『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第4章 天狗神
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▼04-02「天狗のいろいろ」
【略文】
天狗といえば大天狗、中天狗、小天狗がいることになっています。
そのほか木の葉天狗、カラス天狗、白狼天狗(はくろうてんぐ)、
溝越天狗とつづきます。これが天狗の階級で、気ままな天狗も階級
で縛られていると思うと愉快です。最下位の溝越天狗は空を飛ぶ術
が、まだまだ未熟で溝を飛び越すのがやっとレベル。
▼04-02「天狗のいろいろ」
【本文】
むら里を歩いていると天狗杉、天狗峠、天狗のなになになど天狗の
名前がやたらちあります。今回はその天狗シリーズの第2回目です。
天狗といえば、鼻が高く赤ら顔、一本歯の高いげたをはいて羽うち
わを持った修験者風のイメージが浮かびます。これらは大天狗です。
これと違って、とがったくちばしのある天狗は、カラス天狗、また
は小天狗です。カラス天狗はふつう青色の顔をしています。その中
間が中天狗。古い川柳に「ありそうでないのが中天狗」というのが
ありますが、実際にはいるそうです。
これが天狗の階級で、気ままな天狗も階級で縛られていると思うと
愉快です。いちばんの大物はやはり大天狗、以下中天拘、小天狗、
木の葉天狗、白狼天狗(はくろうてんぐ)、溝越天狗(みぞこして
んぐ)とつづきます。最下位の溝越天狗は空を飛ぶ術が、まだまだ
未熟で溝を飛び越すのがやっとレベル。ときどきポチャンと泥水に
落ちるという落ちこぼれ天狗です。
大天狗でも、名前がついていない天狗が多いなかで名前が知られて
いる天狗はそれこそ大物の天狗です。これらの大天狗は簡単には姿
を見せないそうですが、小天狗や木の葉天狗などは、狗賓餅(ぐひ
んもち)といって猟師や木地師など山仕事の人が、自分たちに供え
る餅が少ないといっては腹を立て、よくいわれる「天狗倒し」を演
じたり、木を切る邪魔をしたり、岩や石を谷底へ蹴飛ばしたり、川
の魚を捕って喰ったりすると、古書にあります。いたずら天狗など、
よく民話に出てくる天狗譚はこれらの種類です。
また、天狗の種類としては、宮天狗、海天狗、川天狗、道天狗、辻
天狗、辰巳天狗(たつみてんぐ)、朝日天狗、夕日天狗、水天狗、
向こうの天狗、屋根の天狗、座の天狗、富士天狗、平松天狗、てろ
う天狗がいるといいますから、そこら中にいることになります。
大物大天狗の中でも、ド超大物は、ご存じ京都・鞍馬山の天狗、
同じく京都の愛宕山の天狗、奈良県・大峰山の天狗、滋賀県の比良
山の天狗、長野県・飯縄山の天狗、福岡県・彦山(英彦山)の天狗、
神奈川県・丹沢大山の天狗、香川県・白峰の天狗が有名です。これ
らにすむ天狗を日本八天狗というそうです。
また天狗の中の変わり種として、長野県の奇天烈な石仏で有名な修
那羅山には、女性の天狗の石仏があります。石像は半分裸で鼻も高
くなく、天狗の形はしていません。ただ像の両脇に「婆羅門 女天
佝」とあり、「狗」がニンベンになっています。
さらに山形県羽黒山には、水天狗円光坊という天狗がおり河童天狗
などともいっています。この天狗は羽黒山開運「七千日護摩行者長
教」の護符(ごふ)に、もう一狗の羽黒山三光坊とならんで影像が
出ています。(つづく)
▼【参考文献】
・『今昔物語集』(巻第二十):日本古典文学全集24『今昔物語集3』
馬淵和夫ほか校注・訳(小学館)1995年(平成7)
・『新著聞集』椋梨一雪原著、神谷養勇軒編。:(『日本随筆大成第
二期第5巻』日本随筆大成編輯部編(吉川弘文館)1994年(平成
6)所収
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『太平記』:新潮日本古典集成『太平記4』山下宏明・校注(新
潮社)1991年(平成3)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)
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