【春の野菜・果物】第11章

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▼1月の野菜・果物【目次】

 ・(1)アーティーチョーク ・(2)石徹白カブ ・(3)伊予緋カブ
 ・(4)エビイモ(エビノイモ) ・(5)金町小カブ
 ・(6)コウサイタイ(紅菜苔) ・(7)コマツナ ・(8)コンニャク
 ・(9)サボイキャベージ(チリメンカンラン) ・(10)聖護院カブ
 ・(11)セルリアク ・(12)チコリー ・(13)ナズナ ・(14)ナメコ
 ・(15)ネギ ・(16)飛騨紅カブ ・(17)三浦ダイコン ・(18)ミツバ
 ・(19)ヤマノイモ(トトロイモ)

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▼(1)アーティーチョーク(冬1月)

 日本名チョウセンアザミ。名前のとおりアザミに似て、それよ
り葉や茎が大きい。食用部分は開花前のつぼみと花托(かたく)
の部分。花が開くと堅くなってしまいます。切り花用としての需
要も多い。

 原産は地中海沿岸。ヨーロッパの野生アザミから育成されたカ
ルドンをさらに改良したものだという。日本では江戸中期に鑑賞
のためすでに栽培されていたらしい。 のち明治19(1886)
年に入ったが普及せず。最近になりやっと三浦半島や房総半島で
つくられはじめたという。

 おとなのにぎり拳くらいのつぼみをゆで、多肉質の総包片をは
がし内側の果肉にバターやソースをつけて歯でしごいて食べます。
残った花托も切りながら食べます。

 この野菜には、たんぱく質、ビタミンA、ビタミンCや、カル
シウム、鉄、リンなどが多く含まれていて、動脈硬化や糖尿病、
肝臓障害、血液の浄化、貧血、腎臓病、コレステロールの低下な
どに効果があるそうです。

・キク科アザミ属の野菜


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▼(2)石徹(いと)白カブ(冬1月)

 岐阜県白鳥町石徹白で古くから栽培されるカブ。偏球形〜円錐
形のカブは地上部だけ紫紅色になります。葉はやや立ち、切れ込
みがあり、毛が多い。

 いまから約1500年前の戦国時代、蓮如上人が真宗を布教し、
真宗高山別院の掛所とし高山文化がこの地に流れ込んだころ、高
山文化と共にこのカブも入ってきたものといわれています。

 このカブは貯蔵性に富んでいて、春のとう立ちが遅く、冬から
春にかけての重要な野菜。漬け物や汁の実、ナマスなどに用いら
れます。かつては主に焼畑で栽培、いまも少しずつ栽培が行なわ
れています。

 農家は採種用の母本を焼畑から選び抜き、人里離れたした山畑
で採種を行ない、種子は郡上郡全域から福井県大野郡和泉村、旧
五箇村方面にまで販売しているそうです。
・アブラナ科アブラナ属の越年草



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▼(3)伊予緋カブ(冬1月)

 伊予緋カブは、愛媛県松山市特産の赤カブで、その歴史はかな
り古いとされています。言い伝えによると寛永12年(1635年)、伊
勢の藩主・松平定行が松山に転封の際、家臣が故郷から日野菜の
種子を取りよせ、栽培しはじめたのがはじまりとされています。

 またその前の藩主・蒲生忠知が近江から日野菜の種子を導入し
たことによるともいわれています。ま、いずれにしても江戸時代
の初期に導入、改良されて伊予緋カブになったわけです。

 このカブは、偏球〜円錐形で、地上、地下部とも濃紫紅色。収
穫が遅れると黒味を帯びます。肉質は緻密で漬物に適しています
が、煮食にはあまりむいていません。葉柄にも色がついています。
・アブラナ科アブラナ属の越年草


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▼(4)エビイモ(エビノイモ)(冬1月)

 京都の郷土料理「いもぼう」に使われるエビイモ。親子兼用種
でトウノイモの系統種だという。江戸後半期の安永年間(177
2〜1781)に九州から伝えられてから京都の特産として栽培
され棒だらと合わせて、もとは普通の家庭料理に「いもぼう」が
普及していたほどだという。

 しかし、いまは栽培地も大阪、兵庫、愛知、静岡等に移り、京
都では品種保存用につくられる程度だとか。京芋の別名もありま
す。子イモは数が少ないが大きく、頭の方が太く根本が細くなり
エビのように曲がっているのでエビイモの名があります。

 茎が1.5mにもなり紫褐色で、ズイキとしても利用されます。
同じ系統で茎の白いものがあり「白茎海老芋」と呼ばれています。
・サトイモ科サトイモ属の多年草


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▼(5)金町小カブ(冬1月)

 関東地方のカブの在来品種に「金町小カブ」というのがあります。
根が純白で質がやわらかく、整った美しい球形をしています。

 葉はいくぶん開張性で、細かい切れ目があり、また若い葉には毛
があります。春まきしてもとう立ちが遅く、冬から春にかけての栽
培にむいています。いまはたくさんの系統に分かれ全国的に栽培さ
れ、育種の親にも使われています。

 金町小カブは、東京都葛飾区下千葉町(もとの南足立郡綾瀬村・
いまの足立区綾瀬地区)(コンサイス日本地名事典)の原産で、以
前は下千葉小カブといっていましたが、のち主産地が葛飾区金町方
面に移ったため金町小カブと呼ばれるようになりました。

・アブラナ科アブラナ属の越年草


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▼(6)コウサイタイ(紅菜苔)(冬1月)

 花茎や葉柄が赤い紅菜苔(こうさいたい)。原産地は中国の揚子
江中流で、日本には第2次大戦中に入ってきたが、ほとんど定着
しませんでした。日本で作られるようになったのは、1970年
代の日中国交回復後。中国野菜がブームにのってさかんにPRさ
れていました。

 コウサイタイは、農林水産省の統一名称で、おもにとう立ちし
たつぼみと茎を浸し物、和え物、サラダなどに利用します。肉質
はやわらかく、ゆであげるときれいな緑色になり、甘みと粘り気
がでて歯ざわりもよいところから、近年人気が出てきた野菜。

 コウサイタイは、花茎が巻きたばこくらいの太さ。葉と葉脈が
あざやかな紫紅色で、葉は緑色、長倒卵形大型で基部にきれこみ
があります。1〜3月ごろ数十本の花茎をたて、黄色い花を咲か
せ、茎の紫紅色との対比が美しく観賞用にも利用されます。

 花が1,2輪咲いたころが収穫期。20〜30センチの長さに花茎
を次々につみとり、一株から30〜50本くらいと、長い生育期から
市場に入荷しはじめ、チンゲンサイと同様中国野菜のトップをき
って出回りました。
・アブラナ科アブラナ属の1、2年草


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▼(7)コマツナ(冬1月)

 東京の江戸川区の西部に小松川という所があります。そこに古
くから作られていた葉っぱがありました。冬にとれるので「冬菜」
とか「雪菜」と呼んでいました。

 徳川五大将軍綱吉というから、江戸時代も落ちついたあの元禄
の時代、「生類憐れみの令」のおかげにて、ノラのワン公も大いば
りの時代です。

 当時の武蔵国葛飾郡(むさしのくにかつしかごおり)小松川筋に
鷹野(たかの)というから、憐れみの令を出したにしては自分は鷹
狩りをしていたのですな。その鷹野の時、綱吉公が同じ葛飾郡新
掘村正曼寺の膳所で、はじめて冬菜を食べ「美味、美味」と感心。
「以後、小松菜と呼ぶがよかろう」と命名し、すっかり大好物に
……。

「その後、八大将軍吉宗公の世に至り、右小松川村仲台院へ膳を
遷され、のち再び同村より献納ありしになお賞翫ありしという。
よって近国にいたるまでその菜をあまねく小松菜と称す」と18
81(明治14)年出版の「東京府下農事要覧」に出ています。



 コマツナは、日本で古くから作られてきた菘やまつな、すずな
にはいるものとかで、研究者は「かぶな」と呼び、カブの仲間の
根の発達しない種類を葉菜用に改良したものだろうとされていま
す。

 江戸川や中川の下流にある小松川は東京湾に近く、東京でも一
番暖かなところ。冬菜の栽培にはもってこい。こっこで作ったコ
マツナは葉が軟らかく、甘味があるというので、需要もうなぎの
ぼり。明治も4年ごろから栽培も盛んになりました。また耐寒性
が強いというので各地に普及されはじめます。

 食用部になる根出葉はへら形で切れ込みがなく、葉肉は薄くて
やわらかい。春にはとう立ちして十字形の花を咲かせます。カブ
に似た種子をつけ、根は多少大きくなるが食用とはしません。

 ごく若いころ「つまみ」といって出荷する葉をツマミ菜といい、
ウグイスが亡くころ出回るというので特にウグイス菜とも呼びま
す。もう少し大きくなって畑の片方からジュウタンをまくり上げ
るように収穫する菜をマクリナ、もっと大きくして束ねて出荷す
るものをベカナというそうです。冬の青物の少ない時期、ひたし
物、漬け物、雑煮などに使います。

【効能】体を温める作用がある。ビタミンA、C、カルシウム、
鉄分が豊富なアルカリ食品。便秘に効果。
・アブラナ科アブラナ属の2年草

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▼(8)コンニャク(冬1月)

 コンニャク稲荷、コンニャクえんま、コンニャク神社と、地獄
から極楽、神さままでとりしきるコンニャク。これを食べるのは、
ビルマの一部と日本人だけといいます。

 コンニャクの原産地は、インドシナだとされています。昔々の
大昔、東南アジアの根菜農耕文化が北にむかって伝わっていくと
き、コンニャクもサトイモなどに混じって北上したのだという人
もいます。

 そうとすれば、弥生時代より前にすでに日本にあったことにな
り、仏教とともに伝来したどころか、稲よりも前になってしまし
ます。 

 ま、それはともかく、フツーは日本には中国から、仏教と伝来
といっしょに、精進料理の中に、また、遣唐使が持ち帰ったとい
うことになっています。

 コンニャクの最も古い記録は、延喜18年というから西暦91
8年(平安時代前期)に出た「本草和名」(日本最古の本草書で、
深江(深根)輔仁著)という本。それには「蒟蒻、一名蒻頭、和名
古に也久(こにやく)」と出ており、平安時代以前に伝来したこと
は確かなようです。

 鎌倉時代になり、禅宗の寺院で点心に供される糟鶏(そうけい)
という食べ物にコンニャクを使用してから、精進料理の材料にも
コンニャクを使うことが広まりました。

 点心というのは、今でいう間食のこと。当時の食事は、朝夕の
2回。その間に食べる「腹の虫おさえ」のうどんや、もちをいっ
たのだそうです。

 そのころは、コンニャクの球をつきくだいてもちにし、濃いア
クに石灰を加えて煮固めたもの。コンニャクが、庶民の食品とし
て広まったのは江戸時代になってから。作り方も今と同じ粉コン
ニャク製法が開発されます。

 常陸国諸沢の籐右衛門が、コンニャクイモを乾燥させ、砕いて
粉末にする方法を考え出し、保存、輸送に便利にしたので、販路
は拡大、全国での生産の中心になりました。



 水戸藩は、袋田村に「蒟蒻会所」をおき、江戸には玉問屋をつ
くり、コンニャクの荒粉を全国的に売り出すようになりました。

 コンニャクは、料理ばかりでなく、神事に薬にも利用され、ゴ
ム、塗料、防水布など工業用にも多く使用されました。とくに第
二次大戦の時の風船爆弾。偏西風に乗せてアメリカ本土めがけて
放ちました。

 栄養価がないのでやせるための美容食に、消化がわるいので「腹
の砂払」などともいわれ、いろいろな料理法で食べられています。
【効能】ノンカロリー食品。美容・肥満解消。
・サトイモ科コンニャク属の多年草。図鑑によってはテンナンシ
ョウ科

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▼(9)サボイキャベージ(チリメンカンラン)(冬1月)

 サボイキャベージ(縮緬甘藍)はキャベツの変種。ふつうのキ
ャベツに似ていますが葉に縮みがあり、結球がやわらかく中まで
緑色で、質もやわらく、栄養もあるという。

 日本には明治初年に伝わり、明治6年の開拓使蔵版の『西洋蔬
菜栽培法』に記載があります。ふつう春から初夏にタネをまき、
霜の降りるころに収穫すると、葉がやわらかくなり一種の芳香が
つきます。主にサラダなどの生食用で、煮物、油炒めなどにも利
用されます。

 品種には、パーフェクション・ドラムヘッド、ウインターカプ
チナ、チーフタン・サボイなどがあります。葉に縮みができるの
は葉えいの部分より、葉肉の成長が早いからだといいます。
・アブラナ科アブラナ属の越年草


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▼(10)聖護院カブ(冬1月)

 直径15〜18センチの扁円で日本で最大の白カブ。この千枚
漬けは、北海道赤カブ千枚漬けと共に全国一だという。享保年間
(18716〜36)京都・愛宕郡聖護院(いまの左京区聖護院)
の農業、伊勢屋利八という人が近江国堅田から近江カブの種子を
とりよせ栽培。

 京都の風土に合い巨大なカブが出来、聖護院カブと名づけまし
た。色は白色かまたはすこし黄色みをおび、肉質がむっちりとキ
メ細かく、甘味が多いので煮食にもよい。天保年間に千枚漬けが
ができて、聖護院カブは一層有名になりました。

 利八は、野菜作りに熱心で、天保元年(1830)早生野菜の
先進地である和歌山へ調査に行き、川原の石を集めて太陽熱で暖
め、わら囲いをしてさくもつの根本の温度をあげ収穫を早め、6
月頃に野菜を出荷したりしたそうです。
・アブラナ科アブラナ属のカブの一種


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▼(11)セルリアク(冬1月)

 セロリと同野生種から発達したセロリの変種。根セロリともい
ってカブのような根を食べます。南ヨーロッパ原産で17世紀イ
タリアが最初だという。

 葉や葉柄はセロリに似ていますがあまり大きくならず、苦くて
堅い。そのかわり直径10センチくらいに肥大した球状の根を利
用。セロリと同じ香りがします。

 日本には明治初年に伝来。明治6年(1873)の「西洋蔬菜
栽培法」(開拓使蔵版)に「セルレアカ、白芹(セロリ)、3月2
0日頃苗地に白芹の如く播種し……」と記載されています。

 若い根を生のままサラダのし、大きくなったものはスープやシ
チュー、バターいため、フランス料理に利用されます。
・セリ科セロリ属のセロリの変種


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▼(12)チコリー(冬1月)

 スーパーなどの店頭にハクサイの芯のような形のチコリーがな
らんでいます。これは春種をまき、株を養成、秋に掘って植えこ
み、おがくずなどをあつくかけ、春の芽生えを軟白したもの。

 チコリーは、生でサラダにしたり、1枚ずつはがした葉にいろ
いろなものをのせ、オードブルに、またグラタン、バターいため、
蒸し煮などに利用します。またこの根を刻んで乾燥、炒って粉末
にしたものはコーヒーに混ぜると味がまろやかになるという。そ
の他根を煮食したりします。

 チコリーは、ヨーロッパ、北アフリカ、中央アジアの原産。フ
ランスでは早くから栽培して食べていたといい、日本には江戸末
期に伝来し、チコレと呼んでいましたが、普及はしませんでした。
葉に強い苦みがあり、キクニガナの異名があります。

 春、太い根から先のとがった根出葉を出し、茎をのばし、夏に
とう立ちし1〜2mの高さになり、花を咲かせます。花は品種に
より、青紫、淡紅、白色などいろいろ。花は径3センチくらいで
タンポポに似た形。

 茎や葉、根を傷つけると白い乳液が出ます。乳白色でよく葉が
抱合したものがよい。
キク科キクジシャ属の1年草。


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▼(13)ナズナ(冬1月)

 中国野菜のナズナは、タンパク質や糖分も多く、ビタミンA・
B・C・Pに富み、栄養価も高い。これは日本でもおなじみ、春
の七草に利用されるナズナで、野生種を改良したものだという。

 料理方法はほうれん草と同じ利用法で、風味を生かして和え物、
肉や野菜と炒めてもよく、細かく刻んで餃子の具にも利用されま
す。

 品種には、板葉薺菜と散葉薺菜があります。板葉薺菜は大場薺
菜とも呼び、葉片が大きくて厚く、羽状深裂で葉の縁のギザギザ
が浅く、浅緑色。耐寒性、耐暑性は強い方です。品質、味ともに
よい。

 散葉薺菜は細葉薺菜とも呼び、葉が短小で薄く、羽状全裂で葉
縁の切れ込みは深く色は緑色。収量は板葉種に比べやや落ちるが
品質優良で香気が強く、味がきわめて良いそうです。

 春まき、夏まき、秋まきがあり、秋まきは9月上旬から下旬に
かけて播種し、10月ごろから翌年の3月まで収穫できます。
・アブラナ科ナズナ属の越年草


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▼(14)ナメコ(冬1月)

 秋から冬、広葉樹の、特にブナの枯れ木や切り株に生えるナメ
コ。いまでは人工栽培で行われています。日本の原産。表面にぬ
めりがあるため、ナメコの名がつけられています。地方名もナメ
スギタケ、ナメススキ、ヌラボコなどと呼ばれているそうです。

 ナメコ栽培は、ブナやトチの原木に種菌を植える方法と、おが
くず培養基に種菌を植えるおがくず栽培があり、広口のびんで培
養するびん栽培も行われています。

 とくに近年広まったのが箱栽培。魚運搬用の木箱を用いて、お
がくずと米ぬかの混ぜたものを蒸気で殺菌。ポリエチレン布など
を敷いた箱に移し、種菌を接種。アオカビなどの害菌が入らない
よう気を使うという。こうして3、4ヶ月で菌糸が発育、やがて
キノコが発生します。

 昭和初期、東北地方が凶作になったとき、その対策として農家
の副業としてナメコ栽培が始まったという。戦前は、山形、福島
のものが高級品とされていましたが、いまでは全国的に普及して
います。

 ナメコは傘が3から8センチ。表面は黄褐色で、中央は茶褐色。
茎の長さ2から8センチぐらいでつばがあります。買うときは傘
があまり開ききらないもの、ぬめりが多く肉の厚いものがよい。
・モエギダケ科スギタケ属のキノコ


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▼(15)ネギ(冬1月)

 ネギも古くからつくられている作物です。「日本書紀」(720
年)や「万葉集」に出ており中国では「爾雅(じが)」という古い
本に「葱は本白くして末青し、青色は最も美なり。而して青は之
を葱ともいう」とあるそうです。

 古いといってもこの本ただの古さではなく、周から漢の時代にか
けて大勢の儒家が採録したというシロモノ。日本でも「日本書紀」、
「万葉集」のほか「本草和名」(918)や「延喜式」(927)、「倭
名類聚抄」(934)など続々と登場します。

 また、聖武天皇の天平9年(737)に天然痘が大流行、そのと
きの予防の法令の中に、ネギをたくさん食べないようにという個
条があったとか。天然痘とネギの関係ウンヌンは別にして、かな
りイニシエから食べられていたことはたしか。

 ネギはなぜネギというのか。それは……むかしネギはキ(葱)と呼
ばれていました。ではなぜ「キ」か?「きとはきたないの「き」な
り。そのにおいくさくきたなし」(「日本釈名」)。「葱(き)は気の
義なり。根葱、分葱、刈葱などと称せり」(「倭訓栞」)。「本名葱
一音なれば、一文字の異名もあり、根を賞するにより根葱(ねぎ)
という」(「言海」)などと古書にあり。

 ネギは臭気があるので気といい、気は岐、葱に通じ(どうしてェ?)、
根を賞味するので「ネギ」なのであります。(アーくるしかった)。



 ネギには胃腸をととのえ、寄生虫駆除などモロモロの薬効もあ
るそうなので、ナベ料理に薬味にくし焼き、てんぷらと「…その
においくさくきたなし……」などといわず、大いに食べようでは
ありませんか。

 ちなみにフランスでは、アスパラガスの代用にマヨネーズをか
けて食べることもあるそうです。

【効能】ネギには神経を休める鎮静効果があり、不眠に効あり。
健胃効果・鎮咳効果もあるという。風邪や頭痛の時に、ネギを煎
じて飲用。または細かく刻んで生味噌を加え、熱湯をかき混ぜ熱
くして飲みます。ネギとショウガを混ぜて煎じて飲んでもよい。

 咳や不眠症に、白ネギを5センチくらいに切り、布に包んで鼻
の所に置いて呼吸をします。
・ユリ科ネギ属の多年生草本

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▼(16)飛騨紅カブ(冬1月)

 アカカブは各地に名産がありますが、飛騨紅カブもそのひとつ。
これは、飛騨地方・岐阜県高山市付近で栽培されているもので、
長い間雪の中に閉ざされる飛騨地方では、大昔から保存食として
いろいろな漬け物に利用して、大事にされてきたといいます。

 丸のまま塩漬けにした「カブの丸漬け」、ナスやキュウリ、キノ
コなどとともに塩で漬け込んだ「品漬け」などは有名で、どれも
紅色をしています。飛騨紅カブは、食部分の根がやや扁平な形で、
皮が緋紅色をしていてきれいです。

 葉の柄は紅色が全くなく、緑色をしているのが他のアカカブと
異なるところ。かつては、高山市を流れる宮川はこの野菜を洗う
人たちでにぎわい、「宮川の菜洗い」は冬を告げる風物詩だったと
いいます。
アブラナ科アブラナ属の越年草


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▼(17)三浦ダイコン(冬1月)

 首が細く、中央部が太い極晩生の三浦ダイコン。1月中旬から
3月の中旬ごろまで出回ります。三浦ダイコンは、その名のよう
に神奈川県三浦半島の原産。

 かつては横浜市付近に、中膨(なかぶくら)ダイコンと呼ばれ
る、根が短く、胴の太い晩生のダイコンがありました。これと練
馬ダイコンが自然交雑。

 そのなかから選抜育成してできたのが三浦ダイコン。その時協
力したのが東京練馬区春日町の鹿島安太郎。練馬ダイコンの栽培
改善、品種改良につくし、ダイコン博士と呼ばれていたという。

 温暖な三浦半島では、冬でもよく成長、肥大しつづけ、春にな
っても「す」が入らず、肉質がやわらかく甘味に富んでいます。
このダイコンは、長さ60〜70センチになり、首は細いが下に
いくほどだんだん太くなり、4分の3くらいのところでは、直径
15〜189センチにもなり、先端は急に細くなってとがります。
一本の重さが2.6〜3キロ。

 戦中、戦後にかけて、不完全な自家採取で品質が悪化したこと
があったが、神奈川県農業試験場で優良系統をあつめて選抜、昭
和27年に「早生三浦」を作出。普及栽培されるようになったと
いう。
・アブラナ科ダイコン属の根菜


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▼(18)ミツバ(冬1月)

 ミツバは三ツ葉であり、読んでの通り、三つの小葉があるとこ
ろからついた名前です。ミツバゼリともいって、日本に大昔から
あるセリ科の多年草であります。

 ミツバはもともと山野の日陰に自生していたもの。つまり野草
でありました。プーンとくるあの独特の香りが好まれ「庭の隅に
でも植えてみよう」ということになり、だんだん野菜に昇格、つ
いにはハウスで栽培されるようにまでなっていきます。

 ついでながらあのプーンのもとはクリプトテーネンとミツバエ
ンという成分だそうであります。だからどうしたといわれると困
りますが、この香りが原因かミツバを料理に使う習慣はアメリカ
やヨーロッパにはないとか。栽培してまで利用するのは日本と中
国だけなのであります。

 ミツバをたべはじめたのは正徳年間(1711〜16)。貝原益軒が「菜
譜」という本に書いています。それによると「本草に載せず。救
荒本草(明代の本)に見えたり。毒なし。性は大抵セリと同じか
るべし……その茎の味よし。昔は食わず、近年食しはじめ、市に
ても売る」と……。

 享保年間(1716〜36)になり、東京・葛飾の水元町で軟白栽培
をはじめ、おとなり千葉県松戸で改良、関東一円に広がったもの。
明治も30年代になり、関西へ伝播されたのでありました。
セリ科ミツバ属の多年草


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▼(19)ヤマノイモ(トトロイモ)(冬1月)

 ヤマノイモには野生のジネンジョ、畑で栽培する野菜としての
ナガイモ、三重県特産のむかごができないダイジョ、小型で甘味
のあるトゲイモ(日本では南西諸島で栽培)、クリのような味の
するカシュウイモなどの種類があります。

 ナガイモは中国南西部の雲南地方原産。日本には中世に朝鮮半
島を経由して入ってきたという。イモの形により大きくナガイモ
(長形種)群とイチョウイモ(偏平種)群、ツクネイモ(塊形種)
群の3つに分けられます。

・ナガイモ群のナガイモや育成が早い一年イモは細長く、北海道、
長野、東北地方などで多く栽培。また、やや太く短いトクリイモ、
キネイモなどは関東から関西で作られます。粘りけが少なく、含
め煮、せん切りに利用。

・イチョウイモ群は、関東ではヤマトイモとも呼び、粘り気が強
くトロロ汁によい。イチョウの形をしたイチョウイモ、手のひら
の形をした仏掌イモなどの品種があります。

・ツクネイモ群(関西ではこれを同じくヤマトイモという)は、
げんこつのようなかたまり。丹波ヤマノイモ、伊勢イモ、大和イ
モなどの品種があります。粘り気が強く良品質。関西から石川、
愛媛などで栽培。トロロ汁や菓子の材料にされています。

【効能】強精・強壮食品。糖尿病・頻尿・寝汗精力減退に。
・ヤマノイモ科ヤマノイモ属のつる性植物


 第11章【春の野菜・果物】(1月)終わり

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