『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第1章 山・谷・峠の神と怪物

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▼01-11「山 姥」

【略文】

山姥は人を殺して食うというコワーイ者として物語られます。しか
し、山姥から貰った銭には福があったとか、福の神的な話も伝わっ
ています。箱根の足柄山では山姥の子として生まれた金太郎で、
源頼光の四天王のひとりになったことは有名です。

▼01-11「山 姥」

【本文】
 山姥も妖怪の一人です。山中に住み、山母ということもあります。
そもそも深く高い山は、里の人たちとは別の人種が住み、想像もで
きない生活があると思われていたようです。山姥は人を殺して食う
というコワーイ者として物語られます。

 道に迷った牛飼いをとって食おうとした「牛方山姥」の話や、飯
を食わない女というので喜んで妻にしたら、実は山姥だったという
「食わず女房」の話などがそれです。

 また、歳末の一の日には山姥が買い物にあらわれ、彼女から貰っ
た銭には福があったとか、それにあやかり、大金持ちになるなど福
の神的な話も伝わっています。

 山姥といえば金時伝説がつきものです。箱根の足柄山では赤竜と
山姥の間に生まれた子が金太郎で、源頼光の四天王のひとりに数え
られた坂田公時に成長することはあまりにも有名。しかしそのほか
に長野県南木曽町のある南木曾岳(なぎそだけ)(1679m)も
あります。

 江戸後期の「木曽路名所図会」に「峰の近き所に窟あり。この中
の広さ数10歩、その内に方式三丈の平石あり。これを山姥の石座
と伝えり」とでてきます。この山は大雨が降ると「蛇抜け」という
おそろしい土石流が人家を襲う魔の山。

これを山に住む山姥の仕業だとされてきたようです。古書でいう通
り、金明水の近くに「金時ノ洞窟」があって対岸から洞窟が望め、
また山頂付近にも金時岩があります。

 8月の暑さまっ盛り、歩いているとアブの大群に襲われます。途
中、垂直状の岩場のクサリ場と巻き道がつくられています。山頂は
誰もいない静かな小平地。見晴台から望む木曽御嶽が雄大でした。

▼【参考文献】
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成
4)
・『日本歴史地名大系20・長野県の地名』(平凡社)1979年(昭和54)
・『小谷口碑集』小池直太郎編 (長野県稀覯本集成, 第1期明治・
大正編〔6〕)(郷土出版社)2000年(平成12)
・『民間信仰辞典』桜井徳太郎編(東京堂出版)1984年(昭和59)

 

 

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