『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第5章 仙 人
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▼05-09「北陸白山の開祖・泰澄上人」
【前文】
偉人・英雄神としてまつられている神に、白山開山の泰澄上人がい
ます。上人は奈良時代のエライお坊さん。福井県越智山で修行をし
神のお告げを受け、弟子の臥行者・浄定行者とともに白山の頂上へ
と登り、白山妙理権現を感得。いまも御前峰に、また臥行者は大汝
峰に、そして浄定行者は別山で上人を助けているとされています。
▼05-09「北陸白山の開祖・泰澄上人」
【本文】
日本の神仏としてまつられている偉人・英雄神に白山開山の祖と
して知られる泰澄上人がいます。泰澄上人は、天武11(682)年、
越智山(おちさん)(613m)山ろく・越前国麻生津(あそうづ・い
まの福井市)の豪族三神安角(みかみのやすずみ)の次男として生
まれます。母は伊野氏の二女。
泰澄の出生には、母が夢の中で白水精を受けて懐妊したとか、誕
生が6月にもかかわらず、産屋に雪が積もったという不思議な話も
伝わっています。もとの名を「越ノ小大徳」といい、よく聞く越ノ
大徳と呼ばれだしたのは白山を開山してからだとか。
11歳の時に北陸道を修行中の道昭上人(中国留学から帰国の途中、
高麗国で仙人になった役ノ行者に会ったという僧)に会い、泰澄の
神童ぶりをみて「敬愛を込めて育てるように」と両親に教えたとい
う。14歳の時、夢告により越智山に登り修行を重ね、大宝2(702)
年、21歳で鎮護国家の奉仕に任命されます。同じ年に臥(ふし・ふ
せり)行者が入門、やがて浄定(きよさだ)行者も加わります。
717年(養老1)、ふたたび夢告を受け、白山のふもとの九頭竜川
の東の伊野原(平安時代の名・のち石徹白(いとしろ)に変わった
・いまの福井県和泉村と岐阜県白鳥町のあたり・昭和33年ころ分割
合併・九頭竜湖駅に石徹白川がある)で、激しい祈祷を行いました。
その功あって貴女があらわれ、林泉(平泉寺)というところへ導か
れます。そこで泰澄は、神のお告げを受け、白山の頂上へと登りま
した。
さらに碧ヶ池(緑碧池・翠ヶ池)のそばで加持祈祷を行うと、白
山神は池の面に九頭竜王形(方便の示現)で出現、やがて十一面観
音という「本地の姿」をあらわしたということです。『本朝神仙伝』
によると、泰澄上人は各地を遊行していましたが、奈良県葛城山で
は「岩橋造り」の時、役ノ行者に反抗して呪縛されて谷底に捨てら
れている一言主の神を自由にしてやろうとしたことがありました。
3度目の祈祷で呪縛が解けた時、天から「つなぎ結わえること、元
の如し!」という、役ノ行者の叱る声がし、泰澄の加持は破れたと
いいます。
さて、奈良時代の養老元(717)年、弟子の二人を連れて白山を
開山した泰澄は、白山妙理権現という神を感得し、その眷属配下の
禅師王子、児宮童子、一万眷属、十万金剛童子、五万八千采女、そ
の他もろもろの天狗などをまとめる身となりました。そして御前峰
(ごぜんがみね)にとどまり、「白峰大僧正」という大天狗になっ
て白山全体を守っていることになっています。(ただ平安時代末期
の日本の仙人37人をとりあげた本『本朝神仙伝』には、泰澄は7番
目の仙人に数えられています)。また臥行者は奥ノ院に当たる大汝
峰に、そして浄定行者は「白山正法坊天狗」となって別山にすみ、
泰澄上人を助けているとされています。
また泰澄が初めて白山に登った時の伝説があります。山上には3
千匹の大蛇がすんでいて山麓の住民を悩ませていました。大師は大
蛇たちを呼び集めて因果をふくめ、最も凶悪な1千匹を切って塚に
埋めました。これが白山の観光新道が阿弥陀ヶ原に入ろうとする所
に残る蛇塚だという。次の1千匹は千蛇ヶ池に、残る1千匹をかつ
て大師が祈祷を行った付近の白山南麓の刈込池に封じ込めました。
刈込池の1千匹には逃げ出せないよう近くの峰に岩の剣を突き刺し
ました。それが別山南にある三ノ峰付近の剣ヶ岩。
9月、南麓の福井県JR九頭竜線勝原(かどはら)駅のキャンプ
場を出るときから雨。市営バスを鳩ヶ湯で降り歩道をエンエン3時
間。刈込池付近の登山口から六本檜、剣ヶ岩付近に着くころは午後
4時をまわっていました。ダケカンバの根元に小さな平地を見つけ、
きょうはここでビバークと決めました。
すぐ上に剣ヶ岩の看板。暖かいスープと般若湯で体を温めます。食
事をすましてテントの外に出たらナント、いつの間にか雨が上がり
満天の星。居待ち月が昼間のように明るく三ノ峰への稜線を照らし
ています。あのあたりが上人が神の夢告を受けた伊野原(石徹白)
か。神々しいというのはこんな風景をいうのでしょうか。
▼【参考文献】
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・『仙人の研究』知切光歳著(大陸書房)1989年(昭和64・平成1)
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成
4)
・『日本伝奇伝説大事典』編者・乾勝己ほか(角川書店)1990年(平
成2)
・『日本大百科全書14』(小学館)1987年(昭和62)
・『日本歴史地名大系17・石川県の地名』(平凡社)1991年(平成3)
・『本朝神仙伝』大江匡房(平安後期)(日本古典全書「古本説話集・
本朝神仙伝」川口久雄校注 朝日新聞社)
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