夏 編 6月

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●目次

第1章 奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し
 ・(1)水無月 ・(2)アリの行列 ・(3)アリジゴク
 ・(4)モグラ ・(5)フキ ・(6)カラスノエンドウ

第2章 もう遅い 家にカエレと 合唱団
 ・(1)カエルの合唱 ・(2)ドクダミ ・(3)ササ
 ・(4)コウモリ捕り

第3章 このあたり 地獄が近いかトラツグミ
 ・(1)トラツグミ ・(2)キイチゴ
 ・(3)モリアオガ工ルの卵 ・(4)ヘビ
 ・(5)ホタルブクロ ・(6)ヤブレガサ
 ・(7)カラスビシャク

第4章 近寄るな 立派なはさみが 見えないか
 ・(1)アメリカザリガニ ・(2)タニシ ・(3)スズメバチ
 ・(4)タケの皮

第5章 カエル馳ねて後にユラユラカエルっ葉
 ・(1)オオバコ ・(2)メダカ ・(3)アマガ工ル

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第1章 奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し

夏編(6月)・第1章「奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し」

(1)水無月

 水無月(みなづき)は旧暦6月のことですが、いまの暦でも通用
しています。毎日がうっとうしい梅雨のころなのに水がないとはち
ょっと変ですが、これはもともと旧暦の6月(いまの7月下旬にあ
たる)のことなのだそうです。

 また、田植えなどが無事終わって、大きな農作業をみなし尽くし
た、という意味から「農事みなつきる」、「皆仕尽月・みなしつき」
の略だとの説もあります。

 さらに「5月に植えた早苗が、みなつきる」とのことだという説
や、このころは雷が多いことから「かみなりづき」の「か・り」を
略したものとの説もあります。「語意考」(賀茂真淵)。
(007-1)

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夏編(6月)・第1章「奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し」

(2)アリの行列

 道ばたでは、アリが忙しく働いています。そんななか「下にイ〜。
下にイ〜」と、江戸時代の参勤交代でもあるまいし、大行列をして
いるアリがいます。

 まゆや幼虫をくわえて、まるで引っ越しをしているようですが、
じつはこれはサムライアリの奴隷狩りとくるからスゴイやね。

 サムライアリは、クロヤマアリの巣を襲い、幼虫やまゆを自分の
巣で育て、奴隷としてこき使うのだそうです。先日、家の近くで調
ベたら300m先の空き地まで続いていました。
(007-2)

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夏編(6月)・第1章「奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し」

(3)アリジゴク

 農家の軒下の乾いた砂や、大きな木の根元の雨のかからない土に、
すりばちのような穴があります。

 ごみなどを落とすと、穴の底砂の中になにかいるらしく、ビクビ
ク動きます。アリジゴクの巣だったのです。アリジゴクは普段は、
穴の底の土の中に隠れていて、アリなどが落ちてくると、捕まえて
体の血を吸ってしまいます。

 小さいころ、農家だった私の家にもアリジゴクの巣がたくさんあ
りました。

 そこで、アリを1匹つまんで、巣の中に入れてみました。アリは、
本能的に危険を感じたのか、その慌てようったらありません。

 ボロボロくずれる砂をものともせず、死にもの狂い。穴の底から
アリジゴクがアリに目がけて、砂をかけます。 しかし、アリは全力
でとうとうジゴクから脱出してしまいました。
(008)

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夏編(6月)・第1章「奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し」

(4)モグラ

 畑や芝生のあちらこちらに、まるで噴火山のような土の盛り上が
りがあります。モグラがトンネルを掘り、穴の中にたまった土を地
表に押し出したものです。

 土の中で、ミミズやケラ、クモ、ムカデなどを食べ、夜は土の上
に出てきて、バッタやコオロギなどを捕まえて食べるそうです。

 モグラは、また、たいへんな大食らい。ミミズなら1日に5,6
0匹をペロリ。だいたい、自分の体重くらいは食べるそうで、10
〜20時間食べないと、死んでしまうといいます。

 トンネルは、かなり深い安全な巣から、2、3本の本道が出てい
て、それから細い枝道が長く複雑に分れてつくられているとか。

 どおりで、子どものころ、モグラの穴にいくら水を流し込んでも、
なんてことはなかったわけだ。恐れ入りやした。
(009)

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夏編(6月)・第1章「奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し」

(5)フキ

 畑に栽培される野菜も、もとは野草であった「菜」を改良したも
の。フキもそのひとつで、野生の方が香りも強く喜ぶ人もたくさん
います。

 フキは正真正銘の日本特産で、栽培も10世紀以前から始められ、
中国で利用するほかは、日本のように多く食べる国民はないそうで
す。

 記録にも平安時代初期から現れ、『本草和名』(918年・延喜18・
深江輔仁)にはフキのことを「款冬(かんとう)、和名也末市布岐
(やまふふき)、一名於保波(おほは)」とあります。

 しかし「款冬」とは漢方に利用するフキタンポポ、この間違いは
江戸時代まで続き、ずーっとフキを咳(せき)の薬としていたそう
です。

 フキのトウの花が咲いたあと、白い冠毛が風に乗って吹く様子は
″山吹雪″のようだというので「也末布布岐」。このヤマフブキが
つまって、いまはフキといっているのだそうです。

 また、葉が大きいので於保波(おほば・大葉)です。その葉が柔
らかく短毛が生えており、汚れを拭くのにもってこい。そこで「拭
く」がなまってフキになったという説もあります。昔の風流な人は、
富貴(ふき)の字を使って楽しむこともありました。

 フキは北へ行くはど大型になり、ことわざに「尾張ダイコン、秋
田ブキ」といわれるほど秋田あたりでは大きくなり、「……雨が降
っても傘などいらぬ、手ごろのフキの葉サラリとさしかけ……」と
いう民謡があるほどです。雌雄異種。

 軽いやけどや虫さされ、切り傷に葉や茎の生汁をつけるとよいと
いう。

・キク科フキ属の多年草(雌雄異株)本州、四国、九州、沖縄、朝
鮮、中国に分布。
(010、011)

 

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夏編(6月)・第1章「奴隷刈りと知り 邪魔したくなるアリの引っ越し」

(6)カラスノエンドウ

 カラスノエンドウは至るところに見られる越年草で、小さなサヤ
エンドウそっくりな実をつけ、子どもたちのままごとのご馳走とし
て欠かせないものでした。

 ほかの草にからみつき、熟しかけたさやをつけていますが、遅い
ものはまだ紅色の花を咲かせています。

 よく実の入ったさやを開き、なかの豆を出し、ほうばって吹くと、
シビビビーという音が出ます。こんな笛で遊んだ記憶のある人も多
いと思います。

 伸びはじめたやわらかい葉や若い実を山菜として、ゆでてあえ物
やひたし物、てんぷらにして食べられます。いつかテレビで生でも
食べられるといっていましたが、ちょっと勇気がいり、まだ試して
いません。

 カラスノエンドウは、ヤハズエンドウとも呼ばれ、ヨ−ロッパ原
産という。大昔日本に渡り、滋賀県の伊吹山(いぶきさん・1377
m)に野生していたのが発見されたので、イブキノエンドウとも呼
んでいます。カラスノエンドウとイブキノエンドウは、別種だとい
う学者もいます。

 名前は、「烏の豌豆」かと思ったら、カラスが食べるような「野
えんどう」だという。また豆が熟すと黒くなるから、カラスだとい
う説もあります。仲間にやはり野草として食べられるスズメノエン
ドウがあるがこれも同じ野えんどうです。

 初夏に葉のわきに蝶のような形をした辺似ろ色の花を咲かせま
す。花のあと3、4センチのさやになり、黒く熟すとさやが破裂し
て開き、豆を飛ばします。

マメ科ソラマメ属の越年草。本州、九州、四国、沖縄に分布。
(012)

 

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第2章 もう遅い 家にカエレと 合唱団

夏編(6月)・第2章「もう遅い 家にカエレと 合唱団」

(1)カエルの合唱

 夕方、田んぼのあぜ道を歩くと、カエルたちの合唱がにぎやかで
す。「カエルの歌が聞こえてくるよ……カエルの合唱の歌の作者も、
きっと、こんな所を歩きながらつくったのかもしれません。

 ガガガ、ゲゲゲと、別の種類の雄がたくさん集まって鳴いても、
雌はその特徴を聞き分けて同じ種類の雄の所に行くというからたい
したものです。

 カエルは、昔から人間に親しまれ「古事記」にもすでに登場して
います。祭りや神事、特に雨乞いなどに、いなくてはならない動物。
ヒキガエルはカエルの中でもいちばん神聖視され、家の主(ぬし)
だとか、大地の主の使者だ、などといった時代もありました。

 コンペイトウのような実のついたキツネノボタンを、カエルの目
の前でちらつかせると、飛びついてきます。
(013)

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夏編(6月)・第2章「もう遅い 家にカエレと 合唱団」

(2)ドクダミ

 野原といい、林の中といい、いたる所にドクダミの花が咲き誇っ
ています。ふつう嫌われるドクダミもよく見ると白い花がきれいで
す。

 しかし四弁花のように見えるのは花弁ではなく、総ほうとよばれ
るもの。花は総ほうの上にあるもので、淡黄色の小さな花をたくさ
んつけています。おしべ、めしべの先が三つに分かれていて、花び
らはありません。

 ドクダミは、薬草として有名です。茎や葉を乾燥し煎じて急性腎
炎、動脈硬化の予防、高血圧、ピリン疹に使用します。ドクダミの
生汁はにきび、慢性鼻炎、蓄膿症、耳だれに効力があるといいます。

 また生葉を塩でもんで、虫さされに使用。さらに生葉を火であぶ
り、おできやあせも、水虫にまで効くという。まさに薬草の王様な
のです。以前は、どこの家でも軒先に茎や葉の干したものを絶やす
ことはありませんでした。

 ドクダミの名は「毒痛み」、毒を集め寄せる、とどめる意味から
ドクダメ(毒溜)のことだそうです。馬に食べさせると10の薬効
があるというのでジュウヤク(十薬)の異名もあります。

 葉は、揚げ物に、酢みそあえ、ゴマあえ、地下茎をドクダミ飯に、
油びたしにして食べます。わが家でも時々、庭に生えるドクダミの
葉を天ぷらにして食べていますが、臭みもあまり気にならずおいし
いですよ。
ドクダミ科ドクダミ属の多年草
(014)

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夏編(6月)・第2章「もう遅い 家にカエレと 合唱団」

(3)ササ

 ササといえば、ササ舟。ササの葉の両端を折り曲げ、それぞれ3
つに切り、外側を差し込んで、できあがり。別の葉を帆の形に切っ
てつけて帆立て舟。

 また、まだ葉が芽のように丸まったまき葉をたくさん引き抜き、
カメを作ります。長目のものを輪にし、もう1本に糸で結びます。

 それを骨にして互い違いにまき葉を差して、編んでいきます。両
側に、はみ出た部分を長さをそろえて切り、最後にカメの頭を作っ
て完成です。

ササという音は、風に吹方れて葉がふれ合う音「サササ……」から
きたものだとか、ささだけ(細い竹)を略したものという説があり
ます。

 日本のササと竹は、世界でも誇れるものだという。「ササあめ」
や「ちまき」に利用したり、昔から魚を贈るのにササの葉をそえる
習慣もあります。
イネ科のタケササ類
(015)

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夏編(6月)・第2章「もう遅い 家にカエレと 合唱団」

(4)コウモリ捕り
(016)

 

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第3章 このあたり 地獄が近いか トラツグミ

夏編(6月)・第3章「このあたり 地獄が近いか トラツグミ」

(1)トラツグミ

 テントを背負って、山を歩きます。日も傾き、日没も間近。そろ
そろ寝るところを探さねばなりません。沢すじでテントを張るのに
ちょうどいい所を見つけます。

 しぽり出たての新鮮な水が沢に注いでいます。夕飯を食べ、寝袋
にもぐり込みます。外は、もう真っ暗、ガスが出てきたようです。
テントの前を、なにか、小動物が通る気はい。

 突然「ヒー、ヒョー」とものさびしい、地獄の底から聞こえるよ
うな声。トラツグミの鳴き声です。とはわかっていても、やはり、
うす気味悪く、思わず、首をすくめます。

 トラツグミは体にとらふのあるツグミ属の鳥。その声が、昔、源
頼政が退治したという怪獣の「ぬえ」の声に似ているというので、
ぬえの別称もあります。

 薄暗い森杯にすみ、昆虫、ムカデ、ナメクジ、ミミズなどを食べ
ます。トラツグミは、スズメ目ヒタキ科ツグミ亜科ツグミ属の夏鳥
またはひょう鳥に分類される鳥。

 南アルプス・茶臼岳(2604m・静岡県と長野県境)でも聞きま
した。県営茶臼小屋キャンプ場(静岡県側)は若者たちで賑わって
いました。

 キャンプ場の一番はずれ、富士山が見える高台にツェルトを張り
ました。ここは東側に富士山が望め、私のような関東の人間にはそ
の姿が珍しい。

 夕立が過ぎ、小屋の親父さんがそばにやってきて下界に定期の無
線連絡。二言三言冗談を飛ばし、小屋に降りていきました。夕立が
あがったとはいえ、ガスとうに富士山は見えません。

 どんよりした薄暗いなか、一声、ぬえの鳴き声が響きました。そ
のあといくら耳を澄ましても静寂感が覆ってくるだけでした。

※【ぬえ退治】
 ぬえは、「古事記」や「万葉集」、「日本略記」、「吾妻鏡」、「太平
記」などにも記載されています。

 なかでも源頼政のぬえ退治は有名で、「平家物語」(巻4)に、近
衛院の仁平年間(1151〜1154年)のころ、天皇が毎晩丑の刻にな
るとおびえることがあった。

 そこで源頼政が、矢で射落とし治しました。人々が見ると頭は猿、
胴は狸、尾は蛇、手足は虎の姿。鳴く声は「ぬえ」のようだったと
いう。

 また、二条天皇の応保年中(1161〜62年)にも宮中でぬえが鳴
いたので、源頼政が仕留めたという(「平家物語」)。
(017)

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夏編(6月)・第3章「このあたり 地獄が近いか トラツグミ」

(2)キイチゴ

 野山を歩いていて、キイチゴを見つけるのも楽しみの1つです。
ちょっと指でつまみます。すっぼり抜けてとれた果実を、□の中に
ポイ。舌の上に種子が残ります。

 キイチゴは、木イチゴであり、黄イチゴの意味ですが、木になる
のもあれば、草もあり、黄色のものもあれば、赤いのもあります。

 何年か前、長野県の塩の道「千国街道」を歩いた時、石垣の上の
畑からナワシロイチゴが垂れ下がってたくさん実をつけていまし
た。

 ザックの重さも忘れ、夢中で食べていたら、地元の子どもたちが
奇妙な顔で見ていました。きっと、そんなものは珍しくもないので
しょう。

 キイチゴの仲間には、カジイチゴ(6月)、クサイチゴ(6月・
赤)クマイチゴ(9月)、ナガバツモミジイチゴ(6月)、ナワシロ
イチゴ(6月ごろ・深赤色)、フユイチゴ(1月)、ベニバナイチゴ
(9月)、モミジイチゴ(6月・黄色)、モリイチゴ(フユバナノモ
リイチゴ・8月ごろ)などがあり、みんな食べられます。

 キイチゴとは黄色に熟すイチゴ、木になるイチゴの意味だそうで
す。なお、ヘビイチゴは毒はありませんが固くてまずく食べられま
せん。
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夏編(6月)・第3章「このあたり 地獄が近いか トラツグミ」

(3)モリアオガエルの卵

 山の中のジメジメしたところや、池のほとりで、白い泡の固まり
が木の枝にぶら下がっています。突然出くわすと、ちょっと不気味
です。

 これは、モリアオガエルの卵で、この泡の中には黄白色の卵が2
00から500個も入っていて、オタマジャクシにかえると、泡の
中から水に落ちてカエルになるのです。

 いつか山深い大学の演習林の水溜めの池の上にモリアオガエルの
卵の泡を4,5個見つけました。いっしよにいた人が「気持ち悪い
ねー」。

 また、田んほの中の農家の門の生け垣に大きな固まりがあるのを
見たことがあります。下には、水たまりもなく、かえったオタマジ
ャクシは、どうするのか、気にかかりました。

 梅雨のころ樹上で、たくさんの雄が集まって、雌の産卵を助けま
す。
(019)

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夏編(6月)・第3章「このあたり 地獄が近いか トラツグミ」

(4)ヘビ

草やぶ道で、突然「ニヨロ、ニョロ……」。ヘビは、みんなにきら
われます。でも、勝手にきらっているのは人間の方。ヘビに責任は
ありません。

 日本のヘビは、青く、大きいアオダイショウや、ちよっと小さい
ヤマカガシ。体が縞模様のシマヘビ、毒のあるマムシ、沖縄などに
は、猛毒のハブなどがいます。マムシは、森林や渓流、沼地の草む
らなどに多くいるので、気をつけましよう。

 マムシは、胴が太く、頭は大きく、三角形。くびが細く、大きい
のは、60センチくらいになり、暗褐色の輪の斑紋があります。薬
として、マムシ酒、黒焼きにして利用されます。

 子どものころ、ヘビを指さすと、指の先方ら隣るなどと本気で信
じて、みんなで指をくつでふんだり、手で切るまねをしたり、じゆ
文をとなえたりしました。
(020)

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夏編(6月)・第3章「このあたり 地獄が近いかトラツグミ」

(5)ホタルブクロ

 田植えもおわって、梅雨も本格的になる頃、山野の木陰やガケっ
ぷちにホタルブクロの花がぬれています。

 ホタルブクロは「蛍袋」のこと。昔の子どもたちが、この花をち
ょうちんにして中にホタルを入れて遊んだので、こんな名がついた
とされています。

 そういえば日本各地に「チョウチンバナ」という方言があるとい
います。また、江戸前期の本『花壇綱目』(1681年)には釣鐘草(ツ
リガネソウ)の名で書かれているそうです。

 白色または淡紫色の花があり、内側に紫の点がたくさんあって、
茎の先や上の方の葉のわきから、短い柄をつけたいくつかの釣鐘形
の花が下向きに咲きます。

 がく筒は子房といっしょになり、がく片は5枚で披針形。その間
に付属片がありそり返っています。そのそり返る付属片のないにが
ヤマホタルブクロで花は紅紫色が多い。

 キキョウ科ホタルブクロ属の多年草で、分布は日本全土。草の高
さは40〜80センチ。地下茎は短く、根生葉は柄が長く、卵心形を
しています。互生の葉は長卵形で下の方は翼のある葉柄になって茎
を抱いています。

 こんなホタルブクロも人間は食べてしまいます。若葉、花をゆで
てゴマ和え、辛子和え、油いために、おひたし、揚げ物、汁の実、
酢みそ和え。

 花は三杯酢がよいときたもんだ。まさに花よりだんご、ホタルブ
クロより胃袋なのであります。キキョウ科ホタルブクロ属の多年草

(021)

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夏編(6月)・第3章「このあたり 地獄が近いかトラツグミ」

(6)ヤブレガサ

 春先、山を歩いていると、枯れ葉の下から白いやわらかい毛のあ
る、破れ傘をすぼめたような形の草を見つけます。

 その名も「ヤブレガサ」。一度でおぼえてしまう、よくぞ名付け
たという感じです。低山の林の下、特にコナラやクヌギなどの雑木
林の半日陰に多く、朝霧にぬれてなかなかの風情。

 その葉をすぼめている若芽を摘んで山菜に利用します。クセがな
く、やわらかいので喜ばれ、ゆでておひたしに、ゴマ和えに、辛子
和えや油いため、揚げもの、煮びたしとして人間サマの胃袋におさ
まります。

 以前、山歩きで採ってきて味をしめてから、季節のたびに持ち帰
り「うまいから食べろ食べろ」といいますが、子どもたちはどうも
いい顔をしてくれません。

 さて草の説明に入ります。ヤブレガサはキク科ヤブリガサ属の多
年草。本州、四国、九州の山地に自生するとあります。大きくなる
につれ、徐々に傘が開き、梅雨のころは破れた傘が全開。

 雨の中、情けなさそうに風にゆれています。そばに侍でもいれば、
まさに傘の張り替えの内職をする素浪人の時代劇の図にピッタシで
す。

 草の高さは50〜120センチ、地下茎が短くはっています。葉は
円形で35〜50センチ、長い柄(え)があり、深く7〜9つに裂けた
掌状でさらに裂片にはギザギザの荒い鋸(のこぎり)歯があり、歯の
裏は白い。

 7月から10月にかけて円錐花序(花がピラミッド形になって軸
に配列している)にたくさん白または淡紅色の頭花をつけますが、
やはり若葉の美しさにはいま一歩というところ。

 頭花の直系は8〜10ミリ、花冠は五裂する筒状花だけ。総苞は
筒状で総苞片は5個。ヤブレガサ属は東アジアに五種あって双子植
物でありながら子葉が1枚というユニークさ。

 草ひとつでも文字で表すとムズカシイ文字がならび、書く方もヤ
ブレカブレになります。キク科ヤブレガサ属の多年草。
(022-1)

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夏編(6月)・第3章「このあたり 地獄が近いかトラツグミ」

(7)カラスビシャク

 夏のころ、畑などにミドリヘビがかま首をもたげたような形の花
を見かけます。その緑色の花が柄杓(ひしゃく)に似ているため烏
柄杓。カラスが使う柄杓のようだというのでつけた名前がカラスビ
シャク。

 なかには「いや、カラスよりはむしろかわいいスズメにしよう」
という人もいたらしく、スズメノヒシャクの名もあります。その他
シャクシグサ、ヘブスの名もあります。

 カラスビシャクは塊根から増殖するほか、ムカゴができるほか、
地下茎でもどんどん増えるので農家にとっては困った雑草です。

 カラスビシャクの漢名は半夏(はんげ)というそうです。半夏と
いえば暦などで使われる雑節の半夏生(はんげしょう・カレンダー
の7月2日ころ)があります。

 これは二十四節気(1年を24に分けて大体の気候の名前をつけた
もの)のひとつ夏至(6月21日ころ〜7月6日ころ)の第三候(七
十二候)にあたります。

 七十二候は二十四節気をさらに3つずつに区切って1年を72に分
けたもの。七十二候第三候は、いまの暦では7月2日ころ〜6日こ
ろにあたります。この半夏が生えてくるころが「半夏生」なのだそ
うです。

 カラスビシャクの花の仏炎包の形はヘビの頭にも似ていて、異様
な感じがしてよく目につきます。そして花の時期も田植えの時期に
も重なっています。

 そんなこんなで、この花のよく見られる芒種(6月6日ころ)か
ら半夏生の終わりの日(7月6日ころ)までをイネを植える期間と
しました。

 これを過ぎてから植えたイネは実りがよくないともいわれます。
このためカラスビシャクには守田(しゅでん)という別名もあるそ
うです。

 ハンゲショウの球根を漢方では半夏(はんげ)といい、吐き気、
利尿、咳どめ、たん切りによいといわれ、つわり、胃下垂、胃アト
ニー、湿性肋膜灸、船酔い、発毛、脚気、はては唇や舌の荒れ、し
やっくりにまで効くそうです。

 また、かつてはこの球根を採って干して薬問屋に売り、農家のヘ
ソクリになったといい、「ヘソクリ」と呼ぶ地方もあるそうです。
どんどん増える雑草でも農家の人はいろいろと利用したのですね。

 なお、カラスビシャク(ハンゲ)はサトイモ科ですが、これとは
別にハンゲショウ(ドクダミ科)という草があります。

 この草の名も雑節の半夏生のころ(夏至から11日目、すなわち7
月2日ごろ)に白い葉をつけるからだそうです。
サトイモ科ハンゲ屬の多年生草本
(022-2)

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第4章 近寄るな 立派なはさみが 見えないか

夏編(6月)・第4章「近寄るな 立派なはさみが 見えないか」

(1)アメリカザリガニ

 透き通った、ぬるんだ水の池で、アメリカザリガニが昼寝をして
います。そばに、脱ぎ捨てた古い殻が水にゆれています。捕まえて
みるとまだ脱皮したてなのか、殻がやわらかく、だらりとします。
水の中にもどしてやると、それでも尾をはたいて、後すさりしなが
ら逃げていきました。

 アメリカザリガ二は、もともとアメリカにすんでいたもの。日本
には、1930(昭和5年)、二ューオーリンズから鎌倉市岩瀬という
ところに転入。以後、あれよあれよという間に、全国に広まり、い
までは、すっかり子どもたちの人気もの。

 しかし、一時は、農薬などで激減しましたが、いまはまた、増え
てきているようです。くいしんほうなアメリカザリガニは、ミミズ、
オ夕マジャクシからヒル、ヤゴまで、ほとんどなんでも食べまくり
ます。
(023)

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夏編(6月)・第4章「近寄るな 立派なはさみが 見えないか」

(2)タニシ

 田んぼや沼、池など、泥の上に空になったタニシの殻がころがっ
ています。これは雄のタニシの死がいです。

 春、水田に水を引く頃、冬眠からさめて活動を始め、初夏になる
と、多くの雄が死ぬのだそうです。そういえば、毎年今頃、死殻が
目立ちます。

 雌は、さらに生き残り、体の中で卵をかえし、貝の姿で子どもを
生みます。子貝は、生まれるとすぐはって歩きます。雌の寿命は、
3年くらい。秋の終わりに、泥の中にもぐり込み、冬眠にはいりま
す。

 昔は、タニシの内蔵を取り、木灰で洗って、煮て食べました。ま
た、肉を干して、粉にし、水あたり防止のため、旅行に持っていっ
たりしたそうです。

 オオタニシ、マルタニシは、全国に、ヒメタニシは、関東から西、
ナガタニシは、琵琶湖付近にいるそうです。
(024)

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夏編(6月)・第4章「近寄るな 立派なはさみが 見えないか」


(3)スズメバチ
(025)

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夏編(6月)・第4章「近寄るな 立派なはさみが 見えないか」

(4)タケの皮

 崖から粘土が露出しているいなかの坂を歩きます。両側の竹林に
竹の皮が落ちています。

 崖をかけ上がり、2、3枚ひろってもてあそんでいたら、そばに
いたおじさんが「昔の子どもたちは、自分たちの小遣いかせぎに竹
の皮をひろって売ったもンだ」と話してくれました。村に、この皮
を買いつけに来る業者があったそうです。

 竹の皮には、物を腐らせるのを防ぐ、ナントカが、あるとかない
とかで、かつては、おむすびや料理をこれで包んだものでありまし
た。

 小さいころ、竹の皮の包みをひざの上でひろげ、梅干しの入った
おにぎりをほおばったものでした。裏側がツルツルだったことが印
象に残っています。竹の皮はそのほか、げた表、ぞうりなどにも利
用されていました。

 上代の昔から日本人の生活と密接な関係があった竹は「古事記」
(712年)や「延喜式」(927年)にも載っています。その色が変わ
らず、節の正しい成長ぶりを買われ、マツやウメとならんで新年の
飾り物にも使われています。
 その語源については「日本釈名」という本に「竹、高きなり、ケ
とカと通ず」とあります。また、漢音のチクがなまったのだという
人や、高くなる丈(たけ)からきたのだとの説もあります。
・イネ科マダケ属
026)

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第5章 カエルはねて 後にユラユラ カエルっ葉

夏編(6月)・第5章「カエルはねて 後にユラユラ カエルっ葉」

(1)オオバコ

 どこにもあり、誰でも知っているオオバコです。オオバコは、大
葉子。広い葉っぱからきている名前です。人や動物について広がる
植物で、人間が踏み固めた道が適地。

 それが廃道になり、人が通らなくなると植物で、人間が踏み固め
た道が適地。それが廃道になり、人が通らなくなると、自然に消滅
するという不思議な植物です。

 葉を火にあぶり、軽くもむと、表皮がふくれ、カエルの太鼓腹の
ようだというので、ゲエロッパなど、カエルにちなんだ方言があり
ます。

 若い葉は、食べられたり、乾燥して、お茶に利用することもあり
ます。

 また、薬草として、根を乾燥させて、車前草といい、種子を車前
子といって漢方に。葉を温めて、はれもの吸い出しや切り傷にも利
用します。

 葉で三味線を作ったり、花茎で、相撲とりごっこをして遊びます。

 オオバコは、そのほか、カエルバ、オンバコ、スモウトリグサな
ど、全国に210通りもの呼び方があり、それだけ親しまれた草なの
でしょう。

 それでは、カエルの名にちなんで、葉でカエル釣りをしましょう。
葉をもんで、糸の先に結びます。竿につけて揺らすと、カエルが疑
似餌につられて飛びつきます。簡単には捕まりませんが、もし捕ま
えたとしても、すぐ逃がしてやりましょう。

 手をゆるく握った上に、大きな葉をのせ、上からたたくと「パー
ン」と音がして、葉が破けます。葉鉄砲遊びです。また、葉をひき
ちぎり、出てきた筋の本数で,占いをします。奇数は良、偶数は吉。
どっちが出ても,気にしない、気にしない。

 花茎で、目はじき遊びも出来ます。顔がまるっきり変わってしま
います。オオバコ科オオバコ属の多年草
(027、028)

 

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夏編(6月)・第5章「カエルはねて 後にユラユラ カエルっ葉」

(2)メダカ
(029)

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夏編(6月)・第5章「カエルはねて 後にユラユラ カエルっ葉」

(3)アマガエル

 普段、木の上にいて、雨の降る前など、やかましく鳴く、おなじ
みのカエルです。雄ののどの下に、鳴のうという袋があり、体と同
じ大きさにふくらませて鳴きます。湿度が高くなると鳴くので、天
気予報になるともいわれます。

 指に吸盤があり、ガラスのようなスベスベした所でも、葉っぱに
でも吸いついていられます。

  普通、木の上や草の葉にいる時は、上面は録色、下面は白い色
をしていますが、カメレオンのようにまわりの色が変わると、それ
に合わせ、灰褐色、濃 褐色などに変えることができます。

 体長は、四センチくらいで、ひとみは横に長く、水がきはてには
なく、足だけにあります。繁殖期には、池のまわわりに集まります。
食べ物のはハエ、チョウなどです。
(030)

 

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6月終わり