【全国の山・天狗のはなし】  

▼03:天狗の種類

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▼03:天狗の種類・階級

【概略説明】
天狗には大天狗、中天狗、小天狗があることになっています。その
ほか木の葉天狗、カラス天狗、白狼天狗(はくろうてんぐ)、溝越
天狗とつづきます。これが天狗の階級で、気ままな天狗も階級で縛
られていると思うと愉快です。最下位の溝越天狗は空を飛ぶ術が、
まだまだ未熟で溝を飛び越すのがやっとレベルだそうです。

【本文】

鼻が高くて、赤ら顔でおっかない顔をして、山伏のような姿で一本
歯の高いげたをはいて羽うちわを持って空を飛ぶ。これらはみんな
「大天狗」です。


これと違って、とがったくちばしのある天狗は、カラス天狗、また
は小天狗です。カラス天狗はふつう青色の顔をしています。その中
間が中天狗。古い川柳に「ありそうでないのが中天狗」というのが
ありますが、実際にはいるそうです。


これが天狗の階級で、気ままな天狗も階級で縛られていると思うと
愉快です。いちばんの大物はやはり大天狗、以下中天拘、小天狗、
木の葉天狗、白狼天狗(はくろうてんぐ)、溝越天狗(みぞこして
んぐ)とつづきます。


最下位の溝越天狗は空を飛ぶ術が、まだまだ未熟で溝を飛び越すの
がやっとレベル。ときどきポチャンと泥水に落ちるという落ちこぼ
れ天狗です。大天狗でも、名前がついていない天狗が多いなかで名
前が知られている天狗はそれこそ大物の天狗です。


これらの大天狗は簡単には姿を見せないそうですが、小天狗や木の
葉天狗などは、狗賓餅(ぐひんもち)といって猟師や木地師など山
仕事の人が、自分たちに供える餅が少ないといっては腹を立て、よ
くいわれる「天狗倒し」を演じたり、木を切る邪魔をしたり、岩や
石を谷底へ蹴飛ばしたり、川の魚を捕って喰ったりすると、古書に
あります。いたずら天狗など、よく民話に出てくる天狗譚はこれら
の種類です。


また、天狗の種類としては、宮天狗、海天狗、川天狗、道天狗、辻
天狗、辰巳天狗(たつみてんぐ)、朝日天狗、夕日天狗、水天狗、
向こうの天狗、屋根の天狗、座の天狗、富士天狗、平松天狗、てろ
う天狗がいるといいますから、そこら中にいることになります。


大物大天狗の中でも、ド超大物は、ご存じ京都・鞍馬山の天狗、同
じく京都の愛宕山の天狗、奈良県・大峰山の天狗、滋賀県の比良山
の天狗、長野県・飯縄山の天狗、福岡県・彦山(英彦山)の天狗、
神奈川県・丹沢大山の天狗、香川県・白峰の天狗が有名です。これ
らにすむ天狗を日本八天狗というそうです。


また天狗の中の変わり種として、長野県の奇天烈な石仏で有名な修
那羅山には、女性の天狗の石仏があります。石像は半分裸で鼻も高
くなく、天狗の形はしていません。ただ像の両脇に「婆羅門 女天
佝」とあり、「狗」がニンベンになっています。


さらに山形県羽黒山には、水天狗円光坊という天狗がおり河童天狗
などともいっています。この天狗は羽黒山開運「七千日護摩行者長
教」の護符(ごふ)に、もう一狗の羽黒山三光坊とならんで影像が
出ています。



▼【参考文献】
・『奥多摩の世間話』渡辺節子著(青木書店)2010年(平成22)
・カラス天狗のミイラ(和歌山県御坊市歴史館所蔵)
・『今昔物語集』(巻第二十):日本古典文学全集24『今昔物語集3』
馬淵和夫ほか校注・訳(小学館)1995年(平成7)
・『信濃昔話集』:(『図聚天狗列伝・東日本編』所収)
・『新著聞集』椋梨一雪原著、神谷養勇軒編。:(『日本随筆大成第
二期第5巻』日本随筆大成編輯部編(吉川弘文館)1994年(平成
6)所収
・『先代旧事本紀』:『旧事本紀』(くじほんぎ):『天狗の研究』所

・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『仙境異聞』平田篤胤。別名《寅吉(とらきち)物語》。1822年(文
政5)成立。
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『太平記』:新潮日本古典集成『太平記4』山下宏明・校注(新
潮社)1991年(平成3)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・天狗のミイラ (「バケモノの文化誌」)
・特集「山と渓谷」03年11月号企画「山の民俗に親しむ」
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成4)
・『日本書紀』(巻第二十三):岩波文庫『日本書紀4』坂本太郎ほ
か校注(岩波書店)1996年(平成8)
・『日本神話伝説伝承地紀行』(吉元昭治著)(勉誠出版)2005年(平
成17)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『日本大百科全書6』(小学館)1985年(昭和60)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

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 (主に画文著作で活動)
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