『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第5章 仙 人
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▼05-07「竿打(さおうち)仙人」
【前文】
大和の国出身の「竿打ち仙人」は2〜3mの所をヒョロヒョロ飛
べるていどの落ちこぼれ仙人。悪ガキ共がトンボやチウと同じよ
うに、竿をもって仙人を追い回したという。しかし、いつしかい
なくなり「その終(は)つる所を知らざりけり」と古書『本朝神
仙伝』にあります。
▼05-07「竿打(さおうち)仙人」
【本文】
山や峠には仙人の名がつくところが意外と多くあります。ただ
仙人といっても種類があり、天仙、地仙、尸解仙(しかいせん)
に分けられるといいます。そのほか、陸仙、水仙、新仙、童仙、
玉仙、仙女などの区別があるそうです。
空を飛んだり、変身、不老長寿など自由自在のこんな仙人たち
にも落ちこぼれがいるというから愉快です。奈良時代、大和の国
出身の「竿打(さおうち)仙人」という仙人がいました。
これが未熟な仙人で、仙薬を飲んで一生懸命修行をしますが、
いっこうに空を飛べません。半分あきらめかかっていたころ、勢
いをつけて飛び上がったら、どういうはずみか、2〜3ばかりの
所をヒョロヒョロ飛べるようになりました。それでも大人たちは、
普通の人のできる技ではないとすっかり感心し、うわさになりま
した。
しかし、喜んだのは悪ガキ共です。トンボやチョウを追うのと
同じように、竿をもって仙人を追い回します。竿打ち仙人はあわ
てにあわてて、必死に逃げ回ったということです。竿で追いかけ
られていたので「竿打ち仙人」と呼ばれていましたが、いつしか
いなくなったという。
平安後期の1097(承徳元)年ころ成立したといわれる『本朝神仙
伝』(大江匡房著)「竿打ちの仙(ひじり)の事 第卅」には次の
ように出ています。「竿打(さをう)ちの仙(ひじり)は、大和の
國の人なりけり。仙(ひじり)の道を学べども俗骨(ぞくこつ)
猶(なお)し(しはなおを強めていう語)重くして、藥餌(やく
じ)の力も施(ほどこ)し難くぞありける。
地を離れて飛べども、その高さ七八尺に過ぎざりしかば、年少
(としわか)き兒童(わらべ)ら、皆竿(さを)を捧げて追ひた
り。故(かるがゆゑ)に此(かか)る名をぞ得たりける。その終
(は)つるところを知らざりけり」というのです。世の中には愉
快な話があるものです。
▼【参考】
・『仙人の研究』知切光歳(大陸書房)1989年(平成元)
・『本朝神仙伝』大江匡房(「日本古典全書・古本説話集」川口久
雄校注(朝日新聞社)1971年(昭和46)
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