【全国の山・天狗のはなし】
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▼31:山梨県の山
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▼05:富士山山梨県側五合目・小御岳正真坊天狗 【略文】 |
▼05:富士山山梨県側五合目・小御岳正真坊天狗
【本文】
大昔から詩歌や紀行に著わされてきた富士山。山岳信仰のメッ
カでもある富士山。さらにいろいろな伝説に彩られている富士山。
こんな富士山に天狗がいないわけがありません。富士山の天狗と
いえば富士太郎坊権現が有名です。が、これは静岡県側の天狗で、
富士山スカイライン1600m付近にある高鉢山(1649m)にまつられ
る天狗だそうです。
そもそも富士山の天狗のはなしが、初めて記録に出てくるのは、
室町時代、1511年(永正8年・戦国時代)。山梨県富士河口湖町小
立集落に妙法寺というお寺があります。当時の住職がそのありさ
まを『妙法寺記』(甲斐国妙法寺記録)という文献に次のように書
きとどめています。
「……大原(※河口湖南岸一帯を占めた都留郡大原庄)へ天狗共
寄テ、三度時ノ声ヲ作ル也。村ノ人々皆舌スクミテ、物云事アタハ
ズ」。つまり河口湖南岸の集落に、天狗どもが集まってきて、鬨(と
き)の声をあげたようなワァーッという音を3度も発したといいま
す。それを聞いた村人はみな、すくんでしまい、ものも言えなくな
ってしまった、とあるのが富士天狗ばなしの最初の記録です。
さて山梨県側の天狗には、スバルライン終点あたり一帯をへい
げいする正真坊(しょうしんぼう)という天狗がいることになっ
ています。山梨県富士吉田側、北口五合目に「小御獄神社」とい
う神社があり、日本武尊(やまとたけるのみこと)や、富士山の
祭神である木花開耶姫(このはなさくやひめ)の姉の磐長姫命(い
わながひめのみこと)のほか、大天狗と小天狗がまつられており、
「小御嶽正真坊」の天狗像もあります。
この「小御獄神社」の大天狗と小天狗の由来をたどってみると、
もともとは山梨県鳴沢村の「魔王天神社」の境内にあった「太郎坊」
の小祠がそうだといいます。それを富士山の中腹に移転し、「小御
獄権現」とか「小御獄太郎坊正真」と呼んでいたらしい。
山梨県の地誌の『甲斐国志』神社部に、「一、小御嶽権現 富士
北面中腹ニアリ、祭神岩長姫命右旁ニ日本武尊祠及ビ大天狗・小天
狗祠アリ、………相伝フ古(いにし)ヘ成沢村ノ郷民、此ノ山中ヨ
リ材木ヲ伐リ出シケレバ小社ヲ建立シテ鎮守ノ神ヲ祭リケル、享保
ノ比(ころ)マデモ太郎坊正真ト号シテ小社ナリシガ、近世年ヲ累
(※かさ)ネテ尊信スル者多ク、造営益々盛大ニナリ殿宇軒ヲ重ネ
ケル、拝殿・弊殿・御供所・随神門・天狗門(唐銅ノ大小狗の像ヲ
安ズ)」との記述があるのです。
これで見ると小御嶽神社の前身(明治時代の神仏分離でこの神社
名になった)は、「小御獄権現」とか「小御獄太郎坊正真」であり、
ここの天狗は名前から見ると、「小御獄太郎坊正真」は「富士太郎
坊」と同じように思えます。しかし、「小御獄太郎正真坊」は北口
山梨県側の天狗であり、「富士太郎坊」は南口静岡県側の天狗で、
両者は交流もまったくないそうです。天狗研究者の知切光歳氏も、
「名前が似ているので惑わされるが別々に考きである」としてい
ます。
この「小御嶽(太郎坊)正真坊」天狗の住処は、五合目駐車場
からお中道に入り1時間、「御庭」と呼ばれる所から、さらに右へ
下った「奥庭」周辺を含めた一帯だとされています。そのあたり
を「天狗の庭」と呼ぶのだそうです。山小屋の奥庭荘付近には「天
狗石」もあります。このあたりは雄大な富士山頂をバックに、カ
ラマツが地を這って生えています。
ある時、お中道などを探索した帰り、五合目小御獄神社に寄り
ました。大天狗小天狗の社のそばに顔の部分から顔を出して記念
撮影ができる天狗の形の看板がありました。写真を撮りたいので
ちょっと顔を出してくれない?と、そばにいた見知らぬ若者に頼
んだら天狗の面のところにきまり悪そうな顔が出てきました。ア
リガトウ。なんとなく嬉しくなって、神社で天狗絵馬を求め下山
しました。
なお、ここの神社で頒布している正真坊天狗の軸があります。
それは写真で見る限りでは、上に図案化した富士山があり、下に白
く霧を描き、その真ん中に墨で一行で「富士山小御嶽神社」の文字。
その下に赤い大岩があり磐長姫命とあります。さらにその下に岩に
乗った一対の天狗が向かい合い、右の天狗は鼻の高い赤顔で羽を広
げ羽布団を持った形。左の天狗は青顔、くちばしのとがったカラス
天狗でやはり羽を広げ頭上に刀をかざした形でした。
▼河口湖五合目小御岳神社【データ】
【所在地】
・山梨県富士吉田市と山梨県南都留郡鳴沢村との境。富士急行河口
湖駅からバス富士スバルライン終点下車、河口湖口五合目古御岳神
社。広場に写真測量による標高点(2304m)がある。地形図上に
は神社名と標高点記号とその標高、郵便局記号の記載あり。標高点
は神社より南東方向直線約100mにある。
【ご利益】
・【小御岳神社】:家運隆昌、交通安全、延命長寿、縁結び
【位置】
・【古御岳神社】緯度経度:北緯35度23分41.86秒、東経138度44
分0.95秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
・【標高点】緯度経度:北緯35度23分39.56秒、東経138度43分
58.15秒(国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から検索)
【地図】
・2万5千分の1地形図「富士山(甲府)」(電子国土ポータルWeb
システムから検索)
▼【参考文献】
・『甲斐国志』(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年)
・『修験道の本』(学研)1993年(平成5)
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『富士山を知る事典』渡邉定元ほか(日外アソシエーツ)2012年
(平成24)
・『富士山よもやま話』遠藤秀男(静岡新聞社)1989年(平成元)
・『山ことばと炉端話』山村民俗の会編(百水社)1991年(平成3)
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【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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(主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】制作処
山のはがき画の会