『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第7章 偉人・英雄神

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▼07-15「桃太郎神」

【本文】
 日本には八百万の神がいるといいますが、桃太郎神というおとぎ
話の世界の神さまもいます。別名は大神実命(おおかむずみのみこ
と)といい、子供の成長の神となっているようで、愛知県犬山市に
は桃太郎神社が、また岡山市には吉備津神社があります。昔ばなし
では鬼ははじめから悪者扱いされ、桃太郎たちが勝手に攻め入り、
宝物を分捕ってきて、「めでたし、めでたし」で終わっています。

 どうも合点がいきません。一方、芥川龍之介が著した「桃太郎」
(1924年・大正13)のように、桃太郎は腕白者で、老人夫婦に愛
想をつかされた怠け者。お供といえば、欲張りな猿と、飢えた犬。
それに地震学に通じたキジになっています。これらを連れて、鬼ヶ
島に攻め込み罪もない鬼たちを、いままで味わったこともない恐ろ
しい目に遭わせるという設定は、妙に納得させられます。

 岩手県の桃太郎は次のようなストーリーです。父と母が花見に行
って弁当を食べようとしていると、桃がひとつ、母のところに転が
ってきました。母は拾って帰り大事に綿に包んで寝床に置くと、桃
が割れて子供が生まれました。子供は桃ノ子太郎と名づけられまし
た。ある日、父母が畑に出たあと留守番しながら勉強していると、
柿の木に鳥が来て、地獄の鬼からの手紙を預かっていると鳴きます。
手紙には日本一のキビ団子を持ってきてくれと書いてあります。

 早速母にキビ団子をつくってもらい、地獄へ行って鬼たちにキビ
団子を食べさせました。鬼たちは団子を食べて酔っぱらい、寝てし
まいました。その間に桃ノ小太郎は、地獄のお姫さまを車に乗せて
連れだしました。鬼が目を覚まして、あわてて火車で追いかけます
が、桃太郎たちはもう、海の沖の彼方へ行っています。こうして桃
太郎たちは、無事帰ってきたのでした。これがお上の知るところと
なり、「あっぱれ」というわけで、金をもらい長者になったのだそ
うです。

 これが江戸中期に書物となって読まれ、明治の国定教科書に載っ
てからは、桃太郎の一般的な物語となって広まっていきました。し
かし、全国各地で語られているのは、それとは少しずつ違う話で、
中には拾ってきた箱の中に子供が入っている例もあるそうです。

▼【参考文献】
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成4)
・『日本神話伝説伝承地紀行』(吉元昭治著)(勉誠出版)2005年(平
成17)
・『日本伝奇伝説大事典』乾克己ほか編(角川書店)1990年(平成2)
・『柳田國男全集10』柳田國男(ちくま文庫・筑摩書房)1990年
(平成2)

 

 

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