『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第1章:山・谷・峠の神と怪物

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▼03「金精神

【略文】

金精神は金勢、金生とも書きこんせー様、カナマラ様と呼んでいま
す。金精の金は、金色に輝くようなリッパなもののこと。精は勢で
あり、精力絶倫の勢いをあらわす。もちろん男性自身のことであり
ます。群馬と栃木の県境の金精峠の金精権現、岩手県玉山村の巻堀
神社の金精大明神は有名です。

▼03「金精神

【本文】
金精(こんせい)さまという石神も各地に見られます。この神は、
金精神・金精さま、または金勢、金生とも書き、地方によっては、
コンセーさま、カナマラさまとも呼んでいます。金精の金は、金色
に輝くようなリッパなもの。精は勢であり、精力絶倫の勢いをあら
わしているのだそうです。もちろん男性自身のことなのであります。
ご神体はやはり、そのものに似た自然石、または木でつくったもの。

神社は全国にありますが遠野市など特に東北に多いようです。有名
なものは、群馬と栃木の県境の金精峠の金精権現、岩手県玉山村巻
堀(まきほり)の巻堀神社の金精大明神、岩手県花巻市石神町、鼬
幣(いたちべい)稲荷神社境内にある金勢神社などがあります。こ
とに巻堀神社のものは、もと南部金精大明神と称され、そのご神体
は金属製のイチモツです。

天保4年というから西暦で1833年に奉納されたそれは、いまでも金
色に光りかがやいており、縁結び・安産・婦人病治癒に霊験あらた
かといわれます。祈願には木や石でつくったご神体と同じ形のもの
を奉納。遠近から参拝に訪れる人でにぎわい、かつては社の前は奉
納品が積み重ねられるほどだったそうです。

江戸末期の旅行家・菅江真澄は著書「さくらがり」の中で「南部糠
部郡巻堀という里に金勢神と申す神ませり。かねのみたけの金生神
とはここなるおん神にして、六、七寸の雄元(おはしかた・男根)
を銭(かね)に作り、鎖つけなどして二つ三つぞホコラに秘(ひ)
め置けり…」とあり、当時から知られた神社だったことが知られま
す。

また江戸時代の『耳嚢・耳袋』(みみぶくろ)(根岸鎮衛)の巻之一
には「金精神の事」として「津軽の家士の語りけるは、津軽の道中
にカナマラ大明神とて、黒銅にて拵えたる陽物を崇敬し、神体と尊
みける所あり。如何なる訳やと尋問ければ、古老答て、いにしへ比
所に壱人の長ありしが、夫婦の中にひとりの娘を持、生長に随ひ容
顔美麗にして風姿艶なること類ひなし」などと記しています。これ
と同じ話は青森県の野辺地地方にも伝えられており、いまでも同地
方では「こうせん」(金精・庚申)と呼んでまつっているそうです。

山梨県の大菩薩峠の石丸峠への登山道の路傍にも石でつくったリッ
パなものがあり、突然あらわれるイチモツに登山者は驚かされます。
なぜこんな所に、もしか石丸峠の名はもとは石マラ峠ではないかと
の説もあります。以前は塩山市教育委員会の説明板がありましたが、
モノがモノだけにいまは何もなくなってしまい、気が着かずに通り
過ぎてしまう人も多いようです。

埼玉県秩父山地にある破風山(はっぷさん・627m)のノッキン棒
とか如金峰(にょっきんぼう)と呼ばれる大岩も金精さまとされて
います。のちにノッキン棒の棒が坊に転化され、かつては、時々こ
の岩にノッキン坊という天狗が現れて人々を驚かしたという伝説も
残っています。

ある年の7月、奥日光、奥白根山から金精峠(2024m)へ抜けまし
た。ここは金精山と温泉ヶ岳の鞍部。朽ちてしまいそうな木の鳥居
の先に立派なホコラがありました。ホコラのなかには銅にメッキを
施したこれまたご立派な逸物がデンと鎮座しています。

明治時代より前から多くの人々の信仰を集めてきたという。木造だ
ったホコラは破損がひどくなり、1958年(昭和33)に鉄筋コンクリ
ートの社殿に作りかえたそうです。最近は観光ルート上のレジャー
施設近くの小高い所にも金精さまと同じ精明神社がつくられて訪れ
る人も多くなっているようです。

金精神社は子孫繁栄の守護神として祭られています。この峠は、か
つては手へんに越の字を書いて「こむら峠」と呼んでいました。し
かし、いつかなまって「きむら」になり、さらに金精権現の信仰に
ちなみ「きまら峠」になっていまの名前に変わったのだそうです。
さい銭をあげホコラのなかのご神体に丁重に手を合わせ拝礼。頭を
上げて空を見上げるといつの間にか雨もやんでお日さまが顔を出し
ていました。

▼【参考文献】
・『岩手の伝説』平野 直著(津軽書房刊)1983年(昭和58)
・『角川日本地名大辞典9・栃木県』大野雅美ほか編(角川書店)1
984年(昭和59)
・『世界大百科事典11』(平凡社)1972年(昭和47)
・『日本大百科全書9』(小学館)1986年(昭和61)
・『日本の石仏8』(北関東篇)大塚省悟編(国書刊行会刊)1983年
(昭和58)
・『日本の民俗』全47巻 第一法規出版
・『日本歴史地名大系9・栃木県の地名』寶月圭吾ほか(平凡社)1
988年(昭和63)
・『耳嚢・耳袋』(みみぶくろ)(根岸鎮衛)1814(文化11年):「日
本庶民生活史料集成・16」鈴木棠三ほか編(三一書房)1989年(平
成1)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)昭和54年1979年(昭和5
4)

 

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