【クスリになる野菜・果物】第4章

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▼6月の野菜・果物

 ・(1)青梅(アオウメ) ・(2)コールラビ(球茎カンラン) ・(3)サクランボ
 ・(4)三寸ニンジン ・(5)シシトウガラシ ・(6)シソ ・(7)ジュンサイ
 ・(8)ショウガ ・(9)ダイシンサイ(大心菜) ・(10)タマネギ
 ・(11)タラゴン(エスタラゴン) ・(12)ニガナ ・(13)ニンニク
 ・(14)ハゴロモカンラン ・(15)葉ショウガ ・(16)ハスイモ
 ・(17)ハナニラ ・(18)ビーツ ・(19)プリンスメロン ・(20)マヨラナ
 ・(21)モロヘイヤ ・(22)ラッキョウ

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(1)青梅(アオウメ)(夏6月)

 ウメの原産地は、中国四川省と河北省の山岳地帯だといわれます
が、栽培が古すぎるため、実際のところよくわからないという。ウ
メの花は中国の国花にもなっているほどです。当然名前もあちら風。

 中国では「梅」と書いてメイと発音するそうで、万葉時代には「烏
梅」「宇梅」と書き、ウメと読んでいましたが、次第にムメイに変
わり、さらにムメになり、江戸、明治まで続いたと聞きます。

 ウメは花の色で「紅梅」「白梅」と分け、実をとるものと花を観
賞するものに分け、「実梅」「花梅」といったりします。しかし、園
芸的分類では大きく「野梅(やばい)系」と「紅梅(こうばい)系」、
「豊後(ぶんご)系」の三系に分けられ、さらにそれぞれ細かく分
類されています。

 ウメとくれば菅原道真です。「東風吹かば匂いおこせよ梅の花主
なしとて春な忘れそ」と読んだウメは紅梅で、太宰府まで飛んでい
ったという「飛梅」も紅梅だったといいます。(いまの天神社に植
えられてあるのは白梅)。



 ウメは災難よけになるなどといわれ、家の鬼門によく植えられ
ます。このような呪性が菅公の「飛梅伝説」と結びつき、天神社
の神木となり、各地の天神社に伝ぱ、太田道灌が夢の中で菅公に
謁見(えっけん)そのうえ翌朝、菅丞相(かんじょうしょう・菅
公)親筆の画像を携えてくる者があり、それがまた夢の中の形そ
っくりだったため、すぐ祠を建て神影をまつり、ウメの木数百株
を植えたとのいい伝えがあります。

 「梅田椎麦(うめだしいむぎ)、梅田枇杷麦(うめだびわむぎ)」
ということわざがあります。江戸中期の宮崎安貞著『農業全書』
にあることばで、ウメの花がよく咲く年はイネが豊作で、シイの
実の多い年は翌年麦が豊作。同じように、ウメの実の多い年は米
が豊作で、ビワの実の多い年は翌年麦が豊作だという。

【効能】未熟な果実をくん製にしたものを「烏梅(うばい)」とい
い、漢方で下痢やせき、回虫駆除、解熱などに用います。
・バラ科サクラ属ウメ亜科の小高木 

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(2)コールラビ(球茎カンラン)(夏6月)

 カブカンラン(蕪甘藍)、球茎甘藍とも呼ばれるキャベツの一変
種。ドイツ語に由来する名前で、コールとはキヤベツ、ラビはカ
ブの意味だという。キャベツとナタネの雑種からできたとする説
もあります。

 カブのように肥大した茎を利用する野菜でキャベツは葉を、コ
ールラビは茎を食用に品種改良したもの。球と葉柄が緑白色のも
のと紅紫色の品種があり、茎を薄切りにしてサラダ、酢の物に、
またいため物、スープの実煮物、漬け物にします。

 地中海北岸地方原産で、16世紀ごろからヨ−ロッパで普及した、
キャベツ類のなかでは比較的新しい作物。日本には1883(明治16)
年、アメリカから導入。茎の球は10センチ前後、上やまわりから
葉柄が出てキャベツより小形で質の薄い葉をつけます。



 寒冷な気候にあい、栽培も比較的簡単だという。春と秋に種子
をまき、定植後2、3か月たち、球が5、6センチくらいになった
ら収穫します。収穫が遅れると15センチにもなり堅くなって裂け、
食用になりません。

 球の側面の葉と葉柄を数枚つけたままの形で出荷。堅い外側の
皮をむいた白いところは水分が多<甘味があります。
・アブラナ科アブラナ属。キャベツの一変種

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(3)サクランボ(おうとう)(夏6月)

 数百種もの品種があるといわれるサクランボ。それを大きくわ
けると、欧州のカンカオウトウ(甘果桜桃)、サンカオウトウ(酸
果桜桃)と、中国系のチュウゴクオウトウ(中国桜桃)がありま
す。

 サクランボの栽培は古く、ヨーロッパでは、紀元前からつくら
れており、1世紀にはすでに8種類も品種があったといわれます。
中国でも3000年も前から栽培され、前漢代の「礼記(らいき)」
という本に記されています。

 日本には江戸時代初期、中国からチュウゴクオウトウが渡来し
たが、寒さに弱くまた品質も劣っていたため、いまでは四国、九
州で観賞用として栽培されている程度です。

 いま日本でおもにに栽培されているのは、アジア西部から黒海
沿岸にかけて原産地のカンカオウトウ(セイヨウミザクラともい
う)。明治5,6年(1872、3)北海道開拓使がアメリカから
導入したのにはじまり、ついで明治8年、勧業寮がフランスから
移入。北海道から東北、信越地方(山形、山梨、長野各県)を中
心に栽培されていきます。

 主な品種に、70%の市場を占めるナポレオンや黄玉、日の出、
高砂、ビング、佐藤錦、蔵王錦、南陽などがあります。
【効能】胃腸の働きをよくし、食欲増進。風疹にも有効。
・バラ科サクラ属の落葉小高木


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(4)三寸ニンジン(夏6月)

 長根種と、短根種があるなかで、収穫からパック詰め出荷までの
作業がしやすく、消費者も取り扱いやすい短根種が、日本でも多く
なっているという。

 三寸ニンジンや、四寸、五寸、これらは西洋種から改良(江戸時
代・1797年の「長崎聞見録」(広川かい若(かいは木偏に解)
著)にでてくる玉ニンジンのような品種から生まれたとする説もあ
る)されたもの。最近はミニニンジンのようなものまで登場してい
ます。



 三寸ニンジンは、文字通り長さ3寸(10センチ)くらいの円錐
または円筒形の早生種です。濃橙色で甘味が多くやわらかく、1年
中出回り、冬から春にかけ新ニンジンとして重用されています。栽
培は容易ながら四寸ニンジン、五寸ニンジンよりは収穫が少ないと
いう。
・セリ科ニンジン属の越年草

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(5)シシトウガラシ(夏6月)

 シシトウガラシは、トウガラシの甘味種のひとつです。甘味種
にはピーマンの仲間ピメント、フシミの類のパプリカ、そしてこ
のシシトウガラシがあります。

 果実の表面がデコボコで、獅子頭ににているというのでシシト
ウガラシの名がつきました。安土桃山時代、日本に渡来したトウ
ガラシの中から、甘味種として分化。江戸時代から野菜用として
栽培されていたという。

 京都の田中村が発祥地で、当地で栽培されていた甘トウガラシ
が親だろうといわれています。

 細長く青い未熟果で出荷されるシシトウガラシ。アオトウガラ
シ、シシトウ、アオトウなどとも呼ばれます。形が大きくなり熟
すと肉質がかたくなり、色が赤くなるため、未熟な長さ5〜6セ
ンチで収穫します。

 原産地のメキシコから、コロンブスによってスペインに伝えら
れたトウガラシは、16世紀の中ごろには、ヨーロッパ全域に広が
ります。東洋に伝播したのは16世紀。インド、東南アジア、中国
と伝播していき、その間に多くの品種が分化していきました。

 ハウスものは年中店頭にあり、露地ものは夏が最盛期。ヘタが
しなびてないものを選ぶ。



・【薬効】ビタミン類が病気に対する抵抗力をつけ、夏バテ防止に
なります。ビタミンA効力(カロチン)、ビタミンCはピーマンよ
り豊富で、成人病予防に効果があるそうです。

・ナス科トウガラシ属。トウガラシの甘味種

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(6)シソ(夏6月)

 シソは紫蘇と書くように本来は赤ジソのこと。青ジソはその変
種だという。中国南部・ミャンマー・ヒマラヤ地方が原産地とい
われ、日本には奈良、平安時代に渡来したともいわれますが、5
000年前の縄文前期の種子が福井県鳥浜貝塚から出土したり、
また、岩手県和賀郡江酌子村岡崎遺跡からも縄文中期の種子が発
見されたりしています。

 5世紀に中国の陶弘景(とうこうけい)の書いた「新農本草経
集注」(しんのうほんぞうきょうしつちゅう)に「荏(えごま)の
香りに似たものは、野蘇と称して用いず」とあるように、シソは
もとをただせばエゴマ同類の植物です。

 同じ中国、6世紀の本「斉民要術」(せいみんようじゅつ)に
は、干したシソの葉を火であぶって細かくし鳥汁に入れるとか、
羊肉、豚肉のしょうゆ漬けに使う料理法が栽培法といっしょに記
載されています。

 いずれにしても、日本では奈良時代にはすでに栽培されていた
ことは確かで、薬用としてまた食品香味料として貴重な野菜なの
でありました。



 江戸時代前期の「農業全書」(1696年、元禄9・宮崎安貞著)
に、「これに二色あり。はちぢみて、うらおもてなく色の濃さを植
ゆべし。ちぢまずして、葉のうら青きは作るべからず。

 薬用に入れるにはなお宜しからず。四,五月葉をつみて、梅漬
け、その他しおみそにつけ、あつもの、冷汁いろいろ料理多し。
生魚に加えれば魚毒を殺す。うんぬん」と書いています。

 また、宝永6年(1709)の「大和本草」(貝原益軒著)には「薬
用に良品のものは芳香がよくて、葉のうらとも紫色を呈し、ちり
めんのものがよく、新鮮なものを使う」と、現在のチリメンジソ
のことを記しています。

 シソの品種もいろいろあり、アカジソ、アオジソ、チリメンジ
ソ、アオチリメンジソ、チヂミジソなどがあり、昔はイヌエ、ノ
ラエ(本草和名)などと呼ばれていました。

【効能】神経症・不眠症・利尿・浄血作用など。胃が悪い・食欲
不振の時、葉を煎じて飲む。風邪や寒気には、しその葉(または
実)・ミカンの皮・ショウガ(それぞれ3グラムを1日の量として
3回に分ける)を煎じて飲用。咳には葉の汁を飲む。

魚や肉類・カニなどの中毒には、シソの葉の煮汁や生の葉の汁を
服用。脳貧血に沸かしたお酒にシソの葉を多めに浸して飲みます。
切り傷などの出血に、水に浸した葉を十分にもんで傷口に貼ると
化膿せず跡が残らない。はたけや水虫などカビによる皮膚病には、
葉をもんだ汁をよくつける。おりもの・子宮出血にはシソの実を
煎じて飲用。
・シソ科シソ属の1年草

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(7)ジュンサイ(夏6月)

 淡泊な風味、つるりとしたのどごしを楽しむジュンサイ。日本
各地の沼や池に自生するが、本州の寒冷な地方でよくでき、秋田
県、山形県など東北地方が主産地で、池やたんぼで栽培されてい
ます。ジュンサイは古くは「ヌナワ」とか「根ヌナワ」といい、
昔から食べられていて「万葉集」にもうたわれています。

 とくに、京都の「深泥ヶ池」のものは相当古くから食用にされ
ていたらしく、平安時代の初めに出版された「延喜式」に、また
同時期の「本草和名」にもその名が出てきます。ジュンサイ(蓴
菜)の蓴はヌナワ。「沼縄」とも書かれます。いまでも高原湖など
のヌナワ採りは歳時記にも見られる夏の風物詩になっています。

 ジュンサイは、枯れ葉などがつもり、水底に有機物がたまった
酸性水質の場所を好み、地下茎は泥のなかをはい、ところどころ
の節から細い茎を出します。葉には長い葉柄があって、葉身の真
ん中あたりから縦についており、大きくなると水面に浮かびます。



 葉は楕円形で長さ5センチから10センチ。夏に葉のつけねから
花柄を伸ばし、水面に出て直径2センチくらいの小さな花をひと
つ咲かせます。花被片は暗紅色で6枚あり、3枚ずつ内側外側に
2列に並びます。

 食用部は水の中にある淡い緑色で褐色じみた若芽や若い葉、つ
ぼみ。寒天のような粘質物に包まれているのを摘む。若芽を摘む
とまた新しい若芽が次々と出てくるので、晩春から秋口まで収穫
できます。最盛期は6月から7月ごろ。

 ワサビ醤油、三杯酢、酢みそ和えに、また汁の実、吸い物の実
などにして利用。水煮、塩漬け、酢漬けとしてびん詰めで市販。
98パーセントが水分で栄養価はほとんどないそうです。

【効能】渇き・吐き気・できもの・強壮作用・胃ガン・胃潰瘍の
予防。
・スイレン科ジュンサイ属の水草

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(8)ショウガ(夏6月)

 薬味、香辛料、漬け物、生食にと幅広く利用されるショウガ。
原産地はインドを中心とした熱帯アジアということになっている
ようです。大昔、中国に伝播。その後日本に伝来という、なんだ
かぼんやりした話。

 ただ、中国の陳寿が3世紀の日本のことを書いたあの『魏志倭
人伝(ぎしわじんでん)』に「日本にもショウガ、ミョウガがある
が、まだ利用の仕方を知らない」という意味の記事があるため、
渡来したのは3世紀以前だろうということになっています。ショ
ウガないねえ。

 ショウガは生薑と書き、中国・呉の発音「ショウカウ」が起源
だという。いつの間にかなまってショウガになり、生姜の字も使
っています。



 記録は古く「古事記」や「日本書紀」にも登場。室町時代には
タイの刺身にそえる梅酢漬けに利用され、江戸時代の天保年間に
なると、京都や大阪で梅酢漬けの紅ショウガが組み合わされるの
であります。

 ショウガは魔よけにもなるといわれ、東京の芝大神宮など各地
の神社で「しょうが市」が立ちます。

 ちなみにショウガのことを「ハジカミ」ともいいますが、ハジ
カミとはもともとサンショウのことを言っていたが、両方とも同
じように辛みがあるためいつの間にかハジカミといえばショウガ
のことになってしまったということです。

 ショウガのことわざに「ショウガ畑も花盛り」(年頃になるとど
んな娘も色気が出てくる)、「ショウガの多い年は大雪」、「ショウ
ガは田植え歌を聞いて芽を出す」というのがあります。

【効能】魚や肉の中毒に、ショウガのおろし汁を飲む。風邪・寒
気・冷え・吐き気の時に、ショウガの根をおろして砂糖を混ぜ、
湯にといて飲む「ショウガ湯」(発汗剤として効果あり)、根をお
ろして砂糖を加えた「ショウガ酒」があります。

しゃっくりに生のショウガの絞り汁を一気に飲む。咳や慢性関節
リウマチの冷えの節々の痛みに、ショウガ汁を加えたお湯で湿布。
咳は胸に、節々の痛みは痛むところ。膀胱炎・腎盂炎・腰や下腹
の冷えに、ショウガを入れたお風呂で腰湯(座浴)をする。
・ショウガ科ショウガ属の多年草

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(9)ダイシンサイ(大心菜)(夏6月)

 ダイシンサイは、タカナの一系統で、ザ−サイ(搾菜)はその
重要品種です。葉が大きく、長さ75センチ、幅45センチにもなり、
葉のつけ根の茎の部分が肉コブ状にふくらんで、直径が5〜8セ
ンチにもなります。

 この肥大部分がやわらかく、塩と調味料で漬けて、漬け物のザ
−サイをつくります。ザ−サイは、うすく切って塩出しして中華
料理の菜やス−プ用にします。また煮物や油いため用にもなりま
す。

 ダイシンサイは、かつては千葉県館山市などでわずかに栽培さ
れていましたが、いまはなく、中国から漬けものを輸入するばか
り。中国四川省、揚子江沿岸での栽培が多い。
・アブラナ科アブラナ属の1年草


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(10)タマネギ(夏6月)

 タマネギは球葱。文字どおり球のネギ。ネギと同じように「葷
酒」の仲間。山門には入れません。

 しかし、紀元前5000年もの昔、カルデヤ国ではタマネギを
神の「お守り」にしていたといい、前4000年前、エジプトで
は神聖なものとして、神壇に供えたというから、神サマはそうお
嫌いではなかったようです。

 タマネギは、球葱、葱頭、洋葱とも書き、原産はアソコだココ
だと説があるが、みんなひっくるめて西アジアあたりとなってい
ます。

 日本では江戸時代、長崎の出島でオランダ人が栽培したといい
ますが、まあそれはおいといて、日本人が栽培をはじめたのは明
治になってから。北海道札幌村で栽培した記録がある。



 明治4年のこと。同7、8年になり、勧業寮により、アメリカ
から種子を導入、他の野菜とともに青山の宮園で試作したが気候
や土壌の違いがもとなのかみンごとに失敗したという。

 やっと栽培に成功して市場に出しても当時の市民のし好にあわ
ず売れなく、栽培する農家がバカにされるしまつ。明治26年、
大阪地方に流行したコレラにタマネギがくすりになるといううわ
さに市民が市場に殺到したこともあったものの、売れゆきはどう
もイマイチ。

 一躍消費が拡大されたのは洋食をとりはじめる戦後になってか
ら。ハンバーグ、シチュー、焼き肉、カレーなどの肉料理が普及
したのが原因。ちなみにイランやインドのサラサ(更沙)の黄金色、
褐色の色素は赤いタマネギの外皮から取ったものという。

【効能】神経を刺激し、消化液の分布を促し、不眠症・筋肉疲労
をなおす。タマネギの外側に薄皮には印度蛇木から発見されたル
チンと同様の効果があり、血圧降下剤として使用。

下痢・出血・痛風にも効果。発汗・去痰・風邪にもよいという。
駆虫効果があるとし、民間では虫下しに、またやけどや毒虫ささ
れに汁をつけるとよいともいう。
・ユリ科ネギ属の多年生作物 

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(11)タラゴン(エスタラゴン)(夏6月)

 タラゴンは葉をハーブとして利用するキク科ヨモギ属の多年草。
日本のヨモギと同じ属ですが、香りはその比ではないという。鶏
肉料理や野鳥料理、エスカルゴの料理のつま(ガーニッシュ)な
どのフランス料理に欠かせません。

 また、タラゴンの生の葉や乾燥品をワイン酢に浸してつくるタ
ラゴン酢(エスタラゴン・オウ・ヴィネーグル)は、サラダのド
レッシング用として使われます。また生のままの葉をきざんで料
理に添えたりします。

 原産は南ヨーロッパからシベリア。日本へは1915(大正4)
年に渡来したが、夏の暑さに弱く日本では栽培しにくいため、栽
培はまだわずかだという。

 タラゴンは、草の高さ0.6から1m。ヨモギに似ていますが、
全体に無毛。葉はヨモギとちがって細く、根出葉は三片に深く裂
けています。ふつうは開花せず、夏に緑白色の小さな花をつけて
も、種子はまれにしかできず、繁殖は地下茎やさし芽でします。

 冬になると地上部は枯れてしまいますが、温室で育てれば冬で
もよく茂って年中若葉がとれます。刈り取った葉は、手早く陰干
しにして密栓して保存しますが、香りは生葉の方がよい。

 栽培種にはフランス種タラゴンと、ロシア種タラゴンの2種類
があります。ロシア種タラゴンは、フランス種にくらべて香りが
弱い。フランス種は、エストラゴン(小さな竜の意味)と呼ばれ、
「本物のタラゴン」とされています。



 フランスでは古くから「食通の好むハーブ」と呼び、独特の甘
い香りと苦味を持ち、フランス料理によく使われています。

 タラゴン(英名)ともエスタラゴン(フランス名)、エストラ
ゴンとも呼ばれます。
・キク科ヨモギ属の多年草。

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(12)ニガナ(夏6月)

 全国の低山や野原などに普通にみられる野草ニガナ。若葉と根
を食用にします。葉や茎に白い乳液があり、かむと苦いのでニガ
ナの名があります。沖縄では昔から栽培され、料理に利用されて
きたという。フナといっしょに汁物、あえ物、あお汁に、またス
ミイカと豚肉、ニガナを煮込んでイカのすみを入れた'"白イカの
お汁"は郷土料理になっています。

 茎は細く、高さ30センチくらい。根生葉は細長く不規則に切れ
込みがあり、ヘリにギザギザがあります。茎葉は耳状で茎の別れ
ぎわで、それを抱くように生えています。

 5〜7月ころ、茎の先端で枝分かれして、集散花序に黄色、と
きには白い花頭をつけます。ハナニガナ、シロバナニガナ、タカ
ネニガナなど、みなその仲間です。
・キク科ニガナ属の多年草


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(13)ニンニク(夏6月)

 強烈なにおいがありながらも、保健野菜として多くの人に好ま
れるシンニク。ヒル、ラッキョウ、ネギ、ニラとともに「五辛」(ご
しん)のひとつにあげられ、古くから香辛料、強壮剤として世界的
に利用されてきました。

 ニンニクは発汗、利尿、去痰(きょたん)の作用があり、また健
胃、整腸、駆虫、強壮の薬としてよいとこずくめ、それはニンニ
クの中のアリンというアミノ酸が、すりつぶされるとニンニクの
においの本体であるアリシンに変化します。(これが抗菌作用物質)

 さらにアリシンはビタミンB1と 結びつき、B1より効力のあ
るアリチアミンになって腸からの吸収を増大させ、人体の組織と
親和力を増すからという。

 なんだかムズカシイ話だが、それもそのはず、これだけわかる
のにスイスのストール、アメリカのバット、日本の久野、朝比奈
博士たちの研究を結びつけてやっとわかった。簡単なものではあ
りません。



 ニンニク。漢字で忍辱とか書き、侮辱(ぶじょく)を堪えしのぶ
意味。坊さんもくさいのを忍んで食べるという隠語が語源だとい
う。原産は西アジアだ中央アジアだと説あり。

 旧約聖書にも記載され、栽培は地中海の沿岸あたりからはじま
り、古代エジプト、ギリシャ時代にはすでに利用され、とりわけ
エジプトではあのピラミッドづくりの人夫たちがよく食べていた
という。

 その後、熱帯アジアにインドに伝わり、中国に入ったのは紀元
前122年ころ。そして日本へ。「古事記」、「日本書紀」、に「ヤ
マトタケルが山中で食事中、山神が白い鹿になってあらわれた。
しかしミコトがニンニクを投げつけたら、その鹿は死んでしまっ
た」とあり、はじめは不浄、悪疫退散のために用いられたようで
す。

 ニンニクの名は中世以後の呼び方。渡来当時はオオヒルといい、
平安前期の「本草和名」という本には「和名於保比留(おおひる)」
とあり、「倭名類聚抄」では「大蒜」の字が使われています。いま
でも邪気払いのため、農家の軒先に吊ってあるのをみかけること
があります。

【効能】高血圧・動脈硬化・血圧降下作用・健胃作用。強壮・強
精作用・利尿・発汗・去痰・殺菌・解毒など。水虫にニンニクを
すり下ろした汁をつける。
・ユリ科ネギ属多年草

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(14)ハゴロモカンラン(夏6月)

 カンランというからキャベツの一種になっていますが、どうし
てどうして、いまのキャベツの原形とされる由緒ある野菜。

 ケ−ルとか緑葉カンランともいい、結球せず葉が長く大きく、
縁に欠刻が多く葉身が縮れるという、まさに「羽衣」にふさわし
い形。

 ギリシャ時代から栽培されてきたといい、茎の立つ型がありま
す。明治初年にアメリカから導入。性質はキャベツに似ていて2
年生で、春にとう立ちし、5月下旬に開花します。

 冬から春にかけ次々と葉をかきとってサラダや煮物、また青汁
用に使います。
・アブラナ科アブラナ属の2年生作物


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(15)葉ショウガ(夏6月)

 ショウガの記録は古く『古事記』や『日本書紀』にも登場して
います。漢方でも古くから利用され、新鮮な根茎を生姜(しょう
きょう)といい、健胃、利尿、感冒、咳や嘔吐(おうと)をしず
めるのに用いられてきました。

 また乾燥した根茎は乾姜(かんきょう)と呼ぼれ、非常に辛く
体の冷え、下痢、腹痛をなおし、新陳代謝を高めるとされていま
す。普通の家庭でも風邪の時にショウガ湯を作って飲ませます。

 ショウガは根茎の塊茎の大きさで、大ショウガ、中ショウガ、
小ショウガの3群に分けられます。大は漬物、砂糖漬け、菓子用。
 中ショウガは葉ショウガや漬物に。小ショウガは、芽ショウガ
として料理のつまみに、葉ショウガ用としても栽培されます。

 また利用面からは、芽ショウガ、葉ショウガ、根ショウガに分
けます。芽ショウガは光をさえぎって軟化栽培したもの。葉ショ
ウガは、根茎から伸びた新しい地下茎を生食に。根ショウガは、
秋に収穫し貯蔵して随時出荷するもので薬味や香辛料に使われま
す。


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(16)ハスイモ(夏6月)

 葉柄を食用にするハスイモ。さしみのつま、汁の実、三杯酢に、
また乾燥させてズイキにします。

 ハスイモは、地上部はサトイモに似ており栽培上はサトイモ類
に含められています。しかし、親イモや子イモは小さい上に堅く、
食用にならないが、植物全体にえぐ味がなく葉柄の皮をむいてみ
そをつけ生食できます。

 インドネシア原産で、日本でもかなり古くから栽培していたと
考えられています。葉と葉柄は緑白色で、うすく白い粉をかぶっ
ているため、白イモとも呼ばれ、ほかに印度イモ、露イモなどの
名もあります。

 この葉柄でつくった肥後ズイキを、かつて加藤清正が熊本城を
築く際、いざというときの兵糧のため、城の畳の床に使ったとの
いいつたえもあります。

 葉柄は1〜2mになり、着るとスポンジのような小さな穴がた
くさんあります。生食のほかゆでて和え物に、煮物、汁の実、油
炒めに、乾燥して冬の保存野菜に利用します。

 イモは漢方で乾燥したものを煎じて薬用にします。本州の中部
以南に栽培。葉柄は8月から11月ごろまでに収穫できます。サ
トイモの近縁種で、強い光をきらい、やや日陰に生育。

・サトイモ科サトイモ属の多年草 サトイモの近縁種


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(17)ハナニラ(夏6月)

 ニラの栽培(葉ニラ)では、花茎が出ると株が弱るため、すぐ
にとりのぞきますが、ハナニラ栽培では花茎を30センチくらいに
までのばして、苞がやぶれて花が開く前に収穫します。

 とうの早くたつ、分けつ性の強いハナニラ用の品種があり、テ
ンダーポールという細葉ニラが中国から導入され、国内でも生産
されるようになりました。一年中、とうの立つ種類と、とう立つ
回数はすくないが、花茎の大きい種類があります。6〜8月が最
盛期で、葉は食用にならない。

 ハナニラは農林水産省の統一名称で、食用ハナニラとも呼ばれ
ています。香川、静岡、山形、秋田などでわずかに生産。台湾、
中国からの輸入が多い。

・ユリ科ネギ属のニラの花茎


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(18)ビーツ(夏6月)

 葉脈、葉柄から根の中心まで真っ赤なため日本名がカエンサイ
(火炎菜)という名があるビーツ。ビート類の根菜のひとつ。農
林水産省の統一名称だという。大きくなった根は、扁球形のもの
が多いがニンジン形になる品種もあります。

 輪切りにすると同じ円の赤い紋があるのでウズマキダイコン(渦
巻き大根)とか、根から砂糖をとるテンサイ(サトウダイコン)、
また、飼料用のものと区別するため、食用ビートとも呼ばれます。
英語ではテーブルビーツ、ガーデンビーツなどの名もあります。

 原産地は地中海沿岸とされ、紀元前1000年ころから、ヨーロ
ッパで薬用として栽培していたという。いまのような赤いビーツ
は、16世紀ごろドイツで栽培されはじめたといわれています。

 日本に入ってきたのは、江戸時代だという。江戸中期の『大和本
草』に最初の記事が載っていますが、「真っ赤なデエコン」に江戸
の人がたまげたか、普及した形跡はありません。

 下って明治の初め、ふたたび導入しました。1870(明治3)、
東京開墾局で試作。その後、札幌官園で栽培されたという。いま栽
培されているのはその時の品種だといいます。春に種をまいて11
月ごろ、根が直径七から九センチになったところで収穫します。

 ビーツは、味そのものより鮮やかなその色を楽しむために使う
ことが多い。その色はベタニンという色素だという。天然色素の
ビートレッドとして利用されるという。

 ビーツは、貯蔵がきくため、1年中店頭に出まわっています。
買う時は、新鮮な肉質のしまった鮮やかな色のものを選びます。
・アカザ科フダンソウ属の越年草。ビート類の根菜のひとつ


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(19)プリンスメロン(夏6月)

 メロンには、カンタループ系、フユ(冬)メロン、そしてアミ
(網)メロンがあります。カンタループやアミメロンには、ジャ
コウの香り(マスク)があります。アミメロンは多湿な日本では
路地では困難なため温室で栽培され、特にマスクメロンと呼んで
います。

 一方、第二次大戦後露地でも栽培できるようにいろいろなメロ
ンを人工交配して研究。いまでは多くの露地メロンができていま
す。そのうち、日本古代からあったマスクウリの系統がプリンス
メロン。外来の露地メロンと、マクワウリの一系統との一代雑種
として育成、1962年(昭和37)に発表されました。

 果皮が灰緑色でアミはなく、果肉や香りはマスクメロンとマク
ワウリの中間で、甘く、病気に強く豊産種。露地でも栽培できる
というので、いままで人気のあった金甜瓜(きんまくわうり)の
スイートメロンにとって代わりました。

 メロンは、もともとウリの仲間が変化してできたもの。簡単に
交雑してしまい、いまでは純粋なものは少ない。メロンには他に
輸入酒ハニーデュー、キャサバ、奈良で育成したスペインメロン、
北海道の夕張キング、コサック、アンデス、アムス、ふかみどり、
キンショウ、シラユキなどの品種があります。

・ウリ科キュウリ属のつる性1年草


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(20)マヨラナ(夏6月)

 葉や茎、花をハーブとして使われるマヨラナ。羊や鶏肉、レバ
ーなどの臭み消しに、またスープ、シチュー、ソースなどの香り
づけに利用されます。英名でマージョラム、和名でハナハッカ(花
薄荷)だという。

 原産は地中海沿岸から、アラビア地域にかけてで、フランス、
ギリシャ、メキシコなどにが主産地だとか。古代ギリシャ時代に
も最も好まれたハーブのひとつで、マヨラナとは「山の喜び」と
いう意味で、幸福のシンボルになっていたとか。

 また酢と塩を混ぜて、サソリの解毒剤に使われた記録があり、
切り傷、歯痛の民間薬にもなっているという。これには眠りを誘
う効果があって、エリザベス一世が他のハーブといっしょに枕に
詰めて寝たと伝えます。



 「美の女神ビーナスがこの花に触れたため香りをだすようにな
った」という伝説があり、結婚式に用いられ、花嫁、花婿はこれ
で作った冠を被ったという。

 日本には、明治時代のはじめに渡来。明治六年の『西洋蔬菜栽
培法』という本には「マジョラム」として出ているという。草丈
は30〜50センチ。茎は四角で6〜8月に小さい紫または白い
花を密生させます。

・シソ科オリガヌム属の多年草

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(21)モロヘイヤ(夏6月)

 ビタンB1がパセリの3倍以上、ビタミンB2がブロッコリーの
20倍、カリウムもパセリを抜いて第1位。カルシウムが葉トウガ
ラシに次いで第2位。鉄分がホウレンソウ、パセリに続いて第3位、
カロチンはニンジンの1.5倍というけたはずれの栄養価を誇るモ
ロヘイヤ。健康食野菜ということで、一時話題なったことがある野
菜です。

 インド西部からアフリカが原産地で、エジプト、アラビア半島な
どの北アフリカや中東では、昔から食べられていたといわれます。
モロヘイヤとは、アラビア語で「王さまだけのもの」という意味だ
そうで、あのクレオパトラも常食していたとか。



 その昔、エジプトの王が病床に伏したとき、このスープを飲んで
全快したという伝説があります。そんなことから「王家の野菜」と
も呼ばれています。

 かつてカイロに留学していた日本人の学生が、飲んだモロヘイヤ
のスープが忘れられず、帰国後現地から種子を取りよせて栽培し、
普及に力を入れたといいまます。各地で試作の末、山形県や長野県
で栽培に成功、1984年(昭和59)ころから一般に知られるよ
うになりました。

【効能】高血圧や動脈硬化予防・貧血・低血圧に効果。

・シナノキ科コルコルス属(和名ツナソ属)の1年生草木の葉の部
分を食用

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(22)ラッキョウ(夏6月)

 ラッキョウは、むいてもむいても皮ばかり。ゆえにツラの皮の
厚い人のことをラッキョウと呼ぶのであります。ナルホド、ナル
ホド。

 その名は辣韮(らっきゅう)がなまったもので、辛らつな味のす
る「ニラ」の意味。

 原産は中国からヒマラヤあたり、なかでも中国では古くから栽
培していたそうであります。紀元前400年ころの「山海経」と
言う本や「爾雅」や「名医別録」にも載っているほど。

 日本への渡来の時期はイマイチはっきりしないが平安時代の本
「新撰字鏡」(900年)にナノミラ、「倭名類聚抄」(923〜9
30年)には於保実良(オホミラ)などと出ているところから、日本
へ入って来たのは9世紀ごろでは……とされています。

 江戸時代になると、「農業全書」(1606年)や「大和本草」(1
709年)にラッキョウの栽培法が書かれていますが、「本朝食鑑」
(1695年)に「あまり賞味せず」とあり、においが嫌われてい
たようです。

 また延喜式(えんぎしき・928年)にはラッキョウを薬用に
供したとあるように、発汗、消炎、制菌などの効用があるそうで
す。

【効能】風邪・痰切り・腹痛・食欲不振・呼吸困難・鎮痛など。
・ユリ科ネギ属の多年生草本


第4章【夏の野菜・果物】(6月)終わり

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