『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第7章 偉人・英雄神
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▼07-12「将門神」
【前文】
将門は若いころ上京していましたが、父のあとを継ぐため下総に帰
国。のち一族の紛争に巻き込まれ、営所を襲い常陸国庁を焼き払い、
下野・上野の国府も占領。自ら新皇と称して関東自立の構え。中央
政府への反逆者として翌年2月、藤原秀郷らの連合軍に討たれまし
たが、その武勇をたたえられ、数々の伝説に登場しています。
▼07-12「将門神」
【本文】
千葉県九十九里浜にこんな伝説があります。「胎内にいる子は、
将来必ずや天下に災いをなすであろう」という占い師の言葉に、あ
わてたのは平良将。妻を「くりぬき舟」に乗せて海に流してしまっ
た。
舟は九十九里の海岸に流れつき、村人の厚い手当てで生まれたの
が平将門だとしています。ここには将門のとりでの跡があり、七人
の影武者がいた所や、将門をうらぎった愛妾・桔梗をきらって、キ
キョウを植えない地域など、将門伝説が多く分布、将門神社や「マ
サカドサマ」という祠もあります。
将門神の本尊平将門とは平安中期の関東の武将。出生年不明の94
0年(天慶3)没。上総介(かずさのすけ)として東国に下った桓
武(かんむ)平氏高望(たかもち)王の孫。父は鎮守府将軍平良持
(たいらのよしもち)または良将(よしまさ)だとしています。下
総北部の豊田・猿島(茨城県結城・猿島郡地方)に根拠を置く豪族
で、若いころ上洛して藤原忠平に仕えましたが父の急逝で帰国、遺
領(豊田・猿島)を継ぎました。
しかし、「女論」や「田畠の争い」で伯父の下総介良兼と対立す
ることになります。この「女論」には、諸説あありますが、良兼の
娘との婚姻にかかわるものらしいという。935年(承平5)になり
豪族常陸大掾源護(ひたちだいじょうみなもとのまもる)と平直樹
の争いにまき込まれ、源護の娘むこの国香(くにか)、良正、良兼
などの伯父たちと戦いました。翌年、源護の告発で京都に召還され
ますが朱雀天皇元服の恩赦で帰郷後、ふたたび良兼勢力に攻められ
ました。たびたびの伯父たちの攻撃に怒った将門は奮い立ち、営所
を襲い制圧してしまいました。
939年(天慶2)、武蔵国庁で起こった介源経基(つねもと)と武
蔵武芝(たけしば)の紛争の調停に失敗、逆に経基に謀反として訴
えられました。11月、追捕を受けていた土豪藤原玄明(ふじわらは
るあき)を庇護したことから常陸国庁と対立。これを焼き払い、つ
づいて下野(しもつけ)、上野(こうづけ)の国府も占領。同盟者
を国司に任じ自ら新皇と称して関東自立の構え。こうなればもうり
っぱな中央政府に対する反逆者。翌年2月、藤原秀郷(ふじわらひ
でさと)らの連合軍に討たれ、新皇将門の関東支配はわずか数ヶ月
で幕を閉じます。(承平・天慶の乱)。
しかし中央政権への反逆精神は関東民衆の共感を呼び、英雄視す
る傾向は時代とともに強まります。中世には千葉氏が妙見信仰とか
らめて、将門の後継者と自称する説も出現、将門をまつった塚だと
いう将門塚もあります。東京都八王子市大字上恩方字力石には、マ
サカドサマという祠もあります。ここは将門の首をまつってあると
いい、縁談の御利益があるという。
将門の首は京に送られ、獄門にさらされましたが、首がそこから
抜け出て江戸にまいもどったという。それは東京駅に近い大手町で、
いまも首塚があり、きれいに清掃され、いつもきれいなはながあが
っています。東京神田の神田明神は、庶民にも親しまれ、徳川2代
将軍秀忠からは、江戸総鎮守の称をもらっているほどです。この神
社の祭神は、大己貴命(おおなむちのみこと)、少彦名命(すくな
ひこなのみこと)のほか、平将門です。
また、岐阜県大垣市にも将門の首を埋めてまつった御首神社があ
り、首より上の諸病に霊験があるという。また東京都奥多摩周辺に
は将門伝説が多く、JR鳩ノ巣駅近くには将門神社、また山中石尾
根の七ツ石は将門と六人の影武者の姿だとし付近に将門の馬場、将
門の城跡とする城山、木戸の跡の三の木戸山などが散在しています。
私の住んでる千葉県市川市にも、将門に関係した地名があります。
「八幡のやぶ知らず」がそうですし、菅野の地名は、市内の大野に
砦があった将門に、自分の奥さんを差し出し将門の動向を報告させ、
藤原秀郷たちに知らせたという、菅野という一族の住んでいた地名
だそうです。
▼【参考文献】
・『奥多摩風土記」大館勇吉著(武蔵野郷土史研究会)1975年(昭
和50)
『奥秩父の伝説と史話』太田巌著(さきたま出版会)1983年(昭和
58)
・『千葉歴史散歩・50コース』千葉歴史散歩編集委員会(草土文化)
1979年(昭和54)
・『日本架空伝承人名事典」大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成4)
・『日本伝奇伝説大事典」編者・乾勝己ほか(角川書店)1990年(平
成2)
・『房総の伝説』平野馨(第一法規)1976年(昭和51)
・『将門記T」(東洋文庫280)訳注者:梶原正昭(平凡社)1989年
(昭和64・平成1)
・『将門記U」(東洋文庫291)訳注者:梶原正昭(平凡社)1988年
(昭和63)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
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