『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第2章 山の妖怪
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▼02-06「八ヶ岳の大男」
【略文】
かつて八ヶ岳と蓼科山は兄妹だったという。デエランボウは浅間
山の大岩をもっこで運び、兄の八ヶ岳の上にぶちまけました。そ
れを見た蓼科山が大騒ぎ。怒ったデエランボウは「うるさい」と
ばかり蓼科山を抱きかかえ引っこ抜こうとしました。
▼02-06「八ヶ岳の大男」
【本文】
八ヶ岳や蓼科山にはこんな巨人伝説が残っています。昔、長野
県と群馬県の山中に、とんでもない大男が住んでいました。デエ
ランボウといい、地方によりデーデッポー・大太法師・ダイダラ
坊・デーダンボウなどと呼ばれる途方もない巨人です。碓氷峠を
枕に足を妙義山に乗せて昼寝をするほどだったといいます。
そのデーランボーが、だんだんと勢力を伸ばし、南にある八ヶ
岳全体を自分の配下におこうとやってきました。ところで、かつ
て八ヶ岳と、その北にある蓼科山(たてしなやま)は兄妹だった
という。
デエランボウは近くで噴火している浅間山が吹き上げる大岩で
八ヶ岳を富士山より高くしようと、もっこで運びお兄さんの八ヶ
岳の上にぶちまけはじめました。驚いたのは八ヶ岳です。頭の上
に土や岩が降ってくるので頭が重くてやりきれません。「重いよう」
泣き叫ぶ八ヶ岳に「それなら軽くしてやる」と山を八つに砕いて
しまいました。
それを見た妹の蓼科山が大騒ぎ。怒ったデエランボウは蓼科山
を諏訪湖に放り込んでやるとばかり、蓼科山を抱きかかえ引っこ
抜こうとしました。いくらデエランボウでもそう簡単には引き抜
けません。
う〜んと踏ん張った時、両足が地面にめり込んで大きな穴がで
き、そこに水がたまり池になったのが双子池だという話です。い
まはサンショウオがゆったりと浮かんでいます。
また雨池や白駒の池などもデーランボウの足跡だといいます。
このように、蓼科山のまわりに巨大な足跡をしるした大男は、こ
んどは天狗岳に近づいてきました。そうはさせじと八ヶ岳の守り
神にあたる磐長姫(いわながひめ)が立ち向かいます。
そして磐長姫は、その妹にあたる富士山の木花開耶姫(このは
なさくやひめ)に応援を頼みます。デーランボウと2姫は、中山
峠をはさんで激烈な戦いを演じたという。壮絶な姫たちの反撃に
あい、巨人はスゴスゴと退却しました。しかし、磐長姫も深い手
傷を負い、磐長姫の血がポタポタと地面に落ちました。その血が
やがてクロユリの花になったという伝説があります。
▼【参考文献】
・「ダイダラ坊の足跡」『柳田國男全集6』柳田國男(ちくま文庫/
筑摩書房)1989年(昭和64・平成1)
・『日本の民話』(全12巻)(角川書店)(自然の精霊)
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成4)
・『日本大百科全書・3』(小学館)1985年(昭和60)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『目で見る民俗神3』(境と辻の神)萩原秀三郎(東京美術)1988
年(昭和63)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『日本伝奇伝説大事典』乾克己ほか編(角川書店)1990年(平成
2)
・『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫編著(竹書房)
『日本山岳ルーツ大辞典』村石利夫(竹書房)1997年(平成9)
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