山の伝承伝説に遊ぶ
山旅通信
【ひとり画ってん】とよだ 時

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▼1006号茨城県岩間山・天狗に寿命はあるか

【略文】

江戸時代、茨城県の「岩間十三天狗」で有名な岩間山に連れていか
れた少年の話では、天狗には200歳、300歳、500歳、1000歳にな
った天狗もいるという。ここの親分杉山僧正は、何千歳もの人なの
に40歳くらいにしか見えないという。また白石左司馬という天狗
は、120年も前にここに来たのに、20歳位に見えるそうです。

(本文は下記にあります)

1006号「茨城県岩間山・天狗に寿命はあるか

【本文】

 天狗に寿命があるかということも興味があるところです。それに
ついてはこんな話が残っています。江戸時代の文政年間、江戸下谷
七軒町の貧乏長屋に、天狗小僧寅吉と呼ばれる不思議な少年が住ん
でいました。

 寅吉は、7歳の時に茨城県笠間市岩間山にある十三天狗塚の首領、
杉山僧正という天狗に連れ去られたというのです。そして岩間の奥
の院、筑波の山続きの難台山の行場で5年間の修行をさせられたと
いう。その少年から、国学者で神道家の平田篤胤(あつたね)が、
毎日のように寅吉の所に通い、聞き取ったものを『仙境異聞』とい
う本になって残っています。

 そのなかの「仙童寅吉物語・巻之一」にこんな問答が載ってい
ます。「問云、大天狗になりてはいつまでも死せざるか。寅吉云、
彼堺に入りては二百歳三百歳また五百歳千歳など様に各々定りて其
定まりたる歳数を記して封して祭り置なり。さて幾つになりても天
狗に成り定りたる年の形にて年よらず定りの年数をはりては、忽然
と老衰へ消はたる身を隠して神となる。

 これ人間にて云はば死せるが如し。問云、然様に一期の年数をば
いかにして知ることぞ。トひ、または御籤などを取て定むるか。寅
吉云、トひも御籤も用ひず、彼堺に入たるとき、風と心にうかべる
歳数を筥に封じて、其前に幣を立て日々に拝するなり。我もあちら
の物と成り定りては二百歳の齢なり」。

 また、「仙童寅吉物語・巻之二」には、「また或人、そこの師杉
山山人(杉山僧正)は誠に神通自在にして道徳も人類ひなく聞ゆれ
ば、其宮を構へて祭らむと思ふを、いかで霊代の幣を切て得させ給
へと云へば、寅吉云、それは必ず無用に致さるべし。其故は我が師
は思ふ旨ありと見へて、深く其徳を包み、身を隠して山人となり、
……(中略)……。

 ただ某王なにのみことかいひて兄弟ともに三千歳余りの人と云こ
とばかりを慥に覚えたり。かく古き人ゆえに軍のありし時分の事、
頼光、義経などの事をも此頃のことの様にをりをり言ひ出らるる事
あり」などといっています。

 寅吉によると、天狗は200歳、300歳、500歳、1000歳になった
天狗もいるという。「岩間十三天狗」首長で、寅吉の師匠の杉山僧
正は、何千歳もの人なのに40歳くらいにしか見えない。同じく十
三天狗の副将格の古呂明(ころめい)は、杉山僧上の弟で、これも
何千歳を越えていると聞いているといっています。

 また、同じく十三天狗の第3位の白石左司馬(さしま)は、もと
白石丈之進といい、天狗になる前は筑波神社の神人だった人。天狗
になったのは元禄13年(1699)、120年前も過ぎているが、いまで
も20歳位に見える」などともいっています。

▼【参考文献】
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・『仙境異聞・勝五郎再生記聞』平田篤胤著・子安宣邦校注(岩波
書店)2018年(平成30)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

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