山の伝承【山岳はがき画】(02)
とよだ 時(とよた 時改め)
山岳漫画・農山村の風物画文 (主に画文著作で活動)

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▼北アルプス・雪倉岳

【序文】
雪倉岳は大きな山体と景観のすばらしさ、見事な高山植物が楽しめ
る山。鉢ヶ岳との鞍部は白馬一帯でも有数の規模を誇るお花畑が広
がる場所として知られています。かつて越中(富山県)側からは、
鉢と呼ばれ、いまの鉢ヶ岳と雪倉岳の文字が入れ替わっていたとい
う。
・新潟県新潟県糸魚川市と富山県朝日町との境

郵便はがき画

▼北アルプス・雪倉岳


【本文】


北アルプスの白馬岳三国境から、朝日岳に向かう途中に雪倉岳(ゆ

きくらだけ・2611m)という山があります。富山県下新川郡朝日

町と新潟県糸魚川市との境。大きな山体と景観のすばらしさ、見事

な高山植物が楽しめる山です。とくに東斜面のカール、ハイマツの

中に光る雪倉池、神の田んぼと呼ばれる湿原群、さらに鉢ヶ岳との

鞍部は白馬一帯でも有数の規模を誇るお花畑が広がる場所として知

られています。



このあたりは夏まで豊かな残雪があり、高山植物のキンポウゲやチ

ングルマ、ハクサンコザクラなども群落しています。「まさに筆舌

に尽くしがたい美しさ」と書くガイドブックまであります。この周

辺は、国指定の特別天然記念物「白馬連山高山植物帯」の中でもあ

ります。しかし、白馬岳−朝日岳の縦走路の途中にあるため、通過

点として通り過ぎていく登山者がほとんど。足を止める人はめった

にいないのはもったいないほど。



かつて雪倉岳は、越中(富山県)側からは、鉢ヶ嶽(南に同じ名前

の鉢ヶ岳2563mがある)と呼ばれていたという。いま、鉢ヶ岳(2563

m)から北を、順に雪倉岳、赤男山となっているのを、江戸時代の

越中の絵図や地誌類の多くは「雪倉ヶ嶽、鉢ヶ嶽、赤男山」の順に

書いています。つまり、いまの地図の鉢ヶ岳と雪倉岳の文字が、昔

の地図と入れ替わっているのです。



山岳研究家で、俳人の中島正文(富山県側出身)という人は、これ

は陸地測量部が地図をつくる時、越後(新潟県)の呼び方を採用し

たからだ(「白馬岳志雑攷(こう)」)といかにもくやしそうです。

ただ、同じ越中側の『新川郡組分見取絵図』などには今日の山名ど

おりの順に記載されているそうではありますが。なお、「鉢」に「蜂」

をあてているものもあり、さらにカタカナで「ハチケ嶽」としてい

るものもあります。



この山名の入れ替わり問答については、いまの鉢ヶ岳の直下には長

池(ながいけ)という池があって、夏でも多量の雪が残っていて「雪

倉岳」の名前にふさわしく、またいまの雪倉岳は、どっしりとして

蜂を伏せたような山容で、それこそ鉢ヶ岳の名にふさわしいと主張

する人もいます。



雪深いこのあたりの山々は、越後(新潟県)側ふもとからは、ハス

の花のように見えました。そこで「蓮華山」と呼んでいたという。

雪倉岳もそのひとつで、『訂正越後頸城郡誌稿』という文書には「蓮

華山ハ当郡ノ大山ニシテ、大蓮華・乗鞍・雪倉・風吹等ノ数峰集ツ

テ蓮華ノ形ヲ為ス故ニ此名アリ。四時雪ヲ冠キ雪又雪ヲ積テ、俗ニ

古代ノ積雪尚消ヘサル高嶺ナリト云フ」と記しています。



この山は銀の産地としても知られ、同書別項には雪倉岳は、「蓮華

山ノ東北ニ在ル別峰ニシテ越中ニ界ス。此山徃(往の異体字)古ヨ

リ銀山ト称ス。天保年間鉱業ヲ試ルト雖モ今ハ廃鉱タリ」とありま

す。天保年間(1830〜1843)以後も採鉱されてはいましたが、長

続きせず、いまは痕跡だけが残っています。



なお、山頂北面の雪倉ノ池は、1917年(大正6)に木暮理太郎(明

治時代の登山家、日本登山界の大先達)らが命名したもの。理太郎

は「山の想ひ出を辿りて」のなかで「此附近は恐らく白馬連山の中

で、最も整った自然の高山植物園ではあるまいか」とまで述べてい

ます。



ちなみに雪倉ノ池は1917年(大正6)7月、黒薙川、北又谷支流

恵振谷、朝日岳、赤男山と辿ってここにたどり着いた木暮らが命名

したもの。地理学者の五百沢智也(いおざわともや) は、「白馬岳

付近氷河地形分図」をもとに、この山の地形にも氷河の存在を示唆

するものがあるとしています(「氷の山・火の山−白馬岳」)。



深田クラブ選定「日本二百名山」。この山は『日本百名山』には入

っていませんが、選定者である深田久弥は、「当然選ぶべきものに、

雪倉岳、奧大日山、針ノ木岳、……などがあった」と同書(『日本

百名山』)の後記に記しています。



▼雪倉岳【データ】
★【所在地】
・新潟県糸魚川市、富山県下新川郡朝日町との境。JR大糸線中土
駅の西14キロ。JR大糸線平岩駅からバス、蓮華温泉下車、さらに
歩いて白馬大池経由7時間で雪倉岳。3等三角点(2610.94m)が
ある。(そのほか付近に何もなし)。山頂南鞍部に雪倉岳避難小屋が
ある。地形図上には山名(雪倉岳)と三角点の記号とその標高のみ
記載。山頂より南方向直線約854.3mに雪倉岳避難小屋がある。

★【名山】
・「日本二百名山」(深田クラブ選定):第151選定(日本百名山以
外に100山を加えたもの・日本三百名山にも含まれる)
・「信州百名山」(清水栄一選定):第5 番選定

★【位置】国土地理院「電子国土ポータルWebシステム」から
・【雪倉岳3等三角点】北緯36度47分40秒.7159 、東経137度45
分14秒.5317

★【地図】
・旧2万5千分1地形図名:白馬岳

★【参考文献】
・『角川日本地名大辞典15・新潟県』田中圭一ほか篇(角川書店)
1989年(平成1)
・『角川日本地名大辞典16・富山県』坂井誠一ほか編(角川書店)
1979年(昭和54)
・『新日本山岳誌』日本山岳会(ナカニシヤ出版)2005年(平成17)
・『富山県山名録』橋本廣ほか(桂書房)2001年(平成13)
・『日本三百名山』毎日新聞社編(毎日新聞社)1997年(平成9)
・『日本山名事典』徳久球雄ほか(三省堂)2004年(平成16)
・『日本の山1000』(山と渓谷社)1992年(平成4)
・『日本歴史地名大系16・富山県の地名』(平凡社)1994年(平成
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