『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第9章 路傍の石碑
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▼09-02「肝心かなめの要石」
【前文】
地震、雷、火事、おやじ…。昔からいわれたこわいものの順番です。
おやじの威厳が消滅したいま、一番こわいものやはり地震。ひんぱ
んにおこる各地の大震災を連想させられます。むかしから地震がく
る時はナマズが騒ぐ。ナマズが騒ぐから地震がくる。だから地震は
地下にいるナマズのせいだとなります。この地震ナマズの首根っこ
に釘を打ち込み、動けなくしたのが要石。地震除けの神です。
▼09-02「肝心かなめの要石」
【本文】
肝心要(かんじんかなめ)と申します。広辞苑には極めて肝要なこ
とと出ています。地震、雷、火事、おやじ……。昔からいわれたこ
わいものの順番です。おやじの威厳が消滅したいま、一番こわいも
のやはり地震かも知れません。
いまの世でも地震といえば連想されるのがナマズです。グラリとく
るのを予知するといわれ、「地震の前に起こる地電流の変化にナマ
ズが敏感に反応する」という学者の論文も発表されています。事実、
ナマズを水槽で飼い、朝夕観察、記帳、地震との関連を調べている
地方自治体もあるくらいです。
こんな事から、「地震がくるからナマズが騒ぐ。地震がくるときは
ナマズが騒ぐ。ナマズが騒ぐから地震がくる。ゆえに地震はナマズ
のせいだ」と昔の人は考えました。地下にいるという「地震ナマズ」
の首根っこをおさえつけられたらどんなに安心できるだろう。そこ
でナマズのいそうな所に釘を打ち込み、動けなくしようとしたのが
要石(かなめいし)で、地震除けの神になっています。
この石は全国各地の神社にあり、なかでも有名なのは茨城県鹿嶋市
の鹿島神宮の境内にある要石。高さ十五センチの丸い石で、大きな
杉の木の間の囲いの中に地中深く根を張っているという話です。鹿
島神宮のいい伝えによると、日本の国土の地下には地震を起こす大
ナマズが横たわっていて、どういうわけか首と尾が、ここ鹿島神宮
の下で合わさっているというのです。
それをこの要石が押さえつけている、まさに肝心要の要石なのです。
そして「ゆるぐともよもやぬけじの要石、鹿島の神のあらんかぎり
は」と三度唱え、災害除けを祈願します。「鹿島宮社例伝記」では
鹿島の大明神が降臨したとき、この石に座ったとあり、古くは御座
(みまし)の石と呼ばれていたということです。
また水戸黄門が要石がどこまで深く刺さっているか確かめようと試
み、七日七晩この石のまわりを掘らせましたが、掘った穴が次の日
には埋まって元に戻ってしまい、確かめることできませんでした。
その上ケガ人が続出したため、掘ることをあきらめたという話も伝
えられています。そんな有り難い地震の神鹿島神宮の「要石」話で
はあります。
また北アルプス鹿島槍ヶ岳(2289m)が天文年間(1532〜55・戦
国時代)、大きな地震があって大崩壊し、ふもとの集落が被害を受
けたという。村人は地震の神である鹿島の神を勧請して鹿島神社を
建て、山の名を鹿島山、村の名を鹿島集落、集落の中を流れる川を
鹿島川と改めたといいます。それがいまの長野県大町市鹿島槍のふ
もとの鹿島集落なのだそうです。江戸時代の『信府統記』(しんぷ
とうき)という本にあるお話です。
▼【参考文献】
・『信府統記』(国書刊行会)1966年(昭和41)
・『日本大百科全書5』(小学館)1985年(昭和60)
・『日本伝説大系4・北関東』渡邊昭五ほか(みずうみ書房)1986
年(昭和61)
・『日本の石仏7』(南関東篇)大護八郎編(国書刊行会)1983年
(昭和58)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
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