『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第1章 山・谷・峠の神と怪物

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▼01-18「森神は盛り土のモリがもと?」

【略文】

山の神、野の神、川の神、薮の神、森の神と、日本には八百万の神
さまが満ちあふれています。森の神といっても屋敷神の一種のもの
もあれば、神聖視された一区画の森にまつられる神であったりしま
す。そこには「モリ木」といって、特別のご神木があり、注連縄を
張ったり、根本に幣束をさしてまつってあります。

▼01-18「森神は盛り土のモリがもと?」

【本文】
 山の神があれば、野の神、川の神、薮の神、森の神と、日本には
八百万の神さまが満ちあふれています。森の神といっても、屋敷神
の一種として、個人の所有物のものもあれば、集落の神聖視された
一区画の森にまつられる神であったりします。

 そこには「モリ木」といって、特別のご神木があり、注連縄(し
めなわ)を張ったり、根本に幣束をさしてまつってあります。しか
し、これは依代(よりしろ・神が降りてくる目印)で、本来は森と
いう「聖地」に神を迎えてまつる森神信仰からきているという。

 また、森神は墓地や葬地の近くにまつられることが多い。その盛
り土のモリが森神のもとらしい。のちに盛り土に木を植え、その木
に信仰の中心が移ったのではないかとの説もあります。この神は、
聖地の森の木の枝を伐ったり、ご神木に触れたりすると、激しく祟
るといわれ、村人は祭りの日以外は近寄らないという。この森にま
つられているのは、地主神や荒神などいろいろだという。

 この森は墓地などの近くにあるように、森神は死者をまつったも
ののようです。その死者もふつうの先祖でなく、きわだった先祖や
人物であるらしく、これも民間宗教家の助言でつくられたものらし
いという。

 この森神と似たものに福井県の「ニソの杜」や、九州の「モイド
ン」、「モイヤマ」などがあります。福井県大飯町(いまのおおい町)
大島地区に見られる「ニソの杜」は、タモノキ(トネリコ・モクセ
イ科トネリコ属の落葉高木)や、シイノキなどの古木が中心になっ
ていて、まわりを薮で覆われた場所。

 ここも全体が神聖視されていて、その場所の木を伐ったり、むや
みに出入りすることを禁止しています。この「ニソの杜」の由来に
ついて、旧家の本家筋に当たる家にあった屋敷神が、広がって地域
の地縁神として成立したという説と、はじめからその周辺の地縁神
だったという説があります。

 いままで「ニソの杜」信仰は、ここ大島地区特有のものと思われ
ていましたが、大島付近の「ダイジョコ」や島根・岡山県の「荒神
森」、対馬の「天童地」や「シゲ」などの森信仰があるきことから、
一概にそうもいえないことが分かったという。なお、「ニソの杜」
の「ニソ」は、祭日が霜月23日であることからきているという。
もともとは23(にさ)の杜だったのでしょうか。

 また鹿児島県のニソの杜は、田んぼのなかや、谷筋の奧、山ぎわ
などに繁ったこんもりした森になっています。小さな森の真ん中に
は必ず大きなタモノキの老木や、シイノキ、ツバキの木が生えてい
ます。また同じように、薩摩半島を中心に「モイドン」(森殿)が
あり、大隅半島、種子島、屋久島、奄美大島には「モイヤマ」(森
山)という聖地があります。

 これらは共通して大木があり、同じように照葉樹やエノキ、サク
ラなどの落葉樹で囲まれ、一般的に祠はないようです。これは元来、
モイヤマという山の信仰があって、その山のあかしとしてふもとに
木を移して、神体としてまつりはじめたないかという。

 ここにも古い墓があることが多く、またさまざまな祟る性格もあ
るという。また門(かど)や家の神としてまつられるものが多い。
門(かど)とは稲作農民の血縁的地縁的集団をいうそうです。

▼【参考文献】
・『日本の民俗46・鹿児島』村田煕(ひろし)(第一法規)1975年
(昭和50)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)
・『目で見る民俗神・1』(山と森の神)萩原秀三郎(東京美術)1988
年(昭和63)
・『妖怪・土俗神』水木しげる(PHP研究所)1997年(平成9)

 

 

 

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