■あとがき

 まだ、イラストやまん画で生活できず、あっちに勤め、こっちで
バイトと、ふらついていた20歳代の前半。職場の先輩に初めて連
れていかれた丹沢の沢登り。

 水無川の新芽ノ沢でしたが、こんな遊びもあったかと感激し、山
岳会に入り、手が荒れてペンが持てなくなるのもかまわず、毎週、
日曜日になると出かけて行ったものでした。

他の絵の仲間にくらべ、私の一本立ちが遅れたのはこのせいだと、
いまむりやり納得しています。

 丹沢は自然と歴史、伝説と信仰の山。ただ登る、歩くだけでなく、
そんなものに興味を持ちはじめたのはいつのころだったでしょう
か。山名、地名、石祠など、聞けば聞くほど奥が深いのです。

 私のようなものに、山名や地名の考証などというむずかしいこと
は、手に負えるはずはありません。しかし、そんな学問的なことは
さておいて、ヤジウマ根性まるだしのイラストならぬ「いらすと」
で描いた、それでいて丹沢がわかったような気になれる、一風変わ
った本を描いてみたいと考えるようになリました。

 実際調べ出してみると、山名のもとになっている山の形か見える
という集落へ行ってみても、地杉が変わっていて、なにがなんだか
わからなかったり、石祠や石像のスケッチに時間をとられ、最終バ
スに乗り遅れることなど、めずらしくもない情けなさ。

 しかし幸い、山と渓谷社山岳図書編集部の理解が得られ、励まし
と助言に支えられて、やっと形にできたのがこれ本です。

 まだいろいろと不備があるとは思いますが、本書を読んだ方々を、
少しでも丹沢歩きの楽しさが増したような気にさせられれば、私に
とってこんな嬉しいことはありません。

 最後になりましたが、資料提供をお願いした地元山岳会「さがみ
の会」の栗原祥さんはじめ会員のみなさん、いっしょに踏査してく
れた「東京野歩路会」のみなさん、さらに参考書として快く承諾し
ていただいた諸先生方に深く感謝いたします。

 1991年7月                とよた 時拝

 

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