山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】

山旅通信【ひとり画展】とよだ 時

▼065号「北ア・剱岳早月尾根ワンゲル部」

・【概略】
劔岳へつづく長大な早月尾根。学生のワンゲル部に追いついた。へ
ばる1人を先輩が大声でしごく。後ろからこづき尻をける。劔岳山
頂の祠のわきでしごかれ氏、グッタリとして休憩している。声をか
けてみたら元気な声が返ってきた。一晩で少しは回復したか、やは
り若さだな。
・富山県上市町

▼065号「北ア・剱岳早月尾根ワンゲル部」

【本文】
古い話で恐縮です。岩峰連なる北アルプス劔岳(2999m)へつづく
長大な早月尾根。富山県上市町の馬場島からエンエンと伸びる展望
のない草いきれと木の根っこ。おまけに途中伝蔵小屋(いまは早月
小屋)で1泊しなければならずここを登る評判はイマイチです。

ある年の7月梅雨明け。早月尾根の登山者4,5人は小屋泊まりの
身軽さです。うらやましい。1200m地点で学生のワンゲル部に追い
つきました。それぞれ40キロはあるだろうキスリングを背負ってい
ます。その中のへばる1人を先輩が大声でしごいでいます。フラフ
ラ歩いているのを後ろからこづき尻をけりつけます。

その日は伝蔵小屋前のテント場に泊まります。テント場の土が乾い
ていて気持ちがいい。朝、目を覚まし外をのぞいて思わず声を上げ
ます。劔岳から小窓へ続く稜線の見事さ。深い谷の向こうに鋸の歯
のような岩の連続。しばらく見とれてしまいました。

ワンゲル部とはきょうも先になり後になり、劔岳の頂上へ。祠のわ
きで例のしごかれ氏、グッタリとして休憩しています。心配なので
ちょっと声をかけてみました。すると案外元気な声が返ってきまし
た。一晩で少しは回復したか、やはり若さだな。

ところで剱岳は、戸隠明神(正体は九頭竜)の尾が越中剱岳を七巻
き半巻いていると、信州の伝説にあります。また、この山は1907年
(明治40)7月、三角測量点設置のため、参謀本部陸地測量官柴崎
芳太郎一行が測量登山しました。

その時、銅製錫杖頭と鉄剣をみつけたというのです。さらには山頂
わきにある石窟で山岳修行者が燃やしたであろう木炭を発見してい
ます。またまた1909年(明治42)には、登山者により刀子(短刀)
が発見されたらしいですが、現物が所在不明になり見つかった正確
な位置も判明していないと『古代山岳信仰遺跡の研究』にあります。

その錫杖の写真をあるところから手に入れいまも大事に保存してあ
ります。そのミニチュアのおみやげが馬場島登山口で売っていると
いう。今回の山行で買うのを楽しみにしていたのですが、馬場島へ
の早朝の到着・出発で売店はまだ開店していなかったのです。アア、
ザンネン!

▼【データ】
【所在地】
・富山県中新川郡上市町。富山地方鉄道上市駅からバス(いまは廃
線のためタクシー)馬場島下車。地形図に地名と馬場島荘、北西側
に家族の森中央管理センタ、東側に標高点(760m)の記載あり。

【位置】
・馬場島:北緯36度38分49.04秒、東経137度33分16.11秒

【地図】早月尾根・剱岳・五色ヶ原・薬師岳縦走
・2万5千分の1地形「剱岳(高山)」(電子国土ポータルWebシス
テムから検索)

【参考】
・「角川日本地名大辞典16・富山県」坂井誠一ほか編(角川書店)1
979年(昭和54)
・「山と高原地図4・剱立山」石坂久忠(昭文社)
・「古代山岳信仰遺跡の研究」大和久震平著(名著出版)1990年(平
成2)
・「日本歴史地名大系16・富山県の地名」(平凡社)1994年(平成6)

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山岳漫画・ゆ-もぁイラスト・画文ライター
【とよだ 時】ゆ-もぁ-と事務所

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