【クスリになる野菜・果物】第9章

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▼11月の野菜・果物

 ・(1)エノキダケ ・(2)カキチシャ(カッティングレタス) ・(3)カブ
 ・(4)カリフラワー(ハナヤサイ) ・(5)カリン ・(6)金時ニンジン
 ・(7)サツマイモ ・(8)サルシフィー(西洋ゴボウ・バラモンジン)
 ・(9)下仁田ネギ ・(10)ショクヨウギク(料理ギク)
 ・(11)ステムレタス(クキチシャ・茎レタス・チシャトウ) ・(12)ダイコン
 ・(13)ツワブキ ・(14)練馬ダイコン ・(15)ハクサイ ・(16)ヒノナ
 ・(17)ブロッコリー 
 ・(18)フローレンスフェンネル(アマウイキョウ・イタリアウイキョウ)
 ・(19)宮重ダイコン ・(20)守口ダイコン ・(21)レタス ・(22)レンコン

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▼(1)エノキダケ(秋11月)

 晩秋、地元の人が、山中のエノキなどの広葉樹の枯れた株、枝
などにエノキダケが群生しているのを、採るのをテレビなどで映
します。森に生えるエノキダケは茎が2ー10センチくらいで、
表面は黄褐色かクリ色をしています。

 ところがスーパーで売っているのは色が薄く、茎が細くそうめ
んを束ねたような森のものとは似てもにつかぬキノコです。

 それもそのはず、売っているのは栽培されたもので、おがくず
に米ぬかを混ぜて広口のビンにいれ、水を加えて種菌を植えつけ
たもの。閉ざされた部屋で光を当てないためモヤシのようになり、
ビンの口に紙を丸め筒状にしてあるのでキノコがそうめんのよう
にまっすぐのびていきます。

 エノキダケの栽培は戦前からあったというが、いまのような白
くて細長いものは1956(昭和31)年、長野県で栽培がはじ
められたという。種菌が植えつけられたあと1ヶ月くらいで菌糸
がいっぱいに広がった時、少し涼しい部屋に移し、キノコの原基
ができたらさらに低温の部屋に移すと、ビンの口からエノキダケ
が群生してきたものを出荷。ピンとしていてべとつかず白いもの
がよい。

【効能】熱湯で抽出したエキスは抗腫瘍性効果。

・キシメジ科エノキタケ属のキノコ

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▼(2)カキチシャ(カッティングレタス)(秋11月)

 古代ギリシャやローマで利用されていた結球しないレタスが中
国へ渡ったのは7〜10世紀ごろという(結球する玉レタスが知
られるようになったのは16世紀になってから)。そこで茎レタス
(ステムレタス・クキチシャ)が生まれたという(このレタスが
中国から日本へ伝わり、カキチシャの名で栽培された)。

 カキチシャはレタスの仲間でも茎が比較的太く長く、生長する
にしたがい、下葉から順にかき取って食用にします。クキチシャ、
チシャトウ、カッティングレタスなどともいいます。葉には苦味
があり、生食に向かないので一度ゆでて用います。

 日本には古く渡来し「本草和名」(918年ころ)に「白苣、和
名知佐」と書かれています。これは現在のタマレタスが普及する
までは広く栽培されていました。葉は淡緑色のものが多いが赤紫
色の品種もあります。春にタネをまいて2〜3ヶ月後から収穫で
きます。



 カキチシャの1種・ステムレタスは茎と葉を食用にします。カ
キチシャよりもさらに茎が太く、短い。茎の部分がよく発達する
性質を持ち、長さ30センチ以上、直径3センチにもなります。

 葉は互生してやはり結球しません。セロリとレタス両方の用途
をもっています。茎が3、40センチに伸びたころ中ほどから下
の葉を落として収穫します。新鮮な若葉には甘みがあり、サラダ
に用いられます。茎はやわらかく多汁質でアスパラガスやウドに
似た風味があります。皮をむいて生あるいは湯を通してサラダ、
酢の物、炒め物、煮物などにして食べられます。

・キク科アキノノゲシ属の1年草

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▼(3)カブ(秋11月)

 頭をふることを「かぶり」をふるといいます。カブは株に通じ、
根が塊になる……その形から頭にみたてたのだそうであります。

 漢字で蕪、蕪菁と書き、カブラ、カブナとも呼んでいます。原
産はヨーロッパとシベリアの半温帯地方。中国へは約2000年
前に伝播。「斉民要術」(さいみんようじゅつ・530年ころの本)
にすでに栽培や利用法についてくわしく書かれているそうです。

 話は「三国志」に移ります。蜀(しょく)の軍師・諸葛孔明が戦
陣を進めるごとにカブをつくらせ食糧の補いとしていたというは
なしがあります。そのため、カブは諸葛菜とも呼ばれ、古くは救
荒作物として重視されていました。

 日本へはといいますと神話時代に渡来というから、よくわから
ない位に古いもの。ダイコンより前だそうであります。

「日本書紀」持統天皇の7年(639)に「天下にクワ、アサ、ナ
シ、クリ、カブなどの草木を植うる事を勧め、もって五穀を助け
しむ」と出ています。



 平安時代の新撰字鏡(しんせんじきょう)や本草和名(ほんぞう
わみょう)には「阿お奈(あおな)」と書かれ、倭名類聚抄では蕪
菁、和名阿お奈、蕪菁根(かぶら)加布良(かぶら)となります。延
喜式には根、葉ともに漬けものに、種子も薬用にと記載。かなり
重要な野菜だったようです。

 はじめは葉だけを食べていたカブも、その後、根も利用される
ようになり、それを特に据(すわ)り蕪(かぶ)といいました。

【効能】カブの葉にはカルシウム、鉄が比較的多く、ビタミンA
とCも富んでいます。内臓の働きをよくし、咳を止める。ビタミ
ンA,C、カルシウムの豊富なアルカリ性食品。

・アブラナ科アブラナ属の越年草

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▼(4)カリフラワー(ハナヤサイ)(秋11月)

 ハナヤサイとも呼ばれるカリフラワーは、キャベツの変種で、
改良され、つくり出されたものだという。カリフラワーの名はコ
ウル・フラワー(キヤベツの花)からきています。

 カリフラワーの原産地は、ヨーロッパ西岸地域で昔はとうの立
ったキャベツの花やつぼみをとって食べていたものらしい。紀元
前、6世紀ころ、花茎がが大きくなるものが現地で知られており、
これが発達してつぽみや花茎を専門に利用する野菜ができました。

 花を食べるキャベツはローマ時代から栽培され、珍重された記
録があり、これがおそらくカリフラワーの祖先にあたるものらし
い。 その後イタリアで改良され、ブロッコリーができました。
カリフラワーはイギリスに渡って発達。18世紀以後各国で改良
され、いまのようにりっぱなものに。なかでもデンマークで特に
改良が進んだという。



 日本には明治初年キャベツとともに導入。「舶来穀葉要覧」とい
う本には、花耶菜(やさい)、はぼたん、英名カウリフラワーとし
て七種の品種が載っています。しかし、種子を取るのがむずく一
般には普及せず。戦後になり、次第にに需要が増え始め、昭和3
0年ころから急に普及したものです。

・【効用】
 ビタミンC,繊維が豊富で便秘、成人病の予防に効果あり。

・アブラナ科アブラナ属の多年草

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▼(5)カリン(秋11月)

 カリンは中国中部が原産地。2000年も前から漢方薬として
利用されたという。日本へは平安時代、弘法大師空海が中国から
苗を持ち帰ったとも伝えられています。

 カリンは、適湿地でよく育ち、日本中で植えられているが、冷
涼な気候に適しているためとくに東北地方や長野県が主産地にな
っています。カリンは、「借りん」に通じ、借金をしないですむよ
うにと縁起をかついで、庭木に盆栽に植えられます。漢字で木瓜、
花梨と書き、カラシナ、キボケと呼ばれます。

 果実は堅く、酸味と渋味があり生では食べられませんが、砂糖
漬けや甘煮、ジャム、また氷砂糖を入れた焼酎に漬けてカリン酒
をつくります。



 また、果肉を輪切りにし、砂糖といっしょに煎じて鎮咳(ちん
がい)、利尿に葉を利用します。材は心材が美しい暗紅褐色をし
ており、堅く粘り強いため家具、床柱、彫刻に使われます。その
木目が東南アジアにあるカリン(花櫚・マメ科)に似ているので
その名がついたという。

 高さ5〜10mの落葉樹。樹皮が薄片になってはげ落ちます。
4月下旬から5月上旬、枝先に淡紅色の五弁花をつけ、秋、長さ
10センチくらいの長楕円形の果実を黄色に熟します。

【効能】果肉を輪切りにし、砂糖と煎じて鎮咳(ちんがい)、利
尿に葉を利用。

・バラ科カリン属の落葉高木

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▼(6)金時ニンジン(秋11月)

 金時ニンジンは、長さ30センチ位で長円錐形。色は濃厚色をし
ており、色はリコピンという成分が主力で、そのためビタミンA
効力は低いという。やわらかく甘味が強い。京ニンジン、大阪ニ
ンジンともいわれ、関西の代表的品種。

 11月から来年の3月ごろまで多く出回ります。日本料理やお
せち料理に用いられます。

 若葉もやわらかく、風味があるので、葉ニンジンとして、ゆで
てゴマ和えなどにして食用されます。(「新・食品事典・野菜」)。

 オランダの改良種は全世界に広まり中国にも伝わりました。中
国では根の長いものが好まれ、ここでも改良された長根種が日本
に導入され、これがのちの東京の滝野川ニンジン、大阪の金時ニ
ンジンに発展しました(『世界の植物』)。



 東京の滝野川ニンジンはいまではほとんど西洋ニンジンに置き
換えられたが、関西ではこの金時ニンジンに以前強い嗜好がもた
れているようです。これは夏蒔き種で、春にまくとトウが立って
つくられない。

 そのため初冬から春までしか出荷されない。金時ニンジンの特
殊な紅さは、中国にもこのような濃紅から紫紅色の長ニンジンが
作られている。普通のニンジンのようなカロチンも含まれている
が、それよりもトマトの赤色のもとと同じリコピンの方が多く含
まれているためにあのような鮮やかな紫紅色をしているのだとい
う。

 これはプロビタミンAとして働かないので、普通のニンジンよ
り金時はAの含量が低いことになるが栄養価値がないというほど
のものではないという。(『果物と野菜の四季』)。

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▼(7)サツマイモ(秋11月)

 東京の官庁街にも「やァきいもォ〜、いしやきィいもォ〜……」
と名調子が流れます。気持ちよさそうな呼び声だなと見ると、み
んなテープに吹き込んだもの。スピーカーが勝手にがなっていま
す。

 サツマイモの原産地は一応メキシコ、コロンビアなど中央アメ
リカということになっています。そこへあのコロンブスがやって
きて、ヨーロッパへもたらします。初めスペインに渡ったサツマ
イモは、その後スペイン人の手でルソン島へ。またポルトガル人
によってマレー半島に伝ぱします。

 ルソン島から中国へ伝わるのは1550年いや1584年だ、
いやいや10年あとだと異論あれど、まあその頃福建省に。16
05年(慶長10)には琉球にまで渡ってきます。

 宝永二年というから1705年、薩摩国(鹿児島県)の漁夫・
前田利右衛門という人が、琉球沖まで出漁、島民が食べている珍
しいイモを鉢植えにして持ち帰りました。秋になりゴロゴロとれ
たサツマイモに藩主もびっくり。「こげんめずらしきイモ、他領に
持ち出すことは相ならん」と国禁さくもつになります。

 しかし、いくらマル秘にしていても人の口に戸はたてられませ
ん。他領の人の間では大評判。なんとか薩摩藩から盗み出せない
ものとかと苦心します。そんな1人が伊予国(愛媛県)の下見(あ
さみ)吉十郎。六部になって薩摩に巡礼した際、ひそかにサツマイ
モを盗み出し、苦労を重ねて領外に脱出、故郷に帰り瀬戸内各島
に広めました。1711年(正徳元)、江戸も中期に入るころの
ことでした。



 また、山城国(京都)の島利兵衛という人、硫黄島に流刑され
た時、将軍・吉宗の御代始めで恩赦(1716)のついでに、や
はり持ち出し禁止になっていたサツマイモをもとどりに隠して持
ち帰り普及させ、近在の村々はその徳をたたえてカンショ翁、イ
モ宗匠と呼んで石碑を建てたという。

 その他江戸時代の初頭1609年、山根勘解油が琉球から上総
国(千葉県)銚子に持ってきたとか。1612年ルソン島から薩
摩に渡来した(島津国史)とか、1615年長崎県平戸のイギリ
ス商館長リチャード・マックスが初めて植えたとか、サツマイモ
の日本への伝ぱにまつわる話は各地に残っています。

【効能】繊維が多く便秘予防。カルシウムやリン、ビタミンCも
多い。体力・気力の充実させ、胃腸を強くし、精力を増進する作
用あり。異物を誤って飲んだ時、焼きイモまたはふかしたイモを
あまりかまないで食べると便にくるまれて出てくるとあります。
風邪や熱にはサツマイモの黒焼きを煎じて飲用。しもやけには、
蒸したり煮たりした時の汁を温め幹部につけるという。

・ヒルガオ科サツマイモ属の1年草。熱帯では宿根草

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▼(8)サルシフィー(西洋ゴボウ・バラモンジン)(秋11月)

 ヨーロッパ中部から北アフリカ原産で根を食用に利用される野菜。
セイヨウゴボウ(西洋牛蒡)、ムギナデシコ(麦撫子)、バラモン
ジン(波羅門参)などの名もあります。

 茎は一メートル以上になり、6月から7月に、茎の頂に直径10
センチくらいの頭状花をつけます。花は舌状花だけで、紫赤色か青
紫色で朝に咲いて午後には閉じてしまいます。

 根はゴボウのような直根性で白く、30センチくらいの長さになり、
切ると乳汁が出ます。根は煮物にするとカキ(牡蛎、オイスター)
の風味があり、洋食に利用されます。日本には明治初年に伝来。3
月と8月にタネをまき、8月と11月に収穫、冬は貯蔵します。



 近種のキクゴボウは、根の表面の色が暗褐色なので「ブラック
サルシフィ」といい、同様に煮て洋食に用います。

・キク科バラモンジン属の2年草

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▼(9)下仁田ネギ(秋11月)

 群馬県下仁田地方特産のその名も高い一本ネギ。太くてずんぐ
りした特異な形と、肉質が軟らかく風味がよいことで知られてい
ます。来歴ははっきりしませんが、長野県に近い下仁田の天川地
区で200年以上昔、佐藤なにがしという老人によって育成。幕
府や宮廷に献上されていたことから「殿様ネギ」、「献上ネギ」の
名もありました。

 明治4年、東京で開かれた万国博覧会に出品して一般に知られ
るようになり、産地の名から下仁田ネギと呼ばれるようになった
という。



 タンパク質や硫化アリルなどがふつうのネギの3倍も含まれる
優秀な健康野菜。辛味が強く生食には不向きだが煮ると甘くやわ
らかくなる。これは硫化アリルの働きによるものだそうです。すき
焼き、鍋物、ぬた、焼き葱など様々な料理に使用されます。

・ユリ科ネギ属のネギの一種 

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▼(10)ショクヨウギク(料理ギク)(秋11月)

 キクの品種のうち、花弁の苦味の少なく香りや歯ざわりのよい
もので、料理ギク、甘ギクとも呼ばれます。

 品種は、青森、八戸市、三戸郡が主産地の阿房宮(あぼうきゅ
・「八重大輪の黄ギク・香りと甘味がある」)、名取川、紫紅色の八
重咲きの青あらし、うまいので「もってのほか」の名がある延命
楽(えんめいらく・「淡紅紫色の八重咲き、山形県、新潟県で栽
培」)、秋田県大館付近でとれる秋田白菊(白い花弁の大輪)、秋
田県湯沢市の湯沢夏菊などがあります。

 食用ギクは、大輪の花弁はバラバラにはずし、小さいものはそ
のまま熱湯でゆで調理します。ひたし物、酢の物、和え物に利用。
生の花や葉はてんぷらにもします。葉は食用ギク以外でも可。



【効能】菊には風邪、のぼせ、めまいをとり、菊酒は延寿の効果
があるといわれます。菊の花を煎じたものを飲むと風邪・頭痛・
目の病気に、打ち身には花を煎じた汁で温湿布。腫れものには花
または葉の絞り汁を飲みます。鼻血、耳・指・歯の痛み、しらく
も、はたけなどには、葉のしぼり汁をつけるのがよいとされてい
ます。

 また、菊洒は風邪、めまいを治し、強壮効果もあるとされてい
ます。

・キク科キク属の多年草。

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▼(11)ステムレタス(クキチシャ・茎レタス)(秋11月)

 ステムレタスはカキチシャの一種で中国原産の茎と葉を食用に
します。古代ギリシャやローマで利用されていた結球しないレタ
スが中国へ渡ったのは7〜10世紀ごろ。そこで茎レタス(ステ
ムレタス)が生まれたという(このレタスが中国から日本へ伝わ
り、カキチシャの名で栽培された)。             

 ステムレタスはカキチシャよりも茎が太く短い。茎の部分がよ
く発達する性質を持ち、長さ30センチ以上、直径3センチにも
なります。葉は互生して結球しません。セロリとレタス両方の用
途をもっています。茎が3、40センチに伸びたころ中ほどから
下の葉を落として収穫します。新鮮な若葉には甘みがあり、サラ
ダに用いられます。茎はやわらかく多汁質でアスパラガスやウド
に似た風味があります。皮をむいて生あるいは湯を通してサラダ、
酢の物、炒め物、煮物などにして食べられます。

 これと似たものにカキチシャがあります。カキチシャはレタス
の仲間で茎が太く長く、生長するにしたがい、下葉から順にかき
取って食用にします。クキチシャ、チシャトウ、カッティングレ
タスなどともいい、葉には苦味があり、生食に向かないので一度
ゆでて用います。                     



 日本には古く渡来し、『本草和名』(918年ころ)に「白苣、
和名知佐」と書かれています。現在のタマレタスが普及するまで
は広く栽培されていました。葉は淡緑色のものが多いが赤紫色の
品種もあります。春にタネをまいて2〜3ヶ月後から収穫できま
す。

・キク科アキノノゲシ属の1年草

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▼(12)ダイコン(秋11月)

 ダイコンおろしにふろふきダイコン、おでんにたくあん、切り
干しダイコン、なます、はりはりづけ、あの「おしん」さんで有
名なダイコン飯。生食に煮色、切り干し、塩漬け、みそづけとダ
イコンの調理法をあげたらキリがありません。

 古名を「おおね」。漢字で大根、ナルホド。そのほかねじろ、か
らもの、すずしろ……。異名は戸類語辞典を調べてみたら、ある
わ、あるわ、秦松(しんしょう)、楚菘(そしょう)、蘿蔔(らふ
く)……などナドエンエンと17もならんでおります。とてもワタ
シなんぞの脳ミソにおさまるかずではありません。ことほどかよ
うにダイコンは日本人の生活にとけこんでいるのでございます。

 学術的にいうならば、ケシ目アブラナ科の越年草本。原産地は
コーカサスからギリシャにいたる地中海沿岸とも中央アジアだと
もその他いろいろ。日本のダイコンはヨーロッパ原産でハツカダ
イコンが原種とする説(牧野富太郎)、いやいや日本のダイコンは
ヨーロッパのとは別の原種だとする説(ベイリー)、ハツカダイコ
ンは中央アジア以西だ(熊沢三郎)などあって諸説フンプン、な
にがなんだかなのであります。

 ダイコンに関する最古の記録は、紀元前五世紀のギリシャの史
家ヘロドトスのもの。ピラミッド建設に使われたどれいたちに食
べさせたダイコンとタマネギの費用について書いております。ピ
ラミッドは “ダイコン力(ぢから)でできたのです。



 これがいつごろどうやって日本にやってきたかは不明ながら、
「古事記」にダイコンの歌が、また「日本書紀」にも記載があり、
上古からすでに存在していたのです。奈良時代にはダイコン1本
が米1升と同じ値段であったという。庶民がアワやヒエを食べて
いた時代にです。まさに貴重品でありました。

 日本一のダイコンはその形、大きさともに世界一。外国で「突
然変異だろう」と信用されないという。世界に誇れる日本のダイ
コン、大事にしましょう。それにしても生活の様式化から女性の
足は立派なものに出会わなくなりましたねぇ。イヤよけいなこと
でした。

【効能】ジアスターゼなどの消化酵素が多く含まれ、ダイコンお
ろしにして、食べ過ぎ・二日酔い・食中毒・脚気・むくみなどに
効果あり。口内炎などには、ダイコンの汁でうがいする。咳や風
邪・頭痛・声がれに、ダイコンのおろし汁に水あめ(蜂蜜や砂糖)
を混ぜて飲用。鼻血には脱脂綿におろし汁をつけて鼻の中に塗り
ます。たむしなど皮膚病には、おろし汁を患部に塗る。大根の葉
を干して(干葉)お風呂に入れるとからだがよく温まります。ダ
イコンの皮には中身より2倍のビタミンCが含まれているそうで
す。葉にはビタミンAが多い。

・アブラナ科ダイコン属の越年草草本

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▼(13)ツワブキ(秋11月)

 若い葉柄をフキと同じように皮をむいてから煮てアク抜きし、
煮つけとし、またキャラブキなどに利用します。

 ツワブキは日本原産の多年草。葉がいつも青く、花の少ない冬
に黄色の美しい花を咲かせ、観賞用に庭にも植えられ、花が舌状
花だけのヤエツワブキや葉の縁がちぢれたシガミツワブキ(ボタ
ンツワブキ)、葉に黄色の紋があるキモンツワブキなどの品種があ
り、ヨーロッパやアメリカなどにも持ち込まれています。

 ツワブキとはツヤのあるフキのことで、この大きな葉にはタン
ニンが含まれており、細胞を引きしめ、皮膚の炎症をやわらげて
くれるます。また葉緑素が細菌を追い払い、皮膚の損傷部を保護
する作用があるという。

 漢方や製薬の原料としては使われないけれども、いろいろな民
間療法に利用されます。



 ほかにゴマ和え、酢みそ和え、白和え、油みそ煮、甘煮、つく
だ煮、塩漬けなどに利用。

【効能】民間療法として昔から利用されてきました。はれものに
は、生の葉を火であぶり、やわらかくしてダイズくらいの大きさ
に丸め、患部にのせてテープでとめます。ウルシカブレ、ハチさ
されなどには生葉のしぼり汁をぬります。

・キク科ツワブキ属の多年草

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▼(14)練馬ダイコン(秋11月)

 かつて東京練馬を中心に栽培された練馬ダイコン。神奈川県三
浦半島に移植されたいまもその名は全国的に有名です。昔から優
秀性がかわれ、元禄時代には会津地方で栽培、江戸時代後期には
青森や北海道でも作られた。

 五代将軍徳川綱吉が、まだ館林城主で右馬頭(うまのかみ)だ
ったころ、持病の脚気を占ったところ城の北西方向の"馬"の字の
つく土地に移住せよとでた。早速下練馬村に移り療養したところ、
たちまち治ったという。

 そのとき、綱吉が食べるため尾張から宮重ダイコンのたねを取
り寄せ栽培させました。これが地味にあったのか、長さ、1、2メー
トル、11キロものでっかいダイコンができた。綱吉が館林城に帰
ったあとも、地元の大木金兵衛にダイコンの献上を命じたという。



・アブラナ科ダイコン属の1,2年草

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▼(15)ハクサイ(秋11月)

 ハクサイは漢字で白菜。文字通り白い野菜であります。戦前か
らほかの野菜にくらべ、生産量がダントツだったため、ちょっと
目には日本原産のように思えますが、どうしてどうして。最初に
日本に入ってきたのは1868(慶応2)年と比較的新しいので
あります。

 その後博物学者の田中義男が再導入して試作。ああだ、こうだ
と手をかけましたが結局、うまくいかなかったという。

 ハクサイの原産地は東南アジアだとも、地中海沿岸のナタネが
原種だとの説がありますが、結球形のハクサイは中国東北部原産
とするのが一般的。

 中国では、西暦600年前後からハクサイが栽培されていて、
「清異録」(陶穀著・11世紀)にはすでに結球形について記載
されているという。

 1875(明治8)年、東京の博物館に中国からハクサイ3株
が出品。そのうち2株が愛知県の試作所に移された。それをきっ
かけにハクサイ栽培の研究が始まったという。

 そんなこんなで日本で生産が安定してきたのは大正中期。当時
はハクサイの結球のさせかたが大問題。結球すれば「とう」が立
たず種子がとれない。逆に「とう」が立って種子がとれるものは、
いくら縄で巻いてやっても結球しないとくる。



 そのうえ、ほかの菜類やカブ類と簡単に交雑するという浮気者。
始末におえなかったという。

 昭和も7年になると、群馬県嬬恋村のハクサイが大阪市場に「高
原野菜」なる名前で出荷、その先駆けになったのでありました。

 ちなみにいまのハクサイが日本に入る前の本「大和本草」(17
09年・宝永6年・貝原益軒著)に「白菜」という文字が出てき
ます。しかしこれは「菘」(しゅう)のことで漬け菜のことだとい
います。

【効能】唾液の分泌・大小便の通じ・健胃作用・ウルシかぶれや
火傷に汁を塗る。

・アブラナ科アブラナ属の越年草

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▼(16)ヒノナ(秋11月)

 ヒノナは、緋の菜、赤菜ともいうカブの一種。一見小さなダイ
コンのようですがカブの仲間。首の部分が、地上に突き出てて、
その部分が紫赤色で下の方は白い。葉も紫赤色を帯びています。

 また、根の内部は白いが、心部から放射状に紅色の線があって
輪切りにすると一段と美しい。一名緋の菜、赤菜というのはこれ
から来ています。

 ヒノナ(日野菜)は、その名前が示すように、滋賀県蒲生郡日
野町を中心に栽培されており、小形で種子をまいてから35〜40日
で収穫できるので家庭菜園にもよいという。

 ただ、アクが強いので煮食にはむかず、もっぱら塩漬け、味噌
漬け用です。



・アブラナ科アブラナ属の越年草のカブの一種

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▼(17)ブロッコリー(秋11月)
 
 ブロッコリーの名は、ラテン語の「枝」からきたものといわれ、
ヨーロッパの野生のキャベツが栽培化されたものらしく、カリフラ
ワー(ハナヤサイ)の原種とされています。原産地は西地中海沿岸
でクレタ島ともいわれています。

 ブロッコリーは、茎の先端にできるつぼみ(頂花蕾)と、茎につ
いている葉のわき芽がのびてできるつぼみ(腋花蕾)を食用にしま
す。子持ち野菜とも呼ばれるのは、腋花蕾が子どものように見える
からという。このつぼみが大きくなり、黄色い花が咲きはじめると
味や香りが落ちてしまいます。

 そもそも花を食べる野菜(キャベツ類)は、ローマ時代から利用
されていたらしい。六世紀ころにはすでにふんだんに食べられて、
健康に良いというので医者がいらなかったとか、この野菜を祭る祠
まであったとの記録があります。

 ブロッコリーがアメリカに伝わったのは19世紀。イタリア人に
よって持ち込まれましたが一般化したのは第二次世界大戦中とい
う。

 日本へは明治初年に導入されたが、普及せず、京浜地区で細々と
作られていたという。その後第二次大戦前でも、ブロッコリーとい
えばカリフラワー(ハナヤサイ)に似た白い大きなつぼみの、キダ
チ(木立)ハナヤサイ(カリフラワー・ブロッコリー)のことだっ
たといいます。



 ブロッコリーが一般に普及したのは、せいぜい1965(昭和4
0)年代になってから。カリフラワーとともに次第に需要がのびて
いきました。

【効能】ブロッコリーは、カロチン(ビタミンA効力)が多く、ビ
タミンCも豊富で、カリフラワーとは比較にならない量という。無
機質では鉄分も多く、シミ、そばかす、肌荒れの予防になり、鉄分
は貧血、高血圧に有効という。
・アブラナ科アブラナ属の1、2年草

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▼(18)フローレンスフェンネル(イタリアウイキョウ)(秋11月)

 何やらむつかしい名前ですがアマウイキョウとかイタリアウイキ
ョウとも呼ばれるウイキョウの仲間。南ヨーロッパ原産でウイキョ
ウよりやや小形。日本には明治の中ごろに移入されたという。地面
の際から互い違いに出る葉の葉柄が詰まって重なり合います。

 それを土よせし軟白すると肥えて厚くなって鶏の卵くらいに大き
くなります。これは煮食や生食もでき、イタリア料理で利用します。
葉はハーブに用います。

 果実はウイキョウより大形で香りと甘味があってキャンディーや
リキュールの香辛料にに利用、またウイキョウ油をとります。

 4月ごろ日当たりと水はけのよいところに種まきし、翌年の夏開
花結実します。耐寒性はやや弱いという。



・セリ科ウイキョウ属の多年生草本

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▼(19)宮重ダイコン(秋11月)

 愛知県西春日井郡の宮重が発祥地。成長するにしたがい根が地
中からとびだし、上部が青くなるので青首ダイコンともいうが白
いものもあります。

 宮重ダイコンは、東北、北海道、北陸、九州など全国各地で栽
培され尾張ダイコンとして名をあげました。歴史も古く、平安時
代の『延喜式』(920年)にも出てくるほどです。

 宝永年間(1704〜11)、遊猟中の尾張の殿さまが、西春日
井郡春日井村宮重の庄屋の近藤庄右衛門の家に昼食に立ちより、
その時出されたダイコンに大満足。毎年献上を命じたというエピ
ソードもあります。

 根の長さ30〜40センチ。円筒形で太さ形が整っていて、先
端が急に細くなります。肉質がやわらかく甘味も強い。



・アブラナ科ダイコン属の1、2年草(秋ダイコン)

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▼(20)守口ダイコン(秋11月)

 いろいろな形のダイコンがあるなかで、細長いことでは世界一
の守口ダイコン。太さわずか2センチ位なのに長さは普通1.2メー
トルもあり、なかには1.7メートルを超えるものもあるという。 

 1956(昭和31)年、日本で開かれた国際遺伝学会議に巨大な桜
島ダイコンとともに展示され、世界の遺伝学者のキモを抜かせた
エピソードもあります。                  

 江戸中期の『和漢三才図会』に長さ60センチ、『本草図譜』に
90センチ位とあり、この100年ばかりのうちに30センチものびた
という。ほとんどが粕漬けにしたものを樽のなかにグルグル巻い
て詰め、守口漬けにします。

 栽培が盛んになったのは明治に入ってからといい、もと大阪の
守口市付近が産地だったがいまでは岐阜市を中心に栽培されてい
ます。



・アブラナ科ダイコン属の越年草

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▼(21)レタス(秋11月)

 チシャやチサではわからなくても、レタスといえば知らない人
はいません。ひとくちにレタスといっても玉レタス、コスレタス、
バターヘッドなどの結球種と、リーフレタス(葉レタス)、アス
パラガスレタス(茎を食べる)などの結球しない種類があります。
レタスはチシャ(チサ)の一種です。

 レタスの原産地はヨーロッパ温帯地方から西アジア、地中海あ
たり。すでに古代ギリシャ、ローマ時代から栽培され主要野菜と
して用いられていたという。見たわけではないけれど……。

 当時のレタスはみな不結球種で、いまのような玉レタスは16
世紀になってやっと記録が出てきます。そしてヨーロッパ全土に
広まり、改良されアメリカへ渡ります。



 一方、レタスは中国へも古い時代に渡ったらしく、唐の時代
にあった白苣(はくきょ)という野菜がそれ。のち、宗(950
〜1278年)には萵苣(かきょ)ともいい、陶穀の著「清異録」
にその伝来について「萵の国の使者が来漢、種子をもらい、千金
菜(せんきんさい)といった。いま萵苣(かきょ)なり」というよ
うなことを書いてあります。萵という国がどこかは不明ながら、
ヒマラヤ地方に萵という民族がいるという。

 日本で最初にレタスの記録があらわれるのは平安前期の昌泰年
代(898から900年)に僧昌住の著した「新撰字鏡」。芭(知
佐・ちさ)の名で載っています。またその後まもない延喜年代の「本
草和名」には「白苣、和名知佐」と出ています。

 明治になってフランスやアメリカから玉レタスを輸入したが需
要はイマイチ。消費が伸び出すのは食事が洋風化しはじめた戦後
で、いまではキャベツに追いつけ、追いこせの勢いです。

【効能】中国明代の本草書「本草綱目」に、「筋骨を補い、五臓の
働きをよくし、気のふさがりを開き、経脈を通じ、歯を白くし、耳
や目をさとくし眠りを少なくする。熱毒や酒毒を解き、小便が近く
なり水を欲しがる状態を治し、腸の働きをよくする」とあります。
チシャ葉をみそ汁に入れて食べると、おっぱいの出の悪い時に効
果があるといわれています。民間療法では、チシャの根や茎・葉
をそのまま、黒焼きにして粉末にしたものを舌炎や口内炎に、扁
桃腺炎には、患部に管で吹きつけてやると効くとあります。

・キク科アキノノゲシ属の1年草

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▼(22)レンコン(秋11月)

 レンコンは蓮根で、文字どおりハスの根っこのこと。昔はハス
をハチスといいました。果実の入った花托(蓮房)が蜂の巣に似
ているからです。そのハチスのチが略されていつの間にかハスに。

 大賀博士の古代ハスから、なんとなく古い時代を連想させるが、
そのとおり、インドでは2500年前に「白いハス」の記録があ
り、さらに5000年前のものといわれるハスの女神像もみつか
っています。

 インドでは元来、ハスの花をめでたい花としていました。それ
が仏教にとり入れられ、仏教と共に、中国経由で伝来してくると、
いつしか仏さまの花、仏壇の花になってしまいました。



 花のきれいななハスは、観賞用として早くから栽培され、舒明
天皇の時代というから629〜641年(飛鳥時代)にはもう「双
頭蓮」という園芸品種があり、奈良時代の後期には蓮葉の宴が開
かれ、次第に盛大になっていったとあります。花バスとして品種
がたくさんできたのはやはり江戸時代になってから。1800年
代(文化、文政)には90種もあったそうです。

 一方食べる方のレンコン。これもけっこう古く「常陸風土記」(7
13年奈良時代)「延喜式」(927年)に食用にしていたことが書
かれています。江戸時代に入ると栽培法を詳しく記されるまでに
なります。

 これら古くから栽培されていたいわゆる日本蓮は各地に土着し、
関東の上総蓮、石川県の加賀蓮、愛知県の薄赤など良質で日本料
理にマル適な地方種になっていきました。

 しかし明治になり、中国から食用品種が入ってきます。病気に
強く収量が多いうえ、根が浅く掘りやすいとくるから、われもわ
れもととびつきます。そして全国に急速に普及していったという
ことです。

【効能】吐血・喀血・下血・二日酔い・咳・高血圧。

・スイレン科ハス属の多年生水草ハスの根茎

 第9章(11月)終わり

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