『新・ふるさとの神々』(上)加筆
第1章:山・谷・峠の神と怪物

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▼01-02「温泉神

【略文】

テレビなどの旅番組では温泉が欠かせません。各地の温泉地にきま
って立派な温泉神社がまつられています。また、登山者が多い、山
奥のひなびた温泉の裏山にも小さなホコラがまつられています。温
泉の霊力は、湯神とか温泉神として神格化され、大昔から崇敬の対
象になっています。『出雲国風土記』にも出てきます。

▼01-02「温泉神

【本文】
テレビなどの旅番組では温泉が欠かせません。イットキ、沸かし湯
問題で大騒ぎをしたこともありましたが、いまではすっかり知らな
い人たちが多くなりました。各地の温泉地にきまって立派な温泉神
社がまつられています。また、登山者が多い、山奥のひなびた温泉
の裏山にも小さなホコラがまつられています。

温泉に入ると病気が治る…その霊力は、湯神とか温泉神として神格
化され、大昔から崇敬の対象になってきました。『出雲国風土記』
意宇(おう)の郡の条出湯に「すなはち川の辺に出湯あり。(中略)
一たび濯(すす)げは、形容端正(かたちきらきら)正しく、再び
沐すれば万の病ことごとく除(い)ゆ。

古より今に至るまで験を得ずといふことなし。故れ俗人、神の湯と
白ふ。」(川のほとりに温泉がある。一度、湯で体を洗えば美しくな
り、ふたたび湯浴みすれば、どんな病気も癒えてしまう。昔から今
まで効果のなかった人はいない。だから人々は「神の湯」と呼んで
いる)とあります。

また『伊予国風土記』逸文に「大穴持命(おおなもちのみこと・大
穴牟血の神、大己貴命)、見て悔い恥じて、宿奈★古那命(すくな
ひこなのみこと)(★は田偏に比、毘と同じ、少彦名命)を活かさ
まく欲(おもほ)して、大分の速見の湯を、下桶より持ち度(わた)
り来て、宿奈★古那命(すくなひこなのみこと)を漬(ひた)し浴
(あむ)ししかば、?(しまし)が間(ほど)に活起(いきかへ)
りまして…。凡て、湯の貴く奇しきことは、、神世の時のみにはあ
らず、今の世に疹痾(やまひ)に染(し)める万世(ひとびと)、
病を除(いや)し、身を存つ要薬と為せり」とあります。

さらに『伊豆国風土記』逸文には、「大己貴と少彦名とわが秋津洲
に民の夭折(あからさまにし)ぬることを憫れみ、始めて禁薬(く
すり)と湯泉(ゆあみ)の術をさだめたまひき」となっています。
こんなところから多くの温泉神の祭神は大己貴神、少彦名神になっ
ています。

温泉神は、所により、うんぜん、とうせん、ゆぜんなどとも呼んで
います。高村光太郎の「智恵子抄」でも名高い東北の安達太良山山
頂に安達太良神社の小祠がまつられています。その祭神小陽日温
泉神(おゆひゆぜんのかみ)は、薬師岳の薬師如来とともに山腹
の岳温泉の御神体になっています。小陽日温泉神は温泉の湯治の
霊力を神格化した(安達太良山からわき出る温泉)ものといいま
す。

また日本で一、二を争う高所温泉北アルプス白馬鑓温泉。このあた
りは名にしおう雪崩の巣。いまでも温泉小屋は夏に組み立てられ、
秋には解体されています。その湯元にボロボロに風化した石仏が
一体。薬師仏らしいがはっきりしません。経営元の白馬館の話で
は、近年、登山者が運び上げ、置いたものだという。わざわざこ
んな重いものを持ち上げたのは、よほど厚い信仰心の持ち主か。
仏像は薬師如来と確信しています。

▼【参考文献】
・『神社事典』白井永治ほか編(東京堂出版)1986(昭61)
・『日本大百科全書4』(小学館)1985年(昭和60)ほか

 

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