『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第7章 偉人・英雄神
……………………………………………………
▼03「金太郎神」
【前文】
箱根の足柄山で、山姥が赤竜と交わった夢を見てできたの金太郎。
源頼光に出だされ、36歳の時酒呑童子退治など武勇をふるった。主
人頼光死後は行方をくらませたままという。そんな金時も初めて乗
った牛車にすっかり酔いつぶれた話が『今昔物語』出てきます。
▼金太郎神
【本文】
誰でも知っている金太郎も神さまとしてまつられます。伝説の発
祥地・神奈川県箱根には金時山があって南麓に金時神社があり、境
内には大きなまさかりにしめ縄が張られています。奥ノ院はそこか
らさらに40分ほど登ると奥ノ院の大石がありやはりしめ縄が結んで
あります。また岡山県勝央町の栗柄(くりから)神社にも金時塚も
あります。金時神は、子どもの健康や無病息災などいご利益があり、
親子連れの参拝者が多いという。
そもそも金太郎は平安時代中期の源頼光の四天王のひとり・坂田
金時(酒田公時)の幼名。山姥が足柄山の山頂で寝ていて赤竜と交
わった夢を見たといいます。その時雷鳴がとどろき、驚いて目を覚
ますと金太郎を身ごもっていたという。生まれたのは五体の色が朱
のように赤くうぶ髪を四方に乱した怪童で、ひとりいる岩屋に熊や
イノシシを追い込んでみたところ、たちまちのうちに引き裂いてし
まうというものすごさ。
ある時、源頼光が上総(千葉県)国司の任期も終わって帰京の途
中、足柄山にさしかかると山の中から霊気が立ち上っています。こ
れはその下に「人傑」ありの兆しと見て渡辺綱に探させたところ、
谷のこわれかかった小屋に60歳あまりの老婆と20歳ばかりの青年を
見つけます。この青年が金太郎で坂田公時と名づけられ頼光の家臣
として仕えることになります。
公時36歳の時主馬佑として酒呑童子退治に参加、土蜘蛛退治に武
勇をふるいますが、頼光の死後は行方不明になり、足柄山で消息を
絶ったと伝えられます。
金太郎の舞台である箱根金時山付近には、金時が産湯を使ったと
いう「夕日の滝」、山頂にある「踏跨り石」に「宿り石」。金時が山
姥と住んだと伝える「石室」や「手まり石」から金時娘まで、ハイ
カーのわれわれを童話の世界に遊ばせてくれます。この山は、山頂
のとがった形がイノシシの鼻に似ているというので一名猪鼻山。山
頂にはふたつの猪鼻神社の石祠があり、それぞれ祀った村の方を向
いています。
またその昔、長野県大町市近くの八坂村内の山に顔の赤い紅葉鬼
人という女が住んでいたという。鬼人は有明山の鬼・八面大王(魏
石鬼)の恋人で、謎の岩窟といわれるところで大王の子を産んだ、
それが金時だったというのです。その山を金時山といい、そばを流
れる川を金時と熊にちなんで金熊川というという。八面大王が田村
麻呂に退治されるや母の紅葉鬼人は、それを悲しんで山を去り、水
内(みのち)の方で舌を噛みきって死んだ。そこが鬼無里だという。
木曽御嶽・木曽駒ヶ岳とともに「木曽の三岳」に数えられる南木
曾岳も金時伝説の山です。江戸時代の本に山中の洞窟に山姥の石座
といわれる石があるとあり、山姥が坂田金時を生み育てたという伝
説があります。金明水の近くに「金時ノ洞窟」があって対岸から洞
窟が望め、また山頂付近にも金時岩があります。この山は気流の影
響でいつも霧がかかり雨が降り出すというので「泣きびそ岳」の名
もあるそうです。
泣きびそとは泣き味噌・泣き虫のこと。また揚籠山(あげろうや
ま)の名もあります。文献にある揚籠山の山名にまつわる坂田金時
伝説というのは、山姥伝説の山・新潟県の「上路の山」にちなむの
でしょうか。謡曲「山姥」にも出てくる山名です。この山は大雨が
降ると蛇抜け(山津波)が発生する魔の山。こんなところから恐ろ
しい山姥の山という伝説が生まれたのでしょうか。
このように、もともと山姥が子どもを育てるという話は各地にあ
ったそうで、金時が頼光四天王の一人に発展するようになって足柄
山ばかりが有名になってしまったと柳田国男も「山の人生」のなか
で述べています。
ちなみに、坂田金時にもこんな話が伝わっています。四天王のメ
ンバーの二人と坂田公時は、京都の賀茂祭りの行列を見物するため
女車に仕立てた牛車に乗って紫野に出かけたはよかったですが、は
じめて乗った牛車に酔っぱらってしまいました。烏帽子は落とすわ
へどを吐くわの大騒ぎ。高貴な女性の乗っているはずの女車から「早
く走るな。ゆっくり走れ」と怒鳴り散らし、まわりの人たちが「女
性にしては太い声だな」と不思議がるしまつ。とどのつまり、行列
を見るどころではなく、歩いて帰ってきたという間抜けぶりだった
とのエピソードが「今昔物語」(巻第二十八第二)に載っています。
▼【参考文献】
・『今昔物語』:日本古典文学全集24「今昔物語・四」馬淵和夫ほか
校注(小学館)1995年(平成7)
・「ふるさとの伝説・日本発見」(暁教育図書)1980年(昭和55)
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成4)
・『日本伝奇伝説大事典』編者・乾勝己ほか(角川書店)1990年(平
成2)
・『日本神話伝説総覧』歴史読本特別増刊 新人物往来社 1992年
(平成4)
・『柳田国男全集・4』柳田国男(筑摩書房)1989年(平成元)「山
の人生」
【目次】へ(プラウザからお戻りください)
………………………………………………………………………………………………