『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第6章 動物の神
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▼06-06「猿 神」
【本文】
一人で山歩きをしていると野猿の群れの中に入ってしまうことも
あります。そんな時自分の存在を、知らせるため群れに話しかけな
がら、最後尾をゆっくりと歩きます。猿たちは悪さをする人間でな
いと分かるのか、悠々と登山道からそれてくれます。そんな猿も神
としてまつられます。
猿は申(さる)に通じるため、庚申信仰や猿田彦の信仰とも習合
します。また山の神や日吉神社のお使いでもあります。千葉県市川
市の日蓮宗の中山法華経寺にはかつて太郎・花子という、2匹の猿
が飼われていましたが、死んでからは庚申塔に姿を彫刻され、いま
も祠にまつられています。
天帝をまつる庚申信仰は、中国道教の思想からきたものといわれ
ています。庚申信仰が日本に伝来したころ、日本でも同じ北斗をま
つっていた日吉山王七社があり、そのお使いが猿だったために、深
い結びつきになったようです。
猿は、子供の無事を祈る願掛けとしても信仰されます。よく妊婦
の安産を守るという子安地蔵に、「くくり猿」を奉納したりもしま
す。また子供の背守りに、猿をつける習慣もあるようです。上州武
尊山のふもと、群馬県片品村武尊神社で行われる「申祭り」は猿に
扮した人が、ご弊をかついでお宮のまわりをまわって作物の豊凶を
占うそうです。
また猿は馬を守る神の蒼前サマのように、考えることもあったよ
うで、鎌倉時代の本には、厩(うまや)に猿を飼ったとの記述もあ
ります。この風習は外国にもあって、日本には中国から伝わったと
されています。これは河童との関係があるともいわれます。
馬は河童を見ると死んでしまうが、河童が猿を見ると動けなくな
るとされ、厩を守るため、猿の頭蓋骨を吊したこともあったそうで
す。昔は、猿を描いた神札(猿の駒引きの護符)を張ることも行わ
れ、それを売りに来る職業があったそうです。本物の猿を連れて歩
く猿回しは、もともとは厩の祈祷を目的に村々を回っていたのだそ
うです。
▼【参考文献】
・『日本大百科全書・10』(小学館)1986年(昭和61)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59
・『動物信仰事典』芦田正次郎著(北辰堂)1999年(平成11)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
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