山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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1042号山里の神・森神さま

【略文】
山の神、野の神、川の神、薮の神、森の神と、日本には八百万の神さま
が満ちあふれています。森の神といっても屋敷神の一種のものもあれ
ば、神聖視された一区画の森にまつられる神であったりします。そこには
「モリ木」といって、特別のご神木があり、注連縄を張ったり、根本に幣束
をさしてまつってあります。

1042号山里の神・森神さま

【本文】
▼@山旅【画展】1042号(2020年09月)「」(いな神上・01-18)
【前文】(140字)


▼山旅【画展】1042号(2020年09月)「山里の神・森神さま」(いな神上・01-18)
【本文】
 山の神があれば、野の神、川の神、薮の神、森の神と、日本には八百

万の神さまが満ちあふれています。森の神といっても、屋敷神の一種とし

て、個人の所有物のものもあれば、集落の神聖視された一区画の森にま

つられる神であったりします。そこには「モリ木」といって、特別のご神木

があり、注連縄(しめなわ)を張ったり、根本に幣束をさしてまつってありま

す。
 


しかし、これは依代(よりしろ・神が降りてくる目印)で、本来は森という「聖

地」に神を迎えてまつる森神信仰からきているという。また、森神は墓地

や葬地の近くにまつられることが多い。その盛り土のモリが森神のもとらし

い。のちに盛り土に木を植え、その木に信仰の中心が移ったのではない

かとの説もあります。



 この神は、聖地の森の木の枝を伐ったり、ご神木に触れたりすると、激

しく祟るといわれ、村人は祭りの日以外は近寄らないという。この森にま

つられているのは、地主神や荒神などいろいろだという。この森は墓地な

どの近くにあるように、森神は死者をまつったもののようです。その死者も

ふつうの先祖でなく、きわだった先祖や人物であるらしく、これも民間宗

教家の助言でつくられたものらしいという。



 この森神と似たものに福井県の「ニソの杜」や、九州の「モイドン」、「モ

イヤマ」などがあります。福井県大飯町(いまのおおい町)大島地区に見

られる「ニソの杜」は、タモノキ(トネリコ・モクセイ科トネリコ属の落葉高木)

や、シイノキなどの古木が中心になっていて、まわりを薮で覆われた場

所。ここも全体が神聖視されていて、その場所の木を伐ったり、むやみに

出入りすることを禁止しています。



 この「ニソの杜」の由来について、旧家の本家筋に当たる家にあった屋

敷神が、広がって地域の地縁神として成立したという説と、はじめからそ

の周辺の地縁神だったという説があります。いままで「ニソの杜」信仰は、

ここ大島地区特有のものと思われていましたが、大島付近の「ダイジョコ」

や島根・岡山県の「荒神森」、対馬の「天童地」や「シゲ」などの森信仰が

あるきことから、一概にそうもいえないことが分かったという。なお、「ニソの

杜」の「ニソ」は、祭日が霜月23日であることからきているという。もともと

は23(にさ)の杜だったのでしょうか。



 また鹿児島県のニソの杜は、田んぼのなかや、谷筋の奧、山ぎわなど

に繁ったこんもりした森になっています。小さな森の真ん中には必ず大き

なタモノキの老木や、シイノキ、ツバキの木が生えています。また同じよう

に、薩摩半島を中心に「モイドン」(森殿)があり、大隅半島、種子島、屋

久島、奄美大島には「モイヤマ」(森山)という聖地があります。これらは共

通して大木があり、同じように照葉樹やエノキ、サクラなどの落葉樹で囲

まれ、一般的に祠はないようです。



 これは元来、モイヤマという山の信仰があって、その山のあかしとして

ふもとに木を移して、神体としてまつりはじめたないかという。ここにも古い

墓があることが多く、またさまざまな祟る性格もあるという。また門(かど)や

家の神としてまつられるものが多い。門(かど)とは稲作農民の血縁的地

縁的集団をいうそうです。



▼【参考文献】
・『日本の民俗29・奈良』保仙純剛(第一法規)昭和47(1972)年
・『日本の民俗46・鹿児島』村田煕(ひろし)(第一法規)1975年(昭和
50)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『目で見る民俗神・1』(山と森の神)萩原秀三郎(東京美術)1988年(昭
和63)
・『妖怪・土俗神』水木しげる(PHP研究所)1997年(平成9)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画文
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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