『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第9章 路傍の石碑

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▼09-01「石 神

【前文】

古代から石には、神秘的な霊力がひそみ、神霊がこもるという信仰
がありました。年々大きなって成長する石、また生きているとされ
る石や、子供を産む石、さらに、光を放つ石などの例が、各地にた
くさん伝わっ残っています。また、石は神の依代として考えられて
います。この石に神が休んだとされる御座石などがあります。

▼「石 神

【本文】
 道のわきや神社などに石神(いしがみ)がまつられています。石
神は「いしがみ」、「しゃくじん」ともいい、古代から石には神霊が
宿るという信仰がありました。そのため、石神、高石神、石神井と
いう地名があちこちにあります。石神は、平安時代に制定された古
代法典、「延喜式」内の古い神社にも、石をご神体とする石神(い
わがみ・いしがみ)があります。

 石神には、神の依代(よりしろ)としてまつる石と、石そのもの
に霊力があるとするものがあります。神の依代は、神が座って休息
した御座石や腰掛石、休み石です。また、神の像が石に影を落とし
た影向石(ようごうせき)なども全国的にあり、それぞれ神聖視さ
れています。

 石の霊力は天平の昔の『出雲国風土記』楯縫郡(たてぬいごおり)
神名備(かんなび)山の条にも説かれています。この山の西麓に、
百を越えるほどの石神、小石神があり、古老が伝えるにはこれらは、
その昔天御梶日女命(あめのみかじひめのみこと)という神がやっ
てきて、多岐都比古命(たきつひこのみこと)という子を産んだと
いう。これらの「いわゆる石神はこれ多岐都比古のみ魂(たま)な
り。ひでりに当りて雨を乞う時は、必ず零(ふ)らしめ給う」だと
いう。

 石神にはその他、村や峠の境界に鎮座して、村の外からくる疫病
を防除する役目のものもあります。これは後々道祖神や地蔵などに
つながる信仰だそうで、丸い石や自然石をまつっています。また石
の形から男女そのものをあらわし、その結合によって豊作を祈る生
産の神としての石神の信仰もあります。これも道祖神につながって
います。

 石神が道祖神につながるものが多いのは、『古事記』に出てくる
岐神(クナドノカミ)が道祖神だとすることによります。イザナギ
・イザナミの二神が夫婦分かれする時、その間に置いた杖が岐神だ
そうです。このクナこそ、二神に和合の方法を教えたクナ(男性そ
のもの)であり、これがなにあろう石神なのだそうです。

 石でさわった手で病気の箇所をなでて治るように祈る石神もいま
す。また耳の病気を治すため穴のあいた石を奉納する耳の神、いぼ
神やぜんそくの神も、石を神体とするものが多い。房総半島のほぼ
中央、千葉県君津市亀山湖の近くにある三石山は、直下の三石観音
堂の奥の院になっていて、名前のとおり3つの大石に食い込むよう
に観音堂が建っています。

 奥の院に行くには、この大岩の狭い間を体を横にしてくぐり抜け
ます。この大岩が年々大きく育っているといいます。そういえば以
前はそれ程でもなかった通り抜けの窮屈さが最近は骨が折れます。
昔は傘をさして通り抜けられたという人も実際にいます。このまま
ではあと何年通れるか心配です。

▼【参考】
・『日本神話伝説伝承地紀行』(吉元昭治著)(勉誠出版)2005年(平
成17)
・『日本石仏事典』庚申懇話会(雄山閣)1979年(昭和54)
・『日本大百科全書・2』(小学館)1985年(昭和60)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

 

 

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