『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第4章 天狗神
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▼04-09「滋賀県・比良山次郎坊」
【本文】
滋賀県の比良山にいるという次郎坊天狗は、天狗三兄弟(京都・
愛宕山太郎坊、比良山次郎坊、長野県飯縄山・飯綱三郎)の次男坊
です。次郎坊は、かつてからいろいろな書物にも登場、その乱暴ぶ
りが紹介されています。
『今昔物語』(巻二十)に、香川県の「万能ノ池」の竜王が小蛇
になって昼寝をしていると比良山の天狗がつかんで飛びあがり岩穴
へ閉じこめて弱ったところを喰おうと待っていた話があります。
別の逸話では比叡山の坊さんをさらってきて食用にしようとした
話、また比叡山の給仕をしていた少年をさらって日本国中を連れ回
った話や、その少年の叔父の家に火をつけて体を温めたなどと載っ
ています。
また比叡山の山麓坂本の山王神社のお祭りや、栃木県日光のお祭
りにまで顔を出し、集まってきた群衆に術を使って訳のまからない
大げんかをさせたなどの乱暴話も比良山次郎坊の眷属の仕業だとし
ています。
比良山次郎坊は、かつては比叡山次郎坊といい、この山々一帯の
天狗の群れを支配していました。古い物語にしばしば「叡山次郎」
なる天狗が出てくるといいます。
平安時代初期、留学していた最澄(伝教大師)が帰ってきて、都
の鬼門である比叡山に延暦寺を創建して魔怪たちを封じ込めます。
延暦寺が隆盛になるにつれて法力の優れた高僧が出てきて、次郎坊
たちも法力比べで負けることも多くなります。
そのうち手なずけられる手下もあらわれるしまつ。一部の天狗は
護法神として残りましたが、次郎坊一族郎党はついに敗退し比良山
に戻り、そこに納まって名前も比良山次郎坊と呼ばれるようになっ
たのではないかとされています。
▼【参考文献】
『今昔物語』(巻二十・竜王為天ぐ(「ぐ」は獣偏に「苟」の字)被
取語第十一(りゅうおうてんぐのためにとらるること)
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