山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼096号 「甲斐駒ヶ岳黒戸尾根五合目小屋」

【概略】
甲斐駒ヶ岳も各地の駒ヶ岳と同じように馬にちなんだ名前。3月、
小雪の中凍りついた無人小屋の戸を開ける。夜半、暗闇の土間で小
動物が何かをあさる音。雪に埋まるこの小屋のどこに住むのか。あ
の小動物の生命力の強さに舌を巻いた。
・山梨県北杜市と長野県伊那市長谷との境

▼096号 「甲斐駒ヶ岳黒戸尾根五合目小屋」

山梨県と長野県にまたがる甲斐駒ヶ岳は標高2967m。各地の駒ヶ岳
と同じように、馬にちなんだ名前でふもとが良馬の産地だったこと
から来ている名前だという。

江戸時代の宝暦2年(1752)甲府勤番の士、野田成方(のだ・しげ
かた)の著した見聞記「裏見寒話」(うらみかんわ)に、「駒ケ岳戌
方聖徳太子金蹄駒ニ召サレ、此絶頂ニ降リ玉フ、其跡山ノ形駒ニ似
タリト、天風吹々トシテ此巓ニ綿ノ如クナル雲カカル間モナク西北
ノ大風落シ来ル是信州境也、峻嶺ナレハ人跡絶ユルト、此山ニ雷鳥
トイフ鳥アリ、大サ白鳥程有リテ黒毛ニ嘴ト足黄色ナリト云フ」と
あり、聖徳太子が馬に乗って空を飛び、この山の山頂に降りたとあ
ます。

またライチョウについても記しており、甲斐駒ケ岳のライチョウを
紹介した最初の文献とされています。

山梨県側から甲斐駒ヶ岳への登山道の黒戸尾根は、ふもとから標高
差約2200mをほとんど登りづめの長大さです。

ここも信仰の山にふさわしく、途中に霊神碑がたくさんならんでい
ます。3月、小雪の中、刃渡りからはしごを登って「黒戸刀利天狗」
と呼ばれる所へ着きました。

刀利天狗(とうりてんぐ・本当は刀に立心偏がつく)は刀利天のこ
とだという。仏教でいう三十三天にあり、須弥山の頂上の天にある
宮。薄暗くなりかけたころ、やっと今夜の宿泊の小屋に着きました。

凍り付いた雪をかいて五合目の無人小屋の戸を開けます。夜半、風
も強く吹き出し、明日の天気が気にかかります。暗闇の土間で小動
物が何かをあさる音がします。

雪に埋まる小屋のどこに住むのか。朝、夕べの天気はどこへやら。
見上げる甲斐駒ヶ岳が何という天上のかなた。それにしてもあの小
動物は今夜からまた「一匹ぼっち」。その生命力の強さに舌を巻き
ました。

▼【データ】
【所在地】
・山梨県北杜市(旧北巨摩郡白州町)と長野県伊那市(旧上伊那郡
長谷村)との境。JR中央本線韮崎駅からタクシーで竹宇駒ヶ岳神
社、黒戸尾根経由、歩いて5時間40分で五合目小屋。地形図に五
合目小屋の文字と建物記号の記載あり。

【位置】
・緯度経度:北緯35度46分06.23秒、東経138度15分17.82秒(国
土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)

【地図】
・2万5千分の1地形図:「甲斐駒ヶ岳(甲府)」or「長坂上条(甲
府)」(2図葉名と重なる)(国土地理院「地図閲覧サービス」から
検索)。

【参考】
・「裏見寒話」全6巻(野田成方編):「甲斐叢書・第6巻」(全12
巻)(裏見寒話 甲斐名勝志 甲斐叢記)甲斐叢書刊行会編に所収
・「角川日本地名大辞典19・山梨県」磯貝正義ほか編(角川書店)1
984年(昭和59)
・「山の神々イラスト紀行」とよた 時(東京新聞出版局)1997年(平
成9)

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山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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山旅イラスト【ひとり画展通信】
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