『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第9章 路傍の石碑

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▼09-19「天社神」

【略文】

丹沢山麓でよく見かける天社神。これは吉日の社日と、同じく吉
日の天赦をくっつけて「天社神」という神さまにしたらしい。だ
から天社神は「吉吉神」。丹沢ヤビツ峠の登山口小蓑毛集落鹿島神
社境内には「吉吉神」の天社神と疫病神が一緒にまつられている。
さすが神様同士はお互い心が広い。

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▼「天社神」

【本文】
 神川県の丹沢山麓の集落で、天社神と書かれた石碑をよく見か
けます。天社神とは、神さま関係の辞典にもない、変わった神さ
まなのだそうです。調べてみると天社は天赦で、暦に出てくる天
赦日(てんしゃにち)のことではないかとあります。

 天赦日は「万事を為すに触りなしという最高の大吉日」なのだ
そうです。干支相生(かんしあいしょう・向かい干支(えと)と
して、子と午,丑と未,卯と酉,申と寅,亥と巳歳も相生とされた
ような)で、天地平和の気に満ち、何をしてもよく、あらゆる災
いを除くという日。

 暦のなかでは、天一天上(てんいちてんじょう=天一神という
空想上の暦神(方角神)が天上にある佳日)と社日、天赦の日だ
けが数少ない吉日とされています。そのほかは凶日ばかりとされ
ているという。

 つまり、丙午(ひのえま)、十方暮(じっぽうくれ)、庚申(こ
うしん)、三伏(さんぷく=初伏、中伏、末伏の三つを総称してい
う)、犯土(つち=干支の土と土とが重なる日)、三隣亡(さんり
んぼう=干支の亥、寅、午を各月につけて選日している)などで、
みな、凶日なのだそうです。

 これは、中国の戦国時代から漢の時代にできた陰陽五行説にも
とづく考え方で、万物一切は木火土金水(もくかどごんすい)の
五つの要素からなっているとし、それに陰と陽をつけたものだと
か。すなわち、木火は陽に、金水は陰に属し、土はその中間だと
し、その消長で天地の災い、人の運勢を説明しようとするこれま
たやっかいなもの。

 また、暦に社日という土地の守護神をまつる日があります。春
と秋の彼岸に一番近い戊(つちのえ)の日で、吉日とされていま
す。それに同じく吉日の天赦をくっつかせて、天社神という神さ
まにしたのだろうといいます。つまり吉吉神なのであります。

 丹沢ヤビツ峠や大山への登山口の蓑毛、その少し手前の小蓑毛
集落鹿島神社境内にも天社神の石碑があります。ある年、表尾根
を歩くついでにわざわざ寄ってみました。この神社にはいくつか
の神さまが集められまつられています。

 天社神の石碑を写真に撮り、境内をブラブラ。すると変わった
神さまの名が目にはいりました。厄神大権現とあります。「吉吉神」
の天社神と疫病神が一緒の神社にまつられているのです。さすが
神様同士はお互い心が広いものです。


▼【参考文献】
・『暦の百科事典』暦の会(新人物往来社)1986年(昭和61)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

 

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