秋 編 9月

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●目次

第1章 草結びで ころんで蹴とばす チカラシバ
・(1)長月 ・(2)チカラシバ ・(3)カマキリ
・(4)イヌタデ ・(5)ヘクソカズラ ・(6)サトイモ
・(7)コオロギ

第2章 エノコログサ 揺れてかすかに 秋の風
・(1)エノコログサ ・(2)カヤツリグサ ・(3)ススキ
・(4)クズ ・(5)ツバキの笛

第3章 名月や みんなに見られて 隠れんぼ
・(1)十五夜 ・(2)ヒガンバナ ・(3)アカトンボ
・(4)オシロイバナ ・(5)ツリフネソウ ・(6)力シ

第4章 高原の秋 ボウズ頭の ワレモコウ
・(1)ワレモコウ ・(2)オミナエシ ・(3)カネタタキ
・(4)クツワムシ

第5章 青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる
・(1)マツムシソウ ・(2)ハナイカダ
・(3)ゲンノショウコ ・(4)モズ ・(5)茶の実
・(6)コスモス

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第1章 草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ

秋編(9月)・第1章「草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ」

(1)長月

 9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続きます。9月の異名を
ながつき(長月)といいますよね。長月は、もともと旧暦の9月の
異名だったそうですが、いまの太陽暦でも通用しています。長月の
名の由来についていろいろな説があります。

 秋の夜長のころ(旧暦の9月はいまの10月ころ)なので、夜長
月といっていたのが、いつか略されたのだともいいます。

 江戸時代の歳時記で季節の解説書「改正月令博物筌」(鳥飼洞斎
著)にも「長月とは、夜初めて長きをおぼゆるなり。実(まこと)
に長きは冬なれども、夏の短きに対して長きを知るゆえなり」と説
明しています。

 ところが、睦月、如月、弥生など、各月の異名はすべて稲の生育
に関係しているという説もあります。旧暦9月は稲刈りの盛んなこ
ろです。

 江戸中期の国学者・賀茂真淵は「語意考・ごいこう」(国語学書)
のなかで「稲刈月・いなかりづき」との説をとっています。それが
いつか「い」と「り」が略されて「ねかづき」といっていたが、次
第に転化して「ながつき」というようになったとしています。

 一方、同じ江戸中期の国学者・本居宣長はその著「詞の玉緒・こ
とばのたまのお」(「てにをは」研究書)で、長月は「稲熟月・いね
あがりつき」から来ているというのです。やはり「い」「あ」「り」
が省略され、やがて「ねがつき」から「ながつき」になったとして
います。また「穂長月」説をとる人もいます。

 さらに、この季節は秋の長雨のころ。民俗学者・折口信夫は、旧
暦9月は5月とならんで長雨のころ、当時の風習「ながめ」と呼ぶ
物忌みの月だからとする説をとっています。
長月の竹をかむりし草屋かな 増田龍雨
(007-1)

 

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秋編(9月)・第1章「草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ」

(2)チカラシバ

 あぜ道や、農道に、黒紫色の花穂を出したチカラシバが生えてい
ます。チカラシバとは、いかにも強そうな名前ですが、それもその
はず、あの大きな株は、力の強いいおとなが「ウーン」とうなって
引き抜こうとしても、びくともしません。そこで "力芝”と名付
けたのです。 

 このチカラシバを、しばって、通る人の足を引っかけるいたずら
(草結び)をして、怒られたこともありました。花穂を使い、競馬
遊びをしたり、鼻ひげに見立てて、遊んだりもします。
(007-2)

 

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秋編(9月)・第1章「草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ」

(3)カマキリ

 ジ、ジ、ジー……。セミの悲鳴が聞こえます。鳴き声をたよりに
探してみると、カマキリに捕まったアブラゼミがあ尻から食べられ
かけています。のぞいて見ていると、三角形の頭をこちらに向けて、
ジロリとにらむ様子が不気味ですよね。

 カマキリは、動いているえさだけをねらいます。草陰に隠れてい
て、バッタやキリギリスが気づかずに近づくと、鎌のような前あし
で捕まえて食べる乱暴ものです。

 えさを捕まえる時、大さな前あしを合わせて、お祈りをしている
ような格好をするのでオガミムシなどという方言もあるそうです。

 肉食性が強く、交尾中に雌が雄を食べてしまうこともあるという
話は有名です。雌は、ねばり気のある泡をお尻から出してその中に
卵を産みます
(008)

 

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秋編(9月)・第1章「草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ」

(4)イヌタデ

 イヌタデ(赤花種)は、いまは見かけなくなりましたが、かつて
子どもたちがままごとで「アカマンマ」といって、赤飯のかわりに
して遊んだおなじみの花です。別名ハナタデ、ウマタデ、アカノマ
ンマなどといい、日本から朝鮮半島、中国大陸に分布するタデ科の
一年生草本。

 夏から秋にかけて1〜5センチくらいの長さの花穂が出て、小さ
な紅紫色の花を密集させます。がく片は深く5つに裂けて長さ1.5
センチくらい。花弁はなく、雄しべは普通八個、花柱は三稜形で、
黒褐色でつやがあります。

 イヌタデはもともと辛味もなく、食べられないタデの総称ですが
「タデ食う虫も好きずき…」のことわざ通り、若芽、新芽をゴマ和
え、おひたし、揚げ物、油炒めにして食べたりします。

 また、薬草として胃潰瘍、緩下剤、回虫駆除などにも利用するそ
うです。イヌタデは、秋に全草が美しく紅色にそまる「草もみじ」
のひとつで、まれにシロバナイヌタデという白花種もあるそうです。
イヌタデは「犬蓼」と書き、漢名は「馬蓼」なのだそうです。犬で
はなく馬なのですね。

 タデの一種にヤナギタデというのがありますが、木の葉には強い
辛味があるため、よくその芽生えしたばかりのものをさしみのつま
に使そうです。イヌタデの近縁のタデアイ(蓼藍)は畑に栽培され、
染料に用いられています。
(009)

 

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秋編(9月)・第1章「草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ」

(5)ヘクソカズラ

 ヘクソカズラ(屁糞蔓)。なんともすごい名前です。草やぶで白
い筒のような花を咲かせているのがそれです。茎が左巻きに長く伸
びていて、葉やつるにいやな臭いがあるのでついた名前です。ヘク
サ(屁臭)カズラとも呼ばれます。

 しかし "ヘクソ”では、あまりにもかわいそう。そこで昔の人
は、サオトメバナという名前も付けました。サオトメバナは "早
乙女花"。かわいい名前です。ある植物図鑑には、この草の草格(人
格?)を尊重して、サオトメバナの名で出ていました。

 また、花の中央の色がお灸をすえた跡に似ているため、ヤイト(灸
花)の名前もあります。この花を水の上に逆さに浮かべ、花相撲を
して遊びます。果実は"ひび”の薬に利用したり、化粧水をつくる
のに使われます。
(010)

 

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秋編(9月)・第1章「草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ」

(6)サトイモ

 山のススキが風に揺れて手招きをしています。畑ではサトイモの
葉が横にゆれ、まるでいやいやをしているようです。サトイモの名
は、ヤマイモが山にあるのに対し、里の畑にあるいもの意味です。
昔は家のいもというので、イエイモ(家芋)といいました。

 サトイモは、インドからインドシナ半島にかけてが原産地とされ
ています。インドでは紀元前3000年にはすでに栽培型が出来てい
たといいます。中国では紀元前の本『史記』に記録があり、日本に
は中国からイネの渡来より古く、縄文時代中期の伝えられたと推定
されています。

 サトイモは、日本の気候に合い、定着し、奈良時代にはすでに食
用になっていて、江戸時代中期にはサツマイモが一般に普及するま
では主要な食用イモでした。

 サトイモは、茎のもとが大きくなってイモになります。中心にあ
るのが親イモで、そのまわりに子イモがたくさんできます。1つの
株には葉が7〜8枚でき、高さ1から1.5mの葉柄があります。葉
柄は緑色のものと赤紫色のものがあり、ズイキといって種類により
食用にします。日本では昔から旧暦8月15日の満月を「芋名月」
といってサトイモを供えます。

 サトイモにはたくさんの種類があって、@子イモだけを食べるも
の。土垂(どたれ)、石川早生、エグイモなどの品種。サトイモと
いうと普通これらをいっています。A親イモと子イモを食べる。赤
芽、唐芋、海老芋、セレベスなど。B親イモだけを食べるもの。八
ッ頭、筍芋、水芋など。4葉柄だけを食べる。蓮芋など。

 サトイモは普通、花は咲きませんが気温の高い年の秋、淡紅色の
仏炎苞につつまれた花をつけます。

 その他、子イモの皮つきのまま、塩ゆでにした「きぬかつぎ」「含
め煮」「うま煮」「田楽」などにしてたべています。

 また葉柄は、汁の実、漬け物にして利用されます。たねイモは4
月に植え、8月から11月ごろ収穫します。

 サトイモといえばいも煮会。これはもとのと山形県の郷土料理で、
最上川の河原でかまどをつくり行ったものですが、いまでは各地で
見かけます。
・サトイモ科サトイモ属の多年草
(011)

 

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秋編(9月)・第1章「草結びで ころんで蹴飛ばす チカラシバ」

(7)コオロギ


 涼しい夜「コロコロコロ………」とコオロギが透き通ったような
声で鳴き始めます。古くから家の中で鳴く虫として、人々から親し
まれ、鳴き声は「肩させ、裾(すそ)させ、寒さがくるぞ」と、早
く冬の仕度をするように鳴いているのだそうです。

 鳴いているのは雄だけ。右と左の前羽をこすり合わせて音を出し
ます。石羽は、やすりのようになっているところがあり、左羽には、
固いこぷがてきています。

 昔から文学にも登場し、「万葉集」には7首の歌があります。平
安時代の「古今集」にも6首が登場しますが、この頃は、コオロギ
をキリギリスと呼んていたそうです。

 また、「源氏物語」の「夕顔」には「壁の中のキリギリスだに…
…」と、コオロギは壁の中のいる虫だと思われていたようです。
(012)

 

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第2章 エノコログサ ゆれてかすかに 秋の風 

秋編(9月)・第2章「エノコログサ ゆれてかすかに 秋の風」

(1)エノコログサ

 野原や道端に、エノコログサがたくさん生えています。「ケムシ
だぞ…」学校帰りの1年生の女の子が、エノコログサを振りまわし
ています。キャッキャッいいながら逃げる真新しいランドセルは男
の子。現代女性の何と強くなったこと。

 エノコログサ…。かわいい名前です。細長い花穂を,エノコ(狗
・小犬)のしっぽになぞらえたもの。また、これで子ネコをじゃら
したりするため、東京の方言では、ネコジャラシの名もあります。
そういえば英名でもフォクステール・グラスといい、キツネの尾に
見立てています。

 雑草として農家にきらわれているこのエノコログサも,もとを正
せば五穀の一つである、あの鳥のえさにされているアワの原種。由
緒正しいイネ科植物なのであります。

 エノコログサを使い、草花遊びをします。まず花穂を切り取り、
穂の尻を残し、2つに裂きます。それを鼻の下につければ、ホラ立
派な鼻ひげに。

 毛虫。花穂ををこぶしの中に入れ、にぎりしめたり、ゆるめたり
すると、穂は、毛虫のようにモゾモゾモゾ……。

 競馬。穂をしごいたムチで、別の穂の尻を軽くたたくと、ヒョイ
ヒョイと動き出します。みんなで作って競争させよう。

 相撲。箱の上に土俵をかいて、エノコログサの穂を2つ入れ、箱
をたたきます。どっちが先に外に出るかな。

 イヌ。まず茎のついた穂を2本ねじって耳を作ります。耳と顔が
できたところで別の2本をひっかけ、ねじって胴体ができます。さ
らにしっぽになる穂をつけてできあがり。でも茎の足を手から離す
と、壊れてしまいます。
(013・014)

 

 

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秋編(9月)・第2章「エノコログサ ゆれてかすかに 秋の風」

(2)カヤツリグサ

 カヤツリグサは漢字で蚊帳吊り草。3角の茎を両端から、それぞ
れ別の面をふたつに裂くと、茎の真ん中あたりで四角ができます。

 昔から子どもたちが。2人で裂いて遊んだなつかしい遊び。カヤ
ツリグサの名前の由来です。いまでは蚊帳など吊る家はめったにな
く、すたれてしまいましたが、自然に親しむ意味でも、このような
草花遊びを伝え残したいものです。

 カヤツリグサは、この四角を升(ます)になぞらえ、マスクサとも
呼ばれます。また小穂(しょうすい)が、少し、黄色がかっているた
め、キカヤツリグサともいいます。

 カヤツリグサの仲間は、日本に二十数種が分布しているといい、
そういえばよく似たものを見かけます。コゴメガヤツリ、チヤガヤ
ツリ、カンエンガヤツリ、タマガヤツリなどがその代表格。

 7〜8月ごろ、葉の先っぽに葉の形をした長い包を3〜5個つけ、
その真ん中から花序の枝を数個出して、綿形の小穂をたくさんつけ
ます。小穂は小さな鱗(りん)片が二列に行儀よくならんでいます。
この20数個の鱗片が花で舟形、楕円形で褐色、背面の中脈は緑色
をしています。

 アマゾン上流に生えるカヤツリグサ科の仲間には避妊薬に応用で
きる成分があり、研究されたことがあるとか。また観賞用になるも
の、中には食用として栽培される種類もあります。
 カヤツリグサ科カヤツリグサ属の一年草
(015)

 

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秋編(9月)・第2章「エノコログサ ゆれてかすかに 秋の風」

(3)ススキ

「月々に月見る月は多けれど、月見る月はこの月の月」という言葉
があります。満月になる旧暦の15日の夜(十五夜)は毎月のよう
にありますが、旧暦8月15日の夜の月は、特に美しくお月見の行
事が行われます。

 この月見に欠かせないのがススキです。花びんにススキや秋草を
生け、だんご、サトイモ、クリ、カキなどを供えます。ススキには
魔よけの力があると信じられ、月見に飾るのも、もともとは農作物
を害虫から守る農耕儀礼のなごりだともいわれます。

 ススキは、北海道から沖縄、朝鮮半島、中国に分布しており、葉
に白い縞のあるシマススキ、タカの羽根のような模様のあるタカノ
ハススキは観賞用の栽培されています。

 ススキは、大昔から屋根をふく材料にしたり、炭俵、ぞうり、ほ
うき、薫(た)き物などに利用。奈良時代の『万葉集』、平安時代
の『古今集』その他にたくさん出てきます。

 ススキという名は、ス(細い)ス(細い)キ(木、草)の意味だ
とも、スクスクと立つ木(草)、またスズの木(神楽(かぐら)に
使う鳴り物用の木)からきた名前だとされています。

 またカヤというのは、かやぶき屋根の材料にするために刈るので
「刈り屋根」から、また同じように、「カ(上・かみ)屋(や)」か
らきた言葉という人もいます。
 イネ科ススキ属の大形多年草
(016)

 

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秋編(9月)・第2章「エノコログサ ゆれてかすかに 秋の風」

(4)クズ

 『万葉集』などたくさんの文学作品に登場するクズ。日当たりの
よい低地の草原に紅紫色の花を咲かせているのをよく目にします。
クズは生長が早く地面をおおい、雨のしずくの侵入を防ぎ、落ち葉
は腐食して土に力をつけさせ、葉には栄養があり家畜の飼料になる
有用植物だという。

 根からはでんぷん(クズ粉)がとれ、また根は発汗、解熱など漢
方薬にも利用されますとくに有名な葛根湯は、風邪、はしか、神経
痛、肩こりなどにも利用するという。花は葛花といい、二日酔いの
治療に使うという。名前はクズでもどうしてどうして決して屑では
ありません。

 中国、台湾、日本の原産。昔大和国(奈良県)吉野の国栖(くず)
地方の人たちがクズ粉を作って売りに歩いたのが名前の由来だとい
う。葉の裏が白くて目立つので「裏見草」、転じて「恨み草」とも
呼ばれたという。

 クズと言えばこんな話もあります。奈良県葛城山(昔は大和葛城
山から金剛山あたりをいった)は役ノ行者の修行の場として有名で
す。

 その金剛山から東側の御所市へと流れる沢に「蛇谷」は、近くの
葛城一言主神社の神が、役ノ行者の怒りにふれ、クズの蔓で七巻き
も縛られ、谷底に置き去りにされているところという。

 それはどんな手を尽くしても解くことができず、その恨みと苦し
いうなり声は幾年たってもまだ絶えていないと古書は伝えていま
す。風流なイメージとはかけ離れた伝説です。
・マメ科クズ属の大形つる状草本
(017)

 

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秋編(9月)・第2章「エノコログサ ゆれてかすかに 秋の風」

(5)ツバキの笛

 ツバキは、春に花が咲く木というので、春と木をくっつけて「椿」
と書きます。これは中国でつくられた字ではなく、日本でつくった
「国字」だそうです。

 葉が厚いので厚葉木(あつばき)が語源だとも、つやがあるので、
津葉木(つばき)からきた名だともいわれています。

 ツバキの木の下を歩きます。われたツバキの実から落ちた黒い種
子がたくさん落ちています。この黒い種子が椿油の原料になります。
椿油は日本の特産油で伊豆諸島や九州南部が有名です。古くから頭
髪用油に、また食用油としても利用されます。

 ツバキの種子で笛を作ります。種子をコンクリートなどでこすり、
中の肉を取り出します。空洞になった種子の穴に、口を当てて吹き
ます。ピーッと林に響きます。なお、ツバキについて詳しくは、冬
編をごらんください。
(018)

 

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第3章 名月や みんなに見られて 隠れんぼ  

秋編(9月)・第3章「名月や みんなに見られて 隠れんぼ」

(1)十五夜

 今夜は十五夜、十五夜とは旧暦の十五日の夜のこと。自然の現象
を暦にしていた昔、毎月の十五日の満月、とりわけ旧暦八月十五日
の月はきれいなこともあって、いちばんわかりやすい節目になって
いました。

 旧暦八月十五日の月は仲秋の名月ともいい、ススキや月見だんご、
サトイモなどを供え、月見をします。月見は中国から伝わった行事
で、日本では平安時代、905年(延喜九年)八月十五日に宮中で行
ったのが最初。

 一般家庭で盛んになったのは、江戸時代になってから。今のよう
にお供えものをするようになったのもその頃からであります。こん
なことからいつの間にか月見といえば、旧暦八月のもの。十五夜と
いえば、旧暦八月というようになってしまったのです。 各地でい
ろいろな行事が行われます。
(p019)

 

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秋編(9月)・第3章「名月や みんなに見られて 隠れんぼ」

(2)ヒガンバナ

 ヒガンバナ。名前の通り、秋の彼岸の頃、きまって目立つ花を咲
かせます。しかし、あでやかな花であるけれど、生える所がお寺や
お墓ときては、どうも具合いが悪い。死人花(シビトバナ)、幽霊
花(ユーレイバナ)という気の毒な名前もつけられています。

 お寺やお墓に縁があるせいか、ヒガンバナは、法華経の「摩詞曼
陀羅曼珠沙華(まかまんだらまんじゅしゃげ)」に由来するマンジュ
シャゲの別名もあります。

 従来、ヒガンバナは、日本特有のものとされていましたが、第二
次大戦中、中国、揚子江上流で原種らしいものが発見され、渡来時
期について、あーだこーだと論議されていたようです。

 ラッキョウのような鱗茎には、リコリンやセキサニンなどのアル
カロイドというものがあって有毒。毒ということは裏返せば、薬に
なるということ。腎炎、むくみに薬効があるそうです。
(020)

 

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秋編(9月)・第3章「名月や みんなに見られて 隠れんぼ」

(3)アカトンボ

 ♪夕焼け、こ焼けの……おなじみアカトンボであります。アカト
ンボにはたくさん種類がありますが、アキアカネやナツアカネなど
が有名です。

 アキアカネの雄は、腹だけが赤くなりますが、ナツアカネの雄は
体中赤くなるので、すぐにわかります。

 6月頃、田んぼや池で成虫になったアキアカネは、夏になると,
山や高原に避暑とシャレこみます。そして秋、赤くなって里に帰っ
てきます。他の虫には見られない習性です。

 山形県の朝日連峰へ行った時のこと、あまりの暑さにへばりぎみ。
小朝日岳でテントを張らせてもらいました。ガスがたちこめる寸前
に舞い上がった赤トンボの群れ。空が一瞬暗くなったよう。

 帽子、肩、手を出せば、各々の指に平気でとまります。自分がト
ンボの仲間になったような気になりました。
(021)

 

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秋編(9月)・第3章「名月や みんなに見られて 隠れんぼ」

(4)オシロイバナ

いなかのあぜ道にオシロイバナが咲いています。きっと農家で栽
培していたものが野生化したのでしょう。これでオシロイバナ遊び
をしましょう。

 まず、花のつけねの萼(がく)の部分と花びらを持ってゆっくり
引き離すと、花の芯(雌しべと子房)が抜けて残ります。それをア
リの巣の入口に差し込みます。

 子房のつけねには密腺(花の蜜の出るところ)があり、その匂い
につられてアリがついてきます。それを釣り上げて「アリ釣り遊び」
ができます。釣れたアリは放してあげましょう。

 また花びらと萼をそっと引き離しながら、芯が抜ける手前で残し
ます。それを高いところから放すとまるでパラシュートのように飛
んでいきます。

 オシロイバナの花を集めて糸を通してつないでいくと花のネック
レスができますよ。でもすぐしぼんでしまいます。

 この花の黒い実を割り、なかの白いこなを顔にぬります。しめっ
た水分がかわくとほら、おしろいをぬったようです。粉が少しブツ
ブツしていますが。

 オシロイバナは、草丈1メートル、花は花冠がなく筒状にアサガ
オの花のように開きます。赤や黄色、白、赤と白の混じったものな
どがあります。

 夕方から咲き、次の朝にはしぼみんでしまいますが、涼しくなる
と昼も咲いています。草の名は、子供が「おしろい遊び」をして遊
ぶところからつけられました。

 原産地はメキシコで日本には江戸時代の元禄年間(1688〜1704)
に渡来、江戸時代は種子をおしろいの代用に、根は薬に使用したと
いいます。ブラジルでは民間薬に利用。オシロイバナ科オシロイバ
ナ属の多年草。
(022)

 

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秋編(9月)・第3章「名月や みんなに見られて 隠れんぼ」

(5)ツリフネソウ

 山のふもとを歩いていると、湿り気の多い所に、船の形をした紅
紫色の花がたくさんぶら下がっています。ツリフネソウとはよく名
付けたものです。

 ツリフネソウは、日本では当たり前に見かけるものですが、分類
学的に知られたのは、ごく最近、幕末になってから。飯沼慾斎(い
いぬまよくさい)の「草木図説」(1862年)に「紫のツリフネソウ」
としてホウセンカ、黄のツリフネソウなどと一緒に記載しています
が「西書ニ在テ未ダ此種ヲ説(とく)ヲ見ズ」とあります。

 これが学界に発表されたのは慶応元年(1865年)。草木図説の出
版より三年後でありました。

 南アルプス、塩見岳の塩見小屋。夜明けの雷の中を飛び出し、三
伏峠から塩川へ。沢筋の道になるころ、雷もやみ、天気も回復。ツ
リフネソウの揺らぐ中で食べたおやつのゼリーがオイシカッタっ
け。
(023)

 

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秋編(9月)・第3章「名月や みんなに見られて 隠れんぼ」

(6)カシ

 ドングリでおなじみのカシの木。冬でも葉が落ちなく、材木はカ
シ(堅木)というように堅く、重い。弾力があり、湿気にも強いた
め、昔から家や農機具の鎌や鍬の柄、船舶や車両材など、幅広く利
用されています。

 また、ウバメカシ、クヌギ、ナラなどは木炭として、ドングリも
飼料に、中には、イチイガシ、ウバメガシのように食用に、カシワ
のドングリからはでん粉をとったりします。

 このカシの木の利用は、大昔の人たちも知っていて、縄文時代の
遺跡(福井県・鳥浜貝塚遺跡)からは、カシの弓や杭、尖り棒など
っを発掘。佐賀県・西石田遺跡などからは、食べられる種類のドン
グリがたくさん出ています。

 カシの厚みのある葉の中筋を折って、ふちをはさみで切って、草
履を作ります。
(024)

 

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第4章 高原の秋 ボウズ頭の ワレモコウ 

秋編(9月)・第4章「高原の秋 ボウズ頭の ワレモコウ」

(1)ワレモコウ

 秋の高原や草原は、ススキやワレモコウなどで華やかです。イン
ド原産の有名な薬草に木香(もっこう)というのがあります。アザ
ミに似た花を咲かせ、根を香料や健胃剤に用います。

 それを知った昔の日本の人が「オレたちの国にも似たものがある
ぞ」と、つけた名前が「わが木香」。いつしかワレモコウになりま
した。

ワレモコウの根にはサポニンやタンニンが含まれていて、収れん薬
や止血薬として慢性腸カタル、子宮出血、吐血、うがい薬に使用。
またたん切りにも利用されます。

 ワレモコウの属名は、サングイソルバ。ラテン語で「血を吸収す
る」という意味だそうで、ヨーロッパでも昔から止血薬として用い
られていたのです。

 葉を手のひらに打ちつけて臭いをかぐと、かすかにスイカの臭い
がします。だからスイカグサといったり、馬の食べるスイカという
のでウマズイカの名もあります。

 中国名は地楡。小葉がニレに似ているため。根茎の乾燥したもの
を漢方で「地楡」と呼ぶのは、そこからきているのだそうです。
・バラ科ワレモコウ属の多年草
(025)

 

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秋編(9月)・第4章「高原の秋 ボウズ頭の ワレモコウ」

(2)オミナエシ

 「万葉集」に歌われ「紫式部日記」にも登場するオミナエシ(女
郎花)。オミナエシはいかにもつつましそうでやさしく、日本人好
みの花です。

 平城天皇の時代というから平安時代、自分の愛していた男に愛人
が出来たと聞いて、世をはかなみ、川に身を投げた女が脱ぎすてた
山吹重ねの衣から、オミナエシが咲き出したという伝説があるそう
です。鎌倉時代の僧・宗碵(そうてい)が「藻塩草」(もしおぐさ)
の中で書いています。いかにもオミナエシの花にふさわしい伝説で
す。

 オミナエシを「女郎花」と書くようになったのは、平安時代の延
喜年間(901〜923)のころからだそうです。オミナエシの語源には
諸説あって、オトコエシに対してやさしい感じがするので、女性に
たとえたとする説。

 いや、オミナエシとは別名オミナメシ(女飯)の意味で、花の色
を粟飯に見立てたものだ。いやいや、オミナは女のことだが「ヘシ」
とは、花の美しさに女の美しさも「減(へ)す」ほどだという意味
だなどなど。

 平安時代の「倭名類聚抄」(わみょうるいじゅしょう)には、「女
郎花、今案ずるに花は蒸し粟の如し」とあるそうです。やはり粟飯
に見たてたのでしょうか。

 オミナエシの方言もアワバナ、アワクサ、アワゴメバナ、アワボ、
アワモリなど花を粟に見立てたものが多い。江戸時代の「大和本草」
にはオミナエシに敗醤の字を当てているが、敗醤は、オトコエシの
ことだという。

 漢方では、根を天日乾燥し、敗醤根(はいしょうこん)といい、
利尿、解毒、浄血、拝膿などに利用するそうです。

 ある年の秋、群馬県の榛名山に天狗を調べに行きました。まず榛
名神社を訪れ、本殿わきの満行坊天狗像を写真におさめ、次に相馬
山の相満坊、スルス峠の大岩の上で大いばりしているカラス天狗像。
全目的達成に大満足。せっかくきたのだからと榛名富士に向かって
歩き出しました。

 あたりの草原は下草の中にキキョウ、マツムシソウなど秋の花が
真っ盛りです。その花々からつま先だったように背延ばしてひとつ
頭を出したオミナエシの花の黄色さが、きょうの満足感を一層充実
させてくれたのでした。
・オミナエシ科オミナエシ属の多年草
(026)

 

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秋編(9月)・第4章「高原の秋 ボウズ頭の ワレモコウ」

(3)カネタタキ

 林の中などで、チンチン、チンチンと澄んだ音で鳴いています。
まるでお祭りのような虫、カネタタキは、コオロギの仲間。鳴くの
は雄だけ。羽をこすって音を出すのだそうです。

 昆虫網直翅目カネタタキ科というのに属する昆虫だそうで、昔か
ら秋の鳴く虫のひとつに数えれています。

 庭木や生け垣、野の低木の上にすみ、かれんな声で鳴くのが好ま
れ、夜店の虫屋の店頭にかざられて、親しまれてきました。

 名前の由来は、かわいらしい鳴き声が小さな証(かね)をたたい
ているように聞こえるところからという。関東地方から西の南西日
本にすみ、東北地方や北海道にはいないそうです。体長10ミリく
らいの小さい扁平な虫で、頭胸部は赤褐色、腹は黒褐色ですが、全
身は淡褐色に見えます。
(027)

 

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秋編(9月)・第4章「高原の秋 ボウズ頭の ワレモコウ」

(4)クツワムシ

 クツワムシ。夕方からガチャガチャやかましく鳴く、あの虫です。
これも江戸の昔から鳴く虫の代表として、夏から秋ににかけて、露
店で売られ庶民から親しまれました。

 クツワムシは林や草むらにすんでいます。この虫は体全体が緑色
をしていますが、枯草などにすむものは暗褐色をしています。鳴く
のは、やはり雄の虫で、体の発音器部が大きくなっています。雌の
産卵管は剣のようになり長いのが特徴です。

 クツワムシという名は、あのうるさい鳴き声が、昔、馬につけて
いた轡(くつわ)の鳴る音に似ているところから名づけられたとい
うことです。

 いなかだった私の実家の、庭のホウキグサにまでやってきて「ガ
チャガチャ」鳴いたものでした。それでも足りず、林からたくさん
とってきて蚊帳の中に放しました。夜中、ガチャガチャガチャと鳴
きだしました。うるさい!と両親におこられました。
(028)

 

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第5章 青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる

秋編(9月)・第5章「青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる」

(1)マツムシソウ

 涼風の吹く草原で、マツムシソウの花が風に揺れています。青く
澄んだ秋空に、淡い紫色の花。山歩きの人たちにも見ほれて、足を
止めます。

 マツムシソウは、平地にも咲きますが、標高1000mから1500m
の草原によく見かけます。

 マツムシソウはマツムシ(いまでいうスズムシ)が、鳴き始める
ころ咲き出すからとも、マツムシが住むような環境に生えているか
らとも、また、花の終わったあとの頭花が巡礼が持っている松虫鉦
に似ているからなどいろいろな説があります。

 この花は、花が終わって種子を落としてまもなく、芽を出してロ
ゼット状で冬を越し次の年花を咲かせてから全体が枯れてしまうた
め、越年草(冬型1年草)だというのが一般的です。

 しかし、秋の高原などで観察すると大きな根がロゼットを育て、
2年草や多年草になっているものもあり、種により生存期間が決ま
っているわけではないというからまぎらわしい。

 マツムシソウは高さ60から90センチ。8月から10月ごろ長い枝の
先に頭花をひとつつけます。頭花は多数の小花からなり、まわりの
小花は先が5つにわかれ、外側の裂片が大きくなって花びらのよう
になっています。

 花が終わると花床がふくれて「いがぐり坊主」になって面白い。
明治時代の本「有用植物図説」には観賞植物として出ています。

 高山に生えているのが変種のタカネマツムシソウ。高原は秋が早
く8月初めから咲き出します。。草の丈は2、30センチと小さいかわ
り、花がひとまわり大きくあざやかなあお紫色。時期を逃がし見な
かった年は何となくさびしいものです。

 マツムシソウでとくに印象に残るのは、霧が峰と東北の飯豊連峰。
なかでも飯豊連峰の山形・新潟県境にある姥権(うばごん)という
石仏があります。女人禁制のおきてを破って石にされたという。

 そのよだれかけをした石仏のまわりは、一面、マツムシソウの花
が咲きみだれていたっけ。・マツムシソウ科マツムシソウ属の越年
(029)

 

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秋編(9月)・第5章「青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる」

(2)ハナイカダ

 山の中の登山道で、まわりがギザギザになった葉っぱの真ん中に、
丸くて黒い実が乗っているのを見つけます。いやいや、乗っている
のではなく、生(な)っているのです。葉っぱの真ん中に実が生っ
ている?そうなんです。ハナイカダの果実なんです。果実は直径7
〜9ミリの球形。ハナイカダは高さ1〜2mの落葉低木。山地の木
陰などに生えています。

 夏のはじめ、奇妙なことに葉の真ん中に淡い緑色の地味な小さな
花を咲かせます。雌雄異株で、雌花の木と雄花の木があります。雌
花は1〜3個の花が、雄花は数個集まって咲いています。花が咲い
たあとの実は、はじめ緑色をしていますが、夏からいまごろにかけ
て黒くなって熟します。

 花が咲いているころ、葉をとって水の上に浮かべてみましょう。
ナント、花をのせた筏(イカダ)に見えるではありませんか。ハナ
イカダ。うまい名前をつけたものですよね。

 どうしてこんな形になったのか。ハナイカダに聞いてもたぶん分
からないと思いますが、これは、葉腋から出た花軸が葉柄と葉身の
中央脈に癒合したためこんな形になったのだと、詳しい図鑑に載っ
ていました。

 ママコ、ママコナ、ヨメノナミダなどと呼ぶ地方もあり、若い芽
や葉をゆでて、ゴマ和え、クルミ和え、納豆和えに、またかき揚げ、
卵とじ、おひたし、塩漬けなどにして食べられます。くせもなくみ
んなに利用され、東北地方の主要な山菜になっているそうです。

 方言のママコ、ママコナは、果実の丸い形を米粒にたとえたもの
ではないかと牧野富太郎博士は説いています。ヨメノナミダもなん
となく分かりますよね。また、茎を切って細い棒で髄(ずい)を押
すと突き出るので「ツキデノキ」という方言もあります。

 花のころは地味なため、気がつかないで通り過ぎてしまいますが、
果実が熟し黒くなって、丸いかたまりが葉に乗っている姿はよく目
立ち、奇妙な感じをさせられます。黒く熟した果実は甘味があって
食べられるそうですよ。(「日本の樹木・532」)。もちろん果実酒に
も利用できます。

 ハナイカダはミズキ科ハナイカダ属に属していますが、ハナイカ
ダ属は互生葉序で、托葉がはっきりしており、散形花序であり、が
くが退化していることなどから、ミズキ科よりむしろウコギ科に特
徴が似ているところが多いという。

 このため学者センセイの間では、ハナイカダ属をウコギ科に移す
方がよいとの意見が強くなっているそうです。また、独立させてハ
ナイカダ科にすべきだという見解もあると聞きます。(「植物の世界
・4-142」)また手元の図鑑が古くなってしまいます。北海道、本
州、四国、九州の山地に分布。・ミズキ科ハナイカダ属の落葉低木
(030)

 

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秋編(9月)・第5章「青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる」

(3)ゲンノショウコ

 この草を薬草として用いると、たちまちのうちに病気が治り「薬
効この通り現の証拠!というのでつけられた名前がゲンノショウ
コ。これ、本当の話だそうです。「タチマチグサ」と呼ぶ地方もあ
るそうです。

 下痢にはれ物、カゼ、健胃、整腸、健康増進、赤痢にまで効くと
いいます。これは「牛扁草」といわれ、むかーしからの民間薬。明
治末、新聞、雑誌に紹介され、一躍有名になったそうであります。

 薬のほか、茎や葉に含んでいるタンニンを利用して染色に使われ、
鉄分を焙煎するとネズミ色から黒色に染まるとか。 

 夏、ウメの花に似た五弁花を開いて、いかり形の実をつけます。
それがおみこしワッショイのみこしの屋根の形にそっくり。ミコシ
グサの名も。また、葉っぱの形からネコアシグサ、傑作なのは医者
いらずとか医者だおし。

 これほど霊験あらたかなゲンノショウコも、有毒なニリンソウやイチリ
ンソウと交ざって生え、そのうえ、葉の形がソックリとくるので、
くれぐれもご注意のほどを……。
・フウロソウ科フウロソウ属の多年生草本
(031)

 

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秋編(9月)・第5章「青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる」

(4)モズ

 ♪モズが枯れ木で鳴いている。おいらは、わらをたたいてる……。
という古い歌があります。いまごろ、木の梢にとまって尾羽を上下
に動かして、かん高い声でキーイツ、キーイツと鳴いています。

 くちばしがタカ類に似ており、先が鋭く下の方に曲がっています。
性質が荒く、自分のテリトリーに仲間が入ってくると戦います。

 昆虫やトカゲ、クモ、ネズミ、コウモリ、魚を食べ、小鳥を襲う
時もあります。草原、畑、まばらな林がすみかです。

 秋から冬にかけて、ウメやカラタチ、サクラなどのとげや小枝に、
カエルが突き刺さり、黒く乾燥しているのを見かけます。これが「モ
ズのはやにえ」です。あとで食べる様子もなく、一体なんのためで
しょうねエ。
(p32)

 

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秋編(9月)・第5章「青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる」

(5)茶の実

 秋の田園を歩きます。山すその畑のすみにお茶の木(チャノキ)
が白い花をつけています。同じころ緑色の実(果実)もつけます。
茶の実は3つの部屋に分かれていて、その部屋にひとつずつ種子が
入っています。

 緑色のその果実をヘタをうえにして石やコンクリートの上でこす
ります。3つの丸がこすれ、猿のお面に似てきます。そのうえ時間
がたつにしたがい、皮と中のタネを残した肉の部分がだんだん赤く
なってきます。ますます猿の顔にそっくりになるから不思議です。

 それをいくつかできたらならべてみましょう。お猿の顔がそれぞ
れ少しずつ表情が違って愉快ですよ。手間もかからず簡単な遊びで
す。

 またよく実って茶色になった実を取りだして、別の実に当てて遊
ぶビー玉遊びもできますよ。

 チャノキは秋から初冬、葉腋にうなずくようにして下向きに丸い
つぼみを出し、直径4〜6センチの白い花を咲かせます。

 茶の花は華やかさよりも、わび、さびの感じ。昔から茶人などに
喜ばれてきた植物です。

 ツバキやサザンカと似ていますが、チャノキには緑色の花柄があ
り、区別できるところです。5個のがく片は濃い緑色。花弁は円形
で白く5枚あります。雌しべは3つに裂け、多数ある雄しべは輪生
し、金色の葯(やく)がよく目立ちます。

 果実はゆがんだ球形で次の年の秋に熟します。すると各部屋の中
間で裂けはじめ、中から3個の大きな暗褐色のたねを出します。

 チャノキは中国から日本にかけてが原産。暖かい地方では野生し
ているものもあるという。緑茶でうがいすると風邪の予防になると
いい、健康に良いというのでごはんに振りかけて食べたりします。

・ツバキ科チャノキ属の常緑植物(ツバキ属と一緒にすることもあ
ります)
(p033)

 

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秋編(9月)・第5章「青い空 マツムシソウゆれて 雲すぎる」

(6)コスモス

 秋といえば、やはりコスモスです。コスモスとはギリシャ語の秩
序、調和、飾り、栄光、宇宙などの意味だそうです。

 原産はメキシコだという。1789年、スペインから派遣された植
物調査隊が、現地からマドリードのホセ・カバニエス神父にコスモ
スの種子を送ったという。その種子を栽培した神父が、2年後の
1791年に「コスモス」と名づけたのだそうです。

 コスモポリタン、コスメチックなどの語源もここからきていると
か。その後、世界中に伝播して、いまでは名前通りのコスモポリタ
ンな花。

 日本に伝来したのは幕末といわれています。しかし一般に広まっ
たのは1879年(明治12)、東京美術学校の教師だったラグーザと
いう人がイタリアから持参したもの。

 しかし、本格的に広がったのは、1909年(明治42年)、文部省
が全国の小学校に種子を配布してからだそうです。
(p034)

 

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9月終わり