山の伝承【山岳はがき画】(03)
とよだ 時(とよた時改め)
山岳漫画・農山村の風物画文 (主に画文著作で活動)

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▼北アルプス・朝日岳とエブリの雪形


【序文】
140字
白馬連山高山植物帯の北部を仕切る朝日岳は、越後側の呼び方で最

初に朝日の光が当たるのでこの名がついたという。4,5月ごろあ

らわれる農具の?(エブリ)の雪形から、昔はヱブリヶ嶽と呼んで

いましたが、いまだにこの雪形は確認されていないという。

・新潟県糸魚川市と富山県下新川郡朝日町との境。

郵便はがき画

山のはがき画の会

▼北アルプス・朝日岳とエブリの雪形


【本文】
北アルプス後立山連峰の北部、白馬連山高山植物帯の北部を仕切る

名山朝日岳(標高2418m)。富山県朝日町と新潟県糸魚川市にまた

がり、山頂付近では夏でもたくさんの残雪、ニッコウキスゲなど高

山植物が群落しています。朝日岳は丸くどっしりとしていて、重量

感もありおおらかな山容です。



山頂は広く標識や展望指示盤が置かれています。眺望は雪倉岳、白

馬岳、剱岳などから遠く佐渡島まで望めます。朝日岳は越後側の呼

び方で、富山県朝日町湯ノ瀬・小川温泉の蓮華の湯付近から見て、

最初に朝日の光の当たるのが朝日岳なのでこの名がついた(塚本繁

松「朝日岳以北の処女境(六)」)という。この朝日町の町名はこの

山に由来(1954年(昭和29)発足)しています。



この山は昔はヱブリヶ嶽と呼んでいました。江戸時代の越中の絵図

および地誌類には、恵振ヶ嶽、恵夫理ヶ嶽、?ヶ嶽と記されていま

す。これですべて「えぶりがだけ」と読んだという。カタカナで「ヱ

フリ」、「ヱブリ」としているものももあるそうです。「ヱブリ」は

4,5月ごろ残雪にあらわれる田をならす農具の?(エブリ、柄振

り)の雪形に由来するという。



この雪形についてこんな伝説があります。昔、田んぼの代(しろ)

かきを1日で終わらすのを常とする百姓がいました。ある年、夕暮

れまでに終わらせようとしていましたが、終わりそうにありません。

そこで、大胆にも沈む太陽を呼び戻そうとしました。すると天罰が

おり、代かきをしていた農夫が、農具とともに遠〜く奥山に吹き飛

ばされてしまいました。



その農夫や農具が4,5月ごろ、剱岳北方・僧ヶ岳南東にあるの駒

ヶ岳(2002.5m・富山県黒部市)にあらわれる「馬」と「鼻取り」

の雪形(『山の紋章』)であり、柄夫理ヶ嶽(ヱブリヶタケ・朝日岳)

の?(エブリ)の雪形になってあらわれているというのです。しか

し、駒ヶ岳の「馬」と「鼻取り」の雪形は分かるのですが、残念な

がら朝日岳の雪形は、出る場所も形もいまだに確認されていません。



この朝日岳のエブリの雪形については、山岳写真家であり、雪形の

研究家の田淵行男氏が『山の紋章・雪形』のなかで、幻の雪形とし

て詳しく述べています。魚津駅方面から見て、ひとつ朝日岳のエブ

リの雪形らしきものとして「頂上から右手に引く稜線上の、なだら

かな突起の直下の黒影」をあげていますが、これもはっきりしませ

ん。



さて、山名がヱブリヶ嶽から朝日岳になるのは、大日本帝国陸地測

量部の5万分の1地形図「黒部」が発行されてからだという。ヱブ

リヶ嶽の名残は、いまは朝日岳西方1791m峰に「イブリ山」と転

訛してその名を留めています。朝日岳山頂の西側朝日小屋のある「前

朝日」西面の「夕日ヶ原」と呼ばれる平原は、広大でお花畑として

知られています。



夕日ヶ原は大正から昭和の初めにかけて白馬岳以北の富山県側の山

と谷に足跡をしるした塚本繁松という人とが命名したところ。塚本

繁松は、1923年(大正12)黒部の山案内人・佐々喜助七とイブリ尾

根を登ってここを発見。山友である鈴木弘の発案で1926年(昭和元)

に命名したもの。



高山植物の保護などを目的とした富山県の白馬管理センターもあり

ます。朝日岳山上から北へのびる稜線は栂海新道(つがみしんどう)

として、新潟・富山県境を犬ヶ岳、白鳥山とたどり、親不知海岸(新

潟県青海町)までつづいています。白鳥山の西麓新潟県西頸城郡青

海町上路(あげろ)地区(旧上路村)には「山姥伝説」があるとい

う。



ここの山姥はイメージと異なり、村人にお金や食べ物を分け与えた

り、知恵を授ける、慈悲深い人物として伝えられています。山姥神

社もあり、その横には大きな藤が木にからまった「金時ぶらんこ」

もあります。箱根の山姥と同じように、ここも山姥の子供は金時(金

太郎)だとの説があります。その説を裏打ちするように、金時が遊

んだという「金時手玉石」があり、また山姥日向ぼっこ岩もありま

す。ここの山姥(鬼女)たちも漂着した外国人だったらしいという。



何百年かむかし、荒れ狂う日本海で木の葉のようにもみ抜かれたヨ

ーロッパ人の船が、流れ流れて親不知付近に漂着。そのなかで助か

った何人かがなんとか崖を登ってここに落ち着いたのではないかと

いう。何百年かも昔ですからこの変わった人種が「鬼」に見えたの

も無理はありません。当時の人たちは、その姿形を「形人の如し。

長さ2丈(6m)余、黒色赤目にして黄髪、山樹中に巣をつくって」

とまで形容しています。実際に山姥の住んでいたという「山姥の洞

窟」というのが、白鳥山の中腹標高900mにあります。



その大きさ幅2間(約3.5m)、高さ7間(約13m)、その奧は信州

(長野県)につづいているという。このごろでは彼女たちは信州に

移ってしまったが、時にはなつかしいこの洞穴に帰ってきて、赤ん

坊の赤い着物を干すことがあるといいます。



そして遠く日本海を望みながら「わが住む山家(やまが)の景色、

山高うして海近く、谷深うして水遠し。前には川水こんこんとして

月真如の光をかかげ、後(うしろ)には岩松魏々(がんしょうきき)

として風常住(かぜじょうじゅう)の夢破る」と唱っているという。



この「山姥の洞窟」に行った人の話では、洞の中はいまは15mほ

どで行き止まりになっているという。登山記念の標の札が沢山建て

てあります。近くに平たい「山姥の踊り岩」があり、山姥がいつも

この上で舞っていたのだそうです。文殊菩薩の石像などもおいてあ

り、ここは神域だったのかもしれません。世阿弥が作った能の曲目

「山姥」は、上路の山姥伝承が元になっており、世阿弥本人がこの

地を取材して作られたものだそうです。


▼【朝日岳データ】
【所在地】
・新潟県糸魚川市と富山県下新川郡朝日町との境。大糸線平岩駅の
南西13キロ。JR大糸線白岩駅からバス、蓮華温泉から歩いて3時間
半で朝日岳(2418.0m)。2等三角点(2418.0m)と、西方1132mに朝日
小屋と、白馬管理セン
ターがある。

【名山】
・「日本三百名山」(日本山岳会選定):第251選定:日本百名山以外に
200山を加えたもの。
・「新日本百名山」(岩崎元郎選定):第41選定

【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から
・2等三角点:北緯36度49分36秒、東経137度43分47秒

【地図】
・旧2万5千分の1地形図「黒薙温泉(富山)」

【参考文献】
・『角川日本地名大辞典15・新潟県』田中圭一ほか篇(角川書店)1989
年(平成1)
・『角川日本地名大辞典16・富山県』坂井誠一ほか編(角川書店)1979
年(昭和54)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・「旅と伝説」三元社(1942年(昭和17)1月号)
・『富山県山名録』橋本廣ほか(桂書房)2001年(平成13)
・『日本三百名山』毎日新聞社編(毎日新聞社)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本歴史地名大系15・新潟県の地名』(平凡社)1986年(昭和61)
・『日本歴史地名大系16・富山県の地名』(平凡社)1994年(平成6)
・『ふるさとの伝説・日本発見」(暁教育図書)1980年(昭和55)
・『山の伝説・日本アルプス編』青木純二(丁未出版)1930年(昭和5)
・『山の紋章・雪形』田淵行男著(学習研究社)1981年(昭和56)


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もとに、伝説・伝承地を訪ね描いた「ゆ-もぁ伝承画文」です。はが
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明記しました。1971年(昭和46)年から発行しています。
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