『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第2章 山の妖怪

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▼02-12「山人・怪人・山男」

【略文】

かつて山の中で、里人とは違う大男に出会ったという話がよくあり
ました。山人(やまびと)とか山男、?(やまこ)、大太法師に代
表される巨人、小人、山童(やまわろ)など、確かに何かいたよう
です。あの柳田国男も「山の人生」の中で山中に住む人たちに触れ
ています。

▼02-12「山人・怪人・山男」

【本文】
 かつて山の中で、里人とは違う大男に出会ったという話がよくあ
りました。山人(やまびと)とか山男、?(やまこ)、大太法師に
代表される巨人、小人、山童(やまわろ)など、確かに何かいたよ
うです。あの柳田国男も「山の人生」の中で山中に住む人たちに触
れています。

 古書の中の山男を見てみますと、江戸時代中期の百科事典『和漢
三才図会』(寺島良安)には、『本草綱目』など中国の本からの記
事を引いて、「山男」「山姥」、「山精・片足の山鬼」などを紹介して
います。中国の山男は、山の精気が凝って生まれた妖怪で、その姿
は後ろ向きの足の甲を持った一本足の山丈(やまおとこ)として描
かれています。

 それに対して日本の山男は、ふつうの人間のよう形で大男が多い
ようです。「秋田の早口沢と言ふは二七里の沢間也。……(中略)
……。此山中に折として童の鬼の如くなるを見ることあり。先(さ
き)つ年或人の見る一人の大童は十人しても抱へ難き大石を背負
ひ、うつ伏してたに水(さんずいに閧フ字・たにみず)を飲み居
たり。之を鬼童と云ふ」のような、ざんばら髪で、童(わろ)と
呼ばれ、大岩を軽々と持ち上げる怪力の持ち主です。

 江戸時代後期の『譚海』(津村淙庵)巻之九に載っている話です。
神奈川県の箱根に山男というものがいました。裸の上に木の葉や
樹皮をまとい、山奥に住み魚を捕るのを仕事にして市の立つ日に
来て、魚と米を交換して絶壁のようなところを飛ぶように帰ってい
くという。無口でよけいな話をせずどこに住んでいるのか分からな
かった。

 小田原の城主もこれを知っていて、人に害を加えることもないの
で絶対に鉄砲などで撃ってはならないとしていたという。どこに住
んでいるのか確かめようとあとを追いますが、絶壁のような道のな
いところを鳥が飛ぶごとくに走り去るので追いつかなかったとい
う。

 また、江戸後期の『北越雪譜』(鈴木牧之)には、越後南魚沼郡
の池谷村や十日町に大男が現れて米の飯を欲しがり、やると荷物を
背負って送ってくれた話を載せています。また、柳田國男の「山人
外伝資料」(1913年・大正2)では、古書から山人の盛衰を五期に
分け、第一期を国津神時代・第二期は鬼時代・第三期は山神時代・
第四期は猿時代・第五期を山人史解明時代としています。そして「山
人とは我々の祖先に逐われて山地に入り込んだ前住民の末である」
としています。

 山人とよく間違われるものに、?(やまこ)というものがいるそ
うです。これは猿のようで大きく黒い長い毛に覆われているという。
飛騨や美濃(岐阜県)の山奥にすんでいて、立って歩き、人の言葉
をよく話し、人の心を読むというから賢い。人には危害を与えない
という。

 山童(やまわろ・やまわらわ)というのもいます。これは半人半
獣の動物といわれ、狒狒(ひひ)の類ともいい、裸で立って歩くと
いう。先の『和漢三才図会』では、俗に也末和呂(やまわろ)と
いうそうです。これは、西の方の深山にすんでおり、高さは約3
mもあるという。

 いつも裸で歩き、沢のエビガニをとるという。人が焚き火をし
ているとエビガニをもってきて焼いて食うのだそうです。人がこ
れに危害を与えると、寒気をもようさせたり、発熱させたり仕返
しをするという。山童は、川太郎を河童というように、これは山
の童なのでそうです。

 巨人、大入道なども登場します。『常陸風土記』にある巨人(ダ
イダラボッチ)などもこの仲間です(別項、「大太法師」参照)。ま
た東北・吾妻連峰にも大人(おおひと)というものがいて、「その
長(たけ)一丈五六尺、木の葉を綴りて身を蔽(おお)う」(「今斉
諧四」から)。それによると住民は大人を神のように畏敬し酒や食
事を備えるように置いておいた。大人はそれを食べずに包んで持ち
帰るという。

▼【参考文献】
・「山人外伝資料」柳田國男(1913年):ちくま文庫『柳田國男全
集4』(筑摩書房)1989年(昭和64・平成1)
・『図聚天狗列伝・東日本編』知切光歳(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『仙人の研究』知切光歳(大陸書房)1989年(平成元)
・『譚海』(津村淙庵著)1795年(寛政7)(国書刊行会)1917年(大正6)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・『日本大百科全書23』(小学館)1989年(平成1)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『柳田国男全集・4』柳田國男(筑摩書房)1989年
・『和漢三才図会』大阪の医師・寺島良安著(江戸中期初頭・1712
(正徳2)年の図入り百科事典):東洋文庫466『和漢三才図会・
6』(巻第四十寓類恠類の項)島田勇雄ほか訳注(平凡社)1989年
(昭和64・平成1)

 

 

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