山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼212号 「北ア白馬岳・小蓮華山の鉄剣」

【概略】
小蓮華山山頂には風化した石仏と鉄剣があります。鉄剣は自馬岳神
社の氏子たちが昭和2年に建てたものとか。石仏は修験道の本尊で
もある大日如来像だという。この山は境界線がはっきりしないため
江戸時代、山争いが8年間もつづき、幕府の役人が出向いて裁定す
る騒ぎもあったという。
・長野県北安曇郡小谷村と新潟県糸魚川市との境。

▼212号 「北ア白馬岳・小蓮華山の鉄剣」

【本文】
北アルプスの白馬岳(2932m)はかつて越後側では大蓮華といった
そうで、いまでも別名大蓮華岳と呼ばれています。そして周辺の
山を含めて蓮華山群といったそうです。そのなかの一峰小蓮華山(2
769m)は白馬岳の「大」に対比させた「小」の名前だという。

ここは白馬岳への上り下りのよい休憩場所です。山頂には風化し
た石仏と鉄剣があって、登山者をむかえてくれます(1987年(昭
和62)7月山行。

いまは立ち入り禁止)。石仏は、数ある仏さまの中でも中心的存在
であり、修験道の本尊でもあるといわれる大日如来像だという。
宇宙のすべて、天地のすべての「本質」を仏格化した仏さまなの
だそうです。この山を別名大日岳(信州側の呼称)と呼ぶのはこ
こからきているそうです。

鉄剣は2m位の高さ、幅20センチくらい、さらにイラストのように
左右に持ち手のようなものもあります。その上部に左向きに小さ
な剣、下部に右向きの小剣が水平に突き出ています。剣の上部先
端から下へ縦に雷撃の跡があり、中間部に雷が抜けた穴らしいも
のもあります。

この鉄剣は、北城村北安曇郡北城村(いまの白馬村・はくばむら)
森上の後藤敏青年(明治32(1899)年生まれ)は、古神道を研究
するなかで、日本画家大町桂月が書いた雑誌の記事に影響を受け、
天狗っ原に白馬岳神社を建立。

白馬大池には伊勢神宮の外宮(げぐう)の祭神である豊受大神(と
ようけのおおかみ)の神霊を白馬大池に鎮め、さらに小蓮華山山
頂に霧島山頂にまつってある銅剣を模して大鉄剣を建てたものだ
といいます。

後藤敏は、師と仰ぐ神道家の友清歓真(ともきよかんしん)に設
計して貰った八ツ又の剱を松本の業者に発注。霧島山のものに比
べ3倍の大きさ(240貫)の剱を、切久保区の青年団の協力で2日
がかりで山頂に持ち上げて祀ったものだそうです。

新潟県の糸魚川市方面からこのあたりを望むと、遠く谷奥に雪を
いだいた峰々はまるで白いハスの花弁に見えます。そこで越後側
ではこの周辺の山を蓮華岳と呼び、大蓮華(白馬岳)のとなりの
小さい山を小蓮華といいました。

また信州側では、小蓮華山あたりまで乗鞍岳といったり、幕末の
絵地図にはこの山に白馬岳と書いたりしてあるそうです。このよ
うに山の名がバラバラなのは境界線がはっきりしないため争いの
もとになります。

江戸時代の文政年間には山争いが8年間もつづき、幕府の役人が
わざわざ出向いて裁定する騒ぎもあったそうです。

山頂にはいつも登山者の休憩する姿があります。山頂など目的地
に着くとどういうわけか決まってザックを道標や建築物のそばに
置いてしまいます。ここでも石仏や鉄剣を写真に撮るのに誰かの
ザックが入ってしまうのが難点。風化した石仏は文字が判読でき
ませんでした。

※2008年(平成20)10月9日付け朝日新聞によると、2007年夏
に小蓮華山山頂付近で崩壊が確認されたそうです。この崩壊で、最
高点が3m低くなったうえ、倒れた三角点の標注を安定した地盤に
埋め戻したため、その場所が最高点より2.5m下になったので計5.5
m低くなりそうという記事がありました。山頂の鉄剣と大日如来像
も危うく崩落に巻き込まれるところだったという。

▼小蓮華山【データ】
【所在地】
・長野県北安曇郡小谷村と新潟県糸魚川市との境。JR大糸線白
馬駅からバス、栂池高原から歩いて4時間30分で小蓮華山(崩壊
後の新最高地点標高2766m・新三等三角点 2763.37m)(2008年10
月1日国土地理院暫定値)。現在山頂へは立ち入り禁止。崩壊後も
山頂に大日如来の石像と鉄剣がある。新三角点設置後も地形図に
は山名と標高のみ記載。付近に何も記載なし。

【位置】(暫定値)
・新三角点:北緯 36度46分25.62秒 東経 137度46分33.55秒

【地図】
・旧2万5千分の1地形図「白馬岳(富山)」

【参考】
・「北アルプス白馬連峰 その歴史と民俗」長沢武(郷土出版社)
1986年(昭和61)
・「信州山岳百科・1」(信濃毎日新聞社編)1983年(昭和58)
・「新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)

山と田園の画文ライター
イラストレーター・漫画家
【とよた 時】

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