【クスリになる野菜・果物】第12章

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▼2月の野菜・果物

 ・(1)アサツキ ・(2)甘夏ミカン ・(3)エンダイブ ・(4)キョウナ
 ・(5)クレソン ・(6)クロナ  ・(7)コーンサラダ ・(8)桜島ダイコン
 ・(9)シュンギク(春菊) ・(10)タイサイ ・(11)津田カブ ・(12)ノザワナ
 ・(13)ハナマルキュウリ ・(14)ハマナ(シーケル) ・(15)フキノトウ
 ・(16)マコモタケ(真菰筍) ・(17)マツナ ・(18)マメモヤシ ・(19)ミブナ
 ・(20)メキャベツ(コモチカンラン)  ・(21)レイシ(ライチ)

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▼(1)アサツキ(冬2月)

 もともと野山に生えていた野草を栽培野菜にしたアサツキ。日
本あるいは中国が原産という。ワケギによく似ています。アサツ
キは漢字で浅葱。ネギより葉の緑色が浅く、浅い葱(き・ネギの
こと)の意味で、名前のとおり長さが10センチくらいになるま
では浅葱色をしています。

 またニンニクを昔は「ヒルツキ」といったという。ニンニクが
ヒル(昼)なら、それに比べてにおいが弱いこの草をアサ(朝)
ツキに、さらに根の深いネブカ(ネギ)に対し、根が浅いので「浅き
ネギ」だという説もあります。

 アサツキは、古くから食用にされていたらしく、平安時代の「延
喜式」(927年)という本にすでに記録があります。葉が細く糸
のようだというのでイトネギとか、若いとき根が白くて長いので
シラヒゲの名もあります。また方言ではクサラッキョウ、センボ
ンネギとも呼ばれています。

 地下にラッキョウのような鱗茎があり、灰白色でうすい紅色を
おびるものもあります。葉は幅3〜5ミリ、長さ15〜40セン
チの円筒形をしています。

 5〜6月ごろ花茎がのび、その頂きに多数の紫紅色のかたまっ
てネギ坊主のようになって咲きます。関東地方で栽培され、1年
中出まわっています。葉を鱗茎とともに汁の実、酢の物、和え物、
そばの薬味に利用します。

 野生のものは夏に地上部が枯死しますが、秋にまた芽ばえ、冬
にはほとんど葉が枯れます。
ユリ科ネギ属の多年草



【効能】
カロチン(ビタミンA効力)、ビタミンCが多く、成人
病予防によいという。アサツキには神経を休める作用もあるという。
風邪、頭痛、食欲不振、不眠などに効果があるという。

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▼(2)甘夏ミカン(冬2月)

 酸っぱいナツミカンにとってかわり、いまではは甘ナツがすっ
かりおなじみです。甘ナツはナツミカンから生まれた突然変異種。
明治は34年(1901)ころ、大分県津久見市の川野豊さんの畑でナ
ツミカンの枝変わりを発見。穂木をとり苗木に仕立てて実らせた
ところ、早生で甘い実をつけました。

 そこで持ち主の名をとり、「川野ナツダイダイ「と命名。昭和25
年(1950)に種苗名称登録をうけました。のち、甘ナツミカンと
呼ばれ、昭和40年代からは生産量も急増し、いまでは通称の甘ナ
ツの方が通りがよくなっています。

 この川野ナツダイダイから、さらに枝変わりとして発見された
品種に、果面の美しい新アマナツ(ニューセブン)、立花オレンジ、
アマナツツルミ、果皮が紅橙色のベニアマナツ、サマーレッドな
どがあります。また、普通のナツミカンから枝変わりしたものに
無核夏や晩夏(おそなつ)があります。

 無核夏種は種子の少ない山路ナツダイダイ、種子なしの土屋無
核ナツダイダイがあり、晩夏種には真夏でも食べられる、田島ナ
ツダイダイがあって、サンフルーツの名前で店頭にならんでいる
のを見かけます。
・ミカン科ミカン属の常緑小高木


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▼(3)エンダイブ(キクチシャ・ニガチシャ)(冬2月)

 キクチシャ、ニガチシャの異名もあるエンダイブ。特有のにが
味と風味を持ち、歯ざわりもよく肉のつけ合わせや、サラダとし
て生食されます。

 原産地は、地中海東部沿岸地方。古代エジプト、ギリシャ時代
から栽培されていたという。日本に伝来した年代ははっきりしな
いが、江戸時代の中ごろの1708(宝永6)年の博物学の書『大
和本草』(貝原益軒著)にすでに記載されています。

 本格的に導入したのは明治になってから。明治6(1873)
年、開拓使が出した『西洋蔬菜栽培法』にも紹介されていますが、
広く栽培されるようになったのは明治の中頃。

 エンダイブは品種によって、葉の形がさまざまで色も緑から黄
緑までいろいろです。大きく分けると葉に深く切れ込みが入り、
縮れている「縮れ葉種」と、葉が広く切れ込みが浅い「広葉種」
があります。いま日本でつくられているのは主に「縮れ葉種」の
ほう。

 夏にタネをまき、秋ごろ、根出葉が適当に発育したら束ねて、
内部の葉を軟白に仕上げてから収穫します。したがって外側は濃
い緑色をしていますが中側になるつれ、黄緑色になっていきます。
軟白しないものはにが味が強い。これをチコリーと呼ぶこともあ
って紛らわしい。
・キク科キクニガナ属の1年草または2年草


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▼(4)キョウナ(ミズナ)(冬2月)

 キョウナとは京都からきた菜っぱという意味で関東地方での呼
び名。関西地方ではミズナといい、昔、田んぼのうねの間に水を
通して栽培したので「水菜」とか「水入菜」とかの名前がついた
のだといいます。

 しかし、このふたつはまったく同じというわけではなく、関東
のキョウナは葉の切れ込みが浅く、関西のミズナは切れ込みが深
くて長い。同じ地方出身でも別々の地方に住めばそれぞれ性格が
変わっていくのは人間さまも同じこと。

 カブの1変種だとかいいますが、根は大きくならず、長い柄の
ある葉(根出葉)をたくさん出して、それが一株に600〜1000もあ
るので「千本菜」、「千筋菜」または「千筋京菜」とも呼んでいます。

 キョウナはカブとともに古くから栽培されていて、1684年(貞享
1・江戸前期)「よう州府志」(黒川道祐著・よう州とは山城国の別
称でいまの京都)や1695年(元禄8)の「本朝食鑑」(平野必大著)
にも出ています。



 また、貝原益軒の「大和本草」(1709年・宝永6)では「京都の
ミズナは水田に植える。味はなはだすぐれ、食べるとやわらかく
て味がよく、滓(かす)なし。他国にはないような嘉品なり」と手
ばなしのほめようです。

 いまは全国的に普及していて、煮もの、漬けもの、汁の実、ひ
たしもの、肉、油あげ、といっしょに煮たり、サラダ、からし和
え、またカキやモモともあうので鍋物にもよく利用されているの
はご存知の通りです。

 キョウナの葉は長楕円形で長さ40センチ、幅6センチ、春にと
う立ちして4月ごろ、1センチくらいの黄色い十字形の花が総状
花序(柄のある花が軸から離れてたがいちがいについて房になる)
になって咲くのは他のアブラナ類と同じです。

 同じ京都でも壬生(みぶ)地方は、キョウナの変種でミブナ(壬
生菜)という種類が栽培されています。これは葉に切れ込みがな
く、キョウナにくらべ株分かれが少なく、葉柄が少し太い。葉も
やや厚く、緑の色も濃いといいます。

 品質はキョウナには劣るが独特の香りと辛味をもち、キョウナ
と同じように早春の葉菜として賞味されていますが、関東地方に
はほとんど作られていません。
・アブラナ科 アブラナ属の越年草

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▼(5)クレソン(冬2月)

 ウォータークレス、オランダミズガラシとかオランダガラシと
もいい、一見セリに似た形で、高さ30〜60センチの多年草。
オランダガラシは「和蘭芥」の意味で、外来種であることを示し
ています。

 原産地は中部ヨーロッパ。古くから野生のものを摘みとって食
用としていましたが、そのなから選びぬき、14世紀ころフラン
スで栽培をはじめたといいます。

 日本には、明治3年(1870)、オランダ人によって伝えられ
たのだとも、洋食用に栽培するため三井財閥がオランダから輸入
したのだとも、また元新宿御苑の園長で、福羽イチゴで有名な福
羽逸人子爵がフランスから持ってきて、栽培法を教えたのだとも
いわれています。

 クレソンは、非常に丈夫で繁殖力がものすごく、たとえば茎な
どをちぎり水辺に投げておくと、たちまちのうちに根づいてしま
い、茂り群生するという強さです。また切ったものを水中に浮か
べておくだけでもよく芽が出るという。このようにして、台所か
ら逃げ出したクレソンはいま、北海道から沖縄の清流や池や沼、
小川のほとりに野生化しています。



 クレソンの茎葉はピリッとした辛みと芳香(ダイコンやワサビ
と同じカラシ油配糖体のシグリンというものによるという)を持
ち、サラダ、浸し物、魚肉の和え物、味噌汁のみなどの利用され
ます。1年中採れます。

 初夏のころ、茎の先から総状花序というから、柄のある花が、
軸から離れて互い違いについて房になる形で、白い4弁花を密生
させます。雄しべのうち4本は長く、雌しべは1本。花のあとの
びた果軸から1〜1.7センチの細長いさやをつけます。

 茎は緑色で中空になっていて草は50センチ以上の高さになり
ます。葉は奇数羽状に分裂して茎に互生し、先端につく小葉が一
番大きく、ほかの側小葉は1〜4対で下になるほど小さくなって
います。オランダガラシは「和蘭芥」の意味で、外来種であるこ
とを示しています。

 選ぶときは、香りが強く、葉が大きくて葉の間がつまったもの、
葉先が紫がかった濃緑色で茎が太く柔らかいものがよい。途中か
らひげ根が出たものはよくない。長野県の小諸では晩霞(ばんか)
ゼリ、大分県の高冷地帯ではヤソゼリ、奄美大島ではシンプゼリ
などと呼ぶそうです。

【効能】カルシウムとともにビタミンA,Cが豊富。またカリウ
ムも410mgと豊富です。消化吸収を促進し、食欲増進や生活習
慣病の予防にも有効だという。
アブラナ科オランダガラシ属の多年草

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▼(6)クロナ(冬2月)

 そのムカシ、大陸から伝わってきた「菜」。『古事記』にも菘(あ
おな)として顔をだします。当時から大切な食べ物だったこれら
の菜は各地に広まり、交雑しながらその地に居ずいて地菜(じな)
になりました。

 このクロナもそのひとつ。漢字で黒菜と書き、関西、特に大阪
地方の産です。寒さに強く、冬になり、寒くなると葉につやがで
て黒っぽくなるところからこんな名前があります。中生種と晩生
種があり、中生種は「ワカナ」ともいい、ビワの葉形のものとさ
じ形のものがあります。

 晩生種は丸葉、剣葉(けんぱ)切れ葉のものがあります。茎や
葉は多肉質でやわらかく、かすかな辛味もあります。
アブラナ科 アブラナ属の野菜


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▼(7)コーンサラダ(冬2月)

 珍しいオミナエシ科の野菜です。一名ノヂシャともいいます。コ
ーンサラダとはヨーロッパでいうコーン(穀類)畑の雑草だったも
のをとって、サラダにしたのでこう呼ばれたようです。

 明治初年伝来、都市近郊で栽培され栽培していたものが野生化し、
いまでは畑の草むらや道ばたなどに帰化植物として生えるようにな
りました。まさに野萵苣(のぢしゃ)なのであります。

 7〜8月にタネをまき、初冬から早春にかけて葉をとってレタス
のかわりにサラダに利用します。しかし、特別な香りがしないので
カラシナやクレソンにまぜて食べるのがよいという。

 茎や花序が、規則正しく次々と二股に分岐する植物です。明治6
(1866)年開拓使から発行された「西洋蔬菜栽培法」にコオン
サラデの名で載っているそうです。

 二岐(ふたまた)に別れ分かるる野萵苣(のぢしゃ)かな 丸山
井児
オミナエシ科ノヂシャ属の1年草または2年草


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▼(8)桜島ダイコン(冬2月)

 鹿児島県の桜島名産の世界一大きいダイコン。これまで明治3
3年に35.5キロ、大正12年に45キロのものがとれたのが
最高記録だったという。ふつうでも直径40センチ、長さ50セ
ンチ、重さ15〜20キロ。

 生食、煮物、漬け物に利用され、鹿児島の郷土料理さつま汁、
とんこつ料理には欠かせません。もとは長いダイコンだったとい
いますが、土地にあったのかこのありさま。

 この品種は、はじめ東桜島で今の早生種に近いものが発見され、
だんだん西桜島に伝わり、この中からおくてのものが選ばれ、2
00年以上の年月の間に改良を重ねたという。当時は藩主がこの
種を藩の外に持ち出すのを禁止したとも伝えています。12月〜
翌年3月に収穫。
アブラナ科アブラナ属の1、2年草


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▼(9)シュンギク(春菊)(冬2月)

 すき焼きやなべ物に欠かせないシュンギク。菊の香りが強く、日
本人に好まれます。食べるのは日本と中国がおもで、そのほかフィ
リピン、タイ、インドなどでも栽培されているそうです。ヨーロッ
パでは、この香りを好まれず、もっぱら観賞用のみ。

 シュンギクとは春の苗を食べるのでついた名だとも、春に花が咲
く菊だからともいいます。原産地は地中海沿岸地方。古〜い時代、
原産地に自生していたハナゾノシュンギクが、たぶん南方を経由し
て中国に入り、野菜として改良されたものといいます。

 その中国から日本へ伝来したのも古く、1500年ころ。室町時代中
期の公卿(くぎょう)、学者・一条兼良の本「尺素往来」(文明年間
・1469〜87)にすでに記載されています。

 ところでこの一条兼良センセイ、シュンギクを食べて元気がつい
たのか、学者のくせに、といっては失礼ながら、大変な精力家。室
町期有数の古典学者として活躍のほか、物語、連歌、和歌など著し
ながら、26人も子どもをつくったという絶倫ぶり。特に圧巻は7
5歳の時に女の子をもうけたというから、それこそ一生寝るひまも
ない忙しさだったようです。

 話をもとにもどしてシュンギク。江戸時代も元禄になり「農業全
書」(宮崎安貞著・1696)には「こうらい菊とも春菊ともいう。冬
から春に食べ、茎肥えて味は辛くて甘い。花は一重で菊に似ており、
その性平らにして毒なし。心気を安くし、脾臓を養い、痰を消し胃
腸にもよい。ひたし物、あえ物として味もよく、花も観賞に堪える
もの」と、シュンギクの特徴、利用法まで解説しています。

 葉が細く裂けて、薄いものをセリバシュンギクと呼び、葉が厚く
へら形で刻みの浅いものをオタフクとかリュウキュウシュンギクと
いっています。シュンギクの原種であるハナゾノシュンギクは、観
賞用に改良されて、二重から三重、八重咲きのものまであり、花壇
や切り花に栽培されています。葉は似ているが食べられません。



【効能】健胃作用・食欲増進・便秘に。また風邪には熱いおつゆの
中におろしショウガ、ネギと一緒にシュンギクを入れて食べます。
おできには葉をつぶして貼り吸い出します。打ち身・ねんざ・しも
やけにもよい。痛みに生汁で温湿布。
・キク科キク属の1年または2年草

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▼(10)タイサイ(冬2月)

 タイサイは漢字で体菜。テイサイ(体裁)ではありません。タ
イナ、シャクナ、ホテイナともいいます。シャクナとは、葉身が
へこんでいて、長い葉柄をもっており、まるで杓子のようだから
という。ネコもシャクシも...の杓子なのであります。

 また、葉柄のだき合っている様子が、「七福神」の1人、布袋
(ほてい)さまの大きなお腹のようなので、ホテイナというのだ
そうです。

 タイサイは中国原産。揚子江の一帯に栽培されていたものを、
明治8年(1875)サントウ(山東)ハクサイとともに導入。
東京付近に多く作られました。もとの中国にはたくさんの品種が
あるといいます。

 中国から伝ぱしたといっても、原地では体菜といっているわけ
ではなく、華中では白菜の字をあてているが、華北の白菜とはち
がうといいます。アメリカやイギリスではこれをパクチョイと呼
んでおり、白菜から軟化しただろうといわれています。

 明治37年(1904)、南支から同系の品種、長柄白菜を輸入。
沖津の園芸試験場で試作したうえ、各地にその種子を配布しまし
た。大正15年(1916)ごろ、渡橋の種子屋さんが、これを
「白茎体菜」と命名して売り出し、一般に広まったという。

 タイサイは、ハクサイ、コマツナ、ミズナなど漬け菜とよく交
雑し、気候や土質を選ばず、寒さにも暑さにも強く、移植も簡単。
主に漬けものにされ、漬け減りも少なく、緑色があせないとくる
からみんなに喜ばれ利用されました。

 品種は、白茎体菜のほか雪白体菜などがあり、かつて、結球ハ
クサイが普及する以前は、日本の漬け菜生産の首位にあったとい
う。高さ30〜40センチになり、濃緑さじ形で無毛の根生葉。
花は淡黄色で総状花序。4〜6センチの細長い果実ができます。

【効能】浄血、利尿、便秘
アブラナ科アブラナ属の1、2年草


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▼(11)津田カブ(冬2月)

 津田カブは、根が牛の角のように曲がっていて、独特の形をし
ています。地上部に出ているところが紫っぽい紅色で、下の地中
にあるところは白く、肉質も全体が白い。

 津田カブは、島根県松江市周辺で栽培され、江戸時代初期、松
江藩・松平直政の時代から栽培されていたらしいという。いまも
島根県松江市付近で栽培されています。

 このカブのもとの品種は、江戸時代の初めに松江の藩主松平直
政が、近江から持ち帰ってきたものと伝えられています。松江市
付近には大正時代に、松江カブと呼ばれるカブがあったという。
小さくて妨鐘形の原始型に近い硬いカブで、地上部は紫紅色をし
ており、漬物に用いられました。これが津田カブの原種かも知れ
ないという.

 現在のカブは八東郡津田村(いまの松江市東津田町)の篤農家
立原紋兵衛(文政九年生まれ)という人が、在来カブから改良し
たもの。大正の初めころから津田カブと呼ばれるようになったと
いう.このため、「紋兵衛カブ」とか八雲カブ、大目カブとも呼ば
れています。

 成長が速く、肉質がち密でやわらかく甘味が強く漬け物に適し
ています。アカカブの色はアントシアン系のシアニンというもの
だそうです。この色素は酸性により赤味を増し、色がいっそう映
えのるで、酢につけたり塩に漬け乳酸発酵させて利用します。

 稲の稲架を利用して天日乾燥する。晩秋から初冬に収穫します。
葉は立性で毛はありません。ある程度洋種系品種の遺伝質も入っ
ているものらしいという。
アブラナ科アブラナ属の越年草


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▼(12)ノザワナ(冬2月)

 「橋と船、お城、しろうと茶屋、揚げ屋、天王寺かぶ 石屋、植
木屋」…江戸時代の大阪名物だという。

 宝暦年間(1756〜64)、信州高井郡往郷村野沢温泉の建命寺の住
職・晃天園瑞(こうてんえんずい)が、京都、浪華に遊学しました。
その時みやげに買ったのが、大阪名物のひとつ天王寺かぶの種。持
ち帰り、寺の畑に播きました。

 ところが北信濃のきびしい寒さのためか、葉だけのびて、根やか
ぶはさっぱり大きくならない。三尺もの葉っぱになってしまった。
それを見た村人に「三尺菜」と陰□をたたかれるしまつ。住職は葉
を利用し漬け菜を試みます。塩不足のため、越後の海岸から海水を
樽で選んで漬けてみました。

 海水のため、海苔の気も含んでいるせいか、食べてみると……
「ン!うまい、うまい」。多くの人に喜ばれます。以後、「野沢菜」
の名をもらい、大変な人気。付近一帯に分け与え、栽培させたとい
う。

 これ以来、建命寺は寺種子として農家に配給、販売を続けており、
200年後のいま、北信濃だけてなく、信州安曇郡に「稲核菜(いね
こきな)」、伊那郡箕輪を中心に「葉広菜」、甲州では「鳴沢菜」と
して、また新潟県の「大崎菜」をはじめ、北海道地方にも広まり、
耐寒性が強いため積雪地方の清け菜として重宝がられています。

 ノザワナはアブラナ科アブラナ属の一年草。カブの一系統で、葉
の長さ50から80センチ、濃い緑色をしています。春にとう立ちして、
黄色の十字花をつけます。根かぶは淡紫色で、あまり発達しません。
干しダイコンと同じように利用します。漬け物で食べるときは、塩
分のとりすぎに注意。



【効能】ビタミンA(カロチン)、C、カリウム、カルシウムが豊
富。生活習慣病予防に有効。
・アブラナ科アブラナ属の1年草(カブの一系統)

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▼(13)ハナマルキュウリ(冬2月)

 さしみのつまなどに用いるハナマルキュウリ。長さ2〜3セン
チのこどもの小指くらいのキュウリに花がついています。花付き
キュウリ、花キュウリなどともいい、花の新鮮な黄色が失せぬよ
う開花当日の日の出前に収穫、荷作りして出荷にも注意をはらい
ます。

 キュウリには節成り(春キュウリが多い)と房成りがあります
が、夏キュウリは飛節が普通。ところが、この中に夏節成りがあ
り、これと春キュウリの「落合」という品種を交配。

 できた「長日落合」は、春キュウリのころにも、また夏秋の時
期にもよく節成りになって「ハナマルキュウリ」として穫るのに
適した品種だという。実の部分を塩でこするか、熱湯につけて色
出しします。
ウリ科キュウリ属の1年生つる草


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▼(14)ハマナ(シーケル)(冬2月)

 ハマナは浜菜と書くように、ヨーロッパ北部からアフリカ北部の
海岸地帯が原産の多肉質の多年草です。高さ60から80センチに
なり根茎は肥大して、地下茎を出し、地上茎は枝分かれしています。

 6月ごろ、茎の先に散房花序に香りのある白い花をつけます。果
実は6〜9ミリの球形をしています。春に種子を播き、または株分
けして増やし、土よせするか暗い穴のような所で栽培。多肉質の葉
柄を軟白して食用にします。ヨーロッパでは広く栽培。

 日本へは明治初年に渡来したがほとんど栽培されていません。花
は観賞用にも植えられます。
アブラナ科ハマナ属の多年草。


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▼(15)フキノトウ(冬2月)

 春の野草としてもおなじみのフキノトウは、汁の実、みそ和え、
てんぷらなどに食用にされます。これには苦味質や精油が含まれ、
苦味質は、食欲を増進させる効果があり、精油には痰切り、せき
止めなどにも効果があるといいます。葉は、苦味配糖体や粘液、
サポニン、タンニンなどを含み、同じような効果があるという。

 フキノトウは、日本原産の多年草である、キク科フキ属のフキ
の花茎。野草としては、寒冷地の雪を破って出るものほど、香り
がよいとして珍重されます。

 山の斜面一面に咲いたフキの花から吹き散る白い冠毛のついた
種子は、まるで山吹雪のよう。そのヤマフブキがなまってフキの
名があるという。さらに、形が塔に似ているのでフキノトウの名
がつきました。地方によってはフキノジイ(蕗の祖父)ともフキ
ノシトメ(蕗の姑)と呼んだりするそうです。

【効能】食欲増進。葉や茎の生汁は虫さされ・切り傷・軽い火傷
によし。消化を助け、痰を切り、咳止め・ぜんそくや食欲増進に
よい。フキノトウやフキの葉を陰干しして乾燥、1日10から2
0グラムをコップ3杯の水で半分になるまで煮詰め、3回に分け
て食膳に服用するとなおよいという。
キク科フキ属の多年草フキの花茎(雌雄異株)


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▼(16)マコモタケ(真菰筍)(冬2月)

 マコモの若い茎は、タケノコが細く小さくなったようなもの。
菰角(こもづの)と呼ばれ、これにクロボ菌の一種が寄生すると、
葉がのびなくなり、その部分が大きく膨らんで軟化。まるで柔ら
かいタケノコのようになって食べるとうまい。

 これをマコモタケといい、なかは真っ白で皮をむいて輪切りに
し、油炒めなど中国料理に利用します。中国名では白筍(チャオ
パイスン)。台湾や中国の中部では実用的に生産しているところ
もあるという。

 日本でも栽培してみましたが菌のつきかたが悪くできないらし
いという。江戸時代の古書に掲載されていますが、これは野生の
マコモに自然にできたものらしいといいます。
イネ科アシ属の多年草


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▼(17)マツナ(冬2月)

 松の葉のような野菜・マツナ(松菜)。芽の出はじめのような若
菜や芽を摘んで利用します。ゆでてからひたし物、あえ物に。姿
の面白さを用いる小物野菜の一種です。

 マツナは、中国、朝鮮半島、日本(本州中南部、四国)の暖地
の海浜に自生しています。また延宝年問(1673〜1681)
に明の僧侶が日本へ伝えたともいわれています。マツナはアカザ
科の1年草で、十分育てば高さ1mにもなり、枝を多く出して1
〜3センチの線形の葉を密生します。

 3月から9月に種を蒔いて、本葉が7〜8枚出たときから、高
さ20センチくらいまでの間に収穫。また、冬から早春の間に収
穫するには11月から3月にかけて、温床内に蒔き、発芽後1ヶ
月くらいで収穫されます。
・アカザ科マツナ属の1年草


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▼(18)マメモヤシ(冬2月)

 モヤシには、ダイコンやソバ、米、麦などのものもありますが、
ここではリョクトウやダイズ、ブラックマッペを用いたマメモヤ
シを取り上げます。

 マメモヤシは、第二次大戦中の野菜不足のとき、その対策とし
て始めたのが動機。当時は観賞用の花を作ると国賊などといわれ、
使われなくなった温室を利用して作り配給しました。

 マメモヤシは、豆に水を吸わせ、27〜30度Cの暗所で芽を出さ
せ、水分を補給しながら数日で収穫でき年間を通じて作られます。

 リョクトウもやしの栽培は古く、中国では1639年の「農政全書」
にも記載されています。リョクトウはインド原産の一年草。日本
での豆の栽培は、17世紀ごろの記録があるが、遺跡からは縄文時
代の種子も出土しています。もやしの原料は中国から輸入。

 ブラックマッペ(種子名はケツルアズキ・毛のある蔓小豆の意
味)はリョクトウの近縁種で、アズキではないという。インド原
産でリョクトウと同じ遺跡から出土。昭和40年ごろからもやしの
中心になっています。原料はタイなどの東南アジアから輸入して
います。

 ダイズモヤシ。多く朝鮮料理や、中国料理などに利用。その他
ソラマメ、アルファルファのもやしもあります。

【効能】ビタミンCの補給。シミ・ソバカスをとり、肌や髪を潤
し、ふる血をとるといわれ美容効果によいという。漢方では乾燥
したものを生薬として元気をつけ痛みを止めるという。
緑豆:・マメ科ササゲ属の1年草
ダイズ:・マメ科ダイズ属の1年草
ブラックマッペ:・マメ科ササゲ属の1年草


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▼(19)ミブナ(冬2月)

 ミブナは壬生菜で、もと京都壬生(みぶ)村でつくられたため、
この名があるのだそうです。やはり京都付近の原産のキョウナ(ミ
ズナ)の変種とかで、葉は特有のから味と香味があり、漬物用、
千枚漬けの材料になります。

 下からたくさん生える根生葉は質厚く、細長く倒卵形または楕
円形で切れ込みはない。品質はキョウナに劣るとはいえ、冬から
早春の葉菜として賞用されています。

 春、鮮黄色の花をつけ、花弁は狭卵形でアブラナ科であるから
して、ト−ゼンながら十字花。ほかのつけ菜類よりせまく、がく
は披針状。早生・中生・晩生の3系統があり、晩生ほど葉の色が
濃い。
・アブラナ科アブラナ属の越年草


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▼(20)メキャベツ(コモチカンラン)(冬2月)

 ままごと遊びの道具に喜ばれそうな小さな野菜コモチカンラン。
直径2.5センチ位のキャベツのそっくりサンがゾロゾロとなります。

子だくさんの縁起をかつぎ、あやかるようにと婚礼の席に好んで
用いられます。芽キャベツの名もあり、キャベツは大きな球を結
びますが、これは茎の葉液の胞芽が球になったもの。

 普通のッキャベツでも収穫したあとの茎に、コモチカンランと
同じように小球がたくさんなることがあります。コモチカンラン
はこのことから発展させたものだそうです。

 原産はベルギ−地方。英名もブリュッセルス・スプラウツと原
産地の首都の名が入っています。日本へは明治の初年に渡来。煮
て、油いためでまた生食もします。甘味あり、和洋食に合います。
・アブラナ科アブラナ属の2年生草本


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▼(21)レイシ(ライチ)(冬2月)

 中国南部、ベトナム、ミャンマー(旧ビルマ) が原産地といわ
れるレイシが、中国では、紀元前1世紀からすでに栽培されていた
といわれます。

 中国・唐の時代、玄宗皇帝が寵愛(ちょうあい)した楊貴妃のた
めにこれを取り寄せた、という話は有名です。しかし、このレイシ、
当時の長安(いまの西安)の都からは、はるかかなたの嶺南(いま
の広東、広西)が産地です。その運搬の労役はいまでは想像もつき
ません。

 レイシの産地は、中国では福建、広東、四川などで、ほかに南ア
フリカ、インド、東南アジア、ハワイなどで作られているという。

 日本へは江戸時代に伝来しました。亜熱帯果実のため寒さに弱く、
栽培地は限られ、沖縄県、鹿児島県の大隅半島南端の佐多岬、屋久
島などでわずかに栽培されている程度だそうです。

 レイシは、英名でライチと呼ばれます。種子の周りについている
肉質多汁の仮種皮を生食する果実です。昔からスタミナのつく果実
として知られ、樹皮や根、花、種子はうがい薬やせき止めの薬とし
て利用されています。缶詰、乾焼、冷凍各品にも加工されています。

 なお、ウリ科のツルレイシも単にレイシの名で売られていること
もあリ、まぎらわしさを感じます。
・ムクロジ科レイシ属の常緑高木


 第12章(2月)終わり

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