『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第8章 草木の神

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▼08-03「杉神」

【前文】

巨木になった杉は神さびた感じがし、大木に囲まれた神社は人に畏
敬の念をおこさせます。杉とはスグの意味で直(す)ぐのことだと
いう。つまりスクスクとまっすぐ伸びることからきた名前。その昔、
酒造りが神の加護で、一夜のうちに美酒をかもすことができたとい
う。酒屋の看板に杉玉を掲げるのはそこからきています。

▼08-03「杉神」

【本文】
 まっすぐに生長し、巨木になった杉は、なんとなく神さびた感じ
がし、そのため多くの神社の境内に植えられ、大木に囲まれた神社
は人を威圧し、畏敬の念をおこさせます。


 杉は日本の特産品。古代から船材や建築材など日本人にとって必
需品であり、また親しまれた木です。杉(スギ)とはスグの意味で、
スグは直(す)ぐのことだという。つまりスクスクとまっすぐ伸び
ることからきた名前なのだそうです。


 杉を神木としてあがめる社は多く、大杉神社、杉山神社など杉の
名のつく神社も各地にあります。なかでも杉山神社は、武蔵の国(い
まの東京、埼玉、神奈川県)周辺にはその名の神社の多く『続日本
後紀』(しょくにほんこうき・平安時代の初期の本)に「武蔵国都
筑(つづき)郡杉山神社霊験を以って官幣ウンヌン……」とありま
す。


 また『延喜式神名帳』にも「武蔵国都筑郡一座、小社杉山神社」
と記載され、かつて杉山神社は七十二社あったといい、その後廃社、
合祀されたとはいえ、現在でも杉山と名のつく神社は四十二社もあ
ります。


 杉は『万葉集』にもうたわれ、「神奈備(かんなび)の三諸(み
もろ)の山に斎(いわ)ふ杉」(巻十三)など、神としての歌があ
ります。


 ご神木として有名なものは、京都市稲荷山の「験(しるし)の杉」
があります。お参りする人はこの杉に礼拝し、稲荷山の杉を引き抜
いて持ち帰って家に植え、つけば福があるといい、枯れれば神の加
護がないなどといったそうです。


 奈良県桜井市の三輪山の杉も有名で、「味酒(うまざけ)を三輪
の祝(はふり)がいはふ杉手触(てふ)れし罪か君に逢ひがたき」
(「万葉集」巻四・丹波大女娘子(たにわのおおめおとめ))とあり、
神木にはさわるのを禁じていたようです。


 平安時代の『古今集』には「我が庵(いほ)は三輪の山もと恋し
くはとぶらひ来ませ杉立てる門」(雑下・よみ人しらず)と歌われ
ています。福岡市香椎宮の綾杉(あやすぎ)、三重県伊勢市の豊受
大神宮の五百枚(いおえ)の杉や、茨城県の鹿島神宮の神木杉も有
名です。


 杉の町といわれる鳥取県智頭(ちず)町の杉神社は本殿・ご神体
が高さ十三mの鉄塔。「すくすくと伸び太る長生の木魂を杉神社と
呼び、因幡の智頭町に発祥した」と「しおり」にあります。


 島根県隠岐郡布施村の大山神社は杉の大木をそのままご神木にし
ており、その杉の木のまわりを細い木の枝で幾重にも巻き、ご弊を
差し込んであります。杉はまた、酒とも関係が深く、崇神天皇の昔、
活目(いくめ)という酒造りが三輪大神の加護により、一夜のうち
に美酒をかもしたという伝説があり、酒屋の看板の杉玉にもなって
います。



▼【参考文献】
・『産業の神々』林正巳著(東京書籍)1981年(昭和56)
・『神社辞典』白井永治ほか編(東京堂出版)1986(昭61)
・『日本大百科全書12』(小学館)1986年(昭和61)

 

 

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