【クスリになる野菜・果物】第10章

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▼12月の野菜・果物

 ・(1)アカカブ ・(2)赤キャベツ(紫キャベツ) ・(3)温海カブ
 ・(4)開田カブ ・(5)キウイフルーツ ・(6)クワイ
 ・(7)河内カブ(コウチカブ) ・(8)コラード ・(9)サントウサイ
 ・(10)聖護院ダイコン ・(11)スグキナ ・(12)セリ ・(13)チョロギ
 ・(14)チンゲンサイ ・(15)トウガン ・(16)トンブリ(ホウキギ)
 ・(17)ニンジン ・(18)パースニップ(シロニンジン・清正ニンジン)
 ・(19)ヒロシマナ ・(20)ミカン(温州ミカン) ・(21)ヤツガシラ
 ・(22)ユズ ・(23)ユリ根 ・(24)リーキ ・(25)ルタバガ(カブカンラン)
 ・(26)ワサビ

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▼(1)アカカブ(冬12月)

 アカカブは、文字どおり赤みをおびているカブの総称で、根の
表皮だけと根の中まで全体が赤いものがあります。もともとフラ
ンス系のアカカブから選び出されたものといわれ、日本の各地の
風土にの合わせた特産として栽培されているものが多い。色がき
れいなので漬け物に利用されています。           

 アカカブの紅色は、アントシアン系のシアニンというもので、
この色素は酸性によって赤味が増すため、酢につけたり、塩漬け
にし、乳酸発酵させると美しい色になります。

 その主な品種に、伊予緋カブ、飛騨紅カブ、津田カブなどがあ
ります。「伊予緋カブ」は愛媛県松山近郊で多く栽培されていま
す。「松山城の見えるところでないと育たない」とか「日招八幡
社の太鼓の音が聞こえる範囲でないと赤くならない」など面白い
いいつたえがあります。

 根の形は扁平中型。外皮、葉柄、葉脈とも紫がかった紅色で、
肉の色は白いが紅色がかっています。ややかたく、甘味は少ない。
ヒカブラ、ベニカブなどの名があります。酢漬け、ぬかみそにす
るといっそう色がはえます。

 「飛騨紅カブ」は岐阜県原産。高山市付近で栽培されています。
根の形がやや扁平で、外皮が緋紅色。ほかのアカカブとちがい、
葉柄に赤味がなく緑色。漬け物は紅色が美しく、雪の多いこの地
方では、古くから保存食に利用されていました。

 「津田カブ」は島根県で栽培。根茎が曲玉状の形で、上は太い
が、下部は細く曲がっています。地上部は紫がかった紅色で、地
中のわん曲部は皮も肉も白く、肉質はち密でやわらかく甘味が強
い。松江藩の祖・松平直政の時代(江戸時代初期)から栽培され
ていたという。

 その他、山形の温海(あつみ)カブ、鳥取の米子カブ、福井の
河内カブ、福井県の大野紅、滋賀の大薮などの品種があります。
・アブラナ科アブラナ属のカブの根の表皮や肉の赤みをおびてい
るもの


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▼(2)赤キャベツ(紫キャベツ)(冬12月)

 紫甘藍とかレッド・キャベ−ジなどとも呼ばれるその名も赤キ
ャベツ。日本に渡ってきたのは明治の初年ながら、なぜかなじま
ず、国内で改良された品種もありません。また、球もほかのキャ
ベツにくらべ、外葉の割に小さくもあり、栽培があまり普及しま
せんでした。

 名前のもとになっている、この赤い色素はアントシアンという
ものだそうで、秋の紅葉とか、紅色や紫色の葉と同じ色素なのだ
そうです。これは他のキャベツの仲間「ハボタン」も同じだとか。

 アントシアンというのは葉や茎の表皮だけにあって、その下の
細胞は普通の緑色や白なので、切り口がきれいな模様になるわけ
です。赤い色を生かしてピクルスにすることが多く「ピックリン
グ・キャベ−ジ」とも呼ばれています。

・アブラナ科アブラナ属の越年草


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▼(3)温海(あつみ)カブ(冬12月)

 温海カブは山形県温海(あつみ)町を中心に古くから作られてき
たカブ。紫紅色をした偏球形のカブで、地中の光の当らない部分
も着色しています。肉質はやや硬く、しまって甘味があります。
ナマスや漬物にした温海カブの味はまた格別です。

 温海カブは、いまでも栽培は廃畑農法で行なわれているといい、
その最も古い記録は、寛文12年(1672年)の『松竹往来』という
本に記載があり、日本で最も古い品鍾の一つといいわれています。

 江戸時代の中期には温海カブのアバ漬が広く知られ江戸まで送
っていたという。そのころから温海カブは、庄内を代表する産物
になっていたらしい。野菜があまり商品化されないこの時代に、
高い代価が支払われた記録もあり、温海カブは相当に珍重されて
いたといいます。
・アブラナ科アブラナ属のカブの一種


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▼(4)開田(かいだ)カブ(冬12月)

 木曽御嶽山の東麓・長野県開田村の末川を中心に古くから栽培さ
れているカブで末川カブとも呼ばれています。濃い紫紅色で扁平形
をしています。肉質はち密で貯蔵しやく、葉と根を汁の実や漬け物
として春先まで食べられます。

 当地ではほかのナタネ類の栽培を前にこのカブの種子を採取して
農協を通じ、県内各地から県外にまで販売しています。開田カブは
明治の初期には灯油の原料に採種されたこともあるそうです。

 長野県の木曽谷には同様のカブが各地にあり、末川カブと同じよ
うに王滝カブ、黒瀬カブ、吉野カブ、木祖村カブなどと栽培地の名
で呼ばれています。王滝カブはやや長形のものと丸形があり根身は
紫紅色をしています。
・アブラナ科アブラナ属のカブの一種


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▼(5)キウイフルーツ(冬12月)

 ついこの間までは、珍しいくだものだったキウイフルーツもこ
のごろは、一般家庭でも庭に棚をつくって栽培しているのを見か
けます。

 主産地はニュージーランドで、その形がニュージーランド特産
で、国鳥にもなっている羽のないキウイという鳥に似ているっと
いうのでキウイフルーツの名がつきました。だからトーゼン原産
地はかの国かと思っていたら、それがとんでもハップン。

 原産地は、おとなりの中国の中南部から南西部。中国名を羊桃
(ヤンタオ)、陽桃(ヤンタオ)などといい、和名をオニマタタビ、
シナサルナシともいいます。

 1900年ごろ、ニュージーランドの人が中国を旅行して羊桃
の種子を持ち帰ります。さっそく種をまき、やっと実がなったの
は1910年のこと。

 その後研究を重ね、改良を重ね、また実生、選抜をくり返し、
栽培者もふえ、いまではキウイフルーツの生産地といえばニュー
ジーランドといわれるようになりました。

 キウイフルーツは苗を植えてから、実が生るまでも4、5年は
かかり、営業生産までは7、8年かかるといわれますが、以後は
長期収穫でき、寿命が長く、原産地の中国浙江省には100年以
上の木があるといいます。

 キウイフルーツは、温暖な地域での栽培が適すといわれ、主産
地のニュージーランドの他、アメリカ西部、オーストラリア、日
本などで栽培され、耐寒性の改良品種も育成されています。

 日本へは、昭和39年(1964)に果実が輸入され、昭和4
4年(1969)には苗から育成、果実がなったという。キウイ
フルーツは雌雄異株で雌株数本に対し雄株一本が必要です。

 品種には、果実が大きくて日持ちのよいヘイワード、果実が細
長くあざやかな緑色をしたブルーノ、果実は小さいがよく収穫で
きるモンティの他、アボット、アリソンなどがあり、最近は黄色
い果肉の品種もつくられています。

【効能】ビタミンCがミカンの2.5倍。ビタミンA(カロチン)
も豊富。ビタミンEも含まれ、肌荒れ・シミ・ソバカスなどに効
果あり。成人病予防。美肌効果。
・マタタビ科マタタビ属の落葉つる性小木


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▼(6)クワイ(冬12月)

 正月用に農家の人がクワイを収穫しています。クワイの塊茎に
は来年春にのびる芽が出ているため、だれが言い出したのか「目
(芽)出たい」野菜とされ、正月料理に欠かせない縁起物の食材
になっています。傷がなく、芽のよく伸びたものを選びます。

 クワイの原産地・中国では、「名医別録」という西暦452〜5
36年ころの本にも出てくるというほど昔から作られていたとい
う。

 中国名「慈姑」。難しい文字ですが、クワイは泥の中で地下茎の
先に丸い根茎をつけることから「ひとつの根に毎年12もの子供
ができて、慈しみ深い姑(母のこと)がやさしく子供たちに乳を
与えているのに似ている」から、慈姑の字が当てられたとされて
います(「本草綱目」)。

 また新井白石の説によれば、クワイの「クワ」は鍬のことで、「イ」
は芋のイで「葉が鍬の形をした芋」のことなのだそうです。また
またの説。クワイとは「食いうるイ(蘭)」の意味だとする説もあ
ります。いろいろと考えるものです。一種の苦味と甘味をもって
いて、独特の歯ざわりがあり、味が栗に似ているので地栗の名も
あるという。

 それが日本に伝来し、平安時代には栽培されていたらしく、「倭
名類聚抄・わみょうるいじゅうしょう」に「沢瀉(なまゐ)と烏
芋(くわゐ)」の名が出てきます。しかし、ここの出てくる「くわ
ゐ」とあるのはクログワイ(カヤツリグサ科)のこと。むしろ「な
まゐ」とあるのが、クワイ・オモダカのことだそうであります。

 クワイを食べると、肺を潤し咳を止める作用があるそうです。
主成分はでんぷんで、根菜類としてはビタミンB1、B12、リ
ンを比較的多く含んでいるという。皮をむいたクワイを1ミリほ
どの厚さの輪切りにして水にさらしたのち、陰干ししてから油で
揚げ、塩味で食べる「クワイせんべい」というのもあります。



 野菜として食べるのは日本と中国だけで、欧米ではもっぱら観
賞用に栽培するそうです。だそうです。5月下旬ごろ水田に塊茎
を植え込み、晩夏に株から少しはなれたところを根まわしして大
球を多くします。冬に収穫します。

 おもな品種に、青クワイ:最も一般的なクワイ。正円形で外皮
が青みをおびています。関東地方で多く栽培され、とくに埼玉県
では、全国の八割が収穫されています。白クワイ:大型で苦味が
強く、味は青クワイより劣るといわれています。シナクワイとも
呼ばれ、大阪、岡山などが主産地。吹田クワイ:小型で味のよい
品種。高級料理に用いられます。豆クワイ、姫クワイともいいま
す。大阪の吹田地方で栽培されています。

 また、「黒クワイ」と呼ばれるものは、クワイとは別種のカヤツ
リグサ科。小ぶりで黒色、粘りがあります。

【効能】主成分はでんぷん。根菜類としてはビタミンB1、B2、
リンを比較的多く含んでいます。肺を潤し、咳を止める作用があ
るという。
・オモダカ科オモダカ属の多年生根菜。

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▼(7)河内赤カブ(コウチアカカブ)(冬12月)

 河内赤カブは太子カブ、大野赤カブとも呼ばれ、栽培の歴史は
古く、平家の落人と結びついた伝承があり、また聖徳太子が奈良
から入れられたものともいわれ、太子カブとも呼んでいます。

 河内アカカブは福井県美山町河内の地名に由来するもので焼畑
で栽培されてきたという。葉は切れ込みがあって、いくぶん開き
かげんで、毛が多く洋種系の特徴があります。葉柄基部に、わず
かに紅色が現われるくらい。                

 カブは球形か偏球形で鮮紅色。肉質はやや硬く甘味に富んでい
ます。かす漬け、醤油漬け、塩漬け、千枚漬けなどに利用されま
す。塩漬け、かす漬けは翌年の田植えころから夏まで食べられま
す。また生で貯蔵、汁の実やナマスにしても利用されます。
・アブラナ科アブラナ属のカブの一種


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▼(8)コラード(冬12月)

 キャベツの一種で葉が結球しないものにケール(ハゴロモカン
ラン)があります。そのなかでさらに葉がちりめん状でないもの
をコラードといい、若い葉をかきとって煮物、サラダ用また炒め
もの、汁の実、青汁用として利用します。

 ケールは、草丈が高いものや低いもの、葉の縮みも多い種類や
少ない種類などいろいろな品種があるが、コラードも含めてまと
めてケールと呼ぶことも多い。

 コラードはカキバカンランともいい、二年または多年草。茎立
ちし、葉は肉厚でやわらかい。耐暑制・耐寒性にすぐれ栽培しや
すという。青物の少ない夏や冬に収穫できて重宝します。台湾に
ある芥藍という野菜もコラーズの一種だとか。

【効能】カロチン(ビタミンA効力)、ビタミンCが多いという。
・アブラナ科アブラナ属の2年または多年草。


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▼(9)サントウサイ(冬12月)

 サントウサイ(山東菜)は、ハクサイの系統で、非結球性、半
結球性の野菜のことですが、結球性の品種もあります。明治初年、
日本に導入された中国山東省原産のサントウハクサイ(山東白菜)
から変わったものといわれています。

 葉は長円形で淡い緑色。葉柄は直立し、扁平で真っ白。品種に
丸葉サントウサイと切り葉サントウサイがあります。切り葉のヘ
リはギザギザがあって波うちが激しい。

 切り葉サントウサイから作出したゴセキベカナは、東京・江戸
川、葛飾あたりで古くから栽培されてきた品種。ゴセキとはつく
っていた人の名前。ベカナは「束ね菜」の意味だとか。育ちが早
く、暑さ寒さに強く、肉厚な葉でふちのきざみが深く少なく波状。
中心の葉は巻いていて半結球性だという。

 サントウサイは8月下旬から9月下旬に種をまき、12月上、
中旬に収穫。繊維が少なく多収。葉を煮物に、また漬け物に利用。
漬け込み期間が長いため繊維のやわらかいものを選ぶのがよいと
いう。

 生の葉100グラム中、20グラムのビタミンCを含んでいる
が、煮たり漬けたりするとほとんどが逃げてしまうという。愛知
県産が有名。

【効能】肺を潤し咳を止める作用。ビタミンA(カロチン)はハ
クサイより多い。
・アブラナ科アブラナ属の1年草


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▼(10)聖護院ダイコン(冬12月)

 京都市左京区の天台修験本山派の本山聖護院を中心とした文京
地区は、その名も聖護院。そこの名物聖護院ダイコンは、江戸時代
後期の文政年間(1818〜1830)、尾張からとりよせた宮重
ダイコンから改良育成したとされ、根が太く短く、カブに似て球
形または楕円形をしています。

 肉質がち密でやわらかく、甘味が強くでんぷん質で、その品種
から宮重ダイコンとネズミダイコンの交雑種ではないかといわれ
ています。煮たとき繊維が残らず、煮くずれしないので、煮大根
としてとくにふろふきに、またカブの代用に千枚漬けに利用され
ます。

 根が偏平な早生種、丸形の中生種、長円形の晩成種があって、
中生種がいちばん栽培が多い。極早生種は鞍馬口、晩成種は淀ダ
イコンなどと呼ばれています。
・アブラナ科アブラナ属の1、2年草(秋ダイコン)


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▼(11)スグキナ(冬12月)

 スグキナといわれても、べつに呼ばれているわけではありませ
ん。昔から京都加茂名産として有名なカブの一系統で酢茎漬けに
するもの。でも、古くは加茂菜といっていたといい、カモン?菜、
すぐ来なとくればなにやらんとんで行きたくなります。

 まあ、そんなことはおいておくこととして、そもそもスグキナ
の名は1844年(弘化元年)の重修本草綱目啓蒙という本には
じめて顔を出します。その起源についてははっきりしないが、上
賀茂神社の記録には元禄年間(1688〜1704)以後これあ
りと記されています。                   

 もとは野生であったのをいつのころからか栽培されて特産とな
ったもので古い野菜にまちがいありません。

 しかし、いまのものはスグキナと聖護院カブとの交雑種だとい
われ、昔のスグキナは絶滅したとされています。スグキナは酢茎
菜の意味で根と葉といっしょに塩漬けにすると酸味が出てくるの
でついた名前です。
・アブラナ科アブラナ属の2年草


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▼(12)セリ(冬12月)

 冷たい田んぼで農家の人がセリの収穫に精を出しています。セリ
は日本のほかアジアからオセアニアにかけて分布し、古くから栽培
されてきた野菜のひとつ。

 ことに中国では紀元前17〜紀元前12世紀のころから利用され、
「菜の美なるに芹あり」といわれ、賞味されてきました。きました
と言ってもべつに私がこの目で見たわけではないけれど……。

 世界でもっとも古いといわれる中国の農書「斉民要術」(6世紀)
の「巻三」にミョウガとならびセリがとりあげられ、利用法と栽培
法が載っています。

 日本でも「古事記」や「神代記」(711年)に記事があり、そ
のころは「ソリ」と呼んでいました。平安時代にはすでに栽培され
ていたらしく「延喜式」(927年)にその様子が書かれています。

 江戸中期・1695年(元禄8)の「本朝食鑑」には水芹、陸芹
のほかに赤茎、白茎の品種があって、正月の七草がゆにし、1年の
邪気をはらうためににあじわうと出ています。

 また「大和本草」(貝原益軒著・1708年)などは「圃中の陸
ニ生ジタルハ水ニ生ズルニマサレリト本草ニシルセリ。然レドモ泥
中ニ生ジテ白根ノ長キヲヨシトス……凡芹ハ性味ヨシ野菜ノ内ニテ
上品ナリ……」といったほめようです。

 日本原産であるセリは「春の七草」のひとつでもあり「セリ、ナ
ズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ……」とその筆頭にあげら
れるなど日本人に親しまれ、万葉集にも歌われているのはご存知の
通りです。

 セリは茎が地をはって節から根を出して盛んに殖え、ビッシリと
生えます。その様子が「競り合っている」ようなのでセリという名
前になったとか。まるでバカにされているような話ですがちゃんと
図鑑に書いてあります。

 セリの栽培には水田栽培と畑地栽培があり、セリ田は生長するに
つれ、水を増やし50センチの水深にして茎を伸ばして軟化します。

【効能】葉にはよい香りのする精油とビタミン類が含まれ、食欲増
進、去痰作用、発汗、補温作用があり、かぜに、またしもやけ、便
秘、利尿などに、煮食すると神経痛、リウマチに効ありといいます。
・セリ科セリ属の多年草


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▼(13)チョロギ(冬12月)

 チョロギとは面白い名前です。シソ科の植物の根茎で、イモム
シのような変わった形をしています。チョロギを千代老木や長老
木、長老芋、松老花などと当て字してめでたがり、縁起植物にも
なっています。

 めでたついでに、梅酢につけ赤く染めて黒豆を似たものに混ぜ
て、正月のお節料理に使います。また、煮るとユリ根に似た味が
し、煮食したり和え物、吸い物、ゆでてバター炒めなどにします。

 掘られたチョロギは外の空気のに触れると色が赤褐色に変わる
ので、すぐ水の入った器に入れて変色を防ぐのだという。色は白
色半透明で、きれいなのでピクルスや塩漬け、砂糖漬けなどにし
て貯蔵されます。

 チョロギの名は。朝露が落ちて地中にできた玉という意味の「朝
露葱」からきたというが、実際は韓国語のチーロイン(ミミズ)
の訛ったものというからちょっとがっかりします。そういわれれ
ばチョロギの根茎は、節が多くて細長く、見ようによってはそん
な形に見えなくもありません。

 根茎の形から、ショロキ、チロノキ、チョロク、またネジリイ
モ、ヒダリネジ、クビレイモ、ヨメノゾキ、トロミなどの地方名
あるという。カイコにも似ており「草石蚕」と漢字で書かれたり
します(週間『朝日百科世界の植物』)。

 また味から別名を甘露子(児)ともいう(「新・食品事典』)が、
形が数珠にも似ているので天下太平のしるしとして降った甘露が、
地中でこんな形になったと考えたのだろうともいわれています。

 チョロギは中国原産で栽培の歴史は古く、日本には江戸時代初
期に渡来したといい、1612(慶長12)年の『多識編』や1704(宝
永元)年の「菜譜」には、和え物、吸い物にいれ、みそにつけて
よしとあり、蜜につけ菓子として食べていたらしいという。

 この野菜は高さ30〜60センチで、茎は直立します。断面は四角
形で、葉は長卵形でまわりに鋸歯があります。7〜9月ころ茎の
先端に淡紫色の花を穂状につけて咲かせます。

 根茎は地下茎の先端にでき、長さ3センチ、太さ1.5センチ
くらいで白く、中央部は数段にくびれ、先は細くなっています。
・シソ科イヌゴマ属の越年草


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▼(14)チンゲンサイ(冬12月)

 一時期ブームになったになった中国野菜。その中でも人気があ
ったのがチンゲンサイです。チンゲンサイは、結球しない小白菜
(シャオバイツァイ)の一種だという。

 中国では、白菜(バイツァイ)と呼ばれるものにハクサイ(中
国名)とタイナ(中国名)があります。そのうち、結球するもの
(ハクサイ)を大白菜(ダァバイツァイ)といい、結球しないも
の(タイサイ)を小白菜と呼ぶのだそうです。

 さらに小白菜のうち、葉柄(茎)の色が淡緑色のものと、白い
ものがあります。日本では、緑色の方を青茎(青軸)パクチョイ、
また白い方を白茎(白軸)パクチョイと呼んでいました。

 ところが単にパクチョイといえばふつう白茎を指していて、ど
うもまぎらわしい。そこで農水省が名称を統一。青茎パクチョイ
を「チンゲンサイ」、白茎パクチョイを「パクチョイ」と呼ぶよう
にしました。

 チンゲンサイの原産地は、地中海からパキスタンにかけての地
域だとか、また中国西南地方で、このあたりに生えている「地こ
う(外字・豆へんに工)豆」(ティーチャントウと読むのだそうで
す)が原種との説も出てきました。

 これが日本で栽培されるようになったのは1960年代ころか
らとはいえ、統計にあらわれるのは昭和57年(1982)から。
当時全国で約100ヘクタール余りの作付けがあったそうです。

 チンゲンサイは、葉は杓子(しゃくし)形で長さ20〜30セ
ンチくらい。葉柄は短く肉厚で幅が広い。低温にあうと花芽を分
化し、春の高温長日で開花して長さ1.5センチの淡黄色の十字
花をつけます。

 中国各地にたくさんの品種があり、生育日数や耐寒性、耐暑性、
トウ立ちの時期もいろいろだといいます。主な品種は、トウ立ち
の時期により、「二月慢」、「三月慢」、「四月慢」、「五月慢」。
生育が40から50日と短い短箕青菜、暑さに強い黒葉中箕、葉
の色の濃い青?(外字・邦の下に巾)油、「黒葉四月慢」などがあ
るそうです。

 いま日本で普及しているのは南方系の品種で、80から100
グラムで収穫されており、1年中出荷されています。葉・茎とも
やわらかく、歯切れがよくアクも少ない。

【効能】カロチン(ビタミンA効力)が多く、有色野菜に属して
おり、カルシウム、ビタミンCも多い。ミネラルとしては、カル
シウム、鉄分が多く含まれています。
・アブラナ科アブラナ属の2年草本


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▼(15)トウガン(冬12月)

 トウガンは漢字で冬瓜。夏が最盛期なのになぜ冬のウリ?これ
は貯蔵性があり冬にまで品質を保ち、ウリ類のない冬にも利用で
きるためつけられた名前だといいます。また冬にタネをまいたも
のが最もうまいからとの説もあります。

 早稲種は濃い緑色の長円筒形、愛知県に小冬瓜、広島県に長冬
瓜があります。また在来種は臼形の中果や淡緑色のまだらがあり
ます。

 夏に葉のわきから黄色の単性花をひとつつけます。雌雄同株。
合弁花冠は五烈し、径7.5〜10センチ、花柄などに毛が多い。
雄花は柄が長く雌花は短い柄で八個の仮雄しべがあります。

 熱帯アジア原産で、ジャワ島では全土に野生しており、アジア
の熱帯から温帯にかけて栽培されています。古〜い時代中国に渡
り、世界最古の中国の農書『斉民要術』(405〜556年)には
すでに栽培法が載っているという。

 日本には中国経由で伝来、平安時代から栽培され「本草和名」(深
江輔仁著)に「白冬瓜、一名冬瓜、和名加毛宇利(かもうり)」と
記されています。

 そして、享保4年(1719)年の「東雅」(新井白石著)には、
「冬瓜をカモウリというは、カモとは殕(かび)なり、皮の上が
白くなり、殕の如くなるを言いしなり」とも出ています。

 また、トウガンということについては、「物類呼称」(越谷我山
著、安永4年・1775)には、正しい呼び方は「トウグワ」だ
が、関東ではトウガンと呼ぶことについて「東国にてトウグワを
トウガンとはねて呼び、大根をばダイコといふこそ可笑しけれ」
といっています。

 開花後、約50日、果実が白い粉におおわれたころに収穫しま
す。煮物、汁の実、あんかけ、さとう漬け、かす漬けなどとして
食用にします。平安時代の本「延喜式」などにも、かす漬け、醤
(ひしお)漬け、未醤(みそ)漬けなどの料理法が出ています。

【効能】トウガンは利尿作用があり、古くから腎臓病の人の食事
に使われてきました。低カロリーで、ビタミンCに富み、これを
長期にわたって食べていると、体がやせて健やかになるといわれ、
ダイエットによいとされています。

 トウガンのタネは白瓜子といい、漢方薬にも利用します。清熱
化痰(熱をさまし痰をとる)や排膿作用があるとされています。
・ウリ科トウガン属の1年草つる草


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▼(16)トンブリ(ホウキギ)(冬12月)

 秋田県の名物になっているトンブリ。ホウキギという植物の種
子で、暗緑色の小さな粒が魚の卵のようです。その形とプチプチ
した歯ざわりが、カズノコやキャビアに似ているというので「陸
のキャビア」とか「山のカズノコ」といわれています。

 酢の物、味噌あえ、納豆やナメコなどに混ぜて酒のさかなに、
またサラダやスープの浮き実などに利用します。秋に取ったもの
を乾燥し貯蔵、出荷の時ゆでて皮をとり加工した製品が市販され
ています。

 ホウキギ(箒木)は、一名ホウキグサ(箒草)。木か草かはっき
りしろと怒られそうな名前ですが、これは茎が木のようになるア
カザ科の1年草。

【効能】この実は漢方では地膚子といい、煎じて強壮剤や利尿剤
に使われます。
・アカザ科ホウキギ属の1年草ホウキギの種子


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▼(17)ニンジン(冬12月)

 ニンジンは漢字で人参。もともとは朝鮮ニンジンのことであり
ました。根が人間の形になったりするところから、こんな名前が
つきました。

 しからば、いまでいうニンジンは何ぞといいますれば、ニンジ
ンに形が似た菜であるというので、昔は「菜(な)ニンジン」とい
っていました。それがいつのころからか「元気の出るニンジン」
を朝鮮ニンジン、野菜のニンジンをただのニンジンというように
なりました。

 原産地はヨーロッパからアフリカ北部、小アジア。とくにヨー
ロッパでは2000年も前から食用として栽培。元(げん)の時代
(1271〜1368)に中国にわたり、外国のダイコンという
意味の胡羅匐(こらふく)かたないちと呼ばれていました。

 日本に渡ったのは1600年代。1612年(慶長17)に上
刻した本「多識篇」に初めてニンジンの記載があることからの推
理。江戸時代前期ではあるまいかといわれています。

 また「和漢三才図会」(1712年寺島良安著)にニンジンは「益
ありて損なし……」黄、赤、白、紫のものあり」と。いにしえの
ニンジンは色とりどりだったのですなァ。

 ころは16世紀中期、イギリスの一人の貴婦人が髪にニンジン
の葉を羽毛のかわりにつけたのが大評判。ネコもシャクシもと大
はやり。ニンジンの値段が上がったとか、下がったとか。ナント
もの好きな話でありますなァ〜。



【効能】体を温め、補血作用があり、胃腸の働きを整える作用が
あるという。ビタミンAが豊富。バータ・カロチンには肺ガンを
抑える作用があるという。補血強壮食品。のぼせ・下痢。ニンジ
ンの葉は根にも劣らぬ栄養食品で、お浸しやてんぷら、炒め物、
煮ものに利用します。
・セリ科ニンジン属の越年草

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▼(18)パースニップ(アメリカボウフウ)(冬12月)

 根を薄切りにしてゆで、スープやシチューなどニンジンと同じ
ように利用されるパースニップ。全体がボウフウに似ているおり、
外来のものなのでアメリカボウフウ(防風)、オランダボウフウ
(防風)と呼ばれ、その形から白ニンジンの名もあります。

 根の形や香りはニンジンに似ていて、太さ10センチ、長さ5
0センチ以上もあり、色は白く糖分を多く含み甘い。葉はセロリ
のようで2年目にとう立ちして茎が1mにのび、夏に緑黄色の花
を咲かせます。東部地中海からカフカス(コーカサス)東北地方
原産。

 日本には明治の初め導入。寒冷地に適し、東北・北海道で栽培。
4月にタネをまき、晩秋に収穫します。冬の貯蔵中に糖分を増し
品質をよくする特長があり、低温貯蔵で春先まで痛めずにおける
という。
・セリ科アメリカボウフウ属の2年草、まれに1年草


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▼(19)ヒロシマナ(冬12月)

 ヒロシマナ(広島菜)は安芸菜ともいい、文字どおり広島特産
の野菜で「広島菜漬」の名物になっています。原種はキョウナと
いわれ、言いつたえでは、ヒロシマナは平安末期のころから栽培
されていて、当時安芸の守であった平清盛も賞味していたという。

 また鎌倉時代初期の部将、佐々木高綱もヒロシマナを好んだと
いう。こんな事からだんだん京都の公家や諸大名にも献上される
ようになり、ヒロシマナの名が次第に一般市民にも知れわたって
いったとされています。

 一方、江戸時代初頭1597(慶長2)年ころ、安芸の国観音
村の人が藩主・福島正則の参勤交代のおり江戸について行き、帰
りに京都の本願寺に参ったとき手に入れたミブナの種子を持ち帰
り、栽培したのが最初だという。(『新・食品事典』)。     

 しかしヒロシマナとミブナはかなり縁遠いもので、むしろ古く
中国から伝来した種子を栽培しているうち、歳月を経るにしたが
い、人為と自然の淘汰により、気候風土にあった野菜が生まれた
と考えるのが妥当だという説もあります(『くだものと野菜の四
季』)。

 のち、明治のはじめ、いまの広島市佐東町川内の木原佐市とい
う人が同じ京都の本願寺に参り、さるお寺から種子を手に入れて
帰宅。自分の畑で十数年間改良を重ねてこの野菜をつくりだしま
した。

 「広島菜」の名がついたのは1933(昭和8)年と新しいこ
とで、当時は「京菜」とか、茎が幅広いので「平茎菜」と呼ばれ
ていたという。

 葉は濃緑色で広く大きく、かたい繊維が多いが、風味と香りが
あり漬け菜として珍重される。11月下旬から12月が収穫の最
盛期で、カロチン(ビタミンA効力)やカルシウムが多く含んで
います。

 ヒロシマナは体菜(杓子菜)の変種の三河島菜の仲間で、結球
せず1株が2から4キロと大株になります。
・アブラン科アブラナ属の2年草


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▼(20)ミカン(温州ミカン)(冬12月)

 ミカンはミカン科ミカン属の種類の総称ですが、普通はその中
の代表的品種のウンシュウミカンをいっています。初夏に白い小
さな花を咲かせます。

 皮がむきやすく、種子も少なく、おまけにしつこさがないとく
るウンシュウミカンは飽きが来なく、人気があります。ウンシュ
ウ(温州)は中国浙江省温州府と同じ文字。この浙江省の天台山
や長江沿岸の廬山は、かって日本の天台宗の修行僧たちが訪れた
ところです。

 温州府のあたりは、昔からミカン類のの産地として知られ、名
僧たちがこのミカンを食べ、帰国のときにその種子を持ち帰り、
着船地の鹿児島県長島に播いたらしい。

 この種子から突然変異で良質のミカンが出現。はじめ長島とか
中島とか言っていたが、いつの間にかウンシュウと呼ばれるよう
になったという。

 だから原産はレッキとした日本。鹿児島県出水郡東町と長島町
にまたがる場所が原産地なのであります。これは、ミカン類研究
の大家田中長三郎博士が、浙江省には全く別のミカンはあるが、
このウンシュウミカンはないことを調査済み。

 その上、ウンシュウミカンを英名でサツマオレンジと呼んでい
ること、また鹿児島県の現地には樹齢300年あまりという老樹
があることなどから、まずまちがいのないところ。

 だからウンシュウミカンは300年以上も昔から栽培されてき
たことになるわけです。このように長年九州でくすぶっていた良
質の種なしミカンも、封建的風土をつきやぶり、明治14年(1
881)、やっと東京神田市場に出荷されてきました。

 大分県青江村(いまの津久見市)のたたみ屋だった川野仲次と
いう人は、畑に早く色のつくミカンを発見、明治36年(190
3)瀬戸内海の島々で栽培され「早生ウンシュウ」と名づけられ
ました。早稲ウンシュウは暖かい九州ではまだ青いうちに出荷。
10月上旬から色づきはじめます。



 また、明治42年(1909)、福岡県の医師・宮川謙吉は、立
花農事試験場からもらった穂木から、早く実を付け、外観品質
ともすぐれた宮川早生を発見、全国で栽培されています。神奈川県
が栽培の北限という。

 なお、ウンシュウミカンは、南ヨーロッパ、地中海沿岸やアメ
リカ南部などでも栽培されています。品種に、宮川早生、石川ウ
ンシュウ、大果の米沢ウンシュウ、杉山ウンシュウなど多くの枝
変わりから出た品種があります。店頭には生産地により静岡みか
ん、愛媛みかん、有田みかん、広島みかんなどと出ています。

【効能】風邪をひいて咳・痰が止まらない時、ミカンを皮ごと焼
いてアツアツのものを食べる。しゃっくりや尿の出の悪い時にも
利尿効果あり。ミカンのむいた皮を乾燥した陳皮は健胃剤として
利用します。お風呂に入れると体を温める作用あり(生でも干し
たものでもよい)。ただワックス処理をしたものに注意。

・ミカン科ミカン属の常緑低木。

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▼(21)ヤツガシラ(冬12月)

 漢字で八ッ頭。人の頭(かしら)にたてるとか、八の字がつく
ので末広がりだとか、縁起がよい作物だというので正月の雑煮に
入れたり、おせち料理に使われたりします。表面がデコボコにな
っていて、葉柄のついたあとが面のようになってたくさんあるの
で、九面イモの名もあります。

 ヤツガシラは、サトイモの親イモ用品種。親イモと子イモがく
っついていて、かたまりになっていて、親イモとして植えられま
す。(だから翌年できる子イモというのは、実は孫イモだという)。

 ヤツガシラは、肉質がしまって、味がよく、ポクポクしてサト
イモの中では高価品。葉柄は、褐色系で細くて短く、かたまって
たくさん出て、ズイキとして利用されます。

 サトイモは、インド、セイロン、スマトラ、マレー群島の原産
で、タロイモ類の一種。中国に古く伝わり、紀元前の書物「史記」
にも記録があるという。

 日本にはイネより早く渡来、日本の風土にあい、奈良時代から
食用にされていました。サトイモにはたくさんの品種があり、子
イモを食用とするもの、親イモ子イモ、親イモだけのもの、葉柄
を食用にするものがあります。

【効能】胃腸をすっきりさせ、皮膚を充実。口をなめらかにする。
・サトイモ科サトイモ属の多年草・サトイモの一種


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▼(22)ユズ(冬12月)

 昔から冬至の日にユズ湯に入ると風邪をひかないといわれます。
精油がお湯に溶けだして、血液の循環をよくし、肌がなめらかに
なり、引きしまるという。

 肩こりや神経痛、腰痛、リウマチ、冷え性、ひび、あかぎれな
どに効果があるのだそうです。またユズ湯と融通が利くようにと
の、語呂合わせからユズ湯に入る習慣ができたともいわれていま
す。

 ユズとは柚酢の意味。昔はオニタチバナと呼んだという。原産
は中国・揚子江(長江)上流。奈良、平安時代に朝鮮半島を経て
渡来したといわれ、山口県川上村や高知県、熊本県には野生の木
があるとか。

 寒さに強いため、日本では東北地方の海辺にまで分布しており、
庭などにも植えられています。「柚橙十三年」といわれるほど実生
からではなかなか実りません。実生の苗はミカンの台木に利用し
ます。

ユズは大きく分けて種子のあるものとないものがあります。果実
はタネのあるもののほうが大きく庭木にされているのはたいがい
この品種。たねなしで果実の大きいタダニシキ(多田錦)のよう
な品種もあります。

 昭和32年ごろ、種子なしのユズのなかにわずかにあった種子
をまき、それを選抜して作出したもので、昭和52年に品種とし
て正式に認められたそうです。

 初夏、葉腋に紫色を帯びた白い花をつけます。ユズを使った名
物に柚羊羹、ゆべし、柚もち、ゆかり、ゆべし饅頭などがありま
す。

【効能】 果実にはビタミンCが豊富で、またクエン酸、酒石酸な
どが含まれ、調味料として利用。中国の昔の研究書「本草綱目(ほ
んそうこうもく)」には「悪心を止め、意中の浮風、悪気を去り、
風気をつかさどり、魚、蟹の毒を殺す」としています。

果実の皮には、ビタミンA(カロチン)、ビタミンC、カルシウ
ムを含むそうで、その芳香成分は、精油グルマクレンなどで、胃
を丈夫にし、発汗作用、咳をしずめる作用、たんをとる作用など
あるという。
・ミカン科ミカン属の常緑樹


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▼(23)ユリ根(冬12月)

 苦味がある観賞用に比べ、甘味のある食用種のユリ根。オニユ
リ、コオニユリは野菜として栽培され、ヤマユリは観賞・食用兼
用種。このほかハカタユリ、タケシマユリが食用にされるが、ふ
つう店頭で売られているものはほとんどがコオニユリ。

 原産地はオニユリ類は中国ながら、ヤマユリは日本特産。かな
り古くから食べられていたという。名前の由来は、大きな花が細
い茎の先につき、風にゆる(揺れる)からだとも鱗片が百(たく
さんの意味)も、合(重なり合う)っているので百合(ゆり)な
どだという。                       

 また中国で百合病(一種のノイローゼ、行住座臥が定まらず、
鬼にでも捕まれたような状態)の治療によいということからきた
との説もあります。

 ユリの根の苦味は食欲を増し、アルカリ分はたんの切れを促し、
またこれに含まれるでんぷんとユリマンナンという物質は口やの
ど、胃腸の粘膜をもももる作用があるのだそうです。

 オニユリのユリ根は白くて扁球形、コオニユリはそれより少し
小形。ヤマユリは黄白色で扁球形、鱗片の先にピンクの斑点があ
る。なお、これを食べるのは日本、中国、蒙古などだけで西欧で
は食べないという。



【効能】咳を止め、痰を切る。おできをとる。精神安定効果。滋
養強壮剤。

・ユリ科ユリ属の球根

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▼(24)リーキ(冬12月)

 別名西洋ネギ、ニラネギといわれるネギの一種リーキ。日本の
ネギに似てはいますが、葉は扁平で中空になってはいません。
地中海沿岸の原産で、ヨーロッパでは古くから栽培されています。

 古代エジプトやギリシャ時代にすでに栽培。あのローマの暴君
ネロはこれを美声の薬として愛用していたというエピソードもあ
ります。

 明治19(1866)年に日本に伝来(明治初年との説も)し
たが、あまり普及せず。最近になってようやくスーパーなどで見
かけるようになりました。

 よく出回るのは、10月ごろから翌年の6月ごろまで。白い根
の部分を煮物、スープ、てんぷらに、また若葉とともにサラダに
利用しています。

 ニンニクに似て扁平な葉は、長さ30〜50センチ、幅3〜4
センチ。中央脈から左右に折れた形になっています。2年目の7
月、長さ2mにも花茎が伸び、その先に径10センチもの球形の
花序をつけ、径1センチの花を咲かせます。色はピンク、紅、紫、
白といろいろ。黒い種子がたくさんみのります。

 また、このリーキの仲間は、生花材料としても用いられ、花茎
をわざわざくねくねと曲げて伸ばし、花を咲かせたりします。
・ユリ科ネギ属の2年草


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▼(25)ルタバガ(カブカンラン・スウェーデンカブ)(冬12月)

 生でサラダに酢づけに、またグラタン、煮こみもの、スープな
どに利用されるルタバガ。葉や茎がキャベツに似ていて、カブの
ように大きく肥大した根を食べるため、カブ甘藍(カンラン=キ
ャベツの別名)とも呼ばれます。

 そのほかスウェーデンカブ、黄カブなどともいうが、カブとは
別種でセイヨウアブラナからの突然変異種とも、カブとキャベツ
の交雑種ともいわれています。原産地はチェコのボヘミヤ地方と
いわれ、ヨーロッパでは古くから食用に飼料用に栽培されていた
という。

 日本へは明治初年に欧米から飼料用として導入。北海道や東北
で栽培され、良質なものは冬の野菜として利用されるが、栽培が
少なく食用に輸入されているという。春にとうだちして淡黄色の
花を咲かせます。

・アブラナ科アブラナ属の2年草


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▼(26)ワサビ(冬12月)

 こんな所にと思うような山深い谷あいの渓流にワサビ田があり
ます。ツーンと鼻にくる独特の刺激はまさに日本のもの。これは
細胞中に含まれている配糖体シニグリンなるものが、共存する酵
素ミロシンにより加水分解され、あーだらこーだらの、こむつか
しい物に分かれるからだそうです。

 ワサビはおろし方で辛味が強くなるといわれます。茎に近い方
から、細かいおろし金で手早くおろすのがコツという。それはで
きるだけたくさんの細胞の膜を破って成分を外に出そうとするわ
けです。

 ワサビの名前は、悪障疼(ワル・サワル・ヒビク)の略で辛い
という意味だとする説もありますが、漢字では山葵と書きます。
そして英語ではwasabi、まさに日本原産なのです。



 昔は山間の沢などの野生種を利用しておりました。918年と
いうから平安前期・延喜18年、大医博士深根輔仁(ふかねのす
けひと)が撰出し完成した「本草和名」という本に山葵(やまあお
い)の名で登場しています。

 栽培がいつごろから始まったのかは、はっきりしないながら、
江戸中期の本「本朝食鑑」(1695年・元禄8・野必大著)に、
ワサビの繁殖のことが載っているところから江戸時代からでは…
…とされています。 

 ワサビ栽培にはいろいろな方法があります。豊富な清流を利用
する「渓流式」。大昔からの方法で、渓流の傾斜地に石を敷き、そ
の間にワサビを植えます。山陰地方に多い。

 渓流に石を積み、数段のワサビ田を築くのが「地沢式」。東京・
奥多摩地方、静岡県安倍川上流に多いやり方。

 多量の石を積みあげ平らに近いワサビ田を何段も作り、こぶし
位の畳石を敷き、その両側にワサビを植える「畳石式」。もっとも
進んだ方法です。静岡県伊豆地方。

「平地式」は川底を掘り下げ、伏流水の湧き出るところに石や砂
で畝をつくり、植える方法。長野県穂高地方の栽培法です。

【効能】生魚やソバの毒を下す。ユリの根をすり下ろし患部に温
湿布すると、肺炎・打ち身・ねんざ・肩こり・扁桃腺炎・リウマ
チに有効。

・アブラナ科ワサビ属の多年草

 第10章(12月)終わり

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