『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第6章 動物の神

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▼06-10「犬神

【前文】
昔は犬神もいると信じられていました。生きた犬を土に埋めて首を
打ちおとし、まつるとその霊は犬神となり主人の心のままになると
いうスゴイもの。この神はつきものの一種で、主人(犬神使い)が
他の人をうらんだりすると、すぐその人に取りついて病気にさせた
りするという。ナンダカもはや……のたまげものです。

▼06-10「犬神

【本文】
 昔は犬神もいると信じられていました。生きた犬を土に埋めて首
だけを出し、腹がへったころ鼻先に飯や漁肉をおきます。犬が餌を
なんとか食おうとして首をのばし、精神を集中した瞬間に、その首
を打ちおとし、まつるとその霊は犬神となり主人の心のままになる
というスゴイもの。

 この神はキツネつきなどと同じ、つきものの一種で、主人(犬神
使い)が他の人をうらんだりすると、すぐその人に取りついて病気
にさせたり、害を与えたりするという。ナンダカもはや……のたま
げものです。

 犬神は一度主人にまつられ、つくと子孫にも代々離れず、伝わっ
ていくといいますが、いまではこんな話、幼稚園児にも笑われてし
まいますよね。一方、お犬信仰というものがあります。神社の鳥居
の両わきや社殿の前に置かれているのがこま犬です。

 神社にあるのはふつうですが、お寺にある場合もあります。こま
犬は、狛犬、胡麻犬とも書かれ、その昔、高麗の国から伝来したの
で「高麗犬」の意だという説もあります。また魔除けとして置かれ
ているので拒魔犬の字も使われ、獅子(しし)に似た像が一般的で
す。

 ところが埼玉県秩父地方や東京の奥多摩あたりでは、オオカミ姿
のこま犬が、あちこちにあります。。オオカミは畑を荒らすイノシ
シやシカを追い払い、民家に侵入する盗賊を防ぐ動物であり、山の
神の使いでもあります。オオカミはまた、大神(おおかみ)にも通
ずるところから、お犬(おいの)さまとして人々の信仰の対象にな
っています。

 その昔、日本武尊が東征の時、白いオオカミが道案内をし、眷属
になったという伝説が東京・奥多摩地方や、埼玉秩父地方の三峰山
にあります。三峰山はお犬さま信仰のメッカのようになっています
が、その由来は日本武尊伝説のほかに、江戸時代初期、ここに入山
した日光法印という坊さんにもあるいう。

 ある夜、日光法印が庵室で静座をしていると、どこからともなく
オオカミがたくさんあらわれて、境内がオオカミでイッパイになっ
たという。これは神託に違いないと、オオカミを神札にして貸し出
したところ、獣害・火盗よけに霊験あらたかだと評判になりました。

 ここ小鹿野町(旧両神村)の両神山山頂から30分ほど下ったとこ
ろに、ふたつの神社が建っています。片方は両神神社、もう一つは
両神大神社(御岳神社)の奥社といいます。またこれは、両神明神
社(大谷地区)と両神権現社(浦島地区)ともいい、両方ともこま
犬はオオカミの姿をしています。山頂の祠は両社の奥宮でもあると
いう。

 将門伝説で知られる城峰山の山頂直下の城峰神社もオオカミのこ
ま犬です。赤い口に金色の目が光っています。ここの守り札を、高
崎や前橋市あたりからもわざわざ借りに来たという。その他、オオ
カミにちなむ神社は、奥多摩御岳山の御岳神社、十文峠路の両面神
社、武甲山の御獄神社、釜伏山の釜山神社、蓑山の蓑山神社、宝登
山などにたくさんあります。

 このようにオオカミが眷属になっている神社では、オオカミ像を
印刷した大口真神のお札を発行。人々は火災、病気、盗難などの厄
除けに神棚、戸口に貼ったり、田畑に立てたりします。

 一方、奥多摩戸倉三山の臼杵山頂の臼杵神社は、養蚕の神になっ
ています。臼杵神社の狛犬は、かいこを食べるネズミの天敵・ネコ
だという。その姿はまるで豚みたいです。しかし同じ檜原村の御前
山ろくで鑾野(ばんの)神社や大岳山直下の大岳神社のものと同じ
形で、こちらはオオカミだという。

 秩父では、オオカミを養蚕の神としているので、あるいは臼杵神
社の狛犬も初めはオオカミとしていたのかも知れませんネ。オオカ
ミは大神(おおかみ)で神聖な動物として神聖視されているのわけ
です。静岡県の山住神社なども神の使いとしてまつっています。

▼【参考文献】
・「あしなか」238号(お犬信仰特輯)山村民俗の会
・『ニッポン神さま図鑑』宗教民俗研究所編(はまの出版)1996年
(平成8)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成6)
・日本の伝説「信州の伝説」浅川欽一ほか(角川書店)

 

 

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