『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第4章 天狗神
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▼04-03「不思議な女性天狗」
【略文】
修那羅峠の石仏群の中にこれはめずらしい女性の天狗像がある。
しかも天狗の狗が「佝」と人偏になっている。女性天狗というの
は天狗の種類、階級などどこにも出てこない天狗。石工の案か注
文者の指示か、不思議な天狗として、研究家も首をひねっている。
・長野県筑北村と青木村との境
▼04-03「不思議な女性天狗像」
【本文】
石仏といえば長野県の修那羅峠(しょならとうげ、しゅならとう
げ)が奇抜な形、その数の多さで有名です。山頂近くに安宮神社
があって、裏山の細い道に沿って一列にズラッと500体もの石神や
石仏がならんでいます。石仏はどれも作者不明で、江戸時代末期
から明治にかけて彫られたものといわれています。
その中でこれはめずらしい女性の天狗の石仏があります。石像は
半分はだかで、一見童子風で鼻も高くなく、天狗の形はしていま
せん。ただ像の両脇に「婆羅門 女天佝」とあり、天狗の狗がケ
モノヘンではなく、「佝」とニンベンになっています。狗について
は、富士行者の身禄文字ではニンベンに狗をつけた文字で、また
国安普明文字では「立ヘンに句」を使っているといいます。
もっと不思議なのは、婆羅門の文字だという。研究者の言葉を借
りれば「先人がインドの仏典には「天狗ノ文(もん)見エズ」と
はっきり言っているところ。まして戒行厳しい婆羅門において女
性とは」と驚いています。
そもそも天狗の名前は、中国の呼び方は別にしても、日本でも天
狗、天狐と書き、どちらもアマツキツネとも読まれ、『旧事本紀(く
じほんぎ)』にある素左男命の吐瀉物から化ったという天逆姫(あ
まのざこひめ)、その子の天逆雄神などの深悪神から、天公(てん
ぐ)、狗賓(ぐひん)、天伯、天縛などの異名があります。
また天狗の階級をあらわす呼び方には大天狗、中天狗、木の葉天
狗、カラス天狗、白狼(ハクロウ)、狂言に出てくる溝越し天狗な
ど多彩です。さらに地方での呼び方があります。
宮天狗、海天狗、川天狗、道天狗、辻天狗、向こうの天狗、屋根
の天狗、座の天狗、富士天狗、辰巳天狗、朝日天狗、夕日天狗、
平松天狗、てろう天狗などは、長野県下伊那郡天龍村神原、南信
濃村遠山、木沢(『日本大百科全書・天龍村・南信濃村』)の天狗
祭りの唱文に出てくる名前。
また和歌山県には土天狗、土佐にはシバテン(芝天狗)、出羽地方
の最上川には水天狗などなどがありますが、女天狗というのはど
こにも出てきません(『天狗の研究p54』)。これはこの石像を造っ
た石工の案か、それとも注文者の指示か、不思議な天狗として、
研究家も首をひねっています。
▼【参考文献】
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和52)
・『源平盛衰記』智巻第八法皇三井灌頂の事の条
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