山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼070号「南アルプス十二支の山・兎岳」

・【概略】
南アルプス兎岳は十二支の山。チマキを口にほおばり雄大な聖岳を
ながめる。ふつうなら気にもとめずに通りすぎる山ながらふと気に
なる。山名の由来を現地に問い合わせたがついにわからずじまい。
兎岳は兎岳だと兎岳の声が聞こえてきそうです。ま、いいか。

▼【本文】

1988年(昭和63)と古い話で恐縮です。ことしはウサギどし。そこ
で干支(えと)の山を「山名辞典」で調べてみました。ネ・子の原
(岐阜県)、ウシ・牛奥ノ雁ヶ腹摺山(山梨県)、トラ・寅巳山(栃
木県)、ウサギ・兎岳(新潟県)、タツ・辰巳山(福島県)などえと
にちなんだ山が結構あるものです。

ここ南アルプス兎岳(長野県・静岡県)は標高2799.3m。聖岳の西
北にあり、北側に小兎岳をしたがえています。山頂付近はハイマツ
が群生しています。三角点は山頂から南西・往復30分ほどの稜線
上のハイマツ帯にあり、兎岳の本当の山頂は三角点のあるところよ
りも3mほど高い。

山頂からの眺望は360度。北方を見れば赤石岳、荒川岳、その向こ
うに甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳も遠望できます。聖岳寄りに下ったすぐ
下にがっちりした避難小屋(長野県側)もあります。この一帯はク
ロユリの群生地で、花が咲く7月下旬ごろが見ごろ。

晴れた日には西麓の長野県飯田市方面からはいつもこの山を眺める
ことができるそうで、村人たちはこの山を単に「ウサギ・ウサギ」
と呼んで親しんでいるという。さらに飯田市南信濃地区(旧下伊那
郡南信濃村)の木沢小学校の校歌には「明日に仰ぐ聖岳 夕べに望
む兎岳…」と歌われているほど。

8月の暑い日、百間洞(ひゃっけんぼら)から中盛丸山、小兎岳を
へて兎岳で小休止しました。ふり返ればきのう登った赤石岳が大き
い。ザックをおろし汗をふき、水を飲みます。貰いもののチマキを
口にほおばり、雄大な聖岳を見ながら飲みこみます。

左手に兔岳東面バットレスの頭がのぞいています。ふつうならこの
山は雄大な聖岳を前に、気にもとめずに通りすぎる山です。ところ
でなぜ兎岳というのでしょうか。

調べましたがどうしても分かりません。そこで現地の観光協会2、
3に電話で問い合わせましたがついにわからずじまい。理由はどう
であれ、兎岳は兎岳だと兎岳の声が聞こえそうです。ま、いいでは
ありませんか。

その後調べたところによると、山名は西側長野県側から突き上げる
遠山川の支流、兎谷(または兎洞)の源頭の山の意味から来ている
という説(「角川日本地名大辞典・長野」)、また山麓に兎がたくさ
んすんでいて、兎狩りをしたことによる山名(「日本山岳ルーツ大
辞典」)との説などあります。

山頂西南の兎平付近からに長く兎洞に落下している険しい岩溝は
1983年(昭和58)現在、まだ登攀者の記録がないところでありま
す。カモシカ、ホンシュウジカのほか、ライチョウもいるそうです。
測量登山は1905年(明治38)だそうです。

▼兎岳【データ】
【所在地】
・長野県飯田市南信濃地区(旧下伊那郡南信濃村)と上村地区(旧
下伊那郡上村)と静岡県静岡市葵区との境。飯田線飯田駅の南東29
キロ。JR飯田線飯田駅からタクシー(2時間)シラビソ峠下車、
さらに歩いて延べ12時間で兎岳(標高2818m)。

・三等三角点(2799.3m)と写真測量による標高点(2818m)、避
難小屋がある。地形図に山名と縦走路の南西に三角点の標高、縦走
路わきに標高点(2818m)の標高、その南東に兎岳避難小屋、避難
小屋わきに標高点(2696m)の記載あり。

【位置】
・標高点:北緯35度25分42.98秒、東経138度07分16.29秒
・三角点:北緯35度25分41.01秒、東経138度07分9.6秒

【地図】
・2万5千分の1地形図「大沢岳(甲府)」or「赤石岳(甲府)」(2
図葉名と重なる)

【参考】
【参考文献】
・「角川日本地名大辞典20・長野県」市川健夫ほか編(角川書店)
1990年(平成2)
・「日本山岳ルーツ大辞典」村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
・「信州山岳百科・2」(信濃毎日新聞社)1983年(昭和58)

……………………………………

山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

………………………………………………………………………………………………
山旅イラスト【ひとり画展通信】
題名一覧へ戻る