『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第5章 仙 人
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▼05-11「都藍尼(とらんに)」
【略文】
女性仙人の都藍尼は、奈良吉野山(金峰山)の山ろくに住んでい
たという。都藍尼は女人禁制を破り、この山に登りはじめました。
するとたちまち、雷や稲妻が荒れ狂い、あわてて捨てた杖が地に
ついて大木になりました。踏んでいた大岩は、次々に崩れて裂けて
しまい、陥没したところが池になってしまったということです。
▼05-11「都藍尼(とらんに)」
【本文】
都藍尼(とらんに)は字のとおり女性の仙人・女仙です。大和(奈
良県)の人で吉野の山ろくに住み仏法を修行し、幾百年とも分から
ないほどの長く生きているという。吉野山は昔から女人禁制で、い
までも大峰山山上ヶ岳周辺には女人結界門があります。都藍尼にと
ってはどうも不満です。
そこである日都藍尼は、思い切って山に登りはじめました。する
とたちまち雷や稲妻が荒れ狂い、道にも迷いあわてて持っていた杖
を捨てたところ、杖がひとりでに大地に植わって大きな木になった
という。都藍尼が踏んだ大岩は、次々に崩れて裂けてしまい、陥没
したところが池になってしまいました。
この杖が木になったところと、踏み外した大岩の池の2ヶ所はい
までもあるという。その後、都藍尼は「その終わるところを知らざ
りけり」と解説書にあります。なお、都藍尼は立山や白山、高野山
にも似たような登山伝説があるそうです。
平安後期に著された、日本の37人の仙人を選び出した『本朝神
仙伝』(大江匡房)には9番目に記載されています。ちょっと重複
しますが、以下はその全文です(本文は漢文)。川口久雄校注、朝
日新聞社刊から引用。
「都藍尼は、大和国の人なり。仏法を行ひて、長生すること得た
り。幾百年といふことを知らず。吉野山の麓に住みて、日夜精勤せ
り。金峰山に攀(よ)じ上らむとことを欲(ほ)つすれども、雷電
霹靂(へきれき)して、遂に到ることを得ず。
此の山、黄金をもちて地に敷きたるは、慈尊の出世を待たむがた
めに、金剛蔵王これを守(まぼ)りたまへるなり。兼ねて戒の地は、
女人を通はしめざるがための故なり。持てりし杖は変じて樹木とな
り拘(かか)まれりし地(ところ)、陥(おちい)りて水泉となれ
り。爪の跡、猶し存するなり。」
▼【参考】
・『仙人の研究』知切光歳著(大陸書房)1989年(昭和64・平成1)
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成4)
・『本朝神仙伝』大江匡房著(日本古典全書・古本説話集 川口久
雄・校注)(朝日新聞社)1971年(昭和46)
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