『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第4章 天狗神

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▼04-24「北陸・白山の天狗たち」

【本文】
 北陸の名山白山は御前峰(ごぜんみね)(2702m)、大汝峰(お
おなんじみね)(2684m)、剣ヶ峰(2677m)の三つの峰の総称で、
これらの主峰の南方、少し離れて別山(2399m)という峰があり
ます。白山は富士山、立山とならんで「日本三名山」にも数えられ
ています。雪で白く輝くこの峰々の美しさは古くから世に知られ、
万葉の時代から「越のしらみね」と詠われました。

 この山は奈良時代の養老元(717)年、越ノ大徳とも呼ばれる泰
澄上人が、弟子の臥(ふし)行者と浄定(じょうじょう)行者を連
れて開山。山頂に登った泰澄は白山妙理権現という神を感得し、そ
の眷属配下といわれる禅師王子、児宮童子、一万眷属、十万金剛童
子、五万八千采女、天狗などをまとめる身になり、泰澄上人は御前
峰にとどまり白峰大僧正となって白山全体を守っています。

 ただ平安時代末期の日本の仙人をあげた本「本朝神仙伝」には泰
澄は七番目の仙人に数えられています。また臥行者は奥ノ院に当た
る大汝峰に、そして浄定行者は白山正法坊天狗となって別山で上人
を助けているとされています。

 白山はあまりにも神威が強い霊山。そこで泰澄上人はこの山の山
霊・妙理大権現に現じ、十一面観音となり、また日天子や巨門星に
変化し、また白峰大僧正に変化しながら白山天狗を支配していると
いう。

 弟子の臥行者も同じように大汝峰で越南地権現(おうなんじごん
げん)に現じ、大己貴命(おおなむとにみこと)や阿弥陀さまに変
化するというし、浄定行者は別山にあって小白山大行事や聖観音、
天忍穂命に現じ、白山正法坊大天狗に変化して泰澄上人を助けるの
だという。

 泰澄上人が修行中、入門してきた少年が家事のかたわら、上人の
そばを片時も離れずいつも戸外の雪の上に臥して眠っていたとい
う。そのため泰澄から臥行者の名をもらいました。食料調達が仕事
だった臥行者は、海岸に立って沖を行く船へ、托鉢に「鉄鉢」を飛
ばして布施を願い、船人が米を入れると鉢はまた空を飛び、行者の
もとに戻すという特技がありました。

 和銅五年というから飛鳥時代から奈良時代に突入した西暦712
年の秋のある日でした。臥行者がいつものとおり、沖をゆく船めが
けて鉄鉢を飛ばし托鉢に向かわせました。ところがその船は出羽の
国から米を朝廷に上納する運搬船でした。船主は神部浄定(かんべ
のきよさだ)という人で「ここにある米は官米である。少量たりと
も渡すことはできぬ」と喜捨を拒みました。

 すると船に積んであった米俵がふわりと舞い上がりあとからあと
から列をなし、臥行者のいる越智山めがけて飛び去っていきます。
船主は大慌てで米俵を追って行くと泰澄上人の住まいの前に俵が高
く積まれています。神部浄定は泰澄に米を返すよう頼みました。「あ
れは臥行者の仕業、すぐ返すよういっておく」。浄定が船に帰って
みるとすでに米俵は戻っていました。

 船主の神部浄定はこの不思議な光景を見て、米運搬の役目を役目
を果たすとそのまま泰澄上人のもとに駆けつけ弟子入りしました。
こうして浄定は炊事、洗濯、家事一切を取り仕切りながら師匠や兄
弟子・臥行者の身の回りの世話をしながら修行に励み、行を重ねて
浄定行者(浄定行者は縮めて浄行者)といわれるまでになりました。

 浄行者のいる別山は白山室堂から南竜ヶ馬場の谷を隔てた御舎利
山の南方。山頂には石垣で囲まれた別山神社の祠があります。別山
とは別の国の山のことだそうですが、ここでは別の国の富士山が望
める山の意味だそうです。9月、快晴の別山からは山なみの向こう
に富士山が小さく霞んで見えました。

▼御前峰【データ】
【所在地】
・石川県白山市と岐阜県大野郡白川村との境。最短:JR金沢駅
からバス別当出合下車、歩いて3:20分で御前峰。一等三角点(2
702.2mm)と白山比刀iしらやまひめ)神社奥宮がある。地形図
上には山名と三角点の標高と白山奥宮の文字の記載あり。三角点よ
り北方向直線約316mに剣ヶ峰がある。三角点より南方向直線約680
mに室堂平がある。
【ご利益】
・白山比刀iしらやまひめ)神社奥宮:大漁・海上安全の神
【名山】
・深田久弥選定「日本百名山」(第87番選定):日本二百名山、日
本三百名山にも含まれる。
・岩崎元郎選定「新日本百名山」(第45 番選定)
・田中澄江選定(1981年)「花の百名山」(第57 番選定)
・田中澄江選定(1995年)「新・花の百名山」(第57番選定)
【位置】
・御前峰三角点:北緯36度09分18.49秒、東経136度46分17.12秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「白山(金沢)」

▼【参考】
・『図聚 天狗列伝・東日本編」知切光歳著(三樹書房)1977年(昭
和52)
・『角川日本地名大辞典17・石川県」浅香年木ほか編(角川書店)
1981年(昭和56)
・『日本歴史地名大系17・石川県の地名」(平凡社)1991年(平成
3)

 

 

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