時

▼231号 「埼玉秩父・両神山のイワキンバイ」

【概略】
イワキンバイは夏に茎の径1センチくらいの黄色い花を咲かせる。
両神山の八丁尾根をクサリにつかまりながら東岳と西岳の間のピー
クの竜頭神社の祠へいってみた。木の祠は風化して痛んでいる。ま
わりにはイワキンバイの花が風にゆれていた。
・埼玉県小鹿野町と埼玉県秩父市との境

▼231号 「埼玉秩父・両神山のイワキンバイ」

【本文】
イワキンバイという野草があります。漢字で書くと岩金梅。岩が
つくその名の通り、乾燥した岩の上や岩壁に生え、キンポウゲ科
のキンバイソウに似ているからその名がついたというわけです。
葉は根元から生え3出複葉(枝の先端に3枚の小葉をつける)で
堅く、裏面が白い。

6〜8月に茎のてっぺんに集散花序(しゅうさんかじょ・主軸の
先端にまず花がつき、側枝の先に第2の花、そこから出る孫枝に
第3の花と何回か繰り返す)をつくり、細い柄をもった径1セン
チくらいの黄色い花を咲かせます。花は五弁花で、雄しべがたく
さんあって黄色をしています。

ここ埼玉県秩父地方の両神山(りょうかみさん・1723m) は、両神
山(りょうかみさん)、八日見山(ようかみさん)、竜神山(りゅ
うかみさん)、竜頭山(りょうかみさん)などの異名も持っていま
す。両神山の山名は、竜神(頭)山(りゅうかみやま)がなまっ
たもので、八おかみ(雨冠に口3つの下に龍を書いたなにやら難
しい漢字・オカミ)が山名のもとだという説があります。

つまり八つの頭を持つ竜王(竜頭大明神)で、雨を司る竜神だと
いうのです。それがヤウカミになりリョウカミになったというの
です。

江戸幕府編纂の地誌(1810・文政11年)の『新編武蔵風土記稿』
では、薄(すすき)村と小森村(現小鹿野町)が、山頂直下に両
神神明社と両神権現社をまつって、伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(い
ざなみ)をまつるゆえに両神山といい、河原沢村(現小鹿野町)
では山頂の北、東岳と西岳の間に竜頭神社をまつり八日見山とい
う。

八日見とは日本武尊(やまとたけるのみこと)が東夷征伐のおり
に筑波山の登り、この山を八日間見ていたと述べたとの所伝を元
にしているとあります。また竜神社をまつるので竜神山ともいう
のだそうです。

このことについて、木暮理太郎(明治時代の登山家、日本登山界
の大先達)は、「両神山は竜神山(りゅうかみさん)もしくは竜頭
山(りゅうかみさん)であって伊弉諾・伊弉冉は関係なく、竜神
をまつったのが正しい。竜神が両神となり、ここに伊弉諾・伊弉
冉を奉祀したものであろう(『山の憶い出・下巻』)と述べていま
す。

八丁尾根をクサリにつかまりながら東岳と西岳の間のピークの竜
頭神社の祠へいってみました。壊れた木祠が痛々しく風化されそ
うになっています。最後にお参りしたのはいつなのでしょうか。

北の坂本地区には竜頭神社里宮がありますが、麓からの直登の道
は廃道になっているようです。長い間忘れられ、壊れかけてしま
ったような祠のまわりに自生しているイワキンバイの花が風にゆ
れていました。
・バラ科キジムシロ属の多年草

▼【データ】
【所在地】
・埼玉県秩父郡小鹿野町(旧秩父郡小鹿野町・旧秩父郡両神村)と
埼玉県秩父市大滝(旧秩父郡大滝村)との境。西武線秩父駅からバ
ス・小鹿野乗り換え出原から歩いて4時間50分で竜頭神社奥社(東
岳と西岳の中間)。竜頭神社の奥社の木祠がある。そのほかは何も
なし。地形図に何も記載なし。以前は尾ノ内竜頭神社下社へ下る登
山道があった(いまは廃道)。木祠より方正方向約700mに八丁峠が
ある。

【位置】
・【竜頭神社の木祠】緯度経度:北緯36度01分54.28秒、東経138
度50分24.2秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」か
ら検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図「両神山(長野)」

【参考】
・「角川日本地名大辞典11・埼玉県」小野文雄ほか編(角川書店)
1980年(昭和55)
・「古代山岳信仰遺跡の研究」大和久震平(名著出版)1990年(平
成2)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「日本歴史地名大系11・埼玉県の地名」小野文雄ほか(平凡社)
1993年(平成5)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

………………………………………………………………………………………………
山旅イラスト【ひとり画通信】
題名一覧へ戻る