【天狗のはなし】(t0kiHP//temg/tem006/tem006.html)

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006:天狗の引っ越し・山移り

【序文】(140字)
天狗は時々自分がすんでいた山から別の山に移りすむという。これ
を「天狗の山移り」というそうです。たとえば、神奈川県の丹沢
の相模大山の天狗は、相模大山伯耆坊というそうです。伯耆坊と
いう名前の通り、もとは鳥取県の伯耆大山にすんでいた天狗だと
いう。ほかにもこのような話があり、それを「天狗の山移り」と
いうとか。
006:天狗の引っ越し・山移り

【本文】
天狗は時々自分がすんでいた山から別の山に移りすむという。これ
を「天狗の山移り」というそうです。そのひとつ神奈川県の丹沢
の相模(さがみ)大山にも伯耆(ほうき)坊という大天狗がいる
ことになっています。

伯耆坊は日本八天狗にも入るほどの大物天狗なのだそうです。し
かし、伯耆坊という名前の通り、もとは鳥取県の伯耆大山(ほう
きだいせん)にすんでいた天狗だといいます。

かつて相模大山(丹沢)にはたくさんの子分天狗をつれた相模坊と
いう大天狗がいたのですが、なにがあったか相模坊は平安時代中期
までに四国・香川県の白峰山に移ってしまいました。(天狗信奉の
修験者たちの移動にともなうものか)。以来白峰相模坊と呼ばれて
います。

いま白峰山の中腹には四国霊場第八十一番札所白峰寺があり、境内
に崇徳上皇陵があります。そもそも崇徳上皇は、平安後期、父鳥羽
法皇の長い院政で、実権がなく不満を感じ、保元の乱(1156年、
平安後期)を起こしました。

しかし企ては失敗し、讃岐(香川県)に配流されます。失意のどん
底にいる崇徳院のいる白峰の配所を毎晩のように訪れ、慰める天
狗がいました。その天狗は、自分は相模という名前だと名のってお
り、まさに相模大山(丹沢)から来た相模坊なわけです。一節には、
天狗になって王になると、生きながら魔界に入った崇徳院だとする
説もあります。

讃岐に流された崇徳院は、8年間の悲憤の中で1164年(長寛2)
に46歳の生涯を終えます。崩御した院のそばで霊を慰めていたの
が相模坊天狗とその配下たちだったというのです。その後1168(仁
安3)年、西行が崇徳院の墓に詣でた時、崇徳院の怨霊と問答した
ことがあったという。

その中で崇徳院は「空にむかひて「相模、相模」と呼ばせ給ふ。あ、
と答えへて、鳶のごとくの化鳥翔来り、前に伏して詔(みことのり)
をまつ」と『雨月物語』(巻之一白峰)にあります。この鳶のよう
な鳥が相模坊天狗です。このころはまだ、狩野元信が鼻の高い天狗
を創作していなく、天狗といえばカラス天狗だったわけです。

崇徳院は相模坊に向かって、「なぜ早く平重盛の命をとって後白河
上皇や平清盛を苦しめないのか」と責めます。すると化鳥は、「後
白河上皇の福運はいまだつきておりません。重盛の忠義にも近づき
近寄りかねます。しかしいまから干支(えと)を一回りし12年た
てば、平重盛の寿命がつきて平家一族の幸いも亡びましょう」と相
模坊天狗は断言します。

そして干支が一周した13年後、その言葉どおり平重盛は重い病で
世を去ってから平家一門は滅亡しています。もちろんこれは『雨月
物語』の作者・上田秋成が平家滅亡の年数を計算しての上の構成だ
といわれてはおりますが…。

丹沢の大山天狗の親分が相模坊が四国へ移ったあと、室町時代中
期以降、鳥取県の伯耆大山(ほうきだいせん)から伯耆坊天狗が
移ってきました。その年代ははっきりしませんが、相模坊が相模
大山からいなくなってから500年ぐらいあと、室町中期から戦国時
代の間らしいとされています。

原因は南北朝の抗争後、大山寺の衆徒が宮方と武士方に分かれ憎
みあい、坊を焼いたり焼かれたりで霊山の面影もなく山が荒廃し
てしまいました。そんなていたらくに伯耆坊天狗は嫌気をさして
さっさと相模大山(丹沢)に移ってきたのだろうとのことです。

相模大山の阿夫利神社下社左わきには、いまでも伯耆坊の石碑が
あります。またケーブルの途中の駅・不動前の大山寺には伯耆坊
の大神の祠(ほこら)も建てられてています。なお、いま伯耆大
山には清光坊とという天狗がまつられています。

このように天狗が移住するのを「天狗の山移り」といっています。
このような例はほかにもあります。たとえば妙義山日光坊は日光か
ら、源義経に仕えていた常陸坊海尊は義経が最期を遂げたあと高館
山ら青森県恐山に。この海尊の場合も山移りの一種とみていいでし
ょう。

▼【参考文献】
・『雨月物語』上田秋成:日本古典文学全集48「英草紙・西山物語・
雨月物語・春雨物語」(小学館)1989年(昭和64・平成1):「雨
月物語」高田衛校注
・『雨月物語』上田秋成:日本文学全集・13『雨月物語・春雨物語・
世間子息気質・東海道中膝栗毛・浮世床』円地文子ほか訳(河出書
房新社)1961年(昭和36)
・『図聚天狗列伝・東日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『図聚天狗列伝・西日本』知切光歳著(三樹書房)1977年(昭和
52)
・『天狗の研究』知切光歳(大陸書房)1975年(昭和50)
・特集「山と渓谷」03年11月号企画「山の民俗に親しむ」
・『日本架空伝承人名事典』大隅和雄ほか(平凡社)1992年(平成
4)
・『日本伝奇伝説大事典』乾克己ほか編(角川書店)1990年(平成
2)
・『日本未確認生物事典』笹間良彦著(柏美術出版)1994年(平成
6)
・『宿なし百神』川口謙二著(東京美術刊)1979年(昭和54)

 

 

 

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【とよだ 時】 山と田園風物漫画
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 (主に画文著作で活動)
【ゆ-もぁ-と】事務所
山のはがき画の会

 

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