『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第4章 天狗神

……………………………………………………

▼04-15「秩父破風山と両神山の天狗

【略文】

秩父には秩父三十四番札所水潜寺の鎮守の山破風山ノッキン坊天狗
と、両神山三笠山刀利天坊、八海山大頭羅坊、阿留摩耶山アルマヤ
坊がいることになっています。ノッキン坊はイボの神。両神山は御
嶽教の行者で賑わった山。一位ガタワ方面にある刀利天坊天狗の像
は、木曽御嶽山飛騨頂上にある刀利天像と姿形がよく似ています。

…………………………

▼04-15「秩父破風山と両神山の天狗

【本文】
埼玉県秩父の破風山は天狗伝説の山です。この天狗には何の伝承も
ないそうですが、山頂近くの如金峰(にょっきんぼう)という岩峰
に時々天狗が姿を見せたため、天狗の名が先か岩の名が先か、ニョ
ッキンボウ、ノッキンボウと里人にいい慣わされてきたという。

2月、秩父鉄道は宝登山のロウバイ見物の人たちで大にぎわい。混
雑から逃れ電車を皆野駅で降り、途中椋(むく)神社へ向かいまし
た。境内には、神社の縁起に出てくる大きなムクノキがあり、注連
縄がよく似合っています。ひときわ大きな金精様と夫婦和合の石碑
が明るい日の光に照らされています。

破風山山頂は結構な賑わいです。如金峰は西側の札立峠先を登った
ところ。富士講の石碑の先で突然あらわれます。土地の人たちはい
ぼの神さまとして願をかけ、かつては筒酒をもってお礼に来る人で
賑わったという。いまもカップ酒が供えられています。

ここ破風山は秩父三十四番札所水潜寺の鎮守の山。でもなぜか寺で
は「里人がそんなことを言っている」くらいにしかこの天狗に関心
がないといいます。如金峰は金精神。やはりコンセーサマではさし
さわりがあると考えるのでしょうか。椋神社の方がさばけていて鎮
守の山としてふさわしいのかも知れません。

また両神山(1723m)は、深田久弥の『日本百名山』にも取り上げら
れる名山。飛鳥時代の役ノ行者(えんのぎょうじゃ)の開山とされ、
かつては修験道の山として賑わいました。この山は両神山・八日見
山・竜頭(りゅうかみ)山・鋸岳などの名があるそうです。

両神とはイザナギ(伊弉諾)・イザナミ(伊弉冉)の2神だという。
八日見とは日本武尊が東夷征伐のためやってきて、筑波山に登って
八日間もこの山を見ていたとの伝承からきています。そのほかに竜
神をまつる竜頭(りゅうかみ・竜神)説があります。

もっとも八日見のヨ(ヤ)ウカミはヤオカミのことで、ヤは八、オ
カミは高?(たかおかみ)、闇?(くらおかみ)のオカミで雨乞い
の神。すなわちオロチ(大蛇)で、仏典でいうところの竜王のこと
で、つまり八つの頭を持つ竜王(竜頭大明神)なのだそうです。イ
ザナギ、イザナミの両神を祭ったのは両神山というようになってか
らで、それ以前はこの2神には何の関係もなかったというのですか
ら困ります。

ま、それはともかく、両神山の表参道、八海山(はっかいさん)と
よばれる所には大頭羅神王(おおずらしんのう)という石像があり
ます。右手に剣を持ち、髪の毛のなかにはもう一つの顔が異様な形
で彫られています。この山の信仰は木曽の御嶽山の行者によって始
まったものといいます。

そういえば御嶽山の前衛の山の八海山や三笠山、阿留摩耶山(ある
まやさん)の名も両神山の山中に見うけられます。しかも、行者の
唱える唱文のなかに「三笠山刀利天坊(とうりてんぼう)、八海山
大頭羅坊、阿留摩耶山アルマヤ坊…」と御嶽山と同じ天狗の名がで
てくるという。そして行者たちが禊ぎをする滝のほとりの天狗社に
まつられる天狗も同じ刀利天狗、三笠坊、アルマヤ天狗、大頭羅坊
だというのです。

ならばこの大頭羅神王というのは、御嶽山の天狗の分身であるわけ
です。火炎に似た形をした髪の毛のなかの顔は両牙をむきだし、見
ようによっては不動さまのようにも見えます。そういえば石像のす
ぐ上は弘法の清水という水場があり、なにやら関連ありそうです。

大頭羅坊は表参道にありますが他のものはどこにあるだろうと探し
てみました。清滝小屋から少し上がった一位ガタワ方面に入ったと
ころで、はからずも見つけた刀利天坊天狗の像。やはり三笠山と関
係ある場所にあり、木曽御嶽山飛騨頂上にある刀利天像と姿形がよ
く似ています。文字は風化して読めませんが、足の指に鳥のような
爪があるのが気になります。とすればこのあたり、まだ他の天狗も
あるかも知れません。

▼【参考文献】
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和5
2)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)

 

 

【目次】へ(プラウザからお戻りください)
………………………………………………………………………………………………