【クスリになる野菜・果物】第3章

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▼5月の野菜・果物
 ・(1)アスパラガス ・(2)アボカド ・(3)カイラン ・(4)キユウリ
 ・(5)グリンピース ・(6)コウサイ ・(7)サヤインゲン ・(8)ゼンマイ
 ・(9)茶 ・(10)パクチョイ ・(11)葉ゴボウ ・(12)バナナ
 ・(13)葉ニンニク ・(14)ビワ ・(15)フキ ・(16)ベニバナ
 ・(17)ボウズシラズ ・(18)ホウレンソウ ・(19)ミョウガタケ
 ・(20)ルバーブ(食用ダイオウ)

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(1)アスパラガス(春5月)

 毛筆のような形のアスパラガス。アスパラガスには発芽の際、
土寄せをして白く軟化させたホワイトアスパラガスと、地上に出
た芽をそのまま成育させたグリーンアスパラガスがあるのはご存
じのとおりです。

 ホワイトアスパラガスは、缶詰め、瓶詰め用で、かつては主流
でしたが、いまは栄養価値と風味の優れているグリーンアスパラ
ガスが一般的です。

 アスパラガスは南ヨーロッパ、地中海沿岸から小アジアにかけ
てが原産地。ヨーロッパでは古くから栽培され、ギリシャ、ロー
マ時代からすでに利用されていたといいます。

 アスパラガスとは、茎葉が非常に細かくわかれているという種
小名をオフィキナストフィキナスといい、薬用になるとのこと。
1806年にこの野菜から発見された成分に、その名からアスパラギ
ン酸と名づけました。アスパラギンは旨味のあるアミノ酸で、ア
スパラガスの甘味は、かなりこれによるとされています。



 日本へは江戸時代の天明元(1781)年にオランダ人により、も
たらされましたが、当時はマツバウド、オランダキジカクシなど
と呼ばれ、観賞用に庭園などに植えられていました。その後文政
年間(1818〜30)にも長崎に伝来しましたが、本格的に栽培され
たのは明治初期にアメリカ、フランスから食用として導入されて
からでした。

 缶詰め用のホワイトアスパラガスの栽培が北海道で盛んになっ
たのは1923(大正12)年ころだという。昭和30年ころから栄養価
が認識され、グリーンアスパラの栽培が広がります。

 アスパラガスの松葉のような葉は、植物学的には枝だそうで
「偽葉」と呼びます。葉は茎の各節の部分にある三角形の鱗片で、
茎が成長すると、この退化した葉は自然に落ちてしまいます。雌
雄異種だといいます。

 初夏に、白色で小形のつりがね状の花をつけ、赤く熟す果実を
つけます。主産地は、北海道、長野、福島、岩手、群馬、の各県
です。

【効能】新陳代謝を活発にして血を清める。腎臓病・高血圧・精
力増進。アスパラガスの汁とニンジン汁を組み合わせて利尿剤に、
糖尿病・貧血・リウマチ・神経痛・前立腺障害に効あり。
・ユリ科クサスギカズラ属の多年草 

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(2)アボカド(春5月)

 タンパク質、ミネラル、脂肪、ビタミンが豊富で、その淡泊な
味を生食に、薄切りにしてパンにぬったり、サラダにもするアボ
ガド。ワサビじょうゆに合い、冷やして切って刺身のように食べ
ておいしく、マグロのトロから青トロとも呼ばれます。    

 アボガドには、果実の小さなメキシコ系(6〜8月が熟期)、
西インド系(夏、秋)、ガテマラ系(冬、春)と3系統があり、
それぞれ熟期が違うので1年中出回っています。

 原産地は南アメリカ・コロンビアからエクアドル、メキシコの
南部あたり。現地では数千年前から栽培されていたといい、13、1
4世紀には常食していたという。13世紀末のインカ帝国の王の墓か
らアボガドのたねが出土しています。コロンブスのアメリカ大陸
発見でヨーロッパに渡り、世界の各地に広がります。



 日本には明治の初めに渡来はしたが、とんと普及はしませんで
した。最近になってやっと一般化。日本では東海地方、和歌山県、
九州の暖かいところで栽培されている程度。アボカドは木になっ
たままでは熟さないので収穫してから追熟させる。表面が黒っぽ
くて光沢があり、弾力があるものが食べごろという。果皮がワニ
の皮に似ているところから「ワニナシ」の名があるというからお
もしろい。
・クスノキ科アボカド属の常緑高木

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(3)カイラン(春5月)

 中国から導入された野菜で、結球しないキャベツの仲間。トウ
立ちした茎やつぼみ、若い葉を利用します。若葉はやや苦味があ
るが茎には甘味があります。

 カイランは農水省の統一名称で、中国では芥藍(ジイエラン)
というそうです。キャベツとブロッコリーを合わせたような野菜
で、白花と黄花があるが、日本に入ってきているのは白花の早生
種。
 中国華南地方の原産で、広州では8世紀から栽培されている特
産野菜。台湾や東南アジアでも多く栽培されています。



 茎は太くよく分岐し、葉は厚く広いだ円形。草丈は50センチほ
どになり、茎の先端につぼみをつけ、花は白花でやや大きい。茎
は多肉質でやわらかい。
・アブラナ科アブラナ属

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(4)キユウリ(春5月)

 キュウリはインド北西ヒマラヤ山ろくに野生するククミス・ハ
ルドウィキィというこむずかしいものが原種。紀元前に西方は地
中海沿岸に伝播。次第にヨーロッパに広まるのでありました。

 一方、東側には漢の時代に中国入り。西方の意味の胡をつけて
胡瓜。随のころ、胡の字をきらって、そのかわりに熟すと黄色に
なるので黄瓜。だからキウリと書くのが本当。キュウリはまちが
いだそうな。

 ま、そんなこだわりはすてて先へまいります。日本にきたのは
古く、仁徳天皇の時代だという人もいるが、最初に文献に登場す
るのは平安時代の辞典「倭名類聚抄」。「曽波宇利(そばうり)、
俗に木宇利(きうり)…」と書かれています。

 江戸時代、貝原益軒の「菜譜」(1714年)には「胡瓜、こ
れウリ類の下品なり、味よからず。かつ小毒あり、性あしく、…
…」とサンザン。

 ところが、明治になり、佐藤信淵著わすところの「草木六部耕
種法」には「胡瓜は諸瓜の最初にできるものにして、世上はなは
だ珍重す……。ヨロシク多分に作るべし……」ときたもんだ。あ
げたりさげたりするなッ。キュウリのイカル声が聞こえそうです。



【効能】ビタミンB・Cが豊富。体の熱をとり、口の渇きを止め
る。利尿作用・腎臓病・心臓病などのむくみに有効。脚気や胃腸
病に、ふたつに割り、タネを取り陰干しにして煎じて服用。火傷
や打ち身に、キュウリをすり下ろして小麦粉で練って湿布します。

咳や風邪に、つるを地上30センチのところで切り、切り口から
出る汁をビンにとって飲用。またキュウリの葉をもんでしぼった
汁は毛生え薬になるといわれています。

キュウリの皮をむいて種子を取り去りすりつぶし、布でこした汁
は化粧水としても高級品。キュウリのつるには血圧を下げ、コレ
ステロールを低下させる作用があります。
・ウリ科キュウリ属の1年草

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(5)グリンピース(春5月)

 エンドウの内、若い莢ごと食べるのがサヤエンドウで、莢をむ
いてまだやわらかい未熟な豆がグリーンピース。莢と未熟な豆を
いっしょに食べるのがスナップエンドウ、また若い葉とつるを食
べるのが豆苗。さらに完熟した豆を乾燥させて食べるエンドウマ
メでそれぞれ適した品種に分化しています。

 グリンピースは青みがある未熟豆ながら、大きさは十分に生育
していて、さやからむいて野菜として用います。

 ヨーロッパでグリンピースの記録がみられるのは、ノルマンデ
ィー公のイングランド征服(1066年)以降だという。くだって153
6年にはフランスの書物に記述があるらしい。十八世紀にはグリン
ピース用の品種もできます。



 日本への渡来は、明治初年。野菜用としての品種が欧米から導
入され、さらに明治中期、品質のよい品種「碓井(うすい)」が
再導入されてグリンピースが普及しはじめました。

 グリンピースの品種には、やや薄い碓井のほか、濃緑色のグリ
ントップ。さつまみどりがあります。

 その他アラスカなどの品種のある、豆が大きく糖分が多い、味
もよいシュガーピースという系統が栽培されています。これは、
グリンピースの冷凍品やかん詰め用として利用されるものです。

 さやが緑色で、実のよくはいったもの、むいたものは新鮮な緑
色のものがよい。

【効能】野菜のなかでは栄養価が高く、タンパク質・鉄・カロチ
ン(ビタミンA効力)・ビタミンB1・Cが比較的多い。
・マメ科エンドウ属の1、2年草

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(6)コウサイ(春5月)

 香菜は別名コエンドロ。中国から導入された香辛野菜。肉や魚
のにおい消しや風味づけに利用します。とくに中国料理のマトン
料理には欠かせない材料。果実のにおいは熟するに従い芳香に変
わり、丸のままか、粉末にしたものが香辛料に利用されます。

 原産地は、地中海沿岸といわれ、古代エジプトの古墳から種子
が発見されたというほど、古くから利用されてきました。日本へ
は中国から十世紀ごろまでに入ってきたという。

 またその後、江戸時代になってポルトガル人によっても伝えら
れましたが、葉や果実にはカメムシやナンキンムシのような悪臭。
日本人の好みに合うはずがありません。西洋人はこんなものを食
っているのかと、江戸っ子は目をシロクロ、とーぜん、普及など
しませんでした。

 しかし、西洋では医学の父といわれるヒポクラテスが、「胸焼
けを防止し、催眠薬にもなる」と記すほど大事な野菜。また強壮
作用もあるといわれ、あの「千夜一夜」には媚薬として登場して

ます。



 コウサイは、葉はややセリに似ているが、羽状にさけて薄く、
2〜3センチと小さい。茎は細く、草丈は30〜50センチにな
ります。独特の香りのある生の葉を、そのまま炒め物や和えもの
に混ぜたり、また、かゆ、スープなどに散らしたり、みじん切り
にしてタレの中に入れるなどして、いろどりもかねて薬味的な利
用法がとられます。中国パセリの名もあります。

 初夏に小さな白い花をつけ、果実は淡黄褐色の球形。 果実は漢
方で胡菜子(こずいし)と呼ばれ、健胃・発汗によいとされてい
ます。

春から秋にかけて種をまいて、若い茎や葉を摘んで利用。果実は
9月ごろから収穫できます。種子はキャンディや菓子に、粉にし
たものはパン、クッキーなどの香料として利用します。

【効能】体内の解毒・消化・健胃作用
・セリ科コリアンドラム属の1年または2年草

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(7)サヤインゲン(春5月)

 インゲンマメの若いさやがサヤインゲン。その品種には、つる
性種とつるなし種(つるなしインゲン)があります。つる性はケ
ンタッキーワンダーや、キヌガサなどが代表品種です。

 ケンタッキーワンダーはドジョウインゲンとか、ナリクラと呼
ばれ、さやが長く味がよい。またキヌガサは、さやが短く、すじ
が少ない。

 一方、つるなしインゲンは、草の高さ30から50センチと小
さく、マスターピース、エバーグリーンなどの品種があります。
この品種は支柱がいらず手軽に栽培でき、短い期間で収穫できま
す。

 サヤインゲンは、種をまいてから収穫までの期間が短く、1年
に3回も穫れることからサンドマメ(三度豆)の異名もあります。

 豆用のインゲンマメ産地は、90%以上が北海道で栽培してい
ますが、野菜としてのサヤインゲン(若ざや用)は、日本の各地
でも栽培されています。

 中国明代の本草書『本草綱目』という古書には「五蔵を補う作
用があって、長く服用すると頭が白くならない。女子の帯下(た
いげ=おりもの)によく、また、酒の毒、フグの毒などを消し、
下痢を止め、暑さを消し、口の渇きをいやし、胃腸を温めて熱を
去る」と記されています。



 インゲンマメには紫と白い花があります。漢方では花も葉も薬
として用い、花は豆と同様、下帯や中毒で死にかかっている人に
救急で飲ませたりします。

 選ぶ基準は、小形で緑色の濃い、曲げるとポキンと折れるもの
がよい。しかし店頭でいちいちポキン、ポキンとやるわけにも行
かないので、やわらかくなったものや黄色っぽいものは古いので
避けます。また、さやの表面に斑点や黒っぽいシミのあるものは
品質がよくないので注意します。

【効能】タンパク質、脂肪、ビタミンB群などが豊富。消炎・止
痒(しよう・かゆみを止める)・解毒・整腸作用・下痢や慢性の胃
腸病に効果があるという。また長く食べると白髪の予防になると
いう。
・マメ科インゲンマメ属の1年草

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(8)ゼンマイ(春5月)

 山菜として一般的なゼンマイ。全国の野や山に自生しています。
ゼンマイは漢字で「銭巻」とも書きます。淡赤褐色の綿毛をかぶっ
た若芽が硬貨(銭)のように丸く巻いているためについた名前だそう
です。

 ゼンマイは、太い塊のような根茎から葉を束ねるように生えてき
ます。その葉には、二つの型があって、早春に芽を出す「胞子葉」
は、花に相当するもので、開いた葉は縮んで、葉肉が退化しており
胞子を出すと枯れてしまいます。

 もう一つの型の「栄養葉」は、「胞子葉」より遅れて出てきて、
色は淡緑色で開くと羽状複葉(小葉が羽のような形についている)
で、葉柄はありません。高さ50センチから1メートルにもなります。食用
にするのは、この栄養葉の方で、一名オンナゼンマイとも呼ぶそう
です。

 巻いた栄養葉の若芽をつみ、葉と綿毛を取り除き、あくぬきをし
て食用にします。とりたての生のものを利用しますが、だいたいは
乾燥し、保存したものを戻して使います。乾燥品には、生のまま干
した「青干し」と、ゆでてもみながら干した「赤干し」があり、乾
燥せずに利用する場合も含め、似つけ、汁の実、てんぷらなどにし
ます。



 昔は、ゼンマイの若芽についている綿毛を集めて綿の代用にした
り、これで「ぜんまい布」と呼ぶ布を織ったりもしたといいます。
しかし布を織るだけの綿毛を集めるには、なみたいていの苦労では
なかったに違いありません。大きな株は「ゼンマイ根」と呼び、洋
ランの栽培などのときヘゴの樹幹代用しています。 

【効能】ビタミンA(カロチン)が豊富に含まれています。乳の出
が悪い人は、干しゼンマイを汁にして食べるとよいという。また、
利尿、補血、貧血、むくみ、殺虫効果もあるといいます。
・ゼンマイ科のゼンマイ属の夏緑性シダ

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(9)茶(春5月)

 日本の栽培茶は、野生しているヤマチャと中国から伝来した種
類、それにインド雑種などと交配させたものの中から、さらに選
び出したものという。

 緑茶用としてヤブキタ、アサツユ、ミヨシ、サヤマミドリ、タ
マミドリ。また紅茶ようにベニホマレ、ハツモミジなどがありま
す。

 中国では、3世紀にはすでに薬として飲んでいたという。当時
はまだ、「茶」という文字はなく、「茶」と書かれていました。
日本には仏教とともに喫茶の風習が伝来。

 天平時代の『奥義抄』に聖武天皇が、文武百官に茶を賜ったと
いう記述が、また平安時代のアタマに嵯峨天皇が滋賀のお寺で茶
を飲んだという記録もあります。

 また最澄や、空海が中国から茶の種子を持ち帰ったという伝承
もあります。そんなこんなで鎌倉時代には、薬としての喫茶の習
慣は急速に広まり、室町時代には茶会が開かれ、茶道がおこって
きます。



 江戸時代になると、京から将軍家御用達の茶つぼが運ばれ、そ
の行列は格式のあるもので♪茶つぼに追われてトッピンシャン…
…という歌もできます。江戸中期になると煎茶が広められ、江戸
末期ころには国中に普及していきました。

【効能】ビタミンCに富み、またビタミンAも含まれている。強
心作用・利尿作用・収斂作用・神経興奮作用
・ツバキ科チャノキ属の常緑植物(ツバキ属と一緒にすることも
ある)

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(10)パクチョイ(春5月)

 これは中国野菜のひとつで農林水産省の統一名称。中国では白
菜(パイツアイ)のなかで、結球する白菜を大白菜(ダアパイツ
ア)、結球しないものを小白菜(シャオパイツアイ)と呼んでいま
す。

 小白菜には葉柄(茎)が白いものと青いものがあり、白い白梗
菜(バイゲンツアイ)を日本では以前は白茎パクチョイと呼んで
いたが「パクチョイ」に統一。また茎の青い小白菜も同様に、青
茎パクチョイといっていたが「チンゲンサイ」と呼ぶようにされ
ました。



 パクチョイの原産地は中国南部。華中から華南にかけて栽培さ
れているという。昭和50年代に日本に導入、チンゲンサイ同様
に知られています。葉は濃緑色、葉茎ともに軟らかく、くせがな
く、少し甘味があり歯切れがよい。炒め物、煮物、漬け物、和え
物によい。
・アブラナ科アブラナ属の漬け菜類   

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(11)葉ゴボウ(春5月)

 若い根と葉(葉柄)を食べるためのゴボウの1品種。福井県大
野地方原産の「越前白茎」という品種が用いられています。関西
地方で多く栽培され、「若ゴボウ」とも呼んでいます。

  葉柄がやわらかく長く、茎葉が多い。根は10センチくらいと
短く、枝根が多く出ます。店頭では、細く長い葉柄に葉もついて
売られています。福井県で採種したものを取り寄せて各地で栽培。
大阪や八尾地方では「八尾ゴボウ」とか、細長い葉が矢のように
見えるので「矢ゴボウ」などとも呼んでいるという。

 ゴボウの葉は、古くから食べられていたらしく、江戸時代の初
期・元禄八(一六九五)年の本『本朝食鑑』(平野必大著)には
「苗ヲ剪リテ蔬ト作ス」と葉ゴボウのことを記録しています。ま
た『農業全書』(宮崎安貞著)には「牛蒡ヲウヘオキ、茎葉ノワ
カキヲキリテ菜ニ用ユル事韮ノゴトシ」と出ています。



 葉ゴボウが出まわるのは3から4月。よく洗って、根や葉柄、
葉などに切り分けます。葉はたてに2つから3つにざく切りにし、
葉柄は長さ3センチくらいに切ります。

 根は半分か太いものはたてに2つか4つ切りにし、炒め煮、油
揚げとの煮物、またゆでてごま和えなどに利用します。フキに似
た特別な香りと歯ざわりのよいのが特長です。

 春の芽立ちが早く、10月上旬に種をまき3〜4月に出荷しま
す。
・キク科ゴボウ属、ゴボウの一種

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(12)バナナ(春5月)

 バナナには、糖分が多くて甘いため生食できるものと、デンプン
が多く料理に使うものがあります。

 ふつうは両方をバナナと呼んでいますが、料理バナナは日本では
あまり見られません。生食用より果肉がかたいうえに渋味が強い。
たてに切ってフライにしたり、所によっては焼いたり、ゆでたりし
て食べるそうです。

 さて生食バナナ。ほとんどが輸入品で、陸揚げされるのは未熟な
青バナナです。これを室(むろ)に入れて加温し、エチレンガスな
どで追熟してから出荷するのはご存知の通りです。

 このバナナは世界中で大量に栽培されており、多品種です。西イ
ンド諸島産のグローミツチェル、フィリピン産のカーペンデイッシ
ユ(三尺バナナ)、台湾バナナ(北蕉や仙人蕉)、それに果実の小
さいモンキーバナナ、果皮の赤いモラードなどがあります。

 おもな成分は糖質で、未熟なときは大部分がデンプンですが、室
(むろ)から出荷するときには糖化されて甘くなります。ビタミン
Bl、B2、Cのほかカロチンを含み、鉄、カルシウムなどの無機質もあ
ります。

 バナナの発祥地は東南アジアといわれ、紀元前5千〜1万年も前か
ら重要な食糧とされていたといわれます。日本には明治時代、南中
国産の背丈の低い三尺バナナが入ってきたのが最初です。

 バナナは、栄養価が高く、虚弱者には理想的な健康果物で、酒毒
を消し肺を潤す作用もあるという。

 中国明代の「本草綱目」(ほんぞうこうもく)という本草書には、
「生で食えば渇を止め、肺を潤す。酒毒を解する。蒸熱し晒(さら)
して裂き春(うず)いて仁をとって食えば、血脈を通じ、骨髄を填
てる」とし、また「小児の客熱を除き、丹石の毒を圧す」とありま
す。



 しかし、漢方での四気は「大寒」だそうで、体を冷やす作用が
強いため、冷え症の人は食べ過ぎないように注意が必要だそうで
す。

 またバナナの「木」の擬茎や地下茎から汁液は胃腸薬になると
いいます。

 木のように大きくなるバナナは木ではなく、多年草と聞けば驚
く人も多いと思います。バナナには、甘くて生で食べられるもの
と、果肉が堅く渋味がある料理用のものがあります。料理バナナ
は日本ではあまり見られませんが、フライにしたり焼いたりゆで
たりして食べるそうです。

【効能】栄養価が高く、虚弱者には理想的な健康果物。酒毒を消
し、肺を潤す。
・バショウ科バショウ属の多年草

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(13)葉ニンニク(春5月)

 文字通り葉のニンニクで、1片のニンニクから芽がでて、葉が
伸びたところを収穫したもの。これは農林水産省の統一名称で、
中国名は蒜苗(ソワンミヤオ)で、とくに濃緑色のものを青蒜苗
(チンソワンミヤオ)と呼ぶそうです。

 ふつう、香港種など中国産の南方系の葉身や葉鞘の柔らかい品
種を使用しまが、国内でも日本種の球ニンニクで栽培されていま
す。ただこの場合、葉が垂れやすいので農家の人は植えつけ密度
を広くするのだそうです。

 ニンニクの葉なので、きざむとニンニクの持っている物質と同
じ含硫化合物のアリインが空気に触れてアリシンとかいうものが
生じ、独特の臭さがでてきます。

 しかし、そのにおいにニンニクのような強さがないため、ネギ、
ニラと同じ感覚で扱われ肉、魚の臭みを消すのに利用されます。
また、白い部分は、薄切りにして生食できます。



 香川県や沖縄県、また東北地方ではいため物やぬた、鍋料理にし
て食べるそうです。ニンニクよりもくせがありませんが、柔らかく、
香り・風味が豊かなのが特徴。作型には秋取り、秋・冬どり、冬ど
り、春どりがあるそうです。

 また、茎ニンニクというのもあり、芽ニンニクとかニンニクの芽
とも呼ばれ、葉ニンニクと同様、匂いもそんなに強くありません。

 ニンニクに含んでいるアリシンには、殺菌性があり、食べると
多くの効果があるのはご存じの通りです。
・ユリ科ネギ属の多年草

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(14)ビワ(春5月)

 ビワは果実の形が楽器の琵琶に似ているからついた名とも、葉
の形が似ているからともいわれています。中国や日本に原生して
いる果樹で庭木、さし花用にも栽培されいます。

 中国では、5世紀ごろから栽培され、日本でも平安時代の「三
代実録」(901年)に、「元慶7年(883)5月10日、豊
楽殿の御宴でピワを下賜された」との記録があり『延喜式』(9
27)や「本草和名」(918)にも書かれています。

 江戸・天保年間(1830〜44)、長崎県茂木町の三浦シオ
が清国船からビワの種子を貰い、まいたところ在来種とちがって
果実が大きく、品質ともによいビワがなった。これが同地特産の
茂木ビワのはじめという。

 また明治初期の植物学者田中芳男は、明治12年(1879)
長崎で食べたビワが大きくて味がよいのに感心、種子を東京本郷
の自宅にまいたものが8〜9年結実、田中ビワと呼び、いまでは
千葉県の特産になっています。

 ビワは生食にするほか、かんづめ、ぴんづめに加工され、種子
は「杏仁(きょうにん)の代用に、材は強いので装飾用、つえ、
木刀などに利用されます。年末近くに大きな円錐花穂をつけ、果
実は翌年の初夏に熟します。

 ビワは種子が大きいため、種なしビワが出来ないものかと、大
正の初期に財閥の三井家が当時のお金数千円を投じて研究したが
成功しなかったという。しかし、昔の書物・『廣志』(中国・5
02〜556年)や、日本の「草木栽培法」(1876年)に、
種なしビワの記録があるがはっきりしません。しかし現在は種な
しのものもできて流通しています。

品種に田中ビワ、茂木ビワ、土肥ビワ(静岡県)、楠ビワ(高知
県)、津雲、戸越、瑞穂などがあります。

 ビワは生食にするほか、缶詰め、びん詰めに加工。種子は「杏
仁」の代用に、また、木自信は強いので装飾用、つえ、木刀など
に利用されます。



 「本草綱目」では「渇きを止め、気を下し、肺の働きをよくし、
吐きけを止め、胸部の熱を治し、五臓を潤す」と説かれています
が、「食べすぎると痰熱を発して消化器を損なう」ともされていの
で、使用には注意が必要だということです。

 漢方では、ビワの葉を陰干しにしたものを枇杷薬といい、健胃
・清涼・鎮咳・去痰剤として、特に夏の暑気払いに用いられてき
ました。

 ビワの葉がガンに有効であるとして、葉をあぶって腹部、背中、
患部を摩擦したり、煎じて飲んだりする治療法が行われたことが
あります(築田多吉著「家庭における実際的看護の秘訣」)。

【効能】健胃・鎮痛・鎮咳のほか、あせも・湿疹・むくみなど。
・むくみ、寝小便……ビワの葉を煎じたものを服用。
・湿疹・あせも…ビワの生葉を10枚ほど刻んで布袋に詰めたもの
をお風呂に入れて入ります。葉を煎じた汁で湿布しても効果があ
ります。
・虫刺され・マムシにかまれたとき……ビワの種をかみ砕いてつ
けます。
・健胃、鎮痛、咳止めこ……ビワの種、1日5個くらいを、適当
に煎じて飲みます。
・バラ科ビワ属の常緑小高木

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(15)フキ(春5月)

 フキの名は「吹く」という言葉に関係があります。吹くといっ
てもホラの方ではありません。山の道ばたに一面に咲いたフキノ
トウ。その花から白い冠毛の果実が吹き散るさまは、まさに山吹
雪。そのヤマブキがつまってフキになったのだそうです。 

 平安時代の「本草和名」という本に、「和名也末布々岐(やまふ
ぶき)、一名於保波(おほば)」と出ています。也末布々岐は山吹雪、
於保波は大葉のことです。

 その他、フキの葉は大きくやわらかい。だから汚れを拭くのに
都合がよいとて、拭くが拭きになり、やがてフキという名前にさ
れた。それに「富貴」の次をあてて楽しむというから昔の人たち
は優雅であります。

 フキは北へ行くほど大型になり、「尾張ダイコン、秋田ブキ」と
いうことわざがあるほど秋田あたりでは大きくなり、県の花に指
定され、♪ハアー秋田の国では雨が降ってもかさな土いらぬ、手
ごろのフキの葉サラリとさいかけ、サッサと出て行くわい……と
秋田音頭に歌われてもいます。



 アキタブキのもとは、天保14年(1843)秋田県仁井田村
の熊谷惣蔵が太平山の猟師からもらったフキが初めだとも秋田藩
士・梅津織之助が木沢村の野生のフキを栽培したのがきっかけだ
ともいう。

 フキは正真正銘の日本原産。わが国独特のやさいとして10世
紀の以前から栽培されており、中国で少し利用するほかは、日本
のようにたくさん食べる国はないのであります。フキはまた薬に
もなります。おなじみのフキノトウは食欲増進、たん切りに、葉
や茎の生汁は切りきず、虫さされに効ありといわれています。

【効能】消化を助け痰・咳・ぜんそく・食欲増進によし。
・キク科フキ属の多年草

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(16)ベニバナ(春5月)

 紅色の色素がとれ、昔の口紅の原料に、また食品の赤色染料に
するベニバナ。若い茎葉を野菜として食べます。葉がアザミに似
ており、トゲがあって初夏に紅黄色のアザミのような花が咲きま
す。

 原産地はエチオピア。中国を経由して日本に入って来たのは6
世紀〜7世紀の推古天皇の時代。曇徴(どんちょう)という坊さ
んが高麗から持ち込んだといわれています。

 また、一説に3世紀ごろ、呉の国から伝来したといい、そのこ
ろは藍(あい)が染料の総称で、呉から伝わった藍で、クレのア
イ→クレナイ(紅)と呼んだという。



 また現在の韓国を通ってきたのでカラクレナイ(韓紅)ともい
ったというなぞなぞのような話もあります。花を乾燥して熱湯を
入れ、サフラワーティーとして利用します。

【効能】ベニバナ酒:婦人病一般や内外用。
・キク科ベニバナ属の越年草

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(17)ボウズシラズ(春5月)

 ネギは、春先にネギボウズができて商品価値がなくなり、6月
中旬の新ネギがでてくるまで市場から姿を消します。それを狙っ
てでてくるのがボウズシラズネギです。

 ボウズシラズは、ネギボウズがほとんどできない不抽台の品種。
この品種は昭和以前から東京、千葉、埼玉にかけて栽培されてい
た株ネギに始まるという。株ネギは分けつ数が多いが細く伸びが
短く、細くてしまりも悪い、株分けによって増やすネギ。



 しかしネギボウズができないので、三州、弘法ネギなどといわ
れ、夏用として栽培されていました。これを長い間かけて選抜、
分系させたものがボウズシラズ。千葉県松戸市を中心に栽培され
ています。ちなみに三州、弘法の品種はすでに消失してしまった
という。
・ユリ科ネギ属の宿根草(ネギの一種)

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(18)ホウレンソウ(春5月)

 筋骨リュウリュウのひげづら、大男・ブルートに言い寄られる
カレンなる乙女オリーブ。「たすけてー」の声にオットリ刀でかけ
つけるセーラーマン。ポパイとくればどうしてもホウレンソウの
話になるのであります。

 ホウレンソウは、ビタミンやミネラルが豊富で緑色野菜の代表。
ビタミンCはミカンの2倍、ビタミンAもニンジンの2倍、カロ
チン、カルシウム鉄分もたっぷり。ポパイでなくとも筋肉ググー
ンとなるような気がします。

 ついでながらポパイはもともとホウレンソウのカンづめ会社の
宣伝用だとか、またアメリカの菜食主義普及に利用されたとかさ
れないとかの話もあります。

 ま、ポパイのはなしは置いとくとして、ホウレンソウの話。凰
連草、法連草、波斯草とも書きますが、ホウレンソウの語源は漢
名の菠稜。唐音で「ホウレン」、渡来先の国名でイランのことらし
い。
 原産はコーカサスからイランにかけての西アジア。いまでもソ
連のアルメニア共和国からイランにかけてホウレンソウが自生し
ているという。



 ここから回教徒の手で東西に伝播されます。東へ進んだものは
七世紀、唐の時代に中国へ。これが東洋系ホウレンソウ(種子に
トゲがある)が日本に渡ってきたのは17世紀はじめというから江
戸時代もショッパナ。1632年(寛永8)の多識篇(林道春著)
という本に初めて記載されています。

 その後、1714年(正徳4)の菜譜(貝原益軒著)には、栽培
法や調理法がくわしく記述されており、文字どおり土着、広く根
づいていきます。

 一方、西へ伝播したホウレンソウ、11世紀ごろヨーロッパへ
(種子にとげがない)。これが日本に渡来、とうが立ちが遅く多
収なこともあって、いまは春まきの品種はほとんどが東洋系は姿
を消し、双方の一代雑種になっています。

【効能】鉄分・ビタミンA・B1・B2・C(夏物ではD)が豊
富。貧血・便秘・リウマチ・痛風・痔などに有効。
・アカザ科ホウレンソウ属の1年または2年草本(雌雄異種)

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(19)ミョウガタケ(春5月)

 突然ですが、お釈迦様の弟子に般特(はんどく)という物忘れ
の名人がおりました。何しろ自分の名前も忘れてしまう達人です。
あわれに思ったお釈迦さまは、彼の名前を札に書いて首にかけて
やりましたが、それもかけることさえ忘れるしまつ。

 この名人の死後、その墓から名も知らぬ草が生えてきた。そこ
で名札を荷った般特ということで、草かんむりをつけ「茗荷(みょ
うが)」とその草に名づけたといいます。

 そんなことから、ミョウガを食べると物忘れするというように
なり、「茗荷宿」という落語にまでとりあげられます。

 宿に泊まった客から、大金入りの胴巻きをあずかった主人夫婦。
しきりにミョウガ料理を食べさせます。しかし客は胴巻きは忘れ
ず、宿銭の方を忘れて出発するというストーリーです。

 はなし変わって、中国の陳寿が3世紀の日本のことを書いた、
ご存知「魏志倭人伝」。日本にはショウガ、ミョウガがあるがまだ
食べ方を知らないと出てきます。

 しかし、ショウガやミョウガは、中国から伝来したしたもの。
味つけするのを知っているからこそ、古代から栽培しているので、
この記述はまちがいだろうと、図鑑にありました。ショウガナイ
なあ。



 ミョウガは古くは「メガ」といい、芽香(めが)の意味。またシ
ョウガを男、ミョウガを女にみたて、女(メ)オガと呼んだのだと
いう説もあります。

 平安時代の辞書「和名抄」には、ショウガ、ミョウガは同じよ
うな形で兄香(セガ)、妹香(メガ)といっていたものが、セガはセ
ウガ、メガはメウガとそれぞれに転化。ショウガ、ミョウガと呼
ばれるようになったのだと書かれています。

【効能】ミョウガを食べると発汗・呼吸・血液の循環をよくする作
用があるといわれます。それはミョウガに含まれるアルファー・ピ
ネンなどの精油が大脳皮質を刺激することによって眠気を覚まさせ
たり、延髄を活発に働かせるからだといいます。

腰痛・肩こり・リウマチ・神経痛にはそのまま食べても患部につけ
ても効き目があるという。また入浴剤(荒く刻んで陰干しする)と
して使用すると体全体の血管が広がり、痛みをやわらげたり、こり
・疲れをとり楽になるという。
・ショウガ科ショウガ属の多年草

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(20)ルバーブ(食用ダイオウ)(春5月)

 ルバーブ。日本名ショクヨウダイオウ。薬用植物ダイオウの仲
間だという。明治の初め、西洋野菜として導入しました。強い酸
味と渋みが日本人の好みに合わず普及しませんでした。需要が増
えだしたのは最近になってから。

 紅色をおびた葉柄は酸味・香気があり、皮をむいて生のままサ
ラダにしたり、煮たものをパイ、プリン、ケーキの原料に、また
ソース、ゼリー、ジャムにしたりします。

 ルバ−ブは、シベリア南部原産。ギリシア・ローマでは紀元前
から薬用と食用に栽培されていたという。16世紀にイギリスに
導入され、アメリカヘは18世紀、ドイツには19世紀に渡った
という。中国では、紀元前2700年ころから、漢方薬として、
利用されていたというから驚きます。



 ルバーフは、大きな宿根で直径2〜4センチくらいの太い葉柄
のある大きな葉が根ぎわから出します。葉は心臓形で長さ30セ
ンチくらい。たねまたは株分けで繁殖させ、葉柄を軟化させるた
めに高あぜに植えます。

 初夏に茎が伸びて1〜2mになり、その先端付近から花穂を出
して、小さな緑白色の花をた<さん咲かせます。5〜6月ころが
収穫期。

【効能】多量のクエン酸やシュウ酸、リンゴ酸を含むのであまり
多食しないよう。
・タデ科ダイオウ属の多年草

 第3章【春の野菜・果物】(5月)終わり

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