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山の歴史と伝承に遊ぶ 【ひとり画ってん】(05)

山旅通信【ひとり画展】画と文を毎月郵送)から
【とよだ 時】(山の伝承画文業・ゆ-もぁ漫画家・駄画師)

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「丹沢・富士山隠しの大室山」

【序文】

八王子近郊や相模原北部側から富士山方面を見ると、手前にに大室
山が横たわり富士山を隠してしまうので「富士隠し」の異名がある
という。江戸時代の地誌『甲斐國志』や、地元役場発行の『道志七
里』などにも記載され昔からいわれていたようです。
・神奈川県山北町と山梨県道志村との境

▼丹沢・富士山隠しの大室山

【本文】
 西丹沢・大室(おおむろ・1588m)山は、北麓の山梨県側道志村の
大室指(おおむろさす)集落の名に由来するという。しかし以前の地
図には大群山(おおむれやま)とも書いたものもあります。「むれ」
とは古代朝鮮語の山の意味だそうで、牟礼(むれ)とも書き、昔、
道志村の椿村地区が山頂に奉納した石碑には「大牟連(おおむれ)
山大権現」と記されていたそうです。

 しかし、道志村の郷土誌『道志七里』に、大室(おおむろ)権現
や大室大神、または大室八幡神社など、牟礼や牟連ではなく、室と
の記述があったり、隣町の神奈川県津久井町郷土誌にも大室山と書
かれていて、なかなか白黒ははっきりしないのであります。

 この山には「富士隠し」の異名もあります。八王子近郊や相模原
北部側から見ると富士山の前に大室山が横たわっていて富士山を隠
してしまうからだそうです。

 江戸時代1814(文化11年)、松平定能(まさ)という人が編集
した地誌『甲斐国志』の(巻之三十七・都留郡郡内領)に「大群山
高山ナリ麓ヨリ登ルコト五十余町頂ニ大群権現ノ社アリ此ノ峯富
士ノ東面ヲササ(遮蔽)フ故ニ武蔵ニテ富士隠ト云フ西ハ諸窪澤ニ
續キ戌ノ方ニ椿澤北ニ大ザスアリ峰ヨリ北ヘ分カルゝヲネハ其末道
志川ノ間ニ出ツ」とあり、「富士隠し」の名はかなり古くから呼ば
れていたようです。

 さらに、1953年(昭和28)に道志村役場から出された『道志七
里』(伊藤堅吉)に柳田國男が序文を寄せ「富士見町ヨリ富士山ヲ
望見スルニ『富士隠シ』ト称シ、一座ノ青山ノ外線極メテ雄渾ナル
モノアリテ其前面ニ横タハルヲ見ル。

 是レ陸地測量部ノ地図ニ所謂大群山(一五八八米)ニシテ其頂点
ハ正シク相模ノ足柄・津久井甲斐ノ都留三郡ノ境ヲ為シ、道志ノ山
村ハ即チ此連峰ノ北麓ニ拠レリ。大群ノ『牟礼』ハ古語ノ山ヲ意味
ス。以テ其命名ノ久キヲ知ルベシ」と牟礼についても触れています。

 道志村は「横浜市民ふるさと村」になっています。神奈川県横浜
市と山梨県道志村とはどんな関係があったのでしょうか。これに至
るまでには次のようないきさつがあったそうです。明治16年(1883)
当時、横浜市街と同地外国人居留地帯は水がなく、日常の引用水に
も乏しかったという。

 そこで横浜市は道志川の水源に目をつけ、山梨県と売却要請を交
渉します。その水を相模原市津久井町青山から取水、横浜へ運ぼう
というわけです。土地売却話には影で交渉に暗躍するものもあらわ
れ、1915年(大正4)山梨県議会はあっさり可決。

 県はそのいきさつを地元道志村に一切知らせないまま、横浜市と
道志村のとの売買契約書に調印してしまったという。慌てた道志村
は緊急村議会を開き、村会議員たちが県会議員に売却撤回の陳情に
行きましたがけんもほろろ。

 つづいて郡役所、山梨県庁などに懇願書を提出しましたがすげな
く却下されてしまいました。こうして1916年(大正5)5月30日、
地元民の意向も聞かず、村の総面積約7000町歩中、4割に近い山
林原野を横浜市に売り渡されてしまったのだそうです。ちなみに代
金は13万1414円96銭8厘だったという。

 「2003年(平成15年)になり、道志村村民 653名(全住民の3
割超)の賛同をもって住民発議され、横浜市に合併を申し入れた。
しかし、距離のある越境飛地となり、また村議会や山梨県などの賛
同も得にくい状況であったため横浜市側から断ることとなった」と
いう(道志村ホームページ)。

 その後、2004年(平成16)になり、改めて両自治体は友好・交
流に関する協定書を締結、協働して道志川の水源林を保全している
そうです。やはりけんかより友好とするのがうまくいく方法ですね。

▼・大室山【データ】
【所在地】
・神奈川県山北町と山梨県南都留郡道志村と境。中央本線四方津駅
の四方津駅の南11キロ。小田急新松田駅からバス・西丹沢下車歩い
て4時間で大室山。二等三角点(1587.6m)がある。そのほか付近
に何もなし。
【位置】
・二等三角点:北緯35度30分39.5秒、東経139度04分6.9秒
【地図】
・2万5千分の1地形図「大室山(東京)」
【参考文献】
・『甲斐国志』(松平定能(まさ)編集)1814(文化11年):(「大日
本地誌大系」(雄山閣)1973年(昭和48)
・『角川日本地名大辞典14・神奈川県」伊倉退蔵ほか編(角川書店)
1984年(昭和59)
・『新日本山岳誌」日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『道志七里」伊藤堅吉(山梨県道志村役場)1953(昭和28)年
・『日本山名事典」徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)



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