『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第5章 仙 人

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▼01-02「仙人の階級」

【本文】
 仙人は人偏に山。中国の神仙思想や道教によって想像された理想
的な人間像で、不老不死の術を修め神通力で、空を飛び俗世間をは
なれ、文字通り山の中に住むといわれます。

 仙人の「せん」は「遷」で、山に還りすむ人をいうのだそうです。
昔は「僊人」とも書いたそうです。仙人は道教でいう「神仙」と、
仏教でいう仏仙とに大別されます。また、道教での仙人は、六朝(り
くちょう)時代になると、服用する仙薬などによって階級(段階)
があるとされていました。

 中国の「抱朴子」という古書には天仙、地仙、尸解仙(しかいせ
ん)があるとしています。「天仙」は上士(徳が高くすぐれた人物)
がなれるもので、白昼大勢が見ている中でも悠々と昇天でき、「仙
中の仙」とされているそうです。

 また「地仙」は、中士がなるもので山中に住み、修行に励んでそ
の道をきわめ、世のため人のためになり、やがて天宮に「天仙」と
して迎えられるという。この仙人は街の中にいても職や名誉におぼ
れず、家族にも内緒で、ただただ仙道に邁進しているものもいると
いう。ただ共通なのはきまって酒が好きだという。やっぱり……。

 一方、「尸解仙」は下士がなるもので、黙々と仙道を学び、道を
極めた果てに肉体が亡び、魂が抜けたのち体もいつしか消えて魂と
結びつくのだといいます。これは普通の人でも、それなりの努力を
すれば仙人になれる道だそうです。よしそれなら……と思いますが、
しかし、仙人道では順位が「天仙」、「地仙」の次の位だというから
残念です。その原因は服用する仙薬にあるといいます。

 尸解仙(しかいせん)になる人は独学で修業する人が多い。その
ため、悲しいかな最上の仙薬(金丹)の作り方が分からないのです。
さらに天仙になるために必要な導引(呼吸運動)、房中術、薬物、
護符、精神統一などの、複雑な術を絡み合わせなくてはならないと
いうから難しいものです。

 仙人はそのほかに、陸仙、水仙、飛仙、新仙、童仙、玉仙、仙女
がいるという。陸仙、水仙、飛仙、新仙は読んで字のごとくの仙人
です。この中に出てくる「童仙」は、仙人の絵などでよく見られる、
仙人のそばにいつもいて、用事を言いつけられたりする子どもです。
しかし、この子どもはどこから連れてきたものか、童子の素性はほ
とんどが不明です。

 女性の仙人もいます。これにも「玉仙」と「女仙」の区別がある
といいます。中国漢の『列仙伝』という仙人を選び出した本があり
ます。それに載っている仙人のうち、5%は女仙だということです。
先にも書きましたが、仏教でいう仙人は僧として修行を積んで仙人
になった仏仙です。それは大仙、仙聖、仙とも呼ばれています。

 日本の仙人の話を書いた本に『本朝神仙伝』というものがありま
す。これは、中国の『列仙伝』や『神仙伝』を模して著されたもの
で、平安後期の1097(承徳元)年ごろの成立で、著者は文人官僚
の大江匡房(おおえのまさふさ・1041〜1111年)という人だとさ
れています。

 この本では、取り上げられている37人の仙人のうち、泰澄上人
など僧侶が18人、仙人が8人(うち久米仙人など3人は仏仙)、そ
のほかの人は11人となっています。そのほかの仙人の中でも聖徳
太子や役ノ行者などほとんどが、仏教系統で占められていると専門
家は分析しています。線藥を飲み、修行に励んで道をきわめて、や
っとなれた仙人にも階級があるとは、世の中は厳しいものですね。

▼【参考文献】
・『日本大百科全書13』(小学館)1987年(昭和62)
・『日本伝奇伝説大事典』乾克己ほか編(角川書店)1990年(平成
2)
・『本朝神仙伝』大江匡房著:『本朝神仙伝』日本古典全書・古本
説話集)川口久雄・校注(朝日新聞社)昭和46(1971)年
・『日本霊異記』(日本古典文学全集6)校注訳中田祝夫(小学館)1993
年(平成5)
・『仙人の研究』知切光歳(大陸書房)1976年(昭和51)

 

 

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