春 編  4月

…………………………………………………………

●目次

第1章 春に浮かれて野ザルも花見
 ・(1)卯月、サル ・(2)サクラ ・(3)スイバ ・(4)ツクシ
 ・(5)ヤエムグラ ・(6)イチリンソウ  ・(7)ウワバミソウ
 ・(8)オキナグサ

第2章 すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー
 ・(1)タンポポ ・(1-2)シロバナタンポポ ・(2)力タクリ
 ・(3)ヒバリ ・(4)コブシ ・(5)オケラ ・(6)カキドウシ
 ・(7)カワラケツメイ ・(8)サクラソウ

第3章 夕日落ちて シカのねぐらの じゃまをする
 ・(1)シカ ・(2)イタドリ ・(3)ヤマブキ
 ・(4)ハルジオン ・(5)サンリンソウ ・(6)シャガ
 ・(7)ショウジョウバカマ ・(8)ジンチョウゲ(花)

第4章 白いチョウ 風に逆らう 菜の花畑
 ・(1)菜の花 (2)ギシギシ・ヨモギ ・(3)セリ
 ・(4)シジュウカラ ・(5)アケビ(花) ・(6)マンサク(花)
 ・(8)スズメノエンドウ ・(9)ツガ(花) ・(10)トウダイグサ(花)
 ・(11)ニリンソウ(花)

第5章 飛びかうミツバチ 里はレンゲの 花盛り
 ・(1)レンゲ(花) ・(2)ミツバチ ・(3)ヨメナ(野草山菜)
 ・(4)コブハサミムシ ・(5)ハナカイドウ ・(6)ヒイラギナンテン
 ・(7)ヒトリシズカ(花) ・(8)フタリシズカ(花)

第6章 ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事
 ・(1)ダイコン(花) ・(2)クサイチゴ ・(3)クサボケ(花)
 ・(4)ワサビ(花) ・(5)フデリンドウ(花) ・(6)マルバグミ(果実)
 ・(7)ミツバツツジ(花) ・(8)モクレン(花) ・(9)モモ(花)

…………………………………

第1章 春に浮かれて野ザルも花見

 春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(1)サル、卯月

 サクラも咲き出し、春もいよいよ本番になりました。テントに泊
まりながらヤブ山を歩いていたら、花見としゃれ込んだのか、野猿
の群れがサクラの木の上から逃げていくのが見えました。

 比較的人里に近いところです。猿も4月の声を聞き、浮かれてし
まったか。本当はサクラの花の蜜をなめにきたのでしょう。

古い暦では4月を卯月と呼びました。卯月はうの花(ウツギの花)
の咲く月の意味だそうです。また農作物のタネの「植え月」がなま
って「ウヅキ」になったという説もあります。

 「増山の井」という江戸時代の本には「卯月は卯の花月を略した
もので「得鳥羽月」、「花残り月」、「正陽の月」などと呼ばれる」と
書いてあります。

 旧暦はいまの暦よりだいたい1ヶ月ほど遅れています。うの花が
真っ盛りだったようです。
(019)

…………………………………

 春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(2)サクラ

 春の代表は、なんといってもサクラです。サクラは、古くから人
々に親しまれ「古事記」に出てくる「木花開耶姫(このはなさくや
ひめ)」の木花とは、サクラの花の意味。開耶が変化してサクラに
なったのだという説もあります。

 一口にサクラといっても、園芸種まで入れると、なんと、三百種
以上。中でもよく知られているのがソメイヨシノです。江戸末期か
ら明治にかかるころ、東京・染井村(いまの豊島区北東の端・JR
山手線巣鴨・駒込駅北側あたり)の植木屋さんから売り出され、広
まったもの。

 このサクラが咲くころは、みんな、浮き浮き、花見の宴会。花見
のルーツは遠く平安朝、鷹狩りの遠出が花見に変化、サクラ狩りと
呼んでいました。

 これが庶民のものになったのは、江戸時代。野がけ、山がけの行
事と相まって、定まった日に村をあげて行う神聖な行事でありまし
た。神に祈り、罪やけがれをはらい清めるものでした。それが、い
つのころからか、だんだん個人が勝手に行うようになり、今はカラ
オケでドンチャン騒ぎです。

 ドンチャンはいいとして、話をサクラにもどします。サクラが世
のため、人のためになるのは、花ばかりではありません。材は加工
しやすく、ゆがみが少ないので、器具材、家具材、床柱や敷居など
の建築材、小細工物などに利用。樹皮は小箱の張り皮に。薬用とし
てもせき止め、たん切りに、サクラさまさまなのです。

 このサクラの花びらが笛になります。唇に当てて、そっと吹きま
す。強く吹くと、切れちゃうよ。また、花びらをつなぐと、サクラ
の花輪ができました。

 木の幹のヤニをとり、つばをつけてよくもむとクモの巣のように
のびてきます。虫や葉に糸をかけて遊びます。
(020・021)

 

…………………………………

 春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(3)スイバ

 野原や田畑のあぜ道にスイバが生えています。スイバの若い芽や
若い茎は、食べると酸っぱいので、「酸い葉」。ゆでるとぬめりが出
て、あえ物、ひたし物、インスタントの塩漬けにもよいそうです。

 また一名、スカンポともいい、これは「スイバ」がなまったもの
といいますが、ムリムリ。スイバ、スイバと繰り返し言っても、ス
カンポにはならねエゾ。

 ふるくは「スシ」といいました。「シ」はギシギシの古名。つま
り、酸っぱいギシギシのこと。これはナットク。

 黄色く太い根やスイバの生の実は、健胃・緩下剤に利用。根を砕
いてとった汁は「かいせん」などの皮膚病に効果があるといわれて
います。スイバの酸っぱさは、蓚酸が含まれているからで、食べす
ぎると害になるそうです。
タデ科ギシギシ属の多年生草本
(022)

…………………………………

 春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(4)ツクシ遊び

 暖かい土手や野原にツクシの坊やがたくさん並んでいます。「ツ
クシ誰の子、スギナの子……」などと、まわりくどいことをいうま
でもなく、みんなから愛され、食卓にものります。

 スギナの地下茎には、2つの型があります。栄養茎は緑色の円柱
形で、節がたくさんあり、胞子茎の方は、あのツクシなのです。

 ツクシは漢字で「土筆」とか「筆頭菜」などと書かれ、形がなん
となく筆に似ています。亀甲形の頭の細い面は乾いたり、湿ったり
することで、微妙に動き、胞子を出して風でなるべく遠くへ飛ばす
というから恐れ入ります。

 ツクシを使って「どこつないだ遊び」をします。ハカマのところ
をはずし、またもとのように差し込み「どこつーないだ?」と当て
させます。煮物、あえ物、お浸しにすると最高です。
トクサ科ツクシの胞子茎
(023)

…………………………………

春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(5)ヤエムグラ

 野原や人家近くで、茎が四角で、小さなトゲが逆向きに生えてい
るヤエムグラを見かけます。さわると、ザラザラして、猫になめら
れたようです。

 輪のように広がった葉で、「ワッペン遊び」をします。ヤエムグ
ラの葉から茎をとり、胸にペタッ。葉に生えているとげでくっつき
ます。

 また、スカートにつけて「ししゅう」のかわりに……。相手と投
げあって、くっつけっこをして遊びます。

 この草は、いく重にも重なり合って茂るので八重です。ムグラと
は、ムグラの宿、ムグラの門などというように、荒れた家や庭のこ
と。それが七重八重とくるから、かなりひどい家です。

 でも、それはヤエムグラのせいではありません。逆に、葉や茎は
お風呂に入れて貧血や冷え症の薬になるなど、人間に奉仕している
のです。
(024)

 

…………………………………

春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(6)イチリンソウ

 
春の野山を歩きます。林の中は、野鳥たちが巣作りでいそがしく
働いています。野道にはタンポポやタチツボスミレ、オオイヌノフ
グリなどいろいろな野草が花を咲かせています。イチリンソウの仲
間も咲きはじめました。

 イチリンソウの仲間にはニリンソウ、サンリンソウのほかユキワ
リイチゲ、アズマイチゲ、ヒメイチゲ、高山植物のハクサンイチゲ
などがあります。

 イチリンソウは、山地の林のふちなどに生える多年草で、花をひ
とつつけるため、「一輪草」の名があるそうです。一名イチゲソウ
ともいい「一夏草」とか「一花草」と書いたりします。

 春早く地上に茎や葉を出して花を咲かせ果実を結び、初夏には枯
れてしまいます。このたった2ヶ月の短い間に光合成をして、地下
茎に栄養をためて一年のほとんどを枯葉の下で過ごすという。

 イチリンソウの根生葉は、花茎を伸ばさない地下茎についていま
す。春、高さ20から30センチの花茎を出し、3枚の茎葉を輪生(茎
のまわりに輪になってつく)し、いまごろ直径4センチくらいの白
い花をひとつ咲かせます。花びらのようながく片は5、6枚で楕円
形、裏は紅色のこともあります。花弁はありません。
・キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。本州・四国・九州に分布。

(p24-02)

 

…………………………………

春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(7)ウワバミソウ

 落語で、ソバの食べくらべをしたとき、消化によい薬草というの
でウワバミソウを食べたところ、人間がとけてしまってソバが羽織
袴姿で座っていたというのがある。なるほどウワバミが食べ過ぎた
ときこの草をかんで消化を促進させるという俗信があります。

 ウワバミソウは山菜のひとつで、東北ではミズナと呼び、よく利
用するという。4月から8月ごろ、若い茎をとり葉をむしって茎だ
けにし、ゆでて酢みそ和え、カラシ和え、三杯酢、煮びたし、汁の
実、葉は揚げ物などにして食用にします。

 また、ムカゴの塩漬けは市販もされるという。2、3年前の秋、
東北の栗駒山に行ったとき、ふもとの山小屋ででた、おひたしの実
は「ミズの実」だといっていました。おいしかったのでよく覚えて
います。

 でも、地方によってはウワバミソウ、ミズ、アオミズをともにミ
ズといい、名前が混乱しているらしい。ひょっとするとあれはウワ
バミソウのムカゴではなかったのでしょうか。

 ウワバミソウの名はいかにもウワバミの出そうな陰湿地に群生す
るためという。茎は多肉質で高さ20から40センチ。雌雄異種。4月
から9月葉のわきに黄白色の小さな花を咲かせます。

 秋、頂葉のつけねに球形の肉芽(ムカゴ)ができます。葉は互生
で2列に配列し、ゆがんだ長楕円形をしています。
・イラクサ科ウワバミソウ屬の多年草
(p24-03)

 

…………………………………

春編(4月)・第1章「春に浮かれて野ザルも花見」

(8)オキナグサ

 4〜5月ごろ、山地の日当たりのいいところにオキナグサの花が
咲いています。高さ10センチくらいの草で、暗紫色で鐘の形をし
た花を下向きに咲かせています。

 花びらのようなものは実は萼で、外側は長い毛でおおわれていま
す。雄しべ、雌しべともにたくさんあり、花柱(雌しべの一部で柱
頭と子房との間の円柱状の部分・「大辞林」)には長く白い毛があり
ます。

 この花柱の毛が花が咲いたあとにのびだし、羽毛状になります。
果実は長卵形の痩果で、羽毛をつけた果実の集まりはまるで白髪が
風になびいているよう。オキナグサ(翁草)とはよくいったもので
す。

 羽毛のついた果実は風にのって遠くまで飛ばされます。この毛を
猫の毛に見立て「猫草」「猫花」の方言もあるそうです。「万葉集」
にある「ねつこぐさ」も猫草からきたものだそうです。

 オキナグサの名は、平安時代の日本最古の本草書「本草和名・ほ
んぞうわみょう」や、平安時代の辞書「和名抄」にもみられといい
ます。

 根を白頭翁と称して古くから薬用にされたという。山野草として
鉢植えやロックガーデンに植えられます。本州、四国、九州に分布
しているそうです。
・キンポウゲ科オキナグサ属の多年草
(p24-04)

 

…………………………………

第2章 すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー

 春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(1)タンポポ

 草原のあちらこちらにタンポポが競争して咲いています。そろそ
ろお腹がすいてきました。黄色いタンポポの花を見ていると、こん
がりと焼けたクッキーを思い出します。

 タンポポと一口に言いますが、カントウ、カンサイ、セイヨウ、
シロバナと、日本だけでも二十種くらいあると言います。タンポポ
は今が種の分化過程にあるようだと聞けば、だれでもホーツと声を
あげます。

 なかでもセイヨウタンポポは、今、売り出し中。明治初年、札幌
農学校の先生ブルックスがアメリカから野菜用としじさんしたのが
野生化、在来種を押しのけ、全国に広まりました。

 タンポポとはタンポ穂の意味。果実穂が拓本に使うタンポに似て
いるから。茎に切れ込みを入れ水車を、また、笛をつくったりしま
す。
(025・026・027)

 

 

…………………………………

 春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(1-2)シロバナタンポポ

日当たりのよい道ばたや土手にタンポポが花をつけています。その
タンポポに白い花を咲かせるシロバナタンポポというのがありま
す。

関東地方以西、四国、九州に分布する種類で、普通のものと違うの
は、花が白いほかに葉の緑色もうすい感じです。普通のタンポポよ
り全体に大形です。

シロバナタンポポは、頭花が直径4センチくらい、たくさんある舌
状花の上の面は白く、下方にうす墨色の広いすじがあって、先端は
少し紅色をおびています。

花のいちばん外側についている総苞は淡い緑色。総苞の外片は内片
のなかほど、またはそれより短く、披針形から卵状長楕円形で上部
で開出し、先端から少し下にやや大きな小角突起があります。

九州や四国には、この種類以外のタンポポが野生しないところがあ
って、タンポポの花は白いものだと思われているというから面白い
ものですね。

日本のタンポポは、たんぼの周辺や道ばたなど一定間隔で草が刈り
取られる草地を好んで生えます。光がよくあたる秋から春にかけて
生育し、ほかの草でおおわれて光の条件がよくない夏は葉を枯らし
て休眠するのだといいます。

戦乱が収まった江戸時代、とくに中期(18世紀)には盆栽や園芸
ブームがおこったという。いきついた先は珍しい斑入りの植物や色
変わりの花。

それはタンポポにまで及び、1828年(文政11)の『本草図譜(ほ
んぞうずふ)』(岩崎灌園(かんえん)著)という本には、黒花、青
花、紅花や筒状花だけの筒咲きなどいろいろな品種が紹介されてい
るそうです(『植物の世界1』朝日新聞社)。

これらの品種は高い維持費がないと形や質を保つのが難しいこと
と、戦争などの影響で次第に消えていったという。

タンポポの名についてはいろいろな説がありますが、花の形が鼓に
似ていることから「タン」は鼓の音、「ポポ」はその共鳴する様子
の幼児語だとする柳田国男の説もあります。
・キク科タンポポ属の多年草。
(027-2)

 

…………………………………

春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(2)カタクリ

 まだ、ほかの草がおい茂る前に、木木の下にかれんなカタクリの
花を見つけます。明るい薄紫の花弁をそり返らせています。

 カタクリは漢字で書けば片栗。クリの子葉の一片に似ているから
といいます。昔はカタタゴと呼んでいましたが、それが転訛(てん
か)したカタゴの方言が今も残っています。

 この鱗茎からとるでん粉が本物の片栗粉ですが、高価なため、今
はジャガイモ粉にとってかわっています。

 最近は、乱開発や、むやみにとってしまう人もいて、めっきり少
なくなってしまい、そのため、中高年の人など、わざわざカタクリ
の花を見るため、ハイキングに出かけていきます。

 まだ、普通に見られたころは、若い芽や、鱗茎をゆでて食べてい
たそうです。モッタイナイ、モッタイナイ。
(028)

…………………………………

春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(3)ヒバリ

えすりが響きわたります。あわてて空を見上げますが、まぶしい太
陽にさえぎられ、ヒパりの姿は見えません。

 地上から舞い上がったヒバリは、真っすぐ上の方にのぼっていき
ます。そして、見えなくなるほど高くあがると旋回を始め、やがて、
急降下、地上近くまでくると静かに降ります。

 私が子どものころ、なぜかヒバリは、ラッキョウ畑に巣を多くつ
くるといって、降りてくるのを待って追いかけました。でも、いつ
も巣から離れたところに降りられてはぐら方されてしまうのでし
た。

 また、ヒバリのさえすりは「日一分、日一分、利取る利取る……」
と聞こえるといいます。こんな金貸しふうに鳴く方、耳をすまして
みましよう。
(029)

 

…………………………………

春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(4)コブシ

 林道わきの木に、白い花がそっくり返り、ねじれたりして咲いて
います。まだ葉も出ない枝に、まるでくっついているようです。

 ♪……コブシ咲く、あの丘、北国の、北国の春ウ……と歌われる
ように、村里の人にとっては、なじみふ深いもの。人々はこれわお
「田打ちザクラ」と呼び、農作業を始める目安としました。

 また、各地で、」コブシの花が咲くときが、カンショイモの床出
しの時期」だとか「コブシの花が咲くようになれば、みそを仕込む」
など、この花はいろいろな仕事初めの、暦がわりにされていました。

 その昔、平家の落人たちが、山々に咲くコブシの花を源氏の白旗
と見まちがえ「多勢に無勢、もはやこれまで」と自刃し、相果てて
しまったという伝説も残っています。
(030-1)

 

…………………………………

春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(5)オケラ

 オケラといえばうまい野草として有名です。春、白い綿毛につつ
まれた若芽をつみ、和えものやおひたしに利用、そのくせのない味
が好まれます。

 オケラは雌雄異株で。9月から10月、白または薄い紅色の花を
咲かせます。花はたくさんの小さな花とそれらを取り巻く緑色の総
苞からなっている頭花。魚の骨がならんだような包葉につつまれて
います。

 根茎も特有の芳香があり、漢方で和蒼朮(わそうじゅつ)といい、
健胃、利尿、解熱、鎮痛剤として利用するそうです。平安の昔から
正月の屠蘇(とそ)に使い、その年の邪気を払ったといいます。

 また地下茎をいぶすと湿気をとり、和本や衣類などのかびを防ぐ
というので、かつては焚蒼(たきそう)といい、京都では梅雨時に倉
庫でいぶしたという。そんなことから大原女(おはらめ)が売り歩
いたそうです。

 1708年の『大和本草』(貝原益軒)にも「蒼朮(そうじゅつ)をき
ざんで焼けば邪気と悪臭を去り疫気を除く常にたくべし……」と書
いています。

 京都祇園の八坂神社にオケラ参りの行事があります。大みそかの
夜、火をたき、オケラをくべます。この火を火縄につけ、消えない
ようクルクル回しながら家に帰り、元旦の雑煮の種火にするという。
この雑煮を食べる1年病気にならないとされているそうです。
 汁の実、煮びたし、揚げものなどにも利用します。
・キク科オケラ属の多年草
(p030-2)

 

…………………………………

春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(6)カキドオシ

 カキドオシはレンセンソウ、カントリソウとも呼ばれるシソ科の
多年草です。

 カキドオシとは、道ばたに生えているのがつるを伸ばして垣根を
くぐって通り越していくので付いた名。垣通しなのであります。

 また、レンセンソウは、銭に見たてた丸い葉が次々と連なってつ
くので連銭草。カントリソウは、子どもの疳(かん)をとる草とし
て使ったので疳取草と、よくまあ名付けたものです。

 カキドオシはそこらへんの道ばたや駐車場の隅などにはえる、こ
う言っちゃなんですが雑草扱いされる草。

 茎は4角で初め直立、高さ5〜25センチ。葉は丸く対生。春、
立ち上がった茎の葉の脇に、淡紫色の唇形の花をつけるが、株によ
って花の大小があります。

 花が終わると茎は地面に倒れ、地上をはって繁殖します。葉は斑
入りのものがあっって観賞用に栽培されたりもするそうです。

 全草にある香気は精油が含まれるため。他にタンニン、苦味質、
コリン、カリウム塩があり、腎臓病、糖尿病、強壮薬などに利用さ
れるそうです。
・シソ科カキドオシ属の多年草
(p30-03)

 

…………………………………

春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(7)カワラケツメイ

 名前は河原に生えるケツメイ(決明)の意味だという。ケツメイと
は北米原産の薬草エビスグサやハブソウの類のことだそうです。ネ
ムチャ、カメチャ、ハマチャなどにともいい、全草を干したり種子
をいったりしてお茶の代用に、民間薬の利尿薬として利用、また緩
下整腸を目的に飲まれます。

 豆茶の利尿、緩下の作用をする成分は、カリウム塩とアントラキ
ノン化合物だそうです。生薬は夏から秋にかけ、花や果実などをつ
けた全草をとり、束ねたまま軒下のような日かげにつるして乾燥し
ます。

 カワラケツメイは、日当たりのよい河原や土手や草原に多く生え、
茎は高さ20〜60センチ。根元から枝分かれして広がり、茎や葉に
白い細かい毛があります。

 葉はたくさんの小葉を羽の形にきれいに並べてつけたような羽状
複葉で、15対から35対。30枚から70枚の偶数、長さは3〜7センチ。
葉柄は短く上部に赤黒いいぼが1個ついています。

 8月から10月、茎の上の方の葉のわきの少し上から、小柄を出
し1、2個の黄色い花を咲かせます。花は約1センチ、花弁は5枚
で倒卵形。もともと10本ある雄しべが4、5本に退化したものや、
4本の雄しべと花糸だけ発達、仮雄しべを1、2本もつ花もあると
いう。

 長細い豆果は、8〜12個の種子を含み、細かい毛が密生。さや
は黒く熟し、乾くと二つに裂けて種子をはじき飛ばします。
・マメ科カワラツメクサ属の多年草
(030-4)

 

…………………………………

春編(4月)・第2章「すきっ腹黄色いタンポポこんがりクッキー」

(8)サクラソウ

 昔から園芸家の間で好まれて栽培され、新しい品種が次々に作出
されたサクラソウ。花の形がサクラに似ているのでその名がありま
す。ニホンサクラソウと呼んだりもしますが、日本以外にも分布す
るので間違いだそうです。

 イワザクラ、ハクサンコザクラ、クリンソウ、ユキワリソウなど
有名な花はみなサクラソウ属で、その代表種がこのサクラソウです。
この属のものでも、ヨーロッパに野生するものや、その宝庫といわ
れる中国の雲南からヒマラヤのふもとにかけての野生種は、花の形
や色が独特で、新品種の原種にしようと探す人が多く訪れます。

 さて日本。サクラソウの記録は「万葉集や」平安時代の本には見
あたりません。栽培は江戸時代になってから(それも品種がたくさ
んできたのは江戸後期)。

 日本で最も古い園芸書といわれる『花壇綱目』(江戸前期)には
「花薄色。白、黄あり」と載っており、ふたつの色変わりをあげて
います。しかし、この黄色とあるのはクリンソウのことではないか
といわれています。品種作出は、元禄時代でもまだ少なく、『花譜』
(1694・貝原益軒著)の「紫、白、紅黄色の三品種」、『花壇地錦抄』
(1695・伊藤三之丞著)の「紫と白の二品種」だけ。

 流行するのは江戸後期の安永年間以降だという。「安永7,8年
サクラソウのめずらしさがはやり、檀家の贈りものとして数百種を
植えつくる」と当時の本にも出ています。その後、文化1年からは
美しさを競う「花闘」まで行われるしまつです。埼玉県浦和市の田
島ヶ原のものは特別天然記念物に指定されています。
・サクラソウ科サクラソウ属の多年草
(030-5)

 

…………………………………

第3章 夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする

春編(4月)・第3章「夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする」

(1)シカ

 気ままな低山徘徊。木々が枝ばかりで、茶色に見えていた山々も、
日がたつにつれ、黄緑からだんだん深い緑に変わっていきます。

 夕日が傾いて、山の陰に半分沈んでいます。テントの張れる平ら
な場所はないか、今日のねぐらを探します。あのピークの木のわき
はどうか。最後の急登です。

 フーフー荒い息をたてて、やっと登り終わり、登山道のわきに入
ったとき、突然、ドドドーッ。シカです。5、6頭のシカが逃げて
いきます。きっと、やっと決まりかけたねくらを、じやましてしま
ったにちがいありません。そういえば横目でにらんでいたっけ。ワ
ルカッタヨ、ワルカッタ。

 おかげで、じゆうたんのようにコケの生えた所で、ぐっすり休ま
せてもらいました。でも、翌朝みたら、すぐそばに遭難碑が……。
ブルルル…………。
(031)

…………………………………

春編(4月)・第3章「夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする」

(2)イタドリ

 日当たりのよい山道を歩いていると、茎がタケノコのように太く
なったイタドリを見つけます。現代の子どもはこんなモノは食べっ
こありませんが、ストック片手に山歩きをしている中年のハイカー
が、なつかしいすっぱい味を求めて、食べているのをみかけます。

 酸っぱい味は、イタドリに含まれる荏酸(しゅうさん)というも
のによるのだそうで、あまりたくさん生食するのはよくないとか。

 またむかしのもの不足の時代には、この若葉をつみ、乾燥してタ
バコの代用にしたり、混ぜて吸ったこともあったそうです。

 イタドリは疼取と書き、痛みを取るというのでつけられた名前だ
といわれます。根は肋膜炎や心臓病、胃弱、カゼ薬、打ち身の腫れ、
また利尿、通経の目的で民間薬として咳や夜尿症の薬に、渇きをい
やす飲料に利用されています。

 イタドリは漢方薬にもなります。根を天日乾燥して緩下剤にする
そうです。漢方名を虎杖根(こじょうこん)といい、ポリゴニンな
どのアントラキノン誘導体という、ちんぷんかんぷんの成分を含ん
でいるのだそうです。

 種類がたくさんあり、花や果実が赤くなるベニイタドリ(名月草
とも)や高山に生え、赤い実をつけるオノエイタドリなど観賞用の
ものまであるそうです。
タデ科タデ属雌雄異株の多年草。日本全土に分布。
(032)

…………………………………

春編(4月)・第3章「夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする」

(3)ヤマブキ

 薄暗い谷川沿いに、黄色いヤマブキの花がかたまって咲いていま
す。

 昔、愛し合っていた二人が、世間のうわさがもとで、別れなけれ
ばならなくなりました……。二人は鏡をとり出し、面影を写したの
ち、そこに鏡を埋めて、泣く泣く別れるのでした。

 何年かのち、そこにはヤマブキが生い茂っていました……。ヤマ
ブキがオモカゲグサ、カガミグサとも呼ばれるのはこんな伝説がも
とになっています。

 ヤマブキは、昔、」山振」と書きました。ヤマブキの枝は、しな
やかで、風に吹かれるとゆれ動きます。山でゆれるから山振(やま
ふき)と名づけられました。かつては、振の字はフキと読んだそう
です。

 ヤマブキの茎の中の芯で「鉄砲遊び」をします。歯でかみ切り、
飛んだ距離を競争します。また、画びょうにたてて顔をかくと「人
形」もできますヨ。
(033)  

…………………………………

春編(4月)・第3章「夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする」

(4)ハルジオン

 道端や空き地にハルジオン花を見かけます。ツボミは、何がどう
したのか、しょぼくれて、うつむいています。でも、だんだん赤く
色づき、今度は上を向いて、白く咲きます。

 道を歩きながら、、つい手を伸ばし、頭花を人差し指と中指では
さみ、プチンともいで、まわりの舌状花をむしったり、中心の黄色
い筒状花をとって遊びます。

 雑草、雑草と言いますが、よく見ると、とてもきれいです。それ
もそのはず、もとは、れっきとした栽培種。大正時代の1920年前
後、原産地北アメリカから観賞用として輸入。東京で栽培していた
ものが逃げ出し、今では一大勢力を張っているもの。

 ハルジオンとは「春紫苑」。草がヒメジョオン(姫女苑)に似て
いるのでハルジョオンとも呼ばれています。
キク科ムカシヨモギ属の多年草
(034-1)

 

…………………………………

春編(4月)・第3章「夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする」

(5)シャガ

 山地の斜面などに群生してシャガの花が咲いています。シャガと
は面白い名前ですが、漢名の射干(シャカン)からとった名前だそ
うです。これを日本読みにしてシャガとしたという。ところがまず
いことに、中国での射干は日本のアヤメ科のヒオウギ属のヒオウギ
のこと。シャガは胡蝶花と書くそうです。

 射干は平安初期の本『本草和名』(918年)に加良須阿布岐(か
らすあふぎ)の和名で載っていますが、これもヒオウギでないかと
いわれています。江戸時代には射干の字をヒオウギのことだとする
本もある一方、シャガに使うなど混乱されもしました。

 シャガは染色体が2M=54とかで異質三倍体がどうのこうので
結実しません。しかし中国には稔性(ねんせい)をもつ二倍体がある
といわれ、どうやら古い時代、中国から三倍体が持ち込まれ野生化
したものと考えられています。

 ヒガンバナもこれと同様。江戸前期の本『花壇綱目』(1681・天
和元・徳川五代将軍綱吉のころ)にはすでに葉に斑の入ったスジシ
ャガのことが記載されています。

 さて、シャガは日本のアヤメ科の中ではただひとつの常緑葉の植
物です。山地の湿った林の下や日陰に野生しています。

 花は4〜5月。高さ30〜70センチの花茎を出し、上部で枝分か
れ、径5〜6センチの白紫色の花がたくさん咲き、また毎日花が咲
き変わって美しい。常緑の葉は二列に互いちがいに生えてはかま状
にならんでいます。
アヤメ科アヤメ属の常緑多年草
(034-2)

 

…………………………………

春編(4月)・第3章「夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする」

(6)ショウジョウバカマ

 野山の渓流沿いのような湿った道ばたによく目立つ赤いショウジ
ョウバカマの花が咲いています。

 地面に広げた根生葉は冬でも枯れずに残り、時には3年近く生き
るそうです。その古い葉の先から時々、新しい芽が出ることもある
といいます。

 春、葉の間からりん片葉をつけた10〜20センチもの花茎が1本
伸ばし、その先に3〜5個のあざやかな花を総状花序に咲かせます。

 花の色の変化が多く、紅紫色から濃紅色まであり、なかには白い
花もあるという。これは図鑑にある「シロバナショウジョウバカマ」
とは違うものだというからとまどいます。

 ショウジョウバカマの雄しべは6本。花糸は花被片より長く出て、
まるで線香花火のようです。

 ショウジョウバカマは漢字で猩々袴。猩々(猿に似た赤面赤毛の
想像上の動物)の顔のような赤紫色の花。また葉が袴(はかま)の
ようだというのでこの名がついたという。

花期:4月〜6月。北海道から本州、四国、九州に分布。
・ユリ科ショウジョウバカマ属の常緑多年草
(p034-3)

 

…………………………………

春編(4月)・第3章「夕日落ちて シカのねぐらのじゃまをする」

(7)ジンチョウゲ

 ジンチョウゲの属名ダフネ、オドラのオドラは「香気」という意
味だという。原産地の中国でも瑞香、睡香とよばれ、香りが遠くま
で届くので千里香という別名まで持っているそうです。この香気は
花や葉にダフネチンという色素が含まれているからだといわれてい
ます。

 ジンチョウゲは、中国の宋の時代から栽培記録があり明の時代の
書「五雑俎」の中のお話しです。山中で一人の坊さんが昼寝をして
いました。

 するとどこからか激しく香りを放ってくるものがありました。そ
の匂いをたどって行くとこの花が咲いていたという。そこで昼寝で
香ってきたというところから「睡香」と名づけたという伝説がある
そうです。

 日本での一番古い記録は室町時代の「尺素往来」(一條兼良撰)。
その中に「沈丁花」の字が出てくるそうです。その由来は、沈香(じ
んこう)と丁子(ちょうじ)(フトモモ科)の香りをあわせ持つか
らだといいます。

 貝原益軒の「大和本草」にもジンチョウゲの記事が記載され、ま
た、花の美しさと香りが気に入られ江戸末期の「草木奇品家雅見(か
がみ)」には数十種もの斑入り、奇形品の品種が記載されているそ
うです。

 雌雄異株ですが、日本に雌株はないといわれているそうです。し
かしごくまれに赤い実を結ぶことがあるそうです。
 ひそかにも沈丁の香の流れおり――もと女
(034-4)

 

…………………………………

第4章 白いチョウ 風に逆らう菜の花畑

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(1)菜の花

 裏山に続く日当たりの良い斜面は、今、菜の花が真っ盛りです。

この菜の花畑に寝ころがり、空を見上げます。顔すれすれに、白い
チョウが飛んでいきます。

 そういえば、昔なつかしの歌に、♪菜の花畠に入日うすれ……と
いうのがありましたが、あれは弥生時代からあったナタネ、つまり、
アブラナの花でした。ところが、明治以来、勢力をのばしつつあっ
た西洋アブラナが在来のアブラナにとってかえられ、今では、まる
っきりの西洋かぶれなのです。

 アブラナだろうが、カブだろうが、ハクサイ、コマツナ、ミズナ
だろうと、花びら四枚の黄色い花はみんな菜の花だと気楽に呼んで
いたけど……。時代の流れは、菜の花にまで及ぼしているのですネ。

(035)

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(2)ヨモギ・ギシギシ

 田んぼのあぜ道で、おばあちやんがヨモギ摘みをしています。あ
のモチクサです。あしたは、きっと、草もちを食べるのでしょう。

 あのおいしい草もちは、昔はハハコグサを使ってつくりました。
しかし、ハハコグサは量的にとるのがたいへんです。そこへ、ヨモ
ギには邪気をはらう力があり、食べると寿命がのびるという考えと、
新井白石が朝鮮でヨモギを食用に使っているのを知り、みんなに広
めたので、ヨモギは一躍人気モノになりました。

 道ばたに生えているスカンポに似たギシギシ。ギシギシなんてヘ
ンな名前ですが、茎をすりあわせると、ギシギシと音がするからと
も、もとは京都の方言だったともいわれています。

 葉を重ね合わせて、人形をつくれます。顔はタンポポの花を使い
ます。茎が大きくなったら、水車もできるゾ。
タデ科ギシギシ属の多年草
(036)

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(3)セリ

 セリは「セリ,ナズナ,ゴギョウ,ハコベラ、ホトケノザ……」
と,春の七草にかぞえられ、『古事記』や『神代記(じんだいき)』
にも記事があります。そのころは「ソリ」と呼んでいたといいます。

 また『万葉集』にも歌われており、大昔から親しまれ,食べられ
ていたに違いありません。中国では,紀元前17〜12世紀には利用
していたといいますから驚きます。

 栽培されていた歴史もかなりなもので平安時代の「延喜式」とい
う本には,すでに栽培法が記載されていると聞きます。

 セリは茎が地をはい、その節から根を出して清水が湧くような水
辺にびっしりと生えます。その競(せ)り合うように密生している
ところから、セリと名付けられたといいます。

 セリは、種類がほとんど分化せず、品種は多くありませんが.生
える場所で呼び方を区別しています。湧き水や小川の中のものは水
ゼリ、水の少ないところのものは陸ゼリ、田んぼで栽培するものを
田ゼリと呼んでいます。また、田ゼリを白ゼリ、葉が薄いピンク色
をしたものを赤ゼリなどといっています。

 セリは,日本原産で、カロチンが多く含まれていて、よい香りは
食欲を増進させ、高血圧や胃腸を丈夫にする働きもあるといいます。
煮て食べると神経痛やリウマチにもよく、大きく育ちすぎたものは
刻んで風呂に入れると体が温まり、「セリ茶」にして飲むと,便秘
によいと、民間療法の本にあります。

 夏に30センチくらいの花茎をだして枝先に小さい複散形花序(か
さの骨のような柄からまた枝分かれして、その先に花がつく形)を
出して白から薄いピンク色の小さな花を咲かせます。

 花は、五弁花で内側に曲がっていて、おしべが5本あります。

 なお、野草として摘むときは,ドクゼリに注意しましょう。ドク
ゼリは高さが50〜100センチもあり、葉が細長く根は太く、緑色
です。本当のセリは白いので区別できます。
セリ科セリ属の多年草
(037)

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(4)シジュウカラ

 林の中の道を歩いていると、わざわざ人前に出てきて、チッチュ
ピィーツジャラララララと鳴くシジュウカラ。

 体を左右にゆすり、なんともはや、気ぜわしくてやかましい鳥で
す。これは警戒しているのだそうです。いつだったか、マメザクラ
の下を歩いていたとき、しばらくの間、行く先をしつこく枝から枝
に飛んでいました。

 今頃は、ツーピ、ツーピと雌雄連れだって巣を作る所をさがして
います。巣は木にできたほら穴など。石垣のすき間、家の壁穴、キ
ツツキの古巣、巣箱にもつくるそうです。

 毎日、自分の体重と同じ量の昆虫を食べるので、野山の害虫退治
に大きな役割を果たしているのだそうです。

 頭が黒く、頬が白く、首からおなかに黒い線が通っていて、ネク
タイをしているように見えます。
(038)

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(5)アケビ

 道におおいかぶさるように、アケビのつるがはりでています。そ
こから淡紫色の花が垂れ下がっています。秋に皮が割れて、おいし
そうな果肉をのぞかせるアケビも、今は花です。

 この雌花をとり、「芯立て遊び」をします。雌花の芯を手のひら
にのせて、手首をたたいたり、にぎったり、振ったりすると、雌芯
が手の上で立ちます。

 芯の頭がねばっているからです。奇数や偶数で天気予報なんかす
るとおもしろいですヨ。ただし、はずれても気象庁に文句をいわな
いように……。芯を立てるだけなら、手の甲に逆さに乗せれば簡単。

 太いつるは、薄く輪切りにして天日乾燥、木通とよび、利尿の薬
に。つるは、皮をむいてかごなどを編みます。若葉をゆでて、浸物
や漬け物にします。なんでも食べられるものだなア。
(039)

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(6)マンサク

 林道を歩いていると、黄色い花が紙細工のようにねじれ、縮れて咲
いているのを見かけます。マンサクという春の到来を真っ先に告げ
る花です。マンサクは落葉小高木の両性花。花は線香花火のように
あっちゃこっちゃむいて、よく目立ちます。庭にも植えられるとか。
太いものは、直径30センチ、高さ10mにもなるそうです。

マンサクとは、満作のことだといいます。♪豊年だソレ満作だ……
のマンサクなのです。江戸後期の1856年(安政3)〜1862年(文久
2)発行の日本で最初のリンネの分類法に 従って書き上げたとさ
れる近代科学的植物図鑑「草木図説」(飯沼慾斎)には、「まづ咲く
の意ならん」とあります。黄色の花がたくさん咲き、枝に「満つっ
ている」ので「豊年満作」、「満咲く」からなのだそうです。

また果実が「しいな」(粃・殻ばかりで中に実のない籾)のようで
あるのを嫌って、しいな(不作)に対する反対語のまんさく(満作)
にした(中村浩博士「植物名の由来」)などの説があるそうです。
中村浩は大正から昭和にかけての微生物学者、理学博士。

そのほかマンサクがほかの花よりも早く咲くので「まず咲く」。そ
れが、マズサク、マンズサク、マンサク……になったという説。ナ
ルホド、ナルホド。ほかにマンサクと呼ばれる植物に、北海道・東
北のフクジュソウ(キンポウゲ科フクジュソウ属)、東北南部のキ
クザキイチゲ(キクザキイチリンソウ・キンポウゲ科イチリンソウ
属)があります。それらはどれも春早く真っ先に咲くものであるこ
とから考えると、どうやらマンサクの名の由来は「まず咲く」とい
う説が有力なようです。

マンサクの樹皮は、ねばり強いため、枝をねじって、縄のかわりに
たき木をしばったり、合掌造りの建物を結ぶのに使われたこともあ
ったそうです。花は2月の末に咲きだし、4月上旬に真っ盛り。し
かし、つぼみは前の年の夏ごろからもう葉腋に姿を見せているとい
います。花は両性花でがく片は4つに裂け、内側は紫がかった紅色
をおびて、外側には毛が密に生えています。

花弁は4枚。線形で長さは2センチ程度。色は黄色ですが基の部分
だけ紫紅色をおびています。はじめのうちは内側に巻いています。
変異が激しく花弁の長さや幅、色などがいろいろです。刮ハは9月
〜10月にかけて熟して、2つに裂けて、黒い光沢のある長楕円形の
種子をはじき飛ばします。本州、四国、九州の山地に野生していま
す。

変種も多く、マルバマンサク(北海道南部から本州の日本海側に分
布、葉の上半部が半円形)、アカバナマンサク(花弁が基部まで黄
色だが、花弁全体が肉色)、ニシキマンサク(花弁が黄色、基部だ
け紫紅色)などがあります。そのほか、秋に咲くアメリカマンサク
もあります。

マンサクという名は書物では、江戸後期の「四季賞花集」(1805年
・文化2)に初めて見られるそうですが、マンサクの異名とされる
アオモミは、それより先、江戸時代中期の「聚芳帯図左編」(しゅ
うほうたいずさへん)(1727年)に記載されているそうです。「茶席
捜花集」には捻臘花の漢字があてられているようです。

いずれにせよ春を呼ぶ花、豊年の花でもあり、めでたい、めでたい。
マンサクを金縷梅(きんろばい)というらしく、俳句に、金縷梅(ま
んさく)や太きウエスト笑ひ合ふ(鍵和田?子)。まんさくや町よ
りつゞく雪の嶺(相馬遷子)。金縷梅(まんさく)や沫雪(淡雪)
のこる院の谷(羽田岳水)などの句があります。
・マンサク科マンサク属の落葉小高木
(040)

 

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(8)スズメノエンドウ

 道ばたや水田にスズメノエンドウが蝶形の花を咲かせています。
元の方にはすでにさやになっています。漢字で雀野豌豆、同じマメ
科のノエンドウ(野豌豆・カラスノエンドウ)より小さいためだと
いう。

 つる性で茎は細く、30から60センチ。葉は6から7対の小葉で
できている偶数羽状複葉で、先端は枝分かれした巻きヒゲになって
います。

 4月から6月、葉腋から長い柄のある総状花序を出し、蝶形の紫
色の小さな花をつけます。同花受粉花。マメは楕円形で1センチく
らい、短い毛が生えていて種子は2個入っています。本州から四国、
九州、沖縄に分布。

 仲間にカスマグサというのがありますが、この名前が変わってい
て、大きさがカラスノエンドウとスズメノエンドウの中間。カラス
の「カ」とスズメの「ス」の間(ま)というのでカスマだというか
ら傑作です。

 スズメノエンドウやカラスノエンドウ、カスマグサなどをゆでて
ゴマ和え、油炒め、汁のみ、揚げ物などに利用します。さやはよく
油で炒め塩味で食べられます。またいつかテレビで生でも食べられ
るといっていましたがまだ試していません。

 この仲間はソラマメ属だといい、ソラマメ属は世界的に雑草が多
いというから以外です。日本には約15種が野生または帰化してい
るそうです。
・マメ科ソラマメ属の越年草
(040-2)

 

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(9)ツガ

 ツガはどういうわけか木の母と書き栂。語源はいまもってわから
ないそうです。日本特産の常緑高木で栃木、福島、茨城の県境の八
溝(やみぞ)山が北限、南は屋久島まで分布。朝鮮ではウルルン島
だけにあるという。

 ツガは成長が遅く杉やヒニキのように植林できず、最近は急激に
少なくなり、いまやこれらの大木は貴重品だそうです。ツガ材は針
葉樹としては重硬で強く春材は粉白をおびて、上品な感じがするた
め長押(なげし)や鴨居(かもい)柱などの装飾材として使われ、
だんだん銘木的な存在になってきているそうです。

 同じツガ属にコメツガがあります。本州の北部に多く、ツガより
もやや高所に生えていて材質はツガと同じだという。青森県から九
州までに分布しています。

 また、米栂(べいつが)と呼ばれるアメリカツガは、アラスカか
らカリフォルニアまでの太平洋沿岸に分布。高さ70m、直径2m
にもなるという。日本にも多量に輸入され建材として杉同様に利用
されています。

 樹皮がタンニンの原料として知られるカナダツガは、庭園樹木と
しても利用され低木性の園芸品もあるそうです。

 ツガ属は世界中でも日本に2種、台湾に1種、中国大陸に3種、
ヒマラヤに1種、北アメリカに東部と西部に2種ずつあるだけとい
う貴重なものという。雌雄同株、

 4月に開花し、雄花は長卵形で小枝の先につきます。樹の皮は赤
褐色、縦に深く裂けて不規則に鱗片になってはがれます。1年生の
枝は黄褐色で毛がありません。
・マツ科ツガ属の常緑高木。
(040-3)

 

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(10)トウダイグサ

 4月から5月ごろ、郊外の道ばたや畑で皿のように生えた葉の上
に黄色い花を咲かせた草を見かけます。トウダイグサ(燈台草)で、
その名は形からきており、茎を昔の燭台の柄とみたて、先端に輪生
した葉は油の皿、その上の黄色に色づいた花の部分は燈火になぞら
えたものだという。果実を鈴に見立てて「鈴振り花」とも呼ばれま
す。

 トウダイグサは、秋の終わりころに生え、年を越して春に茂る越
年草。高さ20から30センチで、円柱形でがっしりした茎は根元で枝
分かれしています。葉は互生し、柄がなくへら形または倒卵形、葉
の先は丸いかややへこみ、へりにはきょ歯があります。茎の元の葉
は小さく、先にはやや大きめの葉を五枚輪生します。

 花は、葉が輪生した茎の先から五本くらいの枝を出して、先端に
一個の雌花と多数の雄花が集まった杯状花序(さかずき状の花序)。
小さな花序はまるで一つの花のように見えます。花序のふちには4
つの楕円形の腺体があり、密を分布します。

 茎や葉を切ると乳白色の汁が出ます。これはサポニンを含む有毒
成分だという。殺虫剤や解熱剤、利尿薬などに利用されることもあ
るといいますが、家庭での応用は好ましくないとものの本にありま
すので十分に注意が必要です。本州・四国・九州・沖縄県に分布。
トウダイグサ科トウダイグサ属の越年草。
(040-4)

 

…………………………………

春編(4月)・第4章「白いチョウ 風に逆らう菜の花畑」

(11)ニリンソウ

 ニリンソウ(二輪草)は代表的な早春植物で、やはり林のふちや
草原の落葉広葉樹林の下に生えます。

 4、5月ころ、根生葉の間から高さ20センチくらいの花茎が出
て、直径2センチほどの白い花を咲かせます。しかし必ず花が2個
ずつつくわけではなく、ふつうは1〜3個。名前どおりにはいかな
いものです。

 花のひとつは頂花でその他は茎葉のわきから出ています。ニリン
ソウは双子葉植物なのに1枚の子葉しかないのが特徴だそうです。
 ゆでておひたしに、ゴマ和え、辛子和え、酢味噌和え、油炒め、
汁の実、揚げ物などに利用します。
・キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草
(040-5)

 

…………………………………

第5章 飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り

春編(4月)・第5章「飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り」

(1)レンゲ

 化学肥料の利用でしだいに減少し、あまり見られなくなったレン
ゲ畑。それでも山村には、まだまだレンゲソウの花でピンクに染ま
った田んぼが広がっています。

 レンゲソウは中国大陸が原産地。17世紀かそれ以前に日本に入
ってきました。明治時代、田んぼの肥料によいとわかり、田植え前
につくられ、昭和時代の初め、さかんに栽培されました。

 レンゲソウは紅紫色の花が車の輪のようにならんでいて、まるで
ハス(蓮)の花(華)に似ています。そこで蓮華と呼び、草をつけ
てレンゲソウです。また遠くから見るレンゲ畑は、紫色の雲がたな
びいているようなので、紫雲英(れんげ)と書いたりします。

 レンゲはゲンゲともいい、図鑑などにはゲンゲの名で記載されて
います。明治の初めのころ、植物の標準漢名を決めるときに、本当
はレンゲソウとするところをどういうわけか、方言であるゲンゲが
正式名称になってしまったとのこと。

 また、江戸時代の『大和本草(やまとほんぞう)』という本のな
かに「京畿の小児これをゲンゲバナという」とあり、別の『物類称
呼』には「畿内にてゲンゲバナといい、江戸にてレンゲバナという」
という記事が残っています。

 若芽をゆでておひたしに、汁の実、油いためなどに。また乾燥さ
せて、利尿、解熱などの薬になります。
・マメ科ゲンゲ属の2年草
(041、042、043)

 

 

…………………………………

春編(4月)・第5章「飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り」

(2)ミツバチ

 花盛りの野原をミツバチが飛んで行きます。ミツバチにとって、
レンゲの花咲く今が、腕の見せどころです。

 ミツバチは、一匹の女王バチと数万匹の働きバチで仕事を分業し、
社会生活を営みます。春の繁殖期には、千匹ぐらいの雄バチが加わ
ります。

 女王バチは、働きバチに食べさせてもらい、ただ卵を産むだけに
専念。せかされ、せかされ、最盛期には、一日に二,三千個、一年
に二十万個というから、女王どころかドレイです。

 働きバチの勤めは、初めは内勤だそうです。掃除に育児、巣作り、
蜜の受け入れ、仕上げなど。しばらくすると、外勤に職務替えとい
うから恐れ入ります。斥候バチが花を発見すると、その花の蜜の量、
方向、距離をダンスで、仲間に伝えるという頭のよさ。ただ、ただ
感心するのみです。
(044)

…………………………………

春編(4月)・第5章「飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り」

(3)ヨメナ

 春の若菜摘みは、大昔から続いた風物詩。万葉集にも出てきます。
ヨメナもその一つ。「春日野に煙(けぶり)立つ見ゆ乙女らし、春
日のうはぎ(ヨメナのこと)採(つ)みて煮らしも」とうたわれて
いますが、今でも、同じように、摘まれ、食べられています。

 ヨメナは、野原や田んぼのあぜ道にある丈夫な多年草です。ヨメ
ナとは、嫁菜の意味で、若菜を摘んで食べる野草の中でも、一番柔
らかく、やさしく美しいので、ムコナに対してつけられた名前と
のこと。

 ゆでて、ひたし物、和え物、油いためなどにしたり、ご飯に炊き
込んで、ヨメナ飯などにして食べます。また、花はホワイトリカー
につけて飲む人もいるとか。陰干しにした葉を刻み、袋に入れお風
呂に投入すると、腰痛などに効果があるそうです。
キク科ヨメナ属の多年草
(045)

…………………………………

春編(4月)・第5章「飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り」

(4)コブハサミムシ

 河原などに、ハサミムシの皮だけが干からびて転がっています。
これは、自分の子どもに食べられたお母さん虫の姿だと聞けばショ
ックを受けます。

 卵を産み終えたコブハサミムシのお母さんは、餌も食べないで、
くる日も、くる日も卵をなめて、世話をします。カビを防いだり、
湿り気を与えたりしているのです。

 ちょうど今ごろ、卵から幼虫がかえります。あいかわらず、お母
さん虫は幼虫をなめたり、巣から出ようとするのを引っぱったり、
忙しく、めんどうをみています。

 突然、幼虫たちが母親を襲い、食べ始めます。子どもたちの初め
ての食事は、お母さんなのです。お腹がいっぱいになった幼虫たち
は、思い思いに巣の外に散っていきます。……。いくら自然の摂理
だとはいえ、親不孝ものめ!
(046-1)

 

…………………………………

春編(4月)・第5章「飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り」

(5)ハナカイドウ

 カイドウといっても昔、馬が通ったような街道のことではありま
せん。あくまで植物の話でまいります。ハナカイドウはリンゴの仲
間。舌で楽しむのはリンゴ、目で楽しむのはハナカイドウというわ
けです。

 中国の人たちは、いにしえからこの仲間を海棠(ハイタン)と呼
び大事にしていました。五代十国時代の南唐の徐熙(じょき)や宋
の時代の馬遠(ばえん)などの画家は好んでカイドウを描いたとい
われます。

 カイドウの仲間にもいろいろありますが、ハナカイドウが代表格。
これが日本に入ってきたのは元禄以前ではないかとされているがは
っきりしません。日本で昔からカイドウと呼んでいたのはミカイド
ウのことらしく「尺素(せきそ)往来」(1489)にすでに記録。あ
の応仁の乱以前にはもう日本にあったということです。

 実のなるミカイドウはハナカイドウにくらべ花が淡紅色で、果実
は熟すと黄色になり食べられます。

 4月の中、下旬細長い花柄に紅桃色の花を咲かせます。花はなか
ば八重咲きで垂れ下がります。いまはカイドウというとハナカイド
ウのことをさしますが、江戸時代にはミカイドウを指したそうです。

 花は前年の枝の芽から散形に数個つく。小さな木でもよく花を咲
かせるので盆栽、鉢植えにもされるという。ミカイドウは果実のな
るカイドウの意味。ナガサキリンゴともいうそうです。梨果ははじ
めは緑色ですがだんだん紅くなり、熟すと黄色になって食べられま
す。
・バラ科リンゴ屬の落葉低木。
(046-2)

 

…………………………………

春編(4月)・第5章「飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り」

(6)ヒイラギナンテン

 ヒイラギナンテンはトウナンテンともいい台湾・中国大陸原
産で日本には自生がありません。江戸時代の天和・貞享(16
81〜87)のころ日本に伝わり、冬に紅葉するその姿を好まれ
古くから観賞用として庭園に植えられました。

 春、葉の間から房状の花穂をたれぎみに伸ばし、黄色の6弁
花を咲かせます。6本の雄しべは指でさわると中心の雌しべに
向かってまがり、柱頭に花粉がつきます。これはこん虫がみつ
を吸いにきたとき自花受粉するための仕組みだそうです。

 果実は液果で、6月ごろ熟します。表面に白い粉をかぶった
黒紫色になり、たくさんの実がついた穂が垂れ下がります。

 ヒイラギナンテン(疼木南天)の名はナンテンの類で、ギ
ザギザの葉がヒイラギの葉に似ているためにつけられたもの。
また、トウナンテン(唐南天)は唐から伝わってきたナンテ
ンの意味だそうです。

 近種に葉の細いホソバナンテンがあり、やはり中国原産。明
治初年に渡来したそうです。
・メギ科ヒイラギナンテン屬の常緑低木
(046-3)

 

…………………………………

春編(4月)・第5章「飛びかうミツバチ 里はレンゲの花盛り」

(7)ヒトリシズカ

 奈良県吉野・奥千本の金峰山神社のそばに義経ゆかりの隠れ堂があ
ります。義経において行かれた静御前の名をつけたセンリョウ科の植物ヒ
トリシズカ。

「和漢三才図会」に「静とは源義経の寵妾にして吉野山に於て歌舞の事
あり。好事者、其美を比して以て之に名づく」とあり、またフタリシズカも同
書に、「俗謡に云う、静女の幽霊二人と為り同じく遊舞す、此花二朶(だ)
相並び艶美なり、故に之に名く」とあります。

 ある年の正月7日、吉野の勝手明神の神職が女性に若菜摘に行かせ
ました。そこへ静御前の霊があらわれ「経を書いて回向をしてくれ」とい
う。霊は女性に乗り移り自分は静御前だと名乗ります。

 神職は神社宝蔵の舞い衣装を着せると女性は舞いだしました。やがて
亡霊も姿をあらわし二人になって舞いはじめました。「しづやしづ、賤(し
ず)の苧環(おだまき)繰り返し、昔を今になすよしもがな」。春に吉野で
楽しく過ごした義経との昔語りをフタリシズカとなって謡いあげていくので
ありました。
・センリョウ科センリョウ屬の多年草
(046-4)

 

…………………………………

第6章 ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(1)ダイコン

 山裾の畑に、取り残しのダイコンが花を咲かせています。まるで、
白い菜の花といった感じです。なかには、白紫色もあり、やや大形
の十字形です。

 ダイコンは、大昔から、人間に食べられ、日本でも古事記や日本

書紀にも登場します。日本書紀に、女性の白い腕を於朋泥(おおね
・ダイコンのこと)にたとえてほめた、古代歌謡が載っています。

 たとえるのは足じゃないかって? そうなんです。かつては、ダ
イコン足とはいわず「ダイコン腕」だったのです。この於朋泥(お
おね)がおおね(大根)になり、やがて、ダイコンと呼ぶようにな
りました。大衆化したのは室町時代。

 奈良時代はダイコン一本が米一升と同じ値段(昔の米はもっと高
かった)だったとか。ちなみに、エジプトのピラミッドをつくった
ドレイたちはダイコンが常食。ダイコン力なのです。
・アブラナ科の越年生草本
(047)

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(2)クサイチゴ(果実)

 山道に、クサイチゴの花が咲いています。茎に毛をたくさんはや
し、草の中から「ここにいるゾ」と大きな五弁の白い花を目立たせ
ています。

 名前は草イチゴでも木イチゴ。草のような形ながらりっぱな木の
仲間。キ(黄色?)イチゴでも実は赤くなります。ワセイチゴとか
ナベイチゴともいうそうです。

 ワセイチゴは、ほかのものより早く熟すため。ナベイチゴは、果
実の集まりの中がからになっているのを、鍋にたとえたものだそう
です。

 高さ約40センチになり茎や葉に腺毛とトゲがあります。葉は羽
状複葉で小葉が3〜5枚で卵形。春、新枝の先に直径4センチくら
いの白い花を1〜2個咲かせます。球形の集合果は赤く熟し食べら
れます。生食のほか、ジャム、ケーキ、果実酒に利用する人もいま
す。

 春も真っ盛りの4月から5月、丹沢・塔ノ岳の山小屋で、2ヶ月
近くもイラストの個展を開いたときのこと。初め、あちらこちらに
咲いていたクサイチゴの花もいつの間にか終わり、最後の日には、
もう赤い実がなっているのもありました。もちろん、展覧会の作品
を引き上げながら、口にほおばりました。

 ちなみに中国語で草苺というと、オランダイチゴ(いま普通にイ
チゴといってスーパーなどで売っている栽培種)をいうそうです。
バラ科キイチゴ属の半常緑低木
(048)

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(3)クサボケ

 ザックを背負って田園を歩きます。農家の家も少なくなり、急に
なった裏山への坂道にはでな花が咲いています。小さくかわいい木
に朱紅色(しゅこうしょく)の花。みんなよけて通るため、道の真
ん中で堂々たるものです。

 クサボケは花弁が5枚で円形。花に雄花と雌花の別があり、雌花
の下位子房はふくらんでいますが、雄花のそれはやせています。

 このクサボケの花が食べられるという。ほんのりと甘いヤマツツ
ジの花は食べたことがありますが、クサボケは未経験。どんな味が
するかためしてみたいと思っています。

 丸い果実はシドミと呼ばれ秋、黄色に熟します。子どものころ近
くの林を駆けまわり遊びながら、酸っぱい果実をかじったっけ。焼
酎づけにしたり、塩づけ、砂糖づけにして利用。

 一名、コボケ、ノボケ、トボケ(いやこれはウソ)と、あまりか
んばしい名前ではないクサボケも、漢字で書けば、草木瓜。草のよ
うに小さいボケのこと。木瓜(もっか)がモケになり、ボケに変化
したのだそうです。

 子どものころ、かじったあの酔つぱい果実・シドミ。塩づけ、砂
糖づけ、焼酎づけにして食べます。

 また果実はリンゴ酸2〜3%、クエン酸、酒石酸なるものを含み、
果実酒(ボケ酒)をつくって整腸、低皿圧、暑気あたり、不眠症、
利尿剤、脚気などに用います。
・バラ科ボケ属の落葉小低木 雌雄両性花
(049)

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(4)ワサビ

 山登りの途中、沢すじでワサビ田に出会うことがあります。中に
入れないよう、金網で囲っているものもあります。ずーっと人気の
なかった所を歩いて来た身には、「地元の人がよく来るのだな」と、
なぜかホッとします。

 ワサビの根元から、とうがたって白い花が咲いています。これも
アブラナ科なので、菜の花のように十字形です。葉も辛いですが、
もっぱら利用されるのは根っこの方。マグロの刺身、トロの寿司も
これなしでは、もう、「アカン」なのです。

 ワサビは、れっきとした日本原産。本草和名(918年)という本
に山葵(やまあおい)という名で、延喜式(927年)には「飛騨の
国(岐阜県)が献上した」とあります。扁桃炎には、生汁、リュウ
マチには、湿布をするとよいといわれています。
・アブラナ科ワサビ属の多年草
(050-1)

 

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(5)フデリンドウ

 日あたりのよい山道を歩いていると、足元に青紫色のリンドウの
花が咲いています。リンドウには、春3月から5月ごろ咲くものか
ら遅い種類では11ごろ咲くものまであります。

 花は紫色が多く、ほかに白、赤、黄色もあります。春咲くリンド
ウには、フデリンドウ、ハルリンドウ、コケリンドウなどがありま
す。ここでとりあげるのはフデリンドウ。

 フデリンドウの名は、細い茎の先についたつぼみが、まるで筆の
穂先のようなのでついたのだという。北海道から九州の草地山地に
広く分布しています。

 茎はまっすぐ立ち、高さ6センチから9センチ。茎の中段から上
に葉をつけます。葉は広卵形でとがり、こまかくくっついており、
肉質はやや厚い。裏面は赤紫色を帯びたものもあります。

 春、4、5月ごろ、茎のてっぺんにいくつかの青紫色の花が集ま
って咲きます。がくは、緑色で五つに裂けていて、花冠は細長い鐘
の形で、五つに裂けた裂片があって、日中になると開きます。

 雄しべ5本、雌しべは1本、柱頭は二つに裂けています。果実に
は柄があって、がくより長く突きだし、二つに裂けて盃のようにな
り、中にたくさん種子があります。

 東北の栗駒山で発見された、全体が大きく枝分かれした、型の種
類を、エダウチフデリンドウと呼んでいるそうです。
・リンドウ科リンドウ属の2年草
(050-2)

 

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(6)マルバグミ

暖地の海岸近くにマルバグミの果実が赤く熟しています。オオバ
グミともいい、甘くて食べられます。グミには落葉性と常緑性があ
り、マルバグミは常緑性で、秋から冬にかけて花が咲き、春から夏
にかけて果実が熟す後者に入ります。

 マバグミは、枝はつる性となり長くのび、低木でとげはありませ
ん。葉は卵円形で長い柄があります。

 先は短くとがり革質でしなやか。長さ5〜7ミリぐらいの鐘形。
果実は1、5〜2センチくらいの長楕円形で、細い柄で垂れさがっ
ています。
・グミ科グミ属の常緑つる性植物
(050-3)

 

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(7)ミツバツツジ

 ある年の春、丹沢塔ノ岳尊仏山荘で「山のイラスト個展」を、一
ヶ月あまりの間、開催させていただいたことがありました。その間、
毎週土曜日から泊まりがけで丹沢の塔ノ岳に登りました。

 初め、まだふもとの茶色い木々の間で見えた、ミツバツツジの花
が、だんだん頂上に向かっていくのがわかります。木の葉の緑も次
第に濃くなり、山全体の景色も変わります。

 下から今度は、紅色のヤマツツジが咲き出して、山々をいろどっ
ています。最後のころ、山頂付近はミツバツツジにシロヤシオが混
ざって咲いていました。

 ミツバツツジは、その名の通り、枝の端に「三つ葉」を広げるツ
ツジで紅紫色。一番ツツジともいうそうです。よく目立つ花なので
農事暦に利用され芋を植える時期という意味の「イモウエツツジ」、
麻の種をまく「オ(麻)マキツツジ」。また、弘法大師祭りに供え
るはなとして「オダイシ(大師)バナ」などとも呼ばれ、昔から村
人の生活に深い結びつきがあったという。

 ヤマツツジは、緑一色の山々に一段と目立つ、はでな花。この花
を「食い花」といって摘んで食べたりします。そのほか名前のわか
らない「なんだかツツジ」で野山はにぎわっていました。

ところで、ヤマツツジの花は歯ざわりもよく甘酸っぱい味。また
雄しべ、雌しべをつけたまま合弁の花冠を萼を取って、下から蜜を
吸うとほんのりと甘い。この花をボールに盛ってサラダにしても食
べたりします。

 ヤマツツジは山野に生え、高さ1〜4mになり、枝に褐色の毛が
生えています。葉は互生し楕円形からまたは卵状楕円形で長さ3.

4センチ。両面に褐色の荒い毛があります。夏秋葉は春葉より小さ
く、冬を越します。4〜6月にオレンジ色の花を2〜3個咲かせま
す。花冠は直径4〜5センチの漏斗形で5つに半開き。雄しべは5
個あります。

 どのツツジでも蜜は吸えるそうですが、花びらが食べられるのは
ヤマツツジだけという。レンゲツツジ(高原に多く、花の色が似て
いるが牛や馬も食べない。花が大きいのでオニツツジともいう)の
ように毒のあるものもあります。だいたいツツジ科の多くは有毒な
ジテルペン類化合物などを含んでいるのだそうです。そういえばツ
ツジの葉や花には虫食いがないですねえ。

ツツジとは、ツツジ科ツツジ属のうち、シャクナゲ類を除いた半常
緑性または落葉性のものの総称。
・ツツジ科ツツジ屬の落葉低木
(050-4)

 

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(8)モクレン

 モクレンは花の型がハス(蓮))やラン(蘭)に似ているという
ので木蓮や木蘭の字を当てています。モクレン科モクレン属で高さ
4mにもなる落葉性大低木。モクレンゲ(木蓮花)または仲間のハ
クモクレンに対して花の色からシモクレン(紫木蓮)の異名もある
そうです。

 平安時代の書「本草和名」や「和名抄」には「木蘭、和名毛久良
邇(もくらに)」と出ており、古くはモクラニと呼んでいたらしい。

 モクレン属は北アメリカ東部と日本、ヒマラヤのアジア照葉樹林
帯に多く分布。種間雑種がたくさんつくられ注目されているそうで
す。

 仲間にモクレンの変種トウモクレン(唐木蓮)というのがあり、
樹も花もずっと小型で、庭木として親しまれています。

 また1820年、フランスで作られたハクモクレントとモクレンの
雑種、マグノリア・ソウランギアナは、ハクモクレン型の花で直径
15センチにもなるという。モクレンの仲間では最高とされ、欧米
では広く庭上栽培しており、日本にも輸入されているそうです。

 ハクモクレンの変種にはサラサモクレンがあり紅色をおび美し
い。
・モクレン科モクレン属の落葉性大低木。
(050-5)

…………………………………

春編(4月)・第6章「ダイコンの花咲きおばあさんポツンと野良仕事」

(9)モモの花

 モモの原産地は中国。大昔、日本に渡来し「古事記」や「万葉集」
にも登場しています。モモには災難よけや長生きなど、特殊な力が
あると信じられ、神仏に供えたり、桃太郎の民話までできます。そ
していつしか3月3日の「桃の節句」に桃酒を飲む習慣まで生まれ
ました。

 日本のモモは、もともと花木として改良されてきたもので、江戸
時代には200種以上の花モモがあったといいます。そのころの果実
は小さく、食べてもガリガリで、評判はあまりよくなかったらしい。

 前の年にのびた枝の葉腋に3個の芽をつけ、中央は葉芽になり両
端が花芽になります。花は普通淡紅色の5弁花ですが、品種により
濃紅色もあったり、白桃、紅白咲き分けの源平モモ、八重咲き、菊
咲きもありさまざまです。ウメからサクラへつづく間にはさまるよ
うに咲くモモの花。弥生の空のもとの一面のモモ畑はほのぼのとし
た春の景物です。
野に出れば人みなやさし桃の花 高野素十

・花言葉は、恋に奴隷
・4月12日の誕生花
バラ科サクラ属モモ亜属の落葉小高木。
(050-6)

 

…………………………………………………………………………………………………

4月終わり