『新・丹沢山ものがたり』CD本(加筆版)
第1章「大山と大山三ッ峰周辺」

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▼04:大山石尊の石はどこにある

 神奈川県丹沢にある大山(相模大山)は、昔からの信仰の山。落
語の題材「大山まいり」にも登場する名山です。雨降山、阿夫利山
(あふりやま・あぶりやま)、国御山(くにみやま)、大福山(だい
ふくさん)、如意山、阿倍利山などの異名もあります。

 明治の神仏分離以前は、いまの阿夫利神社上社のある山頂には石
尊社(せきそんしゃ)が、下社のある中腹には大山寺不動堂があり、
この2ヶ所が大山信仰の中心となっていました。大山寺は雨降山大
山寺といい本社は石尊社といいます。

 「石尊社 當山の本宮にして山頂にあり……」と『新編相模風土
記稿』にもあるように、大山山頂にあります。その大山石尊(せき
そん)大権現の本尊は文字どおり石であるという。この石は自然の
大石で、山頂の本宮の建物が本尊を覆うように建っているという。
その形は円形とも陽石ともいわれています。それはなぜか白布で巻
かれ、宮司以外は見ることは厳禁になっているという。


 1873年(明治6)、神仏分離令が発令されてからは、廃仏棄釈と
いう風潮が巻き起こり、神道関係の暴徒たちによって、各地の仏像
やお寺が破壊され続けました。いまでもあちこちに頭のない仏像が
見かけられるのはその名残です。そんななか、相模大山の石尊は権
現ですが仏ではなく、神だということになり破壊から免れて山頂に
残すことができました。

 しかし、その本尊がなぜ布に巻かれているのかいろいろと憶測さ
れています。一説に、その自然石には仏教の梵字が刻まれているの
ではないかというのです。それが発覚すれば仏ということになって、
すぐに壊されてしまいます。そこで本尊の自然石に布を巻いて梵字
を隠しているのではないかというのです。

 小田急電鉄元旅客課長で、丹沢山塊研究家の根本行道氏が、目黒
宮司から聞いた話が「あしなか第77輯」(山村民俗の会発行)1962
年(昭和37)に載っています。「先年本宮を修復した時、確かに自
然石を見た」というのです。それによると、「最初に白布を巻いた
のは1875年(明治8)だという。山火事で本宮が消失してご神体が露
呈し、雨露にかかり、また衆人の目にさらされるのを防ぐためと聞
いている」。


 「先年本宮を大修復した時に白布で巻いた。ご神体は白布で巻い
た自然石で真っ黒な巨岩だった。大きさは8畳くらいで表面は崩れ
やすくボロボロになっており、梵字が彫ってあるのかも判別できな
いほど。本宮の内陣の中央に、蘆(ろ)を切ったようにあけた大穴
があり、そこからご神体の自然石の頭部が出ている」という宮司の
話です。

 また修復の時、宮司と同席した宮司の息子の修一氏が「床に立っ
た高さより2、3寸高かったようだ」という。すると修一氏の身長
(5尺2、3寸らしい)より1寸の高さ(1尺は約303.030mm。
1寸は約30.303 mmとして)を計算すると、床から上の大山石尊
の高さ5尺4寸は1.63627mで約1.64mくらいらしい。

 しかし土に埋まっている部分がどのくらいあるものでしょうか。
もし自然石に梵字があったとしても、何回もの火事で表面が焼かれ、
真っ黒になってボロボロになったいまでは、全くの謎になってしま
っているとのこと。謎のご神体は謎のままで残しておく方がいいの
かも知れませんね。



▼大山【データ】
【山名】雨降山・阿夫利山(あふりやま・あぶりやま)、国御山(く
にみやま)、大福山(だいふくさん)、如意山・阿倍利山
【所在地】
・神奈川県伊勢原市と厚木市・秦野市との境。小田急小田原線伊
勢原駅の北6キロ。小田急伊勢原駅からバス、大山ケーブル駅か
らケーブル利用下社駅下車、さらに歩いて1時間30分で丹沢大山。
三等三角点(1251.7m、現地確認)と写真測量による標高点(1252
m・標石はない)と阿夫利神社奥社と電波塔がある。地形図に山名
と三角点の標高、標高点の標高、阿夫利神社の建物の記号と電波塔
の記号の記載あり。
【ご利益】
・御利益:豊作祈願・無病息災・家内安全・防災招福・商売繁盛
などの祈願。とくに水に関係のある火消し・酒屋、またご神体の
刀に関係のある大工・石工・板前などの商売繁盛の祈願)。
【位置】
・標高点:北緯35度26分27.06秒、東経139度13分52.3秒
・三角点:北緯35度26分26.72秒、東経139度13分52.5秒
【三角点】
・点名:大山
【地図】
・旧2万5千分の1地形図「大山(東京)」


▼【参考文献】
・『あしなか・復刻版』第4冊(第73輯)(名著出版)1981年(昭
和56)
・『あしなか・復刻版』第4冊(第77輯・丹沢特集)(名著出版)
1981年(昭和56)
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県』伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『山岳宗教史研究叢書・8』(日光山と関東の修験道)宮田登・
宮本袈裟雄編(名著出版)1979年(昭和54)S

▼04:大山石尊の石はどこにある(終わり)

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