『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第8章 草木の神

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▼08-02「シキミ

【本文】
 神事にサカキなら仏事にはシキミを供えます。モクレン科シキミ
属の常緑樹で、シキビともいいます。シキミは目立たないが美しい
花が咲き、また葉や枝に精油を含むので独特の香りがあるため、花
柴として仏壇やお墓に供えられます。とくに葉を切ると強い香気が
発散し、香(こう)の木、香柴、また香の花、墓花、マッコウギ、
マッコウノキといろいろな方言で呼ばれます。

 埋葬や納骨の時一本花といい、シキミを1本だけを供える風習も
あります。また仏事の死花(しか)、紙花(しかばな)、念仏紙(ね
んぶつがみ)などの葬具は、サカキが飾り物をつけて幡や幟になる
と同じように、シキミに飾り物をつけて仕立てたのだろうとされて
います。仏花に使うシキミ栽培は伊豆地方が盛んです。

 そもそも日本では、神の依代には常緑樹が使われていて、古代か
ら祭祀では常緑樹を「賢木(さかき)」と呼んでいて、サカキもシ
キミも同じ「賢木」として神事に使われていました。いまでもシキ
ミが神事に使っている地方もあります。

 それがシキミ、サカキがそれぞれの用途に区別されだしたのは、
平安時代の「枕草子」の時代からとされています。中世になるとシ
キミは仏事用、サカキは神事用はっきりと分かれて使用されていま
す。

 シキミは上代から日本人の間に親しまれ、「源氏物語」の若菜下
の巻に記載があり、「万葉集」の「奥山の樒が花のごとやしくしく
君に恋ひわたりなむ」と大原真人今城(おおはらのまさといまき)
も詠んでいます。

 果実に毒成分があり、シキミの名は「悪しき実」の意味だとか、
強い香気から「臭き実」が「クシキミ」に変化、さらにシキミにな
ったとする説があります。

▼【参考文献】
・『植物と伝説』松田修(明文堂)1935年(昭和10)
・「植物の世界」週刊朝日百科(朝日新聞社)
・「世界の植物」週刊朝日百科(朝日新聞社)
・「日本大歳時記・春」(花)
・『日本大百科全書10』(小学館)1986年(昭和61)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)

 

 

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